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第1章 ずっと忘れていた夢
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二人で山道を歩く。
おれがかつぐ荷袋は肩で変な音を立てていた。
中にはいったい何が入っているのか?
母さんにけんかの告げ口をされるのが嫌でついてきたのだが、これからどこで何をするのか、まるで見当がつかなかった。
前を歩くサリーが母さんのような口調でぼやく。
「どうしてティムは、けんかばっかりするのかな」
髪を三つ編みにし、お気に入りの黄色いワンピースを着たサリーは、おれと同じ十一歳だ。
この世には、腐れ縁というのがあって、サリーがそう。
学校では、五年連続同じクラスだ。
まだ理解に苦しむが、口うるさいサリーは、クラスで意外と人気があったりする。
「あのさ。農家の息子でしかも父さんがいない、そうくれば普通は馬鹿にされるってことぐらい分かるだろ。とくに漁師の息子にな」
「たしかにメイさんはワインに使用する葡萄を作っている。そして母がひとりで息子を育てている。それは事実よ。でも分からない。それのどこが馬鹿なの?」
また母さんのような口調でサリーに言われ、おれは口ごもる。
母さんはサリーの家が経営する葡萄畑で働いている。
おれが漁師の息子とよくけんかをするから、口には出さないが、母さんは腹が立っているのかもしれない。
「やっぱり」
サリーが足を止めた。思わず頭からぶつかりそうになる。
「ちっ、急に止まるなって」
「やっぱり、ティムがおかしいわ」
サリーが振り向き、ルリ色の瞳を細めた。
「葡萄畑の息子と言われて怒る――それってティムがメイさんに育てられて恥ずかしいと、自分が思ってる証拠でしょう」
「うう」
言い返せない。
「!」
サリーがプイと顔をそむけた。
踵を返して歩き出すサリーをおれは追いかける。
「うちの畑は最高なの。そんなことも分からないなんて、ティムは本当に馬鹿なんだと思う。あながち漁師の息子は間違ってないわ」
今度は、母さんが怒ったときに淡々と早口でつぶやく、そんな口調でサリーが言った。
「……」
おれは無言で歩く。
やがて登山口に差し掛かっておれはひらめいた。
「ひょっとしてハリスじいちゃんの山小屋に行くつもりか?」
「ティムがすぐにカッとなるクセを直したら教えてあげるわ」
……まだ怒ってるのか。
まさかとは思うが、もし目的地が山小屋なら、おれにとっては大事件。
五年ぶりの山小屋だもんな……。
まあ、でもそれはないか。
おれがかつぐ荷袋は肩で変な音を立てていた。
中にはいったい何が入っているのか?
母さんにけんかの告げ口をされるのが嫌でついてきたのだが、これからどこで何をするのか、まるで見当がつかなかった。
前を歩くサリーが母さんのような口調でぼやく。
「どうしてティムは、けんかばっかりするのかな」
髪を三つ編みにし、お気に入りの黄色いワンピースを着たサリーは、おれと同じ十一歳だ。
この世には、腐れ縁というのがあって、サリーがそう。
学校では、五年連続同じクラスだ。
まだ理解に苦しむが、口うるさいサリーは、クラスで意外と人気があったりする。
「あのさ。農家の息子でしかも父さんがいない、そうくれば普通は馬鹿にされるってことぐらい分かるだろ。とくに漁師の息子にな」
「たしかにメイさんはワインに使用する葡萄を作っている。そして母がひとりで息子を育てている。それは事実よ。でも分からない。それのどこが馬鹿なの?」
また母さんのような口調でサリーに言われ、おれは口ごもる。
母さんはサリーの家が経営する葡萄畑で働いている。
おれが漁師の息子とよくけんかをするから、口には出さないが、母さんは腹が立っているのかもしれない。
「やっぱり」
サリーが足を止めた。思わず頭からぶつかりそうになる。
「ちっ、急に止まるなって」
「やっぱり、ティムがおかしいわ」
サリーが振り向き、ルリ色の瞳を細めた。
「葡萄畑の息子と言われて怒る――それってティムがメイさんに育てられて恥ずかしいと、自分が思ってる証拠でしょう」
「うう」
言い返せない。
「!」
サリーがプイと顔をそむけた。
踵を返して歩き出すサリーをおれは追いかける。
「うちの畑は最高なの。そんなことも分からないなんて、ティムは本当に馬鹿なんだと思う。あながち漁師の息子は間違ってないわ」
今度は、母さんが怒ったときに淡々と早口でつぶやく、そんな口調でサリーが言った。
「……」
おれは無言で歩く。
やがて登山口に差し掛かっておれはひらめいた。
「ひょっとしてハリスじいちゃんの山小屋に行くつもりか?」
「ティムがすぐにカッとなるクセを直したら教えてあげるわ」
……まだ怒ってるのか。
まさかとは思うが、もし目的地が山小屋なら、おれにとっては大事件。
五年ぶりの山小屋だもんな……。
まあ、でもそれはないか。
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