夢なしアカネ、地球へ行く!

泉蒼

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第十七章

ケン太の大発明?

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地球から帰った夜、アカネは部屋の窓から星空をながめていました。
「宇宙旅行も、銀河遊園地も、すっごく楽しかったなあ」
 家族旅行を思いだしながら、アカネは一人ごとをつぶやきました。
 いまでは宇宙は、アカネにとって心をワクワクさせてくれるものになっていたのです。
「五つ、六つ……あれは、星かなぁ……七つ」
机のうえで頬杖をつくと、アカネは宇宙に散らばる満天の星を、そっと指で押さえるようにして数えていったのです。
ピーンポーン!
 すると、家のインターホンが鳴りました。
「アカネ、ケンタくんよ!」
 すぐにママの声が聞こえると、アカネはとっさに夜空の星から指をはなしたのです。
(こんな時間に、なんだろう?)
とつぜんの夜の訪問に、アカネは不思議に思いながらも、あわてて玄関へと階段を降りていきました。
玄関ドアをあけると、そこには、ポケットに手をつっこんだケンタがいました。
「どうしたのよ、ケンタ。こんな時間に」
「ちょっとな。それで、地球はどうだった?」
「そりゃあ、楽しかったに決まってるじゃない。ちゃんとカレンちゃんにも会えたしね」
「お、そうか!」
すると、ケンタがにっと笑いました。
「それでだ、今日はさ、アカネに見せたいものがあるんだよ」
「見せたいもの? あたしに?」
 キョトンするアカネに、麦わらを帽子を持ってこいよ、とケンタは言って、そのまま道路にむかって歩きだしたのです。
「ほら、いまから出かけるぞ!」
「え! いまって、外はまっ暗だよ」
「暗くなきゃ、意味がねえんだって」
「ほんっと、いつも勝手なんだから」
 アカネは口をとがらせると、いそいで麦わらぼうしを部屋にとりにいきました。
「アカネ、気をつけてね! あ、そうだ。今度、アップルパイを焼くからって、ちゃんとケンタくんに伝えておいてね!」
「はーい」
そしてアカネは、台所のママに見送られると、走ってケンタを追いかけていったのです。

「ねえ、ケンタってば、いったいどこに行くつもり?」
 気がつくと、アカネはケンタについて、ケヤキの森がある通学路へとやってきていました。
「ここからさ、またケヤキの森を通りぬけるぞ」
ケンタはそう言うと、通学路からケヤキの森のなかへと足を進めたのです。
「え、こんな真っ暗なのに? あっ、ねえっ、ちょっと、待ってよ!」
プッと頬をふくらませたアカネは、森に入ったとたんに、イヤなことを思いだしてしまいました。
「ここって、青い火の玉が出るところじゃない」
「問題ねえよ。ほら、さっさとついてこいよ!」
 ケンタは、アカネの声にはまったく耳をかさずに、どんどんとケヤキの森を通りぬけていきました。このままだとアカネは、一人だけ森にとり残されてしまうと思い、小走りでケン太の背中を追っていったのです。
 ケヤキの森を抜けると、アカネは夏休み前に立ちよった墓地へと足を踏みいれました。
「うわあ、気持悪いな」
「アカネ、こっちだ!」
 アカネはケンタの声にみちびかれて、なんとか暗い墓地を歩いて進みました。
そこかしこから、コオロギの鳴き声がしきりに聞こえてきます――。
ようやくケンタに追いつくと、
「ねえ、はやくぅ、帰ろうよぉ……ほんとうに、オバケが出てきそうだよぉ」
 と、アカネはビクビクしながらケンタのTシャツを後ろからつかみました。
 そのとき、よし、とケンタが言って、墓地の真ん中で立ちどまったのです。
 そこには、大きな傘を思わせる、とっても大きなケヤキの木がありました。
「アカネ、この木をよじ登るぞ!」
「ウソでしょう。あたし、木登り得意じゃないし、それに真っ暗でよく見えないよ」
「心配すんな、おれが手をかしてやるから」
 するとケンタは、慣れた調子でスルスルとケヤキを登っていくと、木の上からにゅっとアカネに手をさしだしたのです。アカネはケンタの手を強くにぎると、慎重に木の幹に足をかけていきました。
「さあ、ついた」ケンタが言いました。
「こんなところまできて、いったいどうしたの?」
「おっと、そうだ。麦わら帽子は返してもらうぞ」
「あ……うん。これ、ありがとう」
 アカネは首にかけた麦わら帽子をとって、ケンタに手わたしました。それを受けとると、すぐにケンタは、ギュッとアカネの頭へと帽子をかぶせたのでした。
(え……どうして?)
「アカネ、ちょっと待てよ!」
「やだ、なんにも見えないよ」
 パチッ……パッパッ。
「よし、いいぞアカネ!」
 ケンタの声に、アカネはあわてて麦わら帽子をずらしました。
すると「わあ!」とアカネは思わず吐息をもらしたのでした。
 なんと、アカネの目の前には、たくさんの青い光の玉が浮かんでいたのです。
「これって、蛍?」
「ちがうよ。これが、おれの発明第一号だ!」
「え、発明?」
 よく見ると、青い光は蛍でも火の玉でもないことがわかりました。
ケンタは、石づくりのお墓に、青い電球をとりつけていたのです。
そのとき、ポケットからリモコンを取りだすと、ケンタが「それい!」とかけ声をあげて、そのボタンを押したのです。
チカッ、チカチカッ、パッ、パパパパッ!
「うわあ! す、すごいよ、ケンタっ」
 今度は青い電球のまわりで、たくさんの白い電球が光を放っていったのです。
「わあ! すごい! 宇宙みたい!」
「そうだろ、へへ」ケン太が声をだして笑いました。「名づけて、お墓を銀河にしようプロジェクトだ!」
 アカネはハッとしました。
「まさか、これを作るために、いつも学校からいそいで帰ってたの?」
「ああ、そのまさかだ。なんせおれは、大発明家になる男だからな! 困っている人を見つけると、ジッとしていられないんだよ」
「困った、人?」
 アカネがつぶやくと、ケンタはにっと笑って言いました。
「そう、アカネだよ。カレンちゃんが地球に行くって決まってから、アカネはずっと元気がなかっただろう。だからおれは、大発明家の記念すべき一作品目として、お墓を宇宙にしてやろうと思ったのさ」
「じゃあ、男子たちがウワサしてた、青い火の玉って」
「ハハ、これのことだろうな。いそいで学校から帰ってここにきても、電球をイジッてたら、すぐに夜になっちまってさ」
「だから火の玉に、見間違えのか……でも、よかったぁ。ホントにホントにオバケがいたら、あたしどうしようかって」
 ホッとするアカネに、ケンタはまた「アハハハ」と大きな声で笑ったのでした。
 だからアカネは、
「でもさ、ケンタは大げさだよっ。これって、スーパーで売ってるただの電球でしょ? 大発明って言っても、ただ電球をお墓にとりつけただけじゃない」
 とツンとして言い返したのです。
「こ、こまかいこと言うなってっ」ケンタがケヤキの上から指をさしました。「ほら、あの青い電球が地球で、あっちの白いのが月だ」
 必死で発明を説明するケンタに、アカネも思わず「アハハ」と笑い声をあげました。
「ホントだ。カレンちゃんのいる、太陽系だね」
「そ、そうだろっ……」
 どこかオドオドするケンタでしたが、アカネの心はケンタの宇宙のおかげで軽くなっていくのでした。
「ありがとう。このお墓は、あたしが見てきた宇宙にそっくりだよ」
「そうか? つまりこのお墓全体が、天の川銀河ってことなのさ!」
「キレイだなぁ、あたしたちの銀河って」
 それからしばらく、アカネはケヤキの上で足をブラブラとさせながら、ケンタの作った天の川銀河をながめたのです。
いつしかアカネは、ここがお墓だということを、すっかりと忘れていたのです。
アカネはいま、たくさんの星と一緒に、広大な宇宙空間に浮かんでいるのでした。
 そのとき、隣りでケンタがぼそりと言いました。
「その麦わら帽子は、アカネのだかんな」
「え? でもこれって、ケンタがカレンちゃんにもらったものでしょ?」
「じつはさ、カレンちゃんはこの帽子をアカネにあげたかったんだよな。でも、アカネがお別れ会を休んだせいで、渡しそびれたってわけさ」
「え! なんで黙ってたのよ!」それを聞いて、アカネは頬をふくらませました。「それなら、すぐに教えてくれても良かったじゃない!」
「悪かったって。でもおれは大発明家だからさ、カレンちゃんと約束してたんだよ。どうせなら、おれの発明品と一緒に麦わら帽子をプレゼントしようって」
「あたしに渡すために、カレンちゃんとコッソリ計画してたんだ?」
「うん、まあ、そうだな……」
ポリポリと頭をかくケンタを見て、アカネはふと気がついたのです。
地球でカレンちゃんが、「ケンタくん、がんばれだね」と言っていた意味が、いまになってようやくわかったのでした。
(もう、なによ二人してぇ)
アカネはちょっぴり、自分だけのけ者あつかいにされた気分になりました。けれどケンタが作った天の川銀河は、そんな気分をすぐに溶かしてくれました。
目の前に広がる宇宙は、本当に本当にステキな世界だったのです。
「ケンタ、手紙ありがとうね。月でちゃんと読んだから」
「手紙? そんなのあげたっけ……」
 ケンタは照れをかくすように、口笛を吹きはじめました。
 ピー、ピィーピーッ。
やがてケンタは、手作りの天の川銀河から、夜空に視線をうつしてこう言ったのです。
「ここから見える宇宙にはさ、たくさんの人が住んでいるだろ。でもさ、始まりはみんな地球からなんだ。だからおれたちは、地球が育んでくれたっていう、そんなつながりをもつ仲間なんだよ」
「みんながおなじつながりをもってる、か」
 そこでアカネは、前から聞いてみたかった質問をケンタにしたのです。
「ケンタはどうして、発明家になりたいの?」
「そうだな。うん、良い顔にしたいからだな! おれの発明で、みんなの顔を、良い顔にしていきたんだ」
「良い顔って、どんな顔?」
「うーん」ケンタは頭をぼりぼりとかきました。「怒ったり、悲しんだり、悩んだりしてない顔ってことかな。うん、ちょうど、そんな顔だ!」
 とつぜんケンタが、アカネの顔を指さしました。
アカネはびっくりして、ケン太にむけていた笑顔を下にむけたのです。
するとすぐに、アカネの頬にはうっすらと赤みがさしていったのです。
「夢なしアカネ、それでもいいじゃないか」
 どうやらケンタは、夢がないアカネのことを、心配してくれていたようでした。
「でもきっと、いつかアカネにもやりたいことが見つかるさ」
「うん」
アカネは麦わら帽子を深くかぶりました。
「いつかカレンちゃんや、ケンタみたいに、みんなを楽しくできればいいな――」
(カレンちゃんもケンタも、そして宇宙旅行で見てきたみんなも、だれかを良い顔にしてたよね。いまは夢なしアカネかもだけど、いつかあたしも――)
アカネは帽子の下で目を赤くしながら、なんども天の川銀河に目をやりました。
そこには、強い強い光を放っている、たくさんの星が、光り輝いていたのでした。
                                   (了)
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