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第十二章
太陽系にやってきた!
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ギュイイインッ、スッポン!
「きゃああっ!」
「ご利用ッ、ありがとうございましたッ! ご利用ッ、ありがとう――」
ワープホールの出口からアナウンスが聞こえたとたん、アカネたちは車もろとも宇宙空間へと放りだされていきました。それはまるで、なにかの体から吐きだされていくような、スッキリとした感覚でもあったのです。
「ワオッ」パパが白い歯を見せました。
「あらまあ」ママが笑みをつくりました。
「えぇ、なにぃ?」アカネはおそるおそる目を開けました。
ボオオオッ、ボボオオオッ!
「うわっ、ウソっ! こ、この星って、もしかして!」
アカネたちの前に、目が飛び出そうになるほど巨大な星があらわれたのでした。
その星の表面からは、赤い炎が竜のように立ちのぼっています。見ているだけで、溶けてしまいそうになる、ドロドロとした赤い世界がアカネの視界をうめつくしていきました。
「げげっ、太陽じゃん!」アカネは興奮して窓にはりつきました。
そして、「あんまりちかづかないでよぅ」とママの手を強くにぎったのです。
「だいじょうぶよ、ちゃんと車にはシールド機能があるから。ねっ」と言ったママも、すぐにパパの手をギュッとにぎったのでした。
「まっかせなさい! 車内のエアコンも、ばっちりさ!」
あまった手で、パパは自分の胸をたたくと、
「しっかし暑そうだなあ。パパは苦手なんだよなあ……」
とアカネたちにむいて、ふと本音をもらしたのです。
それを聞いて、ママとアカネが顔を見あわせました。
「やっぱりィ」
「ようしっ、到着したぞ!」
太陽系の一日目は、金星に立ちよりました。パパは旅行会社で、太陽系でとっても人気のある、金星のトロピカルホテルを予約していたのです。
「うわあっ。パパ、ママ、てっぺんが全然見えないよぉ」
そのホテルは、金星の大気圏にまでとどきそうなほどの、背の高い建物でした。
さっそくアカネたちは、二百階建てのホテルの最上階にある、支配人おすすめの露天風呂へとむかったのです。
「ふぃー、極楽ですなあ。ほら、ママとアカネもこっちにこいよ。ここのお湯は、肩こりなんかにいいらしいぞ」
さきに大浴場の湯船につかったパパが、水着に着がえたママとアカネを見つけて手招きをしました。
「はぁ、ごくらくぅ。ね、ママ?」
「旅の疲れがとれていくわねぇ」
そうしてしばらく三人で、金星のオレンジ色の空を、露天風呂からながめました。やがてタイミングよく日が暮れて、アカネたちの視界は、宇宙一色にそまっていったのです。
空のあちこちでは、流れ星がなんども走っていきました。
シュウンッ、シュンッ!
「うわあ、流星が走っては消えていくぅ」
宇宙の青い空間に、白い線が何本も流れていったのです。
「なんだか、ツメの先みたいだなあ」とパパが空を見ながら言いました。するとママはくすりと笑って、「パパのツメは、タバコの吸いすぎで、まっ黄色じゃないのよ」と言葉をかえしました。だからアカネもつられて、「昨日買ったママのブラウスも、まっ黄っ黄じゃなあい」と二人を茶化したのでした。
そのとき、パパとママがちらりと視線を見あわせて、うっすらと頬を赤くさせました。
(げっ、まただぁ……)
二人の間にいたアカネは、自分のお腹がこそばゆくてしかたがありませんでした。
そんなアカネに気づくと、パパは咳きこんでから空に指をさしました。
「ママ、アカネ、明日はついに地球だぞ!」
胸に手をあてて、ママもつづけました。
「わたしたちの祖先が、誕生した星に行くのね」
だからアカネも、明日は地球なのだ、と心のなかで声を発したのです。
翌朝、桜木家の車は金星から地球へと飛びたちました。
金星を出発してまもなく、黄色い月が見えてきました。
「ウソだろ! また順番待ちかよ」
地球まであともう少しというときに、スペースレールの標識には、「地球へおこしの車は、月で合流!」といった案内アナウンスが流れたのです。
「人数制限がかかっているのよ。しかたないわよパパ」
地球はいま、観光客でごった返しているようでした。
「ちぇっ。じゃあしばらく、お月さまで順番待ちだな」
ギュイイィン!
残念そうな顔をしたパパは、スペースレールをいったんはなれると、ひとまず車を月に停めたのでした。桜木家の車は、スペースポートとよばれる、宇宙船をむかえいれるための、宇宙の港へと降りたったのです。
「ここも、すっごい人だなあ」パパがため息をつきました。
「しかたないわよ。みんな、地球の銀河遊園地が目あてなんだし」
「あー、月も渋滞かぁ」
月で順番待ちする人だかりを見て、アカネがため息をついたときでした――。
「アカネ、パパ、ほら、地球よ!」
ママが大きな声で二人を呼んだのです。
その声にパパとアカネは、月の駐車場のフェンスへといそいで走っていきました。
「うわあぁ」
すると月のスペースポートから、ひときわ輝く星が見えてきたのです。
その星は、青くて、力強い光を宇宙空間に放っていました。
アカネが、はじめて見る地球でした――。
(なんだかどの星よりも、イキイキしてる)
アカネははじめての地球を目にして、まわりに見える星たちとは、どこか様子のちがうことに気がついたのです。
「体と心が、ギュウッと引きつけられていきそうだぁ」
見ているだけでもう、アカネの心は、うっとりとしてしまうのでした。
そして不思議と、アカネの心はやさしい気持ちになっていくのでした。
「生命のゆりかごよ」ママがアカネの肩に手をのせました。
「そう。僕たち人間が、はじめに生まれ落ちた星なのさ」
パパもアカネの肩に手をのせました。
「ここから、人間たちは宇宙へと飛びだしていったんだ」
そして最後に、アカネはパパとママの腰に手をまわしました。
アカネはゆらゆらと光を放つ地球を見て、なんども吐息をもらしていました。
少女が落とした、手まりのような絵を、宇宙と地球に思い重ねていたのです。
そのまま三人は、しばらく月から地球を鑑賞したのでした。
「銀河遊園地ッ、満員御礼ッ!」
月のスペースポートにそなえつけられた、巨大モニターにニュース速報が流れました。
「またかよ」パパはがっくりと肩を落としています。
「そうだ!」
そのときアカネは、あることを思いだして、パパに頼んで車のキーをかりました。
一人で車に戻ると、アカネは後部シートに置いたリュックサックをつかみ、カバンのなかに手をつっこんだのです。
「えっとぉ……あった!」
アカネが取りだしたのは、封に青い惑星のシールをはった手紙だったのです。
「やるなぁ、ケンタのやつぅ。やっぱりこのシール、地球のことだったんだね」
それは旅行に旅立つ前に、ケンタからもらった手紙でした。
「太陽系についたら読んでくれ……か」
ケンタの言葉を思いだしたアカネは、さっそく手紙を読んでみることにしたのです。
ぺリッ。
シールをはがすと、アカネは封筒のなかから手紙を取りだしました。
ケンタの手紙には、とてもオモシロいことが書かれてあったのです――。
「きゃああっ!」
「ご利用ッ、ありがとうございましたッ! ご利用ッ、ありがとう――」
ワープホールの出口からアナウンスが聞こえたとたん、アカネたちは車もろとも宇宙空間へと放りだされていきました。それはまるで、なにかの体から吐きだされていくような、スッキリとした感覚でもあったのです。
「ワオッ」パパが白い歯を見せました。
「あらまあ」ママが笑みをつくりました。
「えぇ、なにぃ?」アカネはおそるおそる目を開けました。
ボオオオッ、ボボオオオッ!
「うわっ、ウソっ! こ、この星って、もしかして!」
アカネたちの前に、目が飛び出そうになるほど巨大な星があらわれたのでした。
その星の表面からは、赤い炎が竜のように立ちのぼっています。見ているだけで、溶けてしまいそうになる、ドロドロとした赤い世界がアカネの視界をうめつくしていきました。
「げげっ、太陽じゃん!」アカネは興奮して窓にはりつきました。
そして、「あんまりちかづかないでよぅ」とママの手を強くにぎったのです。
「だいじょうぶよ、ちゃんと車にはシールド機能があるから。ねっ」と言ったママも、すぐにパパの手をギュッとにぎったのでした。
「まっかせなさい! 車内のエアコンも、ばっちりさ!」
あまった手で、パパは自分の胸をたたくと、
「しっかし暑そうだなあ。パパは苦手なんだよなあ……」
とアカネたちにむいて、ふと本音をもらしたのです。
それを聞いて、ママとアカネが顔を見あわせました。
「やっぱりィ」
「ようしっ、到着したぞ!」
太陽系の一日目は、金星に立ちよりました。パパは旅行会社で、太陽系でとっても人気のある、金星のトロピカルホテルを予約していたのです。
「うわあっ。パパ、ママ、てっぺんが全然見えないよぉ」
そのホテルは、金星の大気圏にまでとどきそうなほどの、背の高い建物でした。
さっそくアカネたちは、二百階建てのホテルの最上階にある、支配人おすすめの露天風呂へとむかったのです。
「ふぃー、極楽ですなあ。ほら、ママとアカネもこっちにこいよ。ここのお湯は、肩こりなんかにいいらしいぞ」
さきに大浴場の湯船につかったパパが、水着に着がえたママとアカネを見つけて手招きをしました。
「はぁ、ごくらくぅ。ね、ママ?」
「旅の疲れがとれていくわねぇ」
そうしてしばらく三人で、金星のオレンジ色の空を、露天風呂からながめました。やがてタイミングよく日が暮れて、アカネたちの視界は、宇宙一色にそまっていったのです。
空のあちこちでは、流れ星がなんども走っていきました。
シュウンッ、シュンッ!
「うわあ、流星が走っては消えていくぅ」
宇宙の青い空間に、白い線が何本も流れていったのです。
「なんだか、ツメの先みたいだなあ」とパパが空を見ながら言いました。するとママはくすりと笑って、「パパのツメは、タバコの吸いすぎで、まっ黄色じゃないのよ」と言葉をかえしました。だからアカネもつられて、「昨日買ったママのブラウスも、まっ黄っ黄じゃなあい」と二人を茶化したのでした。
そのとき、パパとママがちらりと視線を見あわせて、うっすらと頬を赤くさせました。
(げっ、まただぁ……)
二人の間にいたアカネは、自分のお腹がこそばゆくてしかたがありませんでした。
そんなアカネに気づくと、パパは咳きこんでから空に指をさしました。
「ママ、アカネ、明日はついに地球だぞ!」
胸に手をあてて、ママもつづけました。
「わたしたちの祖先が、誕生した星に行くのね」
だからアカネも、明日は地球なのだ、と心のなかで声を発したのです。
翌朝、桜木家の車は金星から地球へと飛びたちました。
金星を出発してまもなく、黄色い月が見えてきました。
「ウソだろ! また順番待ちかよ」
地球まであともう少しというときに、スペースレールの標識には、「地球へおこしの車は、月で合流!」といった案内アナウンスが流れたのです。
「人数制限がかかっているのよ。しかたないわよパパ」
地球はいま、観光客でごった返しているようでした。
「ちぇっ。じゃあしばらく、お月さまで順番待ちだな」
ギュイイィン!
残念そうな顔をしたパパは、スペースレールをいったんはなれると、ひとまず車を月に停めたのでした。桜木家の車は、スペースポートとよばれる、宇宙船をむかえいれるための、宇宙の港へと降りたったのです。
「ここも、すっごい人だなあ」パパがため息をつきました。
「しかたないわよ。みんな、地球の銀河遊園地が目あてなんだし」
「あー、月も渋滞かぁ」
月で順番待ちする人だかりを見て、アカネがため息をついたときでした――。
「アカネ、パパ、ほら、地球よ!」
ママが大きな声で二人を呼んだのです。
その声にパパとアカネは、月の駐車場のフェンスへといそいで走っていきました。
「うわあぁ」
すると月のスペースポートから、ひときわ輝く星が見えてきたのです。
その星は、青くて、力強い光を宇宙空間に放っていました。
アカネが、はじめて見る地球でした――。
(なんだかどの星よりも、イキイキしてる)
アカネははじめての地球を目にして、まわりに見える星たちとは、どこか様子のちがうことに気がついたのです。
「体と心が、ギュウッと引きつけられていきそうだぁ」
見ているだけでもう、アカネの心は、うっとりとしてしまうのでした。
そして不思議と、アカネの心はやさしい気持ちになっていくのでした。
「生命のゆりかごよ」ママがアカネの肩に手をのせました。
「そう。僕たち人間が、はじめに生まれ落ちた星なのさ」
パパもアカネの肩に手をのせました。
「ここから、人間たちは宇宙へと飛びだしていったんだ」
そして最後に、アカネはパパとママの腰に手をまわしました。
アカネはゆらゆらと光を放つ地球を見て、なんども吐息をもらしていました。
少女が落とした、手まりのような絵を、宇宙と地球に思い重ねていたのです。
そのまま三人は、しばらく月から地球を鑑賞したのでした。
「銀河遊園地ッ、満員御礼ッ!」
月のスペースポートにそなえつけられた、巨大モニターにニュース速報が流れました。
「またかよ」パパはがっくりと肩を落としています。
「そうだ!」
そのときアカネは、あることを思いだして、パパに頼んで車のキーをかりました。
一人で車に戻ると、アカネは後部シートに置いたリュックサックをつかみ、カバンのなかに手をつっこんだのです。
「えっとぉ……あった!」
アカネが取りだしたのは、封に青い惑星のシールをはった手紙だったのです。
「やるなぁ、ケンタのやつぅ。やっぱりこのシール、地球のことだったんだね」
それは旅行に旅立つ前に、ケンタからもらった手紙でした。
「太陽系についたら読んでくれ……か」
ケンタの言葉を思いだしたアカネは、さっそく手紙を読んでみることにしたのです。
ぺリッ。
シールをはがすと、アカネは封筒のなかから手紙を取りだしました。
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