夢なしアカネ、地球へ行く!

泉蒼

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第十章

スペースレールは大渋滞!

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「地球方面ッ、渋滞ッ、一万光年ッ!」
車内のナビゲーターが交通状況をしらせてきました。
「げっ、こりゃあまずいなあ」
パパが頭をかきかきとしながら、ため息をつきました。桜木家の車は、ようやくスペースレールに合流できていたのです。しかし、こんどは車がちっとも前に進みません。まわりの車たちも、みんな太陽系を目指しているようで、夏休みの宇宙道路はいま、大渋滞を起こしていたのです。
プップー、プーッ!
そのとき、下からクラクションを鳴らされました。上昇してくる車が、「わたしたちも、スペースレールに入れてください!」と、パパに合図をだしていたのです。
「おおっと」それに気づいてパパがいそいで車を動かすと、
「アブナイっ!」とママがさけびました。
車が急発進したために、前方のオレンジ色のミニバンに、ぶつかりそうになったのです。
するとすかさず、
「The baby has gotten on!! (赤ちゃんが乗っています!)」と、車内のナビが運転手のパパにきつく注意をしたのです。
「ふいィ、あぶなかったなあ」パパはおでこの汗をふきました。「ママ、アカネ……びっくりさせて、すいませんでした……」
「もうパパったら、気をつけてよ! 安全第一でお願いね」
宇宙にでてきた人たちは、みんなが夏休みのようでした。
ただでさえ、この銀河には二千億個もの惑星があるのですから、渋滞が起きてしまうのも無理はありません。
そんな状況を受けれたアカネは、宇宙でせっせと働く人に声援をおくったのです。
「制服のオジサン、がんばって!」
アカネは窓から見える、宇宙警察のオジサンたちに、手を大きくふりました。宇宙に勤務する警察の人たちは、たくさんの宇宙船を誘導するのに、アタフタといそがしく働いていたのです。
(この人たちがいるおかげで、こんな渋滞でも事故が起きてないんだぁ)
 みんなのために黙々と働く人を見て、アカネは感心してしまいました。
そのとき、アカネの左右から、パパとママがうなり声をあげたのです。
「こりゃあダメだ……さて、どうするものかなあ」とパパがママになにやら、うかがいを立てるように目をむけています。
すると、「ワープはダメよっ!」とママが一喝したのでした。
 アカネは不思議に思いました。
「どうして、ワープを使っちゃダメなの?」
「つまりだなぁ、運賃が高いんだよなあぁ」
パパはバツが悪そうに吐息をもらしました。
かれこれ一時間、桜木家の車はちっとも前に進んではいませんでした。
そのせいで桜木家の車内には、重たげな沈黙がつづいていたのです。どうにかやっとスペースレールに合流はできたものの、道路の車はなかなか前に進む気配をみせません。
アカネは窓の外を見てつぶやきました。
「みんな、車のなかでウンザリしてるね」
さきほどまで、桜木家の上下四方にいた宇宙船や車たちも、みんな無事にスペースレールへと着地はしたのですが、肝心の宇宙道路は、たくさんの宇宙船やらでぎゅうぎゅうづめになっているのです。
スペースレールにいる宇宙船の人たちも、どこかぐったりとしているようでした。
「時間よ、うごけっ!」
 シーン。
アカネはためしに、パパとママに冗談口をたたきましたが、車内に笑いが起きることはありませんでした。
「ぶう」アカネはため息をつきました。「なんだよ、せっかくぅ」
アカネは頬をふくらませると、ママの膝の上に移動しました。
窓の縁に肘をつくと、アカネは隣に停車するオレンジ色の車をながめたのです。
すると、アカネの視線に気づいて、オレンジ色の窓がスイィッと開いたのです。
「あら、こんにちはっ」
「あっ、どうもです!」
アカネが挨拶をすると、中からロングヘアの女性が顔をだしてくれました。
そして、アカネに親切に声をかけてくれたのです。
「車、ちっとも動かないわね」
「ええ」アカネはおでこをかきました。「さっきからまったくですぅ」
 そのときしったことですが、スペースレールのなかではちゃんと空気が用意されていて、車の窓をあけても大丈夫なようにキチンと整備されていたのです。
「赤ちゃん、かわいいですねー」
アカネは運転席の女性の膝の上にいる、双子の赤ちゃんを発見しました。
女性は両手に赤ちゃんを抱きかかえ、アカネに手をふってくれたのです。
そんな赤ちゃんをあやす女性を見て、アカネはハッとしたのでした。
「そうだ! さっきはうちのパパが、どうもすいませんでしたー」
 その車は、さきほどパパが急発進してぶつかりそうになった、前方のオレンジ色のミニバンだとわかったからでした。けれど女性は手を左右にふって、
「ぜんぜん、だいじょうぶよ!」と笑顔で答えてくれたのです。
するとミニバンの女性は、双子の赤ちゃんを後部のチャイルドシートに座らせると、アカネにこんなことを言ったのです。
「どうやらモレちゃったみたいでねぇ。この子たちのオムツをかえてあげたいから、あきらめてワープを使うわー」
「それは大変ですね」
「ぐずっちゃうと、運転どころじゃないからね」
 女性は舌をだすと、肩をすくめて笑いました。
するとさっそく、チャイルドシートに座った赤ちゃんたちの声が聞こえてきました。アカネが身を乗り出すと、双子の赤ちゃんがにぎりこぶしを上下に動かしながら、「アーアー」と泣き声をあげているのが見えたのです。
どうやら、赤ちゃんたちにも渋滞の影響がでているようでした。
(じゃあ、あれをするしかないか!)
運転に子守に大変そうな女性を見たアカネは、自分の両頬をギュッと手でつまむと、そのままグイッーと力いっぱいに引きのばしてみせたのです。
「ベベオロベベー」
アカネは舌をだしてさけんであげました。
するとアカネに気づいた双子の赤ちゃんたちは、「キャッキャッ」と声をあげて笑いはじめたのでした。
「助かったわ! ありがとう」
女性はお礼を言って、プップーッとアカネにクラクションを鳴らしました。
双子をのせた車は、すぐにスペースレールから上昇していったのです。アカネはオレンジ色のミニバンを目で追うと、上空に大きな渦を発見したのでした。
「わあっ、あれがワープゲートなんだ!」
オレンジ色のミニバンは、ゆっくりと桜木家の頭上をこえていき、上空間で大きな渦を巻く、ワープゲートへと入っていったのでした。
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