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第十六章
地球とお別れ
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地球滞在もあとわすか――。
残った時間のさいごをつかっておとずれたのは、「北極ミュージアム」でした。
そこでは、本物のオーロラを見ることができました。
「うわあ、空にカーテンがかかってるみたい」
銀河遊園地にきてからずっと演奏の練習に明け暮れていたカレンちゃんは、北極ミュージアムの空を見あげて、青と緑のオーロラに息をのみました。
「ねえ、見て。地面は雪だよ。わっ、冷たい」
アカネは真っ白につもった雪に手を突っこみました。
すると、ピンポーンパーンと館内のお姉さんの声が聞こえてきたのです。
「オーロラとは、地球の大気と太陽風との、摩擦で起きる現象なのですよ」
「摩擦かぁ」
アナウンスを聞いて、アカネは感心しました。
そんなアカネに、カレンちゃんは不思議そうに首をかしげたのです。
「アカネちゃん、どうしたの?」
「うんとね」聞かれたアカネは、照れくさそうに答えました。「なんだかね、パパが大気で、ママが太陽風に見えてきちゃったんだ」
「大気と、太陽風?」
「うん。パパね、ここにきてからさ、ずっとママの手をにぎってるでしょう」
二人は、雪ダルマのちかくでオーロラを見あげる、パパとママに目をやりました。
「パパの瞳がなんだか涼しげで、見てると地球の大気のようだなあって」
アカネの言葉に、カレンちゃんは笑顔になりました。
「あ、なるほど! そういえば、アカネちゃんのママも顔が真っ赤だね。きっとパパさんに手をにぎられてるから、頬がアツくなってるんだよ、うふふ」
「だよね……。うつむいたママの顔なんて、ほら、どう見たって太陽みたいでしょう」
「アハハ。だから大気と太陽風か、フフ」
そこでアカネは、二人を見て浮かんだ一句をつぶやきました。
「パパとママ、ケンカもするが、美しい」
「わあ、アカネちゃんて俳句の天才だね」
アカネの目には、また元の仲良しにもどってくれたパパとママのすがたが、いつも以上にキラキラとしてうつっていたのでした。
「でも、ここでイチャイチャしなくてもなぁ……」
アカネは二人を見ていて、だんだんとお腹がこそばゆくなってきました。
(おーい、カレンちゃんもいるんだぜ!)
アカネは二人にむかって、心のなかでそう念じてみました。けれど、パパとママの世界には、まるで届いていきそうにはありませんでした。
(もう……)
だからアカネは、ただ時間が過ぎていくのをじっと待つしかありませんでした。
そのとき、カレンちゃんがアカネにこんなことをたずねてきたのです。
「アカネちゃん、ケンタくんの発明は、どうだった?」
「え、発明?」
ポカンと口をあけるアカネに、カレンちゃんも「あれ?」と首をかしげました。
「そういえばケンタ。自分で大発明家なんて言っておきながら、あたしにはまだ一つも発明品を見せてくれてないよ」
「でもその麦わら帽子は、ケンタくんからもらったんでしょう?」
「あ、これ? ううん、あずかってるだけなんだ」アカネは首をふりました。「麦わら帽子は、宇宙旅行が終わったら、ちゃんとケンタに返すって約束をしてるの」
「あ、そうなんだ……」
そこで、カレンちゃんは意味ありげに口をとじたのでした。
しばらく考えこんだように黙ると、カレンちゃんはポツリと言いました。
「ケンタくん、がんばれだね」
「え、なんのこと?」
「ううん、なんでもない」カレンちゃんが、アカネの手をにぎりました。「もうすぐ、地球とお別れだね。ゼッタイにまた、銀河遊園地に遊びにきてね」
「うん。またゼッタイに遊びにくるからね」
「わたしとアカネちゃんは、ずっと友だちだから」
「うん! ずっとずっと、友だちだよ!」
アカネとカレンちゃんは、お別れを惜しむように、おたがいの顔を見つめました。
そこに偶然、青と緑のオーロラのすぐ脇を、大きな流れ星が走っていったのです。
「わあっ、すぐに願いがっ、叶っちゃいそうだっ!」
「ウフフ、アカネちゃんたら」
「プッ、あっはは」
「楽しかったなあ、銀河遊園地」
その日の夕方に、予定どおりアカネたちは、自分たちの星へと旅立つことになりました。
ブイイイィィン、ズッギュウウウッン!
桜木家の赤い車は、無事に地球の大気圏を突き抜けていったのです。
宇宙に飛びだすと、すぐに車が、また地球へと接近していきました。
ギュイイインッ!
「パパ、車が地球に引き寄せられてるよ!」ちかづく地球にアカネはあわてました。「このままだと、また地球にもどっちゃうよ!」
そんなアカネの言葉に、パパは不敵に笑ったのです。
「だろ、そう思うよな? ふふふ、でも違うんだよな」
「え、どういうこと?」
「スイングバイで、帰るってことだよ。ふっふっふっ」
「わかんないよ。なにそれ?」とアカネがまた聞くと、「うん、そうね。地球の引力を利用して、桜木家の車の軌道と速度を修正して、わたしたちの惑星へと、送りだしてもらうってことかなー」と、こんどはママが教えてくれました。
「軌道と速度……」
しかしアカネには、その意味がさっぱりわかりませんでした。
「ねっ、パパ」
そんなアカネをよそに、
「うんうん。そうだよ、ママ」
とハンドルをにぎったパパが、なんどもママにうなづいていたのでした。
アカネはまだまだ、二人の世界には入っていけそうにありませんでした。
「もう、二人だけの秘密みたいにしないでよ! ブー」
「あはは、うふふっ」
(まったくぅ。オーロラを見てから、やけに仲良しなんだからぁ)
ブツブツと心のなかでつぶやくアカネでしたが、桜木家はいま、宇宙旅行が始まる前にくらべて、家族の仲がずっとずっと良いことにも気がついていたのでした。
「だから、まあ、いっか」
シュウイイィィンッ!
そのとき、桜木家の車が、地球をかすめるようにして宇宙を走り抜けました。
ガタガタガタッ……グン、グウウゥウン……ブゥーッ、ブッポッオーンッ!
そしてすぐに、車は地球の公転軌道から、そっと弾きだされていったのです。
大きくて力強い、そしてやさしい力を、アカネは背中に感じていたのでした。
アカネは、車のなかから、地球に大きく手をふりました。
「いつかまた、ゼッタイに遊びにくるよ! それまで、バイバーイ!」
残った時間のさいごをつかっておとずれたのは、「北極ミュージアム」でした。
そこでは、本物のオーロラを見ることができました。
「うわあ、空にカーテンがかかってるみたい」
銀河遊園地にきてからずっと演奏の練習に明け暮れていたカレンちゃんは、北極ミュージアムの空を見あげて、青と緑のオーロラに息をのみました。
「ねえ、見て。地面は雪だよ。わっ、冷たい」
アカネは真っ白につもった雪に手を突っこみました。
すると、ピンポーンパーンと館内のお姉さんの声が聞こえてきたのです。
「オーロラとは、地球の大気と太陽風との、摩擦で起きる現象なのですよ」
「摩擦かぁ」
アナウンスを聞いて、アカネは感心しました。
そんなアカネに、カレンちゃんは不思議そうに首をかしげたのです。
「アカネちゃん、どうしたの?」
「うんとね」聞かれたアカネは、照れくさそうに答えました。「なんだかね、パパが大気で、ママが太陽風に見えてきちゃったんだ」
「大気と、太陽風?」
「うん。パパね、ここにきてからさ、ずっとママの手をにぎってるでしょう」
二人は、雪ダルマのちかくでオーロラを見あげる、パパとママに目をやりました。
「パパの瞳がなんだか涼しげで、見てると地球の大気のようだなあって」
アカネの言葉に、カレンちゃんは笑顔になりました。
「あ、なるほど! そういえば、アカネちゃんのママも顔が真っ赤だね。きっとパパさんに手をにぎられてるから、頬がアツくなってるんだよ、うふふ」
「だよね……。うつむいたママの顔なんて、ほら、どう見たって太陽みたいでしょう」
「アハハ。だから大気と太陽風か、フフ」
そこでアカネは、二人を見て浮かんだ一句をつぶやきました。
「パパとママ、ケンカもするが、美しい」
「わあ、アカネちゃんて俳句の天才だね」
アカネの目には、また元の仲良しにもどってくれたパパとママのすがたが、いつも以上にキラキラとしてうつっていたのでした。
「でも、ここでイチャイチャしなくてもなぁ……」
アカネは二人を見ていて、だんだんとお腹がこそばゆくなってきました。
(おーい、カレンちゃんもいるんだぜ!)
アカネは二人にむかって、心のなかでそう念じてみました。けれど、パパとママの世界には、まるで届いていきそうにはありませんでした。
(もう……)
だからアカネは、ただ時間が過ぎていくのをじっと待つしかありませんでした。
そのとき、カレンちゃんがアカネにこんなことをたずねてきたのです。
「アカネちゃん、ケンタくんの発明は、どうだった?」
「え、発明?」
ポカンと口をあけるアカネに、カレンちゃんも「あれ?」と首をかしげました。
「そういえばケンタ。自分で大発明家なんて言っておきながら、あたしにはまだ一つも発明品を見せてくれてないよ」
「でもその麦わら帽子は、ケンタくんからもらったんでしょう?」
「あ、これ? ううん、あずかってるだけなんだ」アカネは首をふりました。「麦わら帽子は、宇宙旅行が終わったら、ちゃんとケンタに返すって約束をしてるの」
「あ、そうなんだ……」
そこで、カレンちゃんは意味ありげに口をとじたのでした。
しばらく考えこんだように黙ると、カレンちゃんはポツリと言いました。
「ケンタくん、がんばれだね」
「え、なんのこと?」
「ううん、なんでもない」カレンちゃんが、アカネの手をにぎりました。「もうすぐ、地球とお別れだね。ゼッタイにまた、銀河遊園地に遊びにきてね」
「うん。またゼッタイに遊びにくるからね」
「わたしとアカネちゃんは、ずっと友だちだから」
「うん! ずっとずっと、友だちだよ!」
アカネとカレンちゃんは、お別れを惜しむように、おたがいの顔を見つめました。
そこに偶然、青と緑のオーロラのすぐ脇を、大きな流れ星が走っていったのです。
「わあっ、すぐに願いがっ、叶っちゃいそうだっ!」
「ウフフ、アカネちゃんたら」
「プッ、あっはは」
「楽しかったなあ、銀河遊園地」
その日の夕方に、予定どおりアカネたちは、自分たちの星へと旅立つことになりました。
ブイイイィィン、ズッギュウウウッン!
桜木家の赤い車は、無事に地球の大気圏を突き抜けていったのです。
宇宙に飛びだすと、すぐに車が、また地球へと接近していきました。
ギュイイインッ!
「パパ、車が地球に引き寄せられてるよ!」ちかづく地球にアカネはあわてました。「このままだと、また地球にもどっちゃうよ!」
そんなアカネの言葉に、パパは不敵に笑ったのです。
「だろ、そう思うよな? ふふふ、でも違うんだよな」
「え、どういうこと?」
「スイングバイで、帰るってことだよ。ふっふっふっ」
「わかんないよ。なにそれ?」とアカネがまた聞くと、「うん、そうね。地球の引力を利用して、桜木家の車の軌道と速度を修正して、わたしたちの惑星へと、送りだしてもらうってことかなー」と、こんどはママが教えてくれました。
「軌道と速度……」
しかしアカネには、その意味がさっぱりわかりませんでした。
「ねっ、パパ」
そんなアカネをよそに、
「うんうん。そうだよ、ママ」
とハンドルをにぎったパパが、なんどもママにうなづいていたのでした。
アカネはまだまだ、二人の世界には入っていけそうにありませんでした。
「もう、二人だけの秘密みたいにしないでよ! ブー」
「あはは、うふふっ」
(まったくぅ。オーロラを見てから、やけに仲良しなんだからぁ)
ブツブツと心のなかでつぶやくアカネでしたが、桜木家はいま、宇宙旅行が始まる前にくらべて、家族の仲がずっとずっと良いことにも気がついていたのでした。
「だから、まあ、いっか」
シュウイイィィンッ!
そのとき、桜木家の車が、地球をかすめるようにして宇宙を走り抜けました。
ガタガタガタッ……グン、グウウゥウン……ブゥーッ、ブッポッオーンッ!
そしてすぐに、車は地球の公転軌道から、そっと弾きだされていったのです。
大きくて力強い、そしてやさしい力を、アカネは背中に感じていたのでした。
アカネは、車のなかから、地球に大きく手をふりました。
「いつかまた、ゼッタイに遊びにくるよ! それまで、バイバーイ!」
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