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第1話 結菜、33代目の夢使いに
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「ど、どうしたのよっ」
結菜はベッドから飛び降り、小刻みに震えるバクさんに手を伸ばす。
そして、試しにバクさんを手繰り寄せてみると、
「あ、触れた……バクさんって、モフモフなんだ」
結菜は身体が透けているのに触れることが出来て、不思議だなと感心するのだった。
すると。
「はぐうっ……」
バクさんはまた何かから攻撃を受けたみたいに、結菜の腕の中で身体を震わせた。
「どうしたのっ」
「結菜、嫌な予感がするんや……さっそくやけど、そのままわしを抱き締めて眠るんや」
「えっ?」
結菜は首をかしげた。
「ええか、夢使いがわしを抱き締めて眠ると、これから現実で起こる予知夢を見れるんや」
「なんだなんだ……ふ~ん、話は分かったわ」
結菜は心配して損した、という顔になった。
「な……、何や?」
「まさか、犬みたいな恰好してるから、当然とか思ってないでしょうねぇ」
「はあっ?」
バクさんは、全く意味が分からないといった口調で聞き返す。
しかし。
「いい?」
結菜は、バクさんの前足の下に手を入れてゆっくりと身体を持ち上げると。
「私は学校一モテる女の子なの――いや、いずれは世界一モテる女の子になるの」
赤子を抱っこするように天井に向かって高い高いしながら、静かに切り出した。
「つまり、何が言いたいんや?」
「たとえペットでも、私が初めて抱き締める相手は、自分で決めるってことよ!」
「……その変質者を見るような視線、やめてくれんかな?」
バクさんは、何を言い出すねんと、焦り出すように短い4本の足をバタバタさせた。
「今、緊急事態なんやでっ」
「それでもよ! 私が私のご主人様なんだから、私が私の気持ちを一番大事にしないわけにはいかないのよね。それに予知夢を見るだけなら私ひとりで出来るし!」
結菜には、バクさんを抱いて眠るメリットがいまいち理解できなかった。
そもそもが、自分に予知夢を見れる能力が開花して怖くてたまらなかったのだ。
「わしを抱き締めて眠ると、これから現実で起こる予知夢を見れる――そんなこと言われても、納得できないし! それってもう、ペッハラじゃん!」
「ペッハラ?」
「ペットハラスメントに決まってるでしょ! ペットというカワイイ立ち位置を利用し、さも当たり前のように人間に抱っこを強要する卑劣な行為のことじゃん!」
「……それっ、初耳!」
バクさんはそう突っ込むと、身じろぎして、結菜の手元から逃げるように飛び出した。
「卑劣な行為やって? 被害妄想もはなはだしいわ! まったく、なんちゅう手間のかかる子や……海斗もさぞかし大変やったろうなぁ」
バクさんは宙であぐらをかくと、まるで駄々をこねる子供をしつけるように説明する。
「ええか。わしを抱き締めて眠るメリットは、即席で予知夢を見れるってことなんや!」
「即席?」
結菜はバクさんに疑いの目を向けた。
「その……家にガス点検にやって来た人を泥棒と決めつけるような視線やめてくれんかな。とにかく、わしの嫌な予感はよく当たるんや。シチュエーションにもよるけど、今すぐ予知夢を見なあかん、そんな夢使いにありがちなシチュエーションにも対応できるんやで」
「ふ~ん……」
それが、バクさんを相棒にするメリット?
結菜はふと、山岸昴、に思いを馳せてみた。
今朝のトラック事件は、前もって結菜が予知夢を見ていたから助けることができた。
だが。
「……仮にもしも、私が予知夢を見ていなかったら……それって」
昴は事故に巻き込まれ、大変なことになっていたかもしれない。
「どうやら、わしを相棒にするメリットに気がついてきたみたいやな」
「いつもタイミングよく、私が予知夢を見れるわけじゃない……それに、予知夢をずっと覚えているわけにもいかない……」
結菜は、天井の蛍光灯の辺りを浮遊するバクさんを真っ直ぐな目で見つめた。
「バクさんの危機察知能力と、即席で予知夢を見れる能力は、ホントに信用できるの?」
「あったりまえやで」
バクさんは、宙でこれ見よがしに両前足を広げる。
そして、「さあ!」と、結菜に抱っこを要求した。
「う~ん……」
結菜は、かなりためらった後に、
「やっぱり、あんたは枕で十分よ」
バクさんを抱き締めることはせず、マイルールに従うことにした。
「たとえペットでも、私が初めて抱き締める相手は自分で決めるわ!」
「だから、ペットちゃう!」
そう突っ込むバクさんを手繰り寄せると、結菜はベッドで仰向けになって、バクさんを抱き締める代わりに、枕にする。
「はぐうっ……めっちゃ重い」
結菜に枕にされたバクさんは不満たらたらで。
「あの海斗でも、わしを愛おしく抱き締めてくれたのに……うぅぅ」
過去の相棒を懐かしむように、結菜の頭の下で悔しそうに唸った。
「うっさいわねぇ、私には私のやり方があるのよ! さあ、つべこべ言わずにバクさん! 何で嫌な予感がしたのか見せてちょうだい!」
結菜は、少しうんざりしながら目を閉じた。
(これからも、こうやって即席で、予知夢を見なきゃいけないなんて……、超最悪っ)
夢使いは、バクさんを通してやってくる予知夢で、危険を回避し人を助けなくてはいけないのだった。
結菜はベッドから飛び降り、小刻みに震えるバクさんに手を伸ばす。
そして、試しにバクさんを手繰り寄せてみると、
「あ、触れた……バクさんって、モフモフなんだ」
結菜は身体が透けているのに触れることが出来て、不思議だなと感心するのだった。
すると。
「はぐうっ……」
バクさんはまた何かから攻撃を受けたみたいに、結菜の腕の中で身体を震わせた。
「どうしたのっ」
「結菜、嫌な予感がするんや……さっそくやけど、そのままわしを抱き締めて眠るんや」
「えっ?」
結菜は首をかしげた。
「ええか、夢使いがわしを抱き締めて眠ると、これから現実で起こる予知夢を見れるんや」
「なんだなんだ……ふ~ん、話は分かったわ」
結菜は心配して損した、という顔になった。
「な……、何や?」
「まさか、犬みたいな恰好してるから、当然とか思ってないでしょうねぇ」
「はあっ?」
バクさんは、全く意味が分からないといった口調で聞き返す。
しかし。
「いい?」
結菜は、バクさんの前足の下に手を入れてゆっくりと身体を持ち上げると。
「私は学校一モテる女の子なの――いや、いずれは世界一モテる女の子になるの」
赤子を抱っこするように天井に向かって高い高いしながら、静かに切り出した。
「つまり、何が言いたいんや?」
「たとえペットでも、私が初めて抱き締める相手は、自分で決めるってことよ!」
「……その変質者を見るような視線、やめてくれんかな?」
バクさんは、何を言い出すねんと、焦り出すように短い4本の足をバタバタさせた。
「今、緊急事態なんやでっ」
「それでもよ! 私が私のご主人様なんだから、私が私の気持ちを一番大事にしないわけにはいかないのよね。それに予知夢を見るだけなら私ひとりで出来るし!」
結菜には、バクさんを抱いて眠るメリットがいまいち理解できなかった。
そもそもが、自分に予知夢を見れる能力が開花して怖くてたまらなかったのだ。
「わしを抱き締めて眠ると、これから現実で起こる予知夢を見れる――そんなこと言われても、納得できないし! それってもう、ペッハラじゃん!」
「ペッハラ?」
「ペットハラスメントに決まってるでしょ! ペットというカワイイ立ち位置を利用し、さも当たり前のように人間に抱っこを強要する卑劣な行為のことじゃん!」
「……それっ、初耳!」
バクさんはそう突っ込むと、身じろぎして、結菜の手元から逃げるように飛び出した。
「卑劣な行為やって? 被害妄想もはなはだしいわ! まったく、なんちゅう手間のかかる子や……海斗もさぞかし大変やったろうなぁ」
バクさんは宙であぐらをかくと、まるで駄々をこねる子供をしつけるように説明する。
「ええか。わしを抱き締めて眠るメリットは、即席で予知夢を見れるってことなんや!」
「即席?」
結菜はバクさんに疑いの目を向けた。
「その……家にガス点検にやって来た人を泥棒と決めつけるような視線やめてくれんかな。とにかく、わしの嫌な予感はよく当たるんや。シチュエーションにもよるけど、今すぐ予知夢を見なあかん、そんな夢使いにありがちなシチュエーションにも対応できるんやで」
「ふ~ん……」
それが、バクさんを相棒にするメリット?
結菜はふと、山岸昴、に思いを馳せてみた。
今朝のトラック事件は、前もって結菜が予知夢を見ていたから助けることができた。
だが。
「……仮にもしも、私が予知夢を見ていなかったら……それって」
昴は事故に巻き込まれ、大変なことになっていたかもしれない。
「どうやら、わしを相棒にするメリットに気がついてきたみたいやな」
「いつもタイミングよく、私が予知夢を見れるわけじゃない……それに、予知夢をずっと覚えているわけにもいかない……」
結菜は、天井の蛍光灯の辺りを浮遊するバクさんを真っ直ぐな目で見つめた。
「バクさんの危機察知能力と、即席で予知夢を見れる能力は、ホントに信用できるの?」
「あったりまえやで」
バクさんは、宙でこれ見よがしに両前足を広げる。
そして、「さあ!」と、結菜に抱っこを要求した。
「う~ん……」
結菜は、かなりためらった後に、
「やっぱり、あんたは枕で十分よ」
バクさんを抱き締めることはせず、マイルールに従うことにした。
「たとえペットでも、私が初めて抱き締める相手は自分で決めるわ!」
「だから、ペットちゃう!」
そう突っ込むバクさんを手繰り寄せると、結菜はベッドで仰向けになって、バクさんを抱き締める代わりに、枕にする。
「はぐうっ……めっちゃ重い」
結菜に枕にされたバクさんは不満たらたらで。
「あの海斗でも、わしを愛おしく抱き締めてくれたのに……うぅぅ」
過去の相棒を懐かしむように、結菜の頭の下で悔しそうに唸った。
「うっさいわねぇ、私には私のやり方があるのよ! さあ、つべこべ言わずにバクさん! 何で嫌な予感がしたのか見せてちょうだい!」
結菜は、少しうんざりしながら目を閉じた。
(これからも、こうやって即席で、予知夢を見なきゃいけないなんて……、超最悪っ)
夢使いは、バクさんを通してやってくる予知夢で、危険を回避し人を助けなくてはいけないのだった。
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