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第2話 捕われのツインタワー
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「ぬあ~っ、人を助けるはずの夢使いが、なんで自分を助けるはめになっちゃうの~っ」
自分に危機が迫っていると知った結菜は、暗い面持ちで、どうにかこうにか午前の授業をやり過ごした。
まるで、何かの手違いで魔界の学校に転入した生徒のように、結菜の表情は始終暗く、体からは周りの生徒を暗黒面に巻き込むようなオーラを放っていた。
「英語も理科も世界史も音楽も、どの授業もチンプンカンプンでした………………マル」
どの先生の言葉も、そのすべてが悪魔の呪文のように聞こえてしまう。
「……魔の重力に負けて顔を上げるのもツライ」
ともあれ、息をするのがやっとだった結菜は、ようやくお昼休みにこぎつけた。
(……予知夢は100パーセント当たる。だから、きっと私は現実世界でも銃撃されてしまう……。そして、入学早々モテ期が到来したこの桜が丘中学校とも、グッバイなのね……)
結菜はひとり寂しく、窓際の席で父が作ってくれたお弁当を食べていた。
すると。
「結菜ちゃん、今日は元気なさそうだけど、どうかした?」
お弁当箱と水筒を持った昴が心配そうな顔で寄ってきた。
「別に……ただ最後の晩餐って、このエビフライのしっぽのように香ばしい味覚のことを指すんだなって、そう思ってただけ」
「……はは、やっぱり元気ないよね」
昴はわざとらしく肩をすくめて見せると、微笑んで、空いている結菜の隣の席に座る。
「昴って優しいのね。でも、別に無理して励ましてくれなくっていいのよ……暗い女の子といると、その春っぽい色合いの、せっかくのちらし寿司弁当が、マズくなるわ」
「……そんなことないよ。ただ、いつも元気な結菜ちゃんが落ち込むなんて、何かあったんだろうなって気になって。ねえ、良かったら話してよ」
「じゃあ、最後に昴にこれだけは言っておく。エビフライのしっぽは、よく噛まないと口内が血まみれになるから気をつけてね………………マル」
結菜は棒読みでそう言うと、自分のお弁当箱からエビフライを箸でつまみあげた。
それでも。
「ふ~ん、それは怖い夢だったね」
昴は一緒にお弁当を食べながら、遺言でも言づてするような雰囲気で喋る結菜の話を、親身に最後まで聞いてくれた。
悩みを打ち明けた結菜が、
「ありがとう……なんだか、ちょっと心が軽くなってきた」
少しホッとすると、昴もどこか安心したように微笑んだ。
すると、昴はしばらく窓から運動場を眺めた後で、
「僕に夢を解読する力なんてないんだけど、結菜ちゃんが見た夢はひょっとして、隣町にできた美術館のことなんじゃないかな――」
と、結菜にとって、思いもよらないことを言った。
「び、美術館っ?」
結菜は驚き、ふとエビフライのしっぽから、彼の魅力的なたれ目の方に視線を移す。
「……どゆこと?」
「僕もまだ行ったことがないんだけど、その美術館ならきっと、空を飛んだり西部劇の町に瞬間移動したりもできると思うよ」
(……美術館で、空を飛べる?)
美術館で……、瞬間移動する?
「ぬあ~っ、超イミフっ! 話を聞けば聞くほどパニックになっちゃうわ~っ!」
現実世界で、そんな夢の世界のようなことができる場所があるなんて、結菜にはどうあがいても信じることができなかった。
だが。
「その最新の美術館は、テレビでも放送された、摩訶不思議な体験ができる話題のスポットなんだ」
昴の話では、それは商業施設の中にある美術館で、何でも、1億円の絵画も展示されている見どころ満載の場所なんだという。
結菜は初め、昴の下手な冗談に付き合わされているだけかといぶかったが、トリックアートや、VRゴーグルを使った仮想空間体験の話を聞いている内に、興味を持った。
「でも、昴はどうしてそんなに詳しいの?」
「実は僕の母さんが、その美術館の館長なんだ」
結菜の疑問に昴が少し照れくさそうに答えた。
「ええっ! 昴のお母さん、超すごいじゃん!」
「ホントに、そう思う?」
「うん! だって美術館で働けるなんて、超知的で超素敵なマザーに違いないじゃん!」
「ありがとう、きっと母さんも喜ぶよ! 美術館って根暗なイメージを持つ人もいるから」
結菜が褒めると、昴は顔をほころばせて玉子焼きを一口かじる。
「もしかして、私が夢で見たのは、その美術館だったのかもね!」
ふと結菜が思ったことを口に出すと、
「じゃあっ、一緒に行かない? ……あっ、ええっと……そ、そう! 明日はちょうど部活が休みで――」
昴はそう言ってから、「結菜ちゃんが良かったらだけど」と、小声で付け加えた。
(美術館か。もしかしたら、予知夢と何か関係がある場所なのかもしれないな)
それに、友達と一緒に美術館に行けるなんて、何だかワクワクしてしまう。
「うん、行こう!」
「やったあああ!」
結菜が笑顔で了解すると、昴がガッツポーズを作って席を立ち上がった。
しかし、昴はクラス中の生徒からの視線を一気に浴び、
「じゃ、じゃあ、また後で……明日のことを決めようか」
彼はポッと頬と両耳を赤くして、静かに着席する。
「昴って、優しかったり、ダンスが上手かったり、かと思ったら、急にシャイになったりゆでダコみたいに顔を真っ赤にしたり、ぷぷっ! 何だか慌ただしくって面白いよね!」
そう突っ込んでから、結菜は、今日いちばんの笑顔でゲラゲラと大笑いして見せた。
すると、みんなにも陽気な波動が伝播したのか、クラス中からも笑いが沸き起こる。
(みんなで笑うと元気になるね。ありがとう、昴の天然な性格のおかげで元気出たよ!)
結菜は心の中で、はにかみながら「……だね、あはは」と頭をかく昴に、感謝した。
朝からずっと、自分に迫る危機に怯えて、すごく落ち込んでいたから。
(でも、美術館に行けば、状況は変わるかもしれない!)
予知夢は美術館での出来事を垣間見ただけで、実は、それほど怖がることではなかったのかもしれないと、結菜はそう考え直すのだった。
自分に危機が迫っていると知った結菜は、暗い面持ちで、どうにかこうにか午前の授業をやり過ごした。
まるで、何かの手違いで魔界の学校に転入した生徒のように、結菜の表情は始終暗く、体からは周りの生徒を暗黒面に巻き込むようなオーラを放っていた。
「英語も理科も世界史も音楽も、どの授業もチンプンカンプンでした………………マル」
どの先生の言葉も、そのすべてが悪魔の呪文のように聞こえてしまう。
「……魔の重力に負けて顔を上げるのもツライ」
ともあれ、息をするのがやっとだった結菜は、ようやくお昼休みにこぎつけた。
(……予知夢は100パーセント当たる。だから、きっと私は現実世界でも銃撃されてしまう……。そして、入学早々モテ期が到来したこの桜が丘中学校とも、グッバイなのね……)
結菜はひとり寂しく、窓際の席で父が作ってくれたお弁当を食べていた。
すると。
「結菜ちゃん、今日は元気なさそうだけど、どうかした?」
お弁当箱と水筒を持った昴が心配そうな顔で寄ってきた。
「別に……ただ最後の晩餐って、このエビフライのしっぽのように香ばしい味覚のことを指すんだなって、そう思ってただけ」
「……はは、やっぱり元気ないよね」
昴はわざとらしく肩をすくめて見せると、微笑んで、空いている結菜の隣の席に座る。
「昴って優しいのね。でも、別に無理して励ましてくれなくっていいのよ……暗い女の子といると、その春っぽい色合いの、せっかくのちらし寿司弁当が、マズくなるわ」
「……そんなことないよ。ただ、いつも元気な結菜ちゃんが落ち込むなんて、何かあったんだろうなって気になって。ねえ、良かったら話してよ」
「じゃあ、最後に昴にこれだけは言っておく。エビフライのしっぽは、よく噛まないと口内が血まみれになるから気をつけてね………………マル」
結菜は棒読みでそう言うと、自分のお弁当箱からエビフライを箸でつまみあげた。
それでも。
「ふ~ん、それは怖い夢だったね」
昴は一緒にお弁当を食べながら、遺言でも言づてするような雰囲気で喋る結菜の話を、親身に最後まで聞いてくれた。
悩みを打ち明けた結菜が、
「ありがとう……なんだか、ちょっと心が軽くなってきた」
少しホッとすると、昴もどこか安心したように微笑んだ。
すると、昴はしばらく窓から運動場を眺めた後で、
「僕に夢を解読する力なんてないんだけど、結菜ちゃんが見た夢はひょっとして、隣町にできた美術館のことなんじゃないかな――」
と、結菜にとって、思いもよらないことを言った。
「び、美術館っ?」
結菜は驚き、ふとエビフライのしっぽから、彼の魅力的なたれ目の方に視線を移す。
「……どゆこと?」
「僕もまだ行ったことがないんだけど、その美術館ならきっと、空を飛んだり西部劇の町に瞬間移動したりもできると思うよ」
(……美術館で、空を飛べる?)
美術館で……、瞬間移動する?
「ぬあ~っ、超イミフっ! 話を聞けば聞くほどパニックになっちゃうわ~っ!」
現実世界で、そんな夢の世界のようなことができる場所があるなんて、結菜にはどうあがいても信じることができなかった。
だが。
「その最新の美術館は、テレビでも放送された、摩訶不思議な体験ができる話題のスポットなんだ」
昴の話では、それは商業施設の中にある美術館で、何でも、1億円の絵画も展示されている見どころ満載の場所なんだという。
結菜は初め、昴の下手な冗談に付き合わされているだけかといぶかったが、トリックアートや、VRゴーグルを使った仮想空間体験の話を聞いている内に、興味を持った。
「でも、昴はどうしてそんなに詳しいの?」
「実は僕の母さんが、その美術館の館長なんだ」
結菜の疑問に昴が少し照れくさそうに答えた。
「ええっ! 昴のお母さん、超すごいじゃん!」
「ホントに、そう思う?」
「うん! だって美術館で働けるなんて、超知的で超素敵なマザーに違いないじゃん!」
「ありがとう、きっと母さんも喜ぶよ! 美術館って根暗なイメージを持つ人もいるから」
結菜が褒めると、昴は顔をほころばせて玉子焼きを一口かじる。
「もしかして、私が夢で見たのは、その美術館だったのかもね!」
ふと結菜が思ったことを口に出すと、
「じゃあっ、一緒に行かない? ……あっ、ええっと……そ、そう! 明日はちょうど部活が休みで――」
昴はそう言ってから、「結菜ちゃんが良かったらだけど」と、小声で付け加えた。
(美術館か。もしかしたら、予知夢と何か関係がある場所なのかもしれないな)
それに、友達と一緒に美術館に行けるなんて、何だかワクワクしてしまう。
「うん、行こう!」
「やったあああ!」
結菜が笑顔で了解すると、昴がガッツポーズを作って席を立ち上がった。
しかし、昴はクラス中の生徒からの視線を一気に浴び、
「じゃ、じゃあ、また後で……明日のことを決めようか」
彼はポッと頬と両耳を赤くして、静かに着席する。
「昴って、優しかったり、ダンスが上手かったり、かと思ったら、急にシャイになったりゆでダコみたいに顔を真っ赤にしたり、ぷぷっ! 何だか慌ただしくって面白いよね!」
そう突っ込んでから、結菜は、今日いちばんの笑顔でゲラゲラと大笑いして見せた。
すると、みんなにも陽気な波動が伝播したのか、クラス中からも笑いが沸き起こる。
(みんなで笑うと元気になるね。ありがとう、昴の天然な性格のおかげで元気出たよ!)
結菜は心の中で、はにかみながら「……だね、あはは」と頭をかく昴に、感謝した。
朝からずっと、自分に迫る危機に怯えて、すごく落ち込んでいたから。
(でも、美術館に行けば、状況は変わるかもしれない!)
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