上 下
7 / 22
第1話 結菜、33代目の夢使いに

1-7

しおりを挟む
「ど、どうしたのよっ」
 結菜はベッドから飛び降り、小刻みに震えるバクさんに手を伸ばす。
 そして、試しにバクさんを手繰り寄せてみると、
「あ、触れた……バクさんって、モフモフなんだ」
 結菜は身体が透けているのに触れることが出来て、不思議だなと感心するのだった。
 すると。
「はぐうっ……」
 バクさんはまた何かから攻撃を受けたみたいに、結菜の腕の中で身体を震わせた。
「どうしたのっ」
「結菜、嫌な予感がするんや……さっそくやけど、そのままわしを抱き締めて眠るんや」
「えっ?」
 結菜は首をかしげた。
「ええか、夢使いがわしを抱き締めて眠ると、これから現実で起こる予知夢を見れるんや」
「なんだなんだ……ふ~ん、話は分かったわ」
 結菜は心配して損した、という顔になった。
「な……、何や?」
「まさか、犬みたいな恰好してるから、当然とか思ってないでしょうねぇ」
「はあっ?」
 バクさんは、全く意味が分からないといった口調で聞き返す。
 しかし。
「いい?」
 結菜は、バクさんの前足の下に手を入れてゆっくりと身体を持ち上げると。
「私は学校一モテる女の子なの――いや、いずれは世界一モテる女の子になるの」
赤子を抱っこするように天井に向かって高い高いしながら、静かに切り出した。
「つまり、何が言いたいんや?」
「たとえペットでも、私が初めて抱き締める相手は、自分で決めるってことよ!」
「……その変質者を見るような視線、やめてくれんかな?」
バクさんは、何を言い出すねんと、焦り出すように短い4本の足をバタバタさせた。
「今、緊急事態なんやでっ」
「それでもよ! 私が私のご主人様なんだから、私が私の気持ちを一番大事にしないわけにはいかないのよね。それに予知夢を見るだけなら私ひとりで出来るし!」
 結菜には、バクさんを抱いて眠るメリットがいまいち理解できなかった。
 そもそもが、自分に予知夢を見れる能力が開花して怖くてたまらなかったのだ。
「わしを抱き締めて眠ると、これから現実で起こる予知夢を見れる――そんなこと言われても、納得できないし! それってもう、ペッハラじゃん!」
「ペッハラ?」
「ペットハラスメントに決まってるでしょ! ペットというカワイイ立ち位置を利用し、さも当たり前のように人間に抱っこを強要する卑劣な行為のことじゃん!」
「……それっ、初耳!」
 バクさんはそう突っ込むと、身じろぎして、結菜の手元から逃げるように飛び出した。
「卑劣な行為やって? 被害妄想もはなはだしいわ! まったく、なんちゅう手間のかかる子や……海斗もさぞかし大変やったろうなぁ」
 バクさんは宙であぐらをかくと、まるで駄々をこねる子供をしつけるように説明する。
「ええか。わしを抱き締めて眠るメリットは、即席で予知夢を見れるってことなんや!」
「即席?」
 結菜はバクさんに疑いの目を向けた。
「その……家にガス点検にやって来た人を泥棒と決めつけるような視線やめてくれんかな。とにかく、わしの嫌な予感はよく当たるんや。シチュエーションにもよるけど、今すぐ予知夢を見なあかん、そんな夢使いにありがちなシチュエーションにも対応できるんやで」
「ふ~ん……」
 それが、バクさんを相棒にするメリット?
 結菜はふと、山岸昴、に思いを馳せてみた。
 今朝のトラック事件は、前もって結菜が予知夢を見ていたから助けることができた。
 だが。
「……仮にもしも、私が予知夢を見ていなかったら……それって」
 昴は事故に巻き込まれ、大変なことになっていたかもしれない。
「どうやら、わしを相棒にするメリットに気がついてきたみたいやな」
「いつもタイミングよく、私が予知夢を見れるわけじゃない……それに、予知夢をずっと覚えているわけにもいかない……」
 結菜は、天井の蛍光灯の辺りを浮遊するバクさんを真っ直ぐな目で見つめた。
「バクさんの危機察知能力と、即席で予知夢を見れる能力は、ホントに信用できるの?」
「あったりまえやで」
 バクさんは、宙でこれ見よがしに両前足を広げる。
そして、「さあ!」と、結菜に抱っこを要求した。
「う~ん……」
 結菜は、かなりためらった後に、
「やっぱり、あんたは枕で十分よ」
 バクさんを抱き締めることはせず、マイルールに従うことにした。
「たとえペットでも、私が初めて抱き締める相手は自分で決めるわ!」
「だから、ペットちゃう!」
そう突っ込むバクさんを手繰り寄せると、結菜はベッドで仰向けになって、バクさんを抱き締める代わりに、枕にする。
「はぐうっ……めっちゃ重い」
 結菜に枕にされたバクさんは不満たらたらで。
「あの海斗でも、わしを愛おしく抱き締めてくれたのに……うぅぅ」
 過去の相棒を懐かしむように、結菜の頭の下で悔しそうに唸った。
「うっさいわねぇ、私には私のやり方があるのよ! さあ、つべこべ言わずにバクさん! 何で嫌な予感がしたのか見せてちょうだい!」
 結菜は、少しうんざりしながら目を閉じた。
(これからも、こうやって即席で、予知夢を見なきゃいけないなんて……、超最悪っ) 
夢使いは、バクさんを通してやってくる予知夢で、危険を回避し人を助けなくてはいけないのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

蛇逃の滝

影燈
児童書・童話
半妖の半助は、身に覚えなく追われていた。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

神社のゆかこさん

秋野 木星
児童書・童話
どこからともなくやって来たゆかこさんは、ある町の神社に住むことにしました。 これはゆかこさんと町の人たちの四季を見つめたお話です。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ この作品は小説家になろうからの転記です。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...