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第2話 捕われのツインタワー

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ということで、結局。
「かくかくしかじか――、娘が起き掛けに超怖い夢を見ちゃいました………………マル」
結菜がそう告げると、
「ぬあああああ!」
 スーツの上から花柄のエプロンを巻いた父は、ちょうど自分の書斎で、筋力トレーニングをしている最中だった。
そんな朝から超アクティブな父は、
「悲鳴だけがっ、聞こえる夢っ? もう終わるっ、しばし待てっ!」
今まさにベンチプレスで150キロの重りを上げようとしていた。
 書斎には他に、ランニングマシンやボート漕ぎのマシンもあり、父はよく読書をしながら筋力トレーニングに励んでいる。
「海斗~、結菜は自分で動画配信するんはあきらめたみたいやで!」
 バクさんは、あれから少し仲が気まずいふたりを気遣ってか、父にそんな告げ口をする。
(……フンっ、別にあきらめた訳じゃないわよ。今はチャンスを窺ってるだけだからね!)
 結菜はそう思うが、ここは夢使いとして、自分の見た夢が予知夢かどうかを判断する方が先決だと考え直した。
 仮に今朝の夢が予知夢だとしたら、あの悲鳴は誰かを助けなくてはならない合図かもしれないのだ。
 だから。
「お父さん! 動画配信はしないから、早く予知夢かどうか判断してよ!」
結菜は本音を隠して、150キロの重りを上げ切った父に言った。
「それなら結構だっ! 夢使いはな、誰にも知られてはいけない秘密の職業だからなっ! ぬああああ――――っ、これでフィニッシュだああっ!」
 父は腕をプルプルさせながら重りをゆっくりとおろす。
そして、ベンチから逆立ちして床に下りた父が書斎の本棚に向かうと、そこからとある黒革の日記帳を取って戻ってきた。結菜の目の前で、父はそのページをぱらぱらとめくる。
「ここには長年の経験と知恵が詰まっている!」
「なるほどな~。見覚えのある日記帳が出てきたと思ったら、そういうことか! 海斗の膨大な過去の経験から判断しようってわけやな!」
 日記帳を感慨深げに眺める父を見て、宙に浮いたバクさんも懐かしむように頷く。
「過去の経験から判断?」
 結菜はポカンとした。
「まあ、早い話が海斗の夢診断タイムっちゃうこっちゃ」
「ぬあ~っ、お父さんってば夢診断まで出来ちゃうのね~っ」
「見た目と違って海斗の心は超乙女やからな。ほんで、結菜が見た夢は予知夢なん?」
宙のバクさんは、結菜から視線をそらすと、今度は興味津々な顔で父を見下ろした。
「空を飛び、西部劇の町へ行き、そこで銃撃……と思えば、ひたすら聞こえる悲鳴か」
父はそうつぶやきながら日記帳のページをめくる。
やがて。
「そうか!」
あるページで指を止めた瞬間、父の賢そうに見える銀縁メガネがキラリと光った。
「視覚と聴覚っ! 結菜の見た夢はその2パターンが組み合わさった、非常にめずらしい変化形予知夢だと言っていい!」
「……何それ、変化形予知夢?」
 キョトンとする結菜に、バクさんが思い出したように口を開く。
「たしか視覚に訴えかけてくる夢は、他人に関する予知夢やったよな?」
「そうだ! 一方、聴覚に訴えかけてくる夢は自分に関する予知夢だ!」
 父の説明を聞いた宙のバクさんが、腕を組んでから、ぼそっと言う。
「……非常にマズイやん」
「ええっ? マズいって……何が? ちょっとバクさん……どういうことなのよ? そんな怖い顔で私を見ないでよっ!」
バクさんに目を細めながら見つめられた結菜は、たまらなく怖くなってしまう。
「何よふたりしてぇ……人の心があるならせめて、私を恐怖のどん底に陥れないよう工夫して、私の気持ちも汲み取って、どうにか何とか私が安心できるように説明してよ~っ」
 両手をグーにし、結菜がそれを自分のこめかみにぐりぐり当てたその時。
「つまり、こういうことだ――」
 父は少しためらった後、ドキドキしながら次の言葉を待つ結菜と宙のバクさんに、ぐーっと顔を近づけた。
「悲鳴が聞こえる夢の正体は、結菜に、危機が訪れることを暗示している!」
 父はよく通る声でそう言い、結菜の目の前で、バタン、と日記帳を閉じた。
夢診断によると、空を飛んだり西部劇の町にいる夢はおそらくただの夢らしい。
だが。
「ぬあ~っ、悲鳴が聞こえる夢って、自分に危機が迫ってるって意味だったのね~っ!」
視界が真っ暗になって悲鳴が聞こえる夢は、我が身の危機を暗示しているようだった。
「……ご愁傷様やで」
 バクさんはそう言って、結菜に向かって、両前足で拝むようなポーズをとった。
「ダハッ……」
 ショック過ぎた結菜の口から謎の擬音が飛び出す。結菜の嫌な予感は的中したようだっ
た。
(起き掛けに見た夢は、やっぱり予知夢で、しかも超良くない夢だったのね……)
「お父さんに相談し、スッキリ解決しようと思ってたのに、甘かったのね~っ!」
 解決どころか、夢診断を聞いた後の結菜のモヤモヤは、さらに増大して苦しみが倍増して
しまうのだった。
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