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第7章 忍び寄る、黒い影?
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東京から帰ってきたのはその日の午後七時。神戸空港から明星のリムジンで自宅にもどると、晴子は夕食も食べずに、部屋のベッドでうつ伏せになった。
(……疲れた。想像以上に、濃~い土曜日だったな)
体力もそうだが、東京弾丸ツアーは、思いのほか精神に負担がやってきた。規格外の先輩との出会い、元生徒の裏切り、そしてそんな裏切り者を捕まえるという新たな任務。
(――予測不能、ルール無用、そんな問題が、服部さんの殻を破ってくれる……か)
明星と初めて出会ったときに、彼が言ってくれた言葉を思いだす。
今日一日で体験した、刺激とショックとプレッシャーは、たしかに彼の言うとおり、自分を閉じ込めているお城を、破壊してくれそうだ。
晴子は枕に顔をうめ、野獣のようにうなった。
「う~っ! 私を閉じ込めるお城って、何なの……。それに、夜霧カナメって人は、元五忍衆の頭なんでしょっ……そんな人、私とクリスで捕まえられるの? う~っ!」
眠たいのに、眠れない。
夜霧カナメという人が、気になってしかたがない。
(夜霧カナメ、夜霧カナメ……どこかで、聞いたことのある名前なのよね……)
「あっ……、ブラッディスーツ!」
そのとき、ふと晴子は思いだした。
龍宮学園空手部の、あの伝説の黒い空手着を。
――それは、入部したばかりの五月のこと。
「一年生諸君、よく聞け! 道場に保管している黒の空手着には、ゼッタイに憧れるな! これは戒めのために飾ってある! いいか、憧れは禁物だぞ!」
新入部員の教育係だった、一学年上の山本大輔先輩が、晴子たちにそう教えた。
「反則行為は決して犯してはならない! 敵も味方と敬え! それがわが龍宮学園空手部のモットーである!」
道場の物置部屋を掃除しているとき、いちどだけ見せてもらった黒い空手着。それは先輩たちの間で、「ブラッディスーツ」と呼ばれていた。血まみれの空手着――。なぜ空手着が黒く染まるのか? それは度重なる反則行為で、返り血を浴びたからだという。
(あの黒い空手着の持ち主が……夜霧カナメだ。空手部の、先輩だったんだ!)
そう、元龍宮学園最強の空手マン。今でも先輩たちの間で語り継がれる、伝説の男。勝つためには手段を選ばず、勝利のめなら反則行為もする……。
晴子はガバッと、枕から顔をあげた。額に、じわりと汗が浮かんでいる。料亭で彼の名前を聞いたとき、胸がざわざわしたのはこのせいだった。
「私とクリスで、最強の男を捕まえる……無理だよっ」
つぎの日は日曜日で、部活は午前中だけだった。
部活終わりに、全員で道場の掃除をしていると、ちょうどタタミの上に、ホウキとちり取りを持った山本大輔先輩を見つけた。
晴子は、雑巾を手に持ったまま近づいて、それとなく隣で拭き掃除をはじめる。
「あの~、先輩に聞きたいことが……夜霧カナメさんて、その、どんな人かなって」
「え、夜霧さん?」
掃き掃除をする先輩の手が、ピタリと止まる。見上げると、眉間にしわを寄せていた。
「は~、夜霧先輩のことは、正直、話しにくいんや……」
周りの部員を気にするように、山本先輩は、さっとその場にしゃがみ込んだ。そして、誰にも聞こえないように、小声で晴子に耳打ちする。
「夜霧先輩な――とにかく、めっちゃ怖かったわ。でもな、怒鳴るとか、そういうタイプとちゃうねん」
「じゃあ、チクチク言ってくるタイプ?」
「う~ん、それもちゃうな。冷血っちゅうか、とにかく無口でな。後輩にもアイサツぐらいしかしてくれんかったわ。あ、でもな、試合になると変わるねん! 豹変するって、ああいうことを言うねんな。夜霧先輩、じつはな――あ、もう終わり」
いいところで、他の男子部員が走ってきて、山本先輩が会話をやめた。男子部員が山本先輩に、「今日行きますよね?」と、両手でお茶わんとお箸を持つポーズをとる。
「そりゃ、行くで! 日曜の昼は、『トンカツ小次郎』の日に決まってるやろ」
お腹をさすった山本先輩が、晴子にも聞いてくる。
「そや、服部もどうや? これから、駅前のとんかつ屋にいくんや。うまいで」
「あ、今日は、お薬ハットリの店番を頼まれてて。先輩、色々と情報ありがとうございました、押忍!」
(……もう少し、情報がほしかったな)
わかったのは、夜霧カナメは晴子の三つ年上で、もしもまだ龍宮学園にいたなら高等部の一年生。山本先輩の話しぶりからしても、やっぱり夜霧カナメは、先輩たちも怖れる人物のようだ。
午後二時、晴子はお薬ハットリのレジ前に、ちょんと座っていた。すると自動ドアの前で、何かを思いだすように、お母さんが振りかえる。
「晴子ちゃん、夜までには帰ってくるから、店番のほうよろしくね。あ、それと! お薬だけは、売っちゃだめだからね」
「わかってる。私は薬剤師免許がないから、お薬は売っちゃいけないんだよね。ばんそうこうとか、ドリンクだけにしとく」
紺のワンピースに、白のブラウスでおめかししたお母さん。これから高校時代の友人に会いに、大阪に行くのだ。けど、その前に商店街の美容院も予約したらしい。
ポーチをつかんだまま、お母さんが自動ドアに映った自分をじっと眺める。
「やっぱり、少し短くしたほうがいいかな。肩のまわりが、重いよね?」
「う~ん。涼しくなったし、いいと思うけど。あ、パーマは?」
「だよね! お母さんも、ちょっと考えてたの。ゆる~く、当ててみようかなって」
「いいと思うよ。あ、ほらほら二時過ぎてる! せっかく予約したのに遅れちゃう」
「じゃ、じゃ、頼むね、行ってくるねっ」
せかすように言うと、お母さんは、少し上機嫌でお薬ハットリを出ていった。
ようやく晴子は、レジ台で肘をつきながら、任務用のスマホをチェックした。
(あ、メールが入ってる……クリスだ)
《近くなんだ。お店寄っていい? 夜霧カナメの情報ゲットした(^_^)/――》
《いいよ。ちょうど、店番してるから――》
クリスに返信して、ボーっと自動ドアを見つめる。すると、コートの人影が。
「おじゃましま~す」
「クリスっ! 何だ、もうそんなに近くにいたの?」
鮮やかな緑のコートを羽織ったクリスが、キョロキョロと店内に入ってくる。
「いや、ジャマしちゃ悪いなって。さっき、入ろうと思ったんだけど、晴子が楽しそうにお母さんと話してたから」
「楽しそう? 普通にしゃべってただけよ」
「おれの母さんも、日本人だったからさ。自動ドアの前に立ってたお母さんの姿が、ちょっと似てて。つい、イタリアの生活を思いだしちゃった」
(そっか。クリスのお母さんは、もういないから……)
「ねえ、クリス。お母さんが、またいつでも遊びにおいでって」
そう言うと、クリスは少し、照れくさそうに頭をかいた。
「ありがと。嬉しいよ」
そこでハッとしたように、クリスがコートのポケットから、スマホを取りだす。
「じつはお店に寄ったのは、夜霧カナメの情報を、兄さんから聞いたからなんだ」
明星理事長も、夜霧カナメには期待していたらしい。もしもまだ彼が、龍宮学園空手部にいれば、間違いなく高等部のエースになっていると。
けど、今は裏切り者。晴子たちにとっては、手強い敵ということだ。
レジ前に立ったクリスが、スマホのメモ帳を読み上げる。
「夜霧カナメは、闇討ちが原因で、退学になったみたい。兄さんの話しでは、試合に勝つために、他校の生徒を襲ったそうだ」
晴子は、目を見開いた。
「勝つためには手段を選ばず、勝利のめなら反則行為もする……」
山本先輩が話してくれたとおり。クリスは、人さし指でスマホの画面をスライドした。
「試合の前日、夜霧は練習でわき腹を痛めたそうだ。どうしても勝ちたかった夜霧は、その夜に、路上で試合相手を待ち伏せして、背後から叩きのめしたんだ」
それで不戦勝になって、夜霧は試合に勝利した。
「けどそれが理由で、五忍衆も龍宮学園も、やめるハメになったなんて……は~、なんかもう、不良マンガの世界よね」
そしてクリスが、今度はアプリで、この界隈の地図を開く。
「夜霧がたむろしている場所を、兄さんから聞いたよ。ええと、……ここ! ほら、正門街っていう、飲み屋街の一角さ」
(……クラブパイソン?)
「ほぼ毎日、夜霧カナメは仲間たちと、この店にたむろしてるんだって」
明星は、退学になった夜霧カナメの情報も、忍びを使って情報収集していた。いつか、こんな事態が起きるのではと、どこかでそう直感していたのかもしれない。
晴子も、自分のスマホで「クラブパイソン」を調べてみた。
「ああ、そうか。クラブって、音楽が鳴ってる所で、男女が踊ったりする場所のことなのね」
ところが、クラブパイソンのホームページには、絶望的なメッセージが書いてあった。
「ちょっと、十八歳以下は入店お断り? クリス、見てよこれ! 私たちじゃ、お店に行っても、相手どころか入店もさせてもらえないよっ」
「ふふ、それなんだけさ」
クリスが、不敵に笑う。そしてコートのポケットから、カードのような物を取りだす。
「じゃん! これ、明星家の人間だけが持てる、ブラックカードなんだ」
黒光りするカードの表面で、「AKEBOSHI」と、筆記体の文字が躍る。
「これさえ提示すれば、明星財閥の力で、どこへでも入れるんだって。兄さんが、使えって、貸してくれた。すごいんだ、これ。家や車も買えちゃうみたい」
(権力者を証明するカードか……なんか、すごすぎる)
けど、正直、不安だ。夜霧カナメを捕まえるなんて、できるのだろうか? 相手は元五忍衆の頭で、龍宮学園最強の空手マン。もしも、取っ組み合いになったら……。
だんだん怖くなって、晴子は、レジ台に突っ伏した。
「晴子、心配ないよ。兄さんが言ってた、今の龍宮学園最強の空手家は、服部晴子だって」
「そんな、まったく自信ない……」
「前に約束しただろ。キケンなことがあれば、おれが先頭に立って晴子を守るって! だから明日の夜、クラブパイソンに潜入しよう! おれたちが夜霧カナメを捕まえるんだ」
(……疲れた。想像以上に、濃~い土曜日だったな)
体力もそうだが、東京弾丸ツアーは、思いのほか精神に負担がやってきた。規格外の先輩との出会い、元生徒の裏切り、そしてそんな裏切り者を捕まえるという新たな任務。
(――予測不能、ルール無用、そんな問題が、服部さんの殻を破ってくれる……か)
明星と初めて出会ったときに、彼が言ってくれた言葉を思いだす。
今日一日で体験した、刺激とショックとプレッシャーは、たしかに彼の言うとおり、自分を閉じ込めているお城を、破壊してくれそうだ。
晴子は枕に顔をうめ、野獣のようにうなった。
「う~っ! 私を閉じ込めるお城って、何なの……。それに、夜霧カナメって人は、元五忍衆の頭なんでしょっ……そんな人、私とクリスで捕まえられるの? う~っ!」
眠たいのに、眠れない。
夜霧カナメという人が、気になってしかたがない。
(夜霧カナメ、夜霧カナメ……どこかで、聞いたことのある名前なのよね……)
「あっ……、ブラッディスーツ!」
そのとき、ふと晴子は思いだした。
龍宮学園空手部の、あの伝説の黒い空手着を。
――それは、入部したばかりの五月のこと。
「一年生諸君、よく聞け! 道場に保管している黒の空手着には、ゼッタイに憧れるな! これは戒めのために飾ってある! いいか、憧れは禁物だぞ!」
新入部員の教育係だった、一学年上の山本大輔先輩が、晴子たちにそう教えた。
「反則行為は決して犯してはならない! 敵も味方と敬え! それがわが龍宮学園空手部のモットーである!」
道場の物置部屋を掃除しているとき、いちどだけ見せてもらった黒い空手着。それは先輩たちの間で、「ブラッディスーツ」と呼ばれていた。血まみれの空手着――。なぜ空手着が黒く染まるのか? それは度重なる反則行為で、返り血を浴びたからだという。
(あの黒い空手着の持ち主が……夜霧カナメだ。空手部の、先輩だったんだ!)
そう、元龍宮学園最強の空手マン。今でも先輩たちの間で語り継がれる、伝説の男。勝つためには手段を選ばず、勝利のめなら反則行為もする……。
晴子はガバッと、枕から顔をあげた。額に、じわりと汗が浮かんでいる。料亭で彼の名前を聞いたとき、胸がざわざわしたのはこのせいだった。
「私とクリスで、最強の男を捕まえる……無理だよっ」
つぎの日は日曜日で、部活は午前中だけだった。
部活終わりに、全員で道場の掃除をしていると、ちょうどタタミの上に、ホウキとちり取りを持った山本大輔先輩を見つけた。
晴子は、雑巾を手に持ったまま近づいて、それとなく隣で拭き掃除をはじめる。
「あの~、先輩に聞きたいことが……夜霧カナメさんて、その、どんな人かなって」
「え、夜霧さん?」
掃き掃除をする先輩の手が、ピタリと止まる。見上げると、眉間にしわを寄せていた。
「は~、夜霧先輩のことは、正直、話しにくいんや……」
周りの部員を気にするように、山本先輩は、さっとその場にしゃがみ込んだ。そして、誰にも聞こえないように、小声で晴子に耳打ちする。
「夜霧先輩な――とにかく、めっちゃ怖かったわ。でもな、怒鳴るとか、そういうタイプとちゃうねん」
「じゃあ、チクチク言ってくるタイプ?」
「う~ん、それもちゃうな。冷血っちゅうか、とにかく無口でな。後輩にもアイサツぐらいしかしてくれんかったわ。あ、でもな、試合になると変わるねん! 豹変するって、ああいうことを言うねんな。夜霧先輩、じつはな――あ、もう終わり」
いいところで、他の男子部員が走ってきて、山本先輩が会話をやめた。男子部員が山本先輩に、「今日行きますよね?」と、両手でお茶わんとお箸を持つポーズをとる。
「そりゃ、行くで! 日曜の昼は、『トンカツ小次郎』の日に決まってるやろ」
お腹をさすった山本先輩が、晴子にも聞いてくる。
「そや、服部もどうや? これから、駅前のとんかつ屋にいくんや。うまいで」
「あ、今日は、お薬ハットリの店番を頼まれてて。先輩、色々と情報ありがとうございました、押忍!」
(……もう少し、情報がほしかったな)
わかったのは、夜霧カナメは晴子の三つ年上で、もしもまだ龍宮学園にいたなら高等部の一年生。山本先輩の話しぶりからしても、やっぱり夜霧カナメは、先輩たちも怖れる人物のようだ。
午後二時、晴子はお薬ハットリのレジ前に、ちょんと座っていた。すると自動ドアの前で、何かを思いだすように、お母さんが振りかえる。
「晴子ちゃん、夜までには帰ってくるから、店番のほうよろしくね。あ、それと! お薬だけは、売っちゃだめだからね」
「わかってる。私は薬剤師免許がないから、お薬は売っちゃいけないんだよね。ばんそうこうとか、ドリンクだけにしとく」
紺のワンピースに、白のブラウスでおめかししたお母さん。これから高校時代の友人に会いに、大阪に行くのだ。けど、その前に商店街の美容院も予約したらしい。
ポーチをつかんだまま、お母さんが自動ドアに映った自分をじっと眺める。
「やっぱり、少し短くしたほうがいいかな。肩のまわりが、重いよね?」
「う~ん。涼しくなったし、いいと思うけど。あ、パーマは?」
「だよね! お母さんも、ちょっと考えてたの。ゆる~く、当ててみようかなって」
「いいと思うよ。あ、ほらほら二時過ぎてる! せっかく予約したのに遅れちゃう」
「じゃ、じゃ、頼むね、行ってくるねっ」
せかすように言うと、お母さんは、少し上機嫌でお薬ハットリを出ていった。
ようやく晴子は、レジ台で肘をつきながら、任務用のスマホをチェックした。
(あ、メールが入ってる……クリスだ)
《近くなんだ。お店寄っていい? 夜霧カナメの情報ゲットした(^_^)/――》
《いいよ。ちょうど、店番してるから――》
クリスに返信して、ボーっと自動ドアを見つめる。すると、コートの人影が。
「おじゃましま~す」
「クリスっ! 何だ、もうそんなに近くにいたの?」
鮮やかな緑のコートを羽織ったクリスが、キョロキョロと店内に入ってくる。
「いや、ジャマしちゃ悪いなって。さっき、入ろうと思ったんだけど、晴子が楽しそうにお母さんと話してたから」
「楽しそう? 普通にしゃべってただけよ」
「おれの母さんも、日本人だったからさ。自動ドアの前に立ってたお母さんの姿が、ちょっと似てて。つい、イタリアの生活を思いだしちゃった」
(そっか。クリスのお母さんは、もういないから……)
「ねえ、クリス。お母さんが、またいつでも遊びにおいでって」
そう言うと、クリスは少し、照れくさそうに頭をかいた。
「ありがと。嬉しいよ」
そこでハッとしたように、クリスがコートのポケットから、スマホを取りだす。
「じつはお店に寄ったのは、夜霧カナメの情報を、兄さんから聞いたからなんだ」
明星理事長も、夜霧カナメには期待していたらしい。もしもまだ彼が、龍宮学園空手部にいれば、間違いなく高等部のエースになっていると。
けど、今は裏切り者。晴子たちにとっては、手強い敵ということだ。
レジ前に立ったクリスが、スマホのメモ帳を読み上げる。
「夜霧カナメは、闇討ちが原因で、退学になったみたい。兄さんの話しでは、試合に勝つために、他校の生徒を襲ったそうだ」
晴子は、目を見開いた。
「勝つためには手段を選ばず、勝利のめなら反則行為もする……」
山本先輩が話してくれたとおり。クリスは、人さし指でスマホの画面をスライドした。
「試合の前日、夜霧は練習でわき腹を痛めたそうだ。どうしても勝ちたかった夜霧は、その夜に、路上で試合相手を待ち伏せして、背後から叩きのめしたんだ」
それで不戦勝になって、夜霧は試合に勝利した。
「けどそれが理由で、五忍衆も龍宮学園も、やめるハメになったなんて……は~、なんかもう、不良マンガの世界よね」
そしてクリスが、今度はアプリで、この界隈の地図を開く。
「夜霧がたむろしている場所を、兄さんから聞いたよ。ええと、……ここ! ほら、正門街っていう、飲み屋街の一角さ」
(……クラブパイソン?)
「ほぼ毎日、夜霧カナメは仲間たちと、この店にたむろしてるんだって」
明星は、退学になった夜霧カナメの情報も、忍びを使って情報収集していた。いつか、こんな事態が起きるのではと、どこかでそう直感していたのかもしれない。
晴子も、自分のスマホで「クラブパイソン」を調べてみた。
「ああ、そうか。クラブって、音楽が鳴ってる所で、男女が踊ったりする場所のことなのね」
ところが、クラブパイソンのホームページには、絶望的なメッセージが書いてあった。
「ちょっと、十八歳以下は入店お断り? クリス、見てよこれ! 私たちじゃ、お店に行っても、相手どころか入店もさせてもらえないよっ」
「ふふ、それなんだけさ」
クリスが、不敵に笑う。そしてコートのポケットから、カードのような物を取りだす。
「じゃん! これ、明星家の人間だけが持てる、ブラックカードなんだ」
黒光りするカードの表面で、「AKEBOSHI」と、筆記体の文字が躍る。
「これさえ提示すれば、明星財閥の力で、どこへでも入れるんだって。兄さんが、使えって、貸してくれた。すごいんだ、これ。家や車も買えちゃうみたい」
(権力者を証明するカードか……なんか、すごすぎる)
けど、正直、不安だ。夜霧カナメを捕まえるなんて、できるのだろうか? 相手は元五忍衆の頭で、龍宮学園最強の空手マン。もしも、取っ組み合いになったら……。
だんだん怖くなって、晴子は、レジ台に突っ伏した。
「晴子、心配ないよ。兄さんが言ってた、今の龍宮学園最強の空手家は、服部晴子だって」
「そんな、まったく自信ない……」
「前に約束しただろ。キケンなことがあれば、おれが先頭に立って晴子を守るって! だから明日の夜、クラブパイソンに潜入しよう! おれたちが夜霧カナメを捕まえるんだ」
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