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第2話 捕われのツインタワー
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翌日も、目が覚めるような快晴だった。
朝の10時、駅で待ち合わせた結菜と昴とバクさんは、都内のA市からR市まで電車を乗り継いで、隣町の美術館へ向かった。
「友達と美術館なんてワクワクしちゃうな!」
ルーズボーダーTシャツをチノパンにインした恰好の結菜が、先頭を切って改札を出る。
「僕も楽しみ過ぎて、昨夜はほとんど眠れなかったよ」
横にはダボっとしたジーンズに同系色のデニムシャツを着た昴が。
そして、結菜が背負うドクロの刺繍が入ったリュックには、
「外出~、外出~、嬉しいな~っ、ハハン!」
昴にはその姿が見えない、バクさんが収まっていた。
駅を出てすぐ、結菜たちの目の前に現れたのは、2つの巨大なタワービルで。
「ぬあ~っ、美術館のある商業施設って、超高層タワーの中にあったのね~っ」
「先月完成した、30階建てのツインクリスタルタワーなんだ」
昴が、ガラス張りのタワーの右側に指をさし、説明し始める。
「右のイーストタワーでは、映画館や最新のアクティビティが体験できるよ。そして反対のウエストタワーでは、ショッピングや食事が楽しめるんだ」
お目当ての美術館は、イーストタワーのよう。
「ねえ、あれって橋なの?」
結菜はタワーとタワーの間に指を向けた。そこには、2つのビルを繋ぐ、未来都市のようなカプセル型の橋のようなものが架かっている。
「うん。2つのタワーは5メートルほど離れているんだけど、確か27階にお互いのタワーを行き来できる、空中トンネルがあったはずだよ」
「すごっ、トンネルなんだ! 空中トンネルなんて、どうやって作るんだろ~」
結菜は、タワーの工事をした人たちを想像し、感心したようにつぶやく。
「わしにも人間技とは思えへん、まさに神業な仕事や! ……あかん、見とれてずっーっと見上げてたら、後頭部からひっくり返ってゴッチンしてまいそうやわ」
リュックから顔を出したバクさんも、結菜にだけ聞こえる声で、そう共感した。
「私もそう思うよ」
すると。
「結菜ちゃん、どうかしたの?」
結菜が独り言を話すように聞こえたのか、昴が不思議そうな顔で見つめてきた。
「あ、ううん、なんでもない!」
怪しまれないよう、結菜はとっさに話題を変える。
「そ、そう! せっかくだから、買い物とかしたいな」
「だったら、ウエストタワーを見てから美術館に行こう。後、混み合う前に、少し早いお昼ご飯をとっておくとスムーズみたいだよ」
「じゃあ、ショッピング&ランチだね!」
こうして、結菜と昴とバクさんは、左側のタワーから見て回ることにした。
ファッションストリートをしばらく散策した後、昴がトイレに行ったので、
「わあ、可愛いじゃん!」
結菜は、オシャレなペットショップを見つけて入った。
透明のケースの中には、小型犬や生まれたばかりの子猫なんかがいる。
犬用のアクセサリーを見ていた結菜は、
「これでバクさんとお散歩できそうねえ」
犬の散歩で使うリードを手に取り、その鮮やかな緑色が気に入って意味もなく購入した。
「自分、わしのこと絶対にパグ犬やと思ってるやろ……」
バクさんからは、怒りと笑いが入り混じった声でそう突っ込まれるが、
「面白いでしょ? だって、バクさんは見た目がパグ犬なんだから、いつかリードを使う日が来たっておかしくないでしょ!」
結菜は半分からかう調子で言い返す。
「なんちゅう笑いに貪欲な子や……。せっかくの小遣いを犠牲にしてまで笑いをとってくるなんて、末恐ろしい子やで……」
やがて。
「ごめん、お待たせ!」
昴がトイレから戻って来ると、結菜たちはグルメストリートを見て回って、少しだけ早い昼食をとることにした。
「わお、すっごい数ね」
結菜たちは、レストランがたくさん出店している15階のグルメストリートを歩く。
「まだ11時半だけど、お客さんでにぎわってるね」
隣の昴は、テーブルがたくさん置いてある、フードコートのスペースを見て言った。
(人で混み合う前に、私たちみたいに、少し早い昼食をとろうと考えた人も多そうね)
「しかしまあ、人間の食いもんっちゅうんは、どうしてこうも旨そうなもんばっかりが、勢揃いしてるんやろな~」
いい匂いにつられるように、結菜のリュックからバクさんがひょっこりと顔を出す。昴に気付かれないよう結菜が目配せすると、バクさんは、「めっちゃ人間が羨ましいわ~」とつぶやいて、ずらりと軒を連ねる和洋中のお店に興味を示した。
(でもホント、来て良かったな! てっきり、私に危機が迫ってるとばかり思って怯えてたんだけど、予知夢は、昴と一緒に遊びに行く夢を暗示していただけなのかもしれないな)
夢使いとしては先輩に当たる父だが、たまにはこうして夢診断を誤るのかもしれない。
(危機が迫ってるなんて……、ちょっと考えすぎだったのかも)
こうして、休日に友達と商業施設に遊びにやってきた結菜の不安は、嘘のように消えていくのだった。
朝の10時、駅で待ち合わせた結菜と昴とバクさんは、都内のA市からR市まで電車を乗り継いで、隣町の美術館へ向かった。
「友達と美術館なんてワクワクしちゃうな!」
ルーズボーダーTシャツをチノパンにインした恰好の結菜が、先頭を切って改札を出る。
「僕も楽しみ過ぎて、昨夜はほとんど眠れなかったよ」
横にはダボっとしたジーンズに同系色のデニムシャツを着た昴が。
そして、結菜が背負うドクロの刺繍が入ったリュックには、
「外出~、外出~、嬉しいな~っ、ハハン!」
昴にはその姿が見えない、バクさんが収まっていた。
駅を出てすぐ、結菜たちの目の前に現れたのは、2つの巨大なタワービルで。
「ぬあ~っ、美術館のある商業施設って、超高層タワーの中にあったのね~っ」
「先月完成した、30階建てのツインクリスタルタワーなんだ」
昴が、ガラス張りのタワーの右側に指をさし、説明し始める。
「右のイーストタワーでは、映画館や最新のアクティビティが体験できるよ。そして反対のウエストタワーでは、ショッピングや食事が楽しめるんだ」
お目当ての美術館は、イーストタワーのよう。
「ねえ、あれって橋なの?」
結菜はタワーとタワーの間に指を向けた。そこには、2つのビルを繋ぐ、未来都市のようなカプセル型の橋のようなものが架かっている。
「うん。2つのタワーは5メートルほど離れているんだけど、確か27階にお互いのタワーを行き来できる、空中トンネルがあったはずだよ」
「すごっ、トンネルなんだ! 空中トンネルなんて、どうやって作るんだろ~」
結菜は、タワーの工事をした人たちを想像し、感心したようにつぶやく。
「わしにも人間技とは思えへん、まさに神業な仕事や! ……あかん、見とれてずっーっと見上げてたら、後頭部からひっくり返ってゴッチンしてまいそうやわ」
リュックから顔を出したバクさんも、結菜にだけ聞こえる声で、そう共感した。
「私もそう思うよ」
すると。
「結菜ちゃん、どうかしたの?」
結菜が独り言を話すように聞こえたのか、昴が不思議そうな顔で見つめてきた。
「あ、ううん、なんでもない!」
怪しまれないよう、結菜はとっさに話題を変える。
「そ、そう! せっかくだから、買い物とかしたいな」
「だったら、ウエストタワーを見てから美術館に行こう。後、混み合う前に、少し早いお昼ご飯をとっておくとスムーズみたいだよ」
「じゃあ、ショッピング&ランチだね!」
こうして、結菜と昴とバクさんは、左側のタワーから見て回ることにした。
ファッションストリートをしばらく散策した後、昴がトイレに行ったので、
「わあ、可愛いじゃん!」
結菜は、オシャレなペットショップを見つけて入った。
透明のケースの中には、小型犬や生まれたばかりの子猫なんかがいる。
犬用のアクセサリーを見ていた結菜は、
「これでバクさんとお散歩できそうねえ」
犬の散歩で使うリードを手に取り、その鮮やかな緑色が気に入って意味もなく購入した。
「自分、わしのこと絶対にパグ犬やと思ってるやろ……」
バクさんからは、怒りと笑いが入り混じった声でそう突っ込まれるが、
「面白いでしょ? だって、バクさんは見た目がパグ犬なんだから、いつかリードを使う日が来たっておかしくないでしょ!」
結菜は半分からかう調子で言い返す。
「なんちゅう笑いに貪欲な子や……。せっかくの小遣いを犠牲にしてまで笑いをとってくるなんて、末恐ろしい子やで……」
やがて。
「ごめん、お待たせ!」
昴がトイレから戻って来ると、結菜たちはグルメストリートを見て回って、少しだけ早い昼食をとることにした。
「わお、すっごい数ね」
結菜たちは、レストランがたくさん出店している15階のグルメストリートを歩く。
「まだ11時半だけど、お客さんでにぎわってるね」
隣の昴は、テーブルがたくさん置いてある、フードコートのスペースを見て言った。
(人で混み合う前に、私たちみたいに、少し早い昼食をとろうと考えた人も多そうね)
「しかしまあ、人間の食いもんっちゅうんは、どうしてこうも旨そうなもんばっかりが、勢揃いしてるんやろな~」
いい匂いにつられるように、結菜のリュックからバクさんがひょっこりと顔を出す。昴に気付かれないよう結菜が目配せすると、バクさんは、「めっちゃ人間が羨ましいわ~」とつぶやいて、ずらりと軒を連ねる和洋中のお店に興味を示した。
(でもホント、来て良かったな! てっきり、私に危機が迫ってるとばかり思って怯えてたんだけど、予知夢は、昴と一緒に遊びに行く夢を暗示していただけなのかもしれないな)
夢使いとしては先輩に当たる父だが、たまにはこうして夢診断を誤るのかもしれない。
(危機が迫ってるなんて……、ちょっと考えすぎだったのかも)
こうして、休日に友達と商業施設に遊びにやってきた結菜の不安は、嘘のように消えていくのだった。
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