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第十三章
ケンタの手紙
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宇宙を冒険するアカネ殿へ
《参考》
● 現在のの登録宇宙人口は、約七千億人ほどである。
● 星によって文明はちがうが、みな同じ人間である。
● 星によって、衣服の好みが異なる。
《ファッションチェック》
○ 金星は、当時は500℃もの高温だった名残りで、長袖を着る人は少ない。
○ 火星は、四季があり、地球に強くあこがれていた名残りで、青色を好む人多し。
○ 地球は、人類が宇宙へと出発するきっかけを作った偉大な星である。よって、「誇り」や「王者」や「伝説のはじまり」等の、刺激の強いロゴを好む人多し。
《注意》
☆ 現在、地球は銀河遺産としてみとめられた銀河遊園地のため、そのような過激な人間はいない。
☆ 銀河遺産は、原則的に人間は住めなくなっている。旅行者は、銀河連合が指定したホテルにとまることを義務づけられている。
☆ なお、ホテルは全て「パラテラフォーミング化」されているので、とても安心である。
☆ パラテラフォーミングとは、どんな惑星でも人間が住めるようにとつくられた、カプセル型のコテージのことである。
☆ コテージには、良い旅の思い出をつくって下さい、との建築作業員の願いがこめられている。
☆ 飲料の持こみ、可。
大発明家 ケンタより
太陽系の情報に、アカネはひと息でケンタの手紙を読みおえました。
「ケンタのやつ、なにが大発明家よ」
ケンタは手紙に、太陽系に浮かぶ星の特徴を、こと細かに教えてくれたのです。
「やさしいわね、ケンタくん」ママも手紙をのぞきこみました。「そうだ、こんどこそアップルパイ、焼いてあげないとね!」
「ウソも混じってそうだけどね。それにこの手紙、発明とは全然関係ないじゃん」
アカネは手紙から目をそらせ、顔に力をいれました。
ほんとうは、心のなかではケンタのやさしい心づかいに、アカネはうれしい気持でいっぱいだったのです。でも、それをママにバレるのが照れくさくって、アカネはくちびるを始終一直線にむすんでいたのです。
「とりあえず、見学でもすっかぁ」
パパがスペースポートのちかくにある、お土産物屋さんにいこう、と提案しました。
「じゃあ、ママはむかいのコスメティックのお店で、香水でも見ようかな」
「アカネはどうする? パパはそこの雑貨店で、地球で食べるおつまみセットを見るけど」
「うーん。じゃあ、パパと雑貨店に行こうかな」
二つのお店の前で迷ったあげく、アカネは食べ物につられて、パパについていくことにしました。
ついでに手紙のお礼にと、アカネはケンタにお土産を買うことにしたのです。
「おおっ。さきイカやクッキーだけかと思いきや、色んな商品が置いてるなぁ」
店内を見わたしたパパは、ショーケースのまえで足をとめました。
ガラスケースのなかには、月の形をあしらった時計が、ずらりと並んでいたのです。
興味津々に時計を見つめるパパに、アカネもつられて足をとめました。
「パパぁ、ムダ使いしたら、またママに怒られるよぉ」
「ちょっと見てるだけだよ。ほらアカネ、三日月に、下弦の月の形をした腕時計なんて、オシャレに思わないか? あ、いやー、でもやっぱり満月かなあ」
パパはうんうんとうなずきながら、三つの時計を見くらべていました。そのとき、
「月の気持ちなんですぅ」とお店のおばちゃんがスッとパパにちかづいてきたのです。
「ふうん」
パパの素っ気ない返事に、
「じつはぁ、地球のことを大切に思っているんですぅ。むかしは、地球から見えるお月さまってねぇ、今の四百倍も大きかったんですよぉ」
とおばちゃんが両手で満月をつくって見せました。
「うっそ」
パパが驚きの声をあげると、おばちゃんがさらに笑みをつくって言いました。
「でもぉ、それだと地球の自転が六時間ぐらいになっちゃうでしょうぉ。だからぁ、自転が二十四時間ぐらいになる位置までぇ、月がはなれていったんですぅ」
「ひえー。やさしいなあ、地球のお月さまは」
「だからぁ、月はジェントルマンなんですぅ。いっつでもぉ、その気持ちでぇ、マダムを見守ってあげてください。この腕時計をしてると、女性はすっごく安心するんですぅ」
そして最後に、おばちゃんがあまい声をだしました。
するとパパはあっさりと、
「よっしゃ、じゃあママにプレゼントだ!」
と腕時計を買うことに決めたのでした。
(えぇぇ……いいのぉ、そんなにかんたんに決めちゃってぇ)
ママを想うパパを見ていると、アカネはまたも自分の顔が熱くなっていくことに気がついたのです。それでも、「プロって、すごいなあ」と、アカネはお土産物屋さんのおばちゃんを、尊敬のまなざしで見つめていたのでした。
(地球が月の影響を受けるみたいに、お客も店員さんの影響をうけるんだぁ)
「そうだよなぁ、やっぱり持ちつ持たれつなんだよなぁ」
「ん、どうしたアカネ? ひとりでブツブツと」
「あ、いや、なんでもないっ」
パパが月の腕時計を買ったあと、けっきょくアカネも、おばちゃんの接客に影響を受け、お土産を買うことになったのです。
「はー、あたしも買っちゃったぁ。プロって、見逃さないなぁ……」
アカネはまた一人ごとをつぶやくと、ケンタに買った、「月の石」と書かれた小さな石ころを、リュックサックにしまったのでした。
《参考》
● 現在のの登録宇宙人口は、約七千億人ほどである。
● 星によって文明はちがうが、みな同じ人間である。
● 星によって、衣服の好みが異なる。
《ファッションチェック》
○ 金星は、当時は500℃もの高温だった名残りで、長袖を着る人は少ない。
○ 火星は、四季があり、地球に強くあこがれていた名残りで、青色を好む人多し。
○ 地球は、人類が宇宙へと出発するきっかけを作った偉大な星である。よって、「誇り」や「王者」や「伝説のはじまり」等の、刺激の強いロゴを好む人多し。
《注意》
☆ 現在、地球は銀河遺産としてみとめられた銀河遊園地のため、そのような過激な人間はいない。
☆ 銀河遺産は、原則的に人間は住めなくなっている。旅行者は、銀河連合が指定したホテルにとまることを義務づけられている。
☆ なお、ホテルは全て「パラテラフォーミング化」されているので、とても安心である。
☆ パラテラフォーミングとは、どんな惑星でも人間が住めるようにとつくられた、カプセル型のコテージのことである。
☆ コテージには、良い旅の思い出をつくって下さい、との建築作業員の願いがこめられている。
☆ 飲料の持こみ、可。
大発明家 ケンタより
太陽系の情報に、アカネはひと息でケンタの手紙を読みおえました。
「ケンタのやつ、なにが大発明家よ」
ケンタは手紙に、太陽系に浮かぶ星の特徴を、こと細かに教えてくれたのです。
「やさしいわね、ケンタくん」ママも手紙をのぞきこみました。「そうだ、こんどこそアップルパイ、焼いてあげないとね!」
「ウソも混じってそうだけどね。それにこの手紙、発明とは全然関係ないじゃん」
アカネは手紙から目をそらせ、顔に力をいれました。
ほんとうは、心のなかではケンタのやさしい心づかいに、アカネはうれしい気持でいっぱいだったのです。でも、それをママにバレるのが照れくさくって、アカネはくちびるを始終一直線にむすんでいたのです。
「とりあえず、見学でもすっかぁ」
パパがスペースポートのちかくにある、お土産物屋さんにいこう、と提案しました。
「じゃあ、ママはむかいのコスメティックのお店で、香水でも見ようかな」
「アカネはどうする? パパはそこの雑貨店で、地球で食べるおつまみセットを見るけど」
「うーん。じゃあ、パパと雑貨店に行こうかな」
二つのお店の前で迷ったあげく、アカネは食べ物につられて、パパについていくことにしました。
ついでに手紙のお礼にと、アカネはケンタにお土産を買うことにしたのです。
「おおっ。さきイカやクッキーだけかと思いきや、色んな商品が置いてるなぁ」
店内を見わたしたパパは、ショーケースのまえで足をとめました。
ガラスケースのなかには、月の形をあしらった時計が、ずらりと並んでいたのです。
興味津々に時計を見つめるパパに、アカネもつられて足をとめました。
「パパぁ、ムダ使いしたら、またママに怒られるよぉ」
「ちょっと見てるだけだよ。ほらアカネ、三日月に、下弦の月の形をした腕時計なんて、オシャレに思わないか? あ、いやー、でもやっぱり満月かなあ」
パパはうんうんとうなずきながら、三つの時計を見くらべていました。そのとき、
「月の気持ちなんですぅ」とお店のおばちゃんがスッとパパにちかづいてきたのです。
「ふうん」
パパの素っ気ない返事に、
「じつはぁ、地球のことを大切に思っているんですぅ。むかしは、地球から見えるお月さまってねぇ、今の四百倍も大きかったんですよぉ」
とおばちゃんが両手で満月をつくって見せました。
「うっそ」
パパが驚きの声をあげると、おばちゃんがさらに笑みをつくって言いました。
「でもぉ、それだと地球の自転が六時間ぐらいになっちゃうでしょうぉ。だからぁ、自転が二十四時間ぐらいになる位置までぇ、月がはなれていったんですぅ」
「ひえー。やさしいなあ、地球のお月さまは」
「だからぁ、月はジェントルマンなんですぅ。いっつでもぉ、その気持ちでぇ、マダムを見守ってあげてください。この腕時計をしてると、女性はすっごく安心するんですぅ」
そして最後に、おばちゃんがあまい声をだしました。
するとパパはあっさりと、
「よっしゃ、じゃあママにプレゼントだ!」
と腕時計を買うことに決めたのでした。
(えぇぇ……いいのぉ、そんなにかんたんに決めちゃってぇ)
ママを想うパパを見ていると、アカネはまたも自分の顔が熱くなっていくことに気がついたのです。それでも、「プロって、すごいなあ」と、アカネはお土産物屋さんのおばちゃんを、尊敬のまなざしで見つめていたのでした。
(地球が月の影響を受けるみたいに、お客も店員さんの影響をうけるんだぁ)
「そうだよなぁ、やっぱり持ちつ持たれつなんだよなぁ」
「ん、どうしたアカネ? ひとりでブツブツと」
「あ、いや、なんでもないっ」
パパが月の腕時計を買ったあと、けっきょくアカネも、おばちゃんの接客に影響を受け、お土産を買うことになったのです。
「はー、あたしも買っちゃったぁ。プロって、見逃さないなぁ……」
アカネはまた一人ごとをつぶやくと、ケンタに買った、「月の石」と書かれた小さな石ころを、リュックサックにしまったのでした。
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