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第八章
ママと待ち合わせ
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「暑いぃ。夏って、こんなに暑かったっけぇ」
夏休みに入ってから、二週間がたちました。
アカネはケンタからあずかった麦わら帽子をかぶって、駅前のベンチに腰をかけていました。今日はママとデパートに行く約束をした日です。アカネはお昼の二時に、ママと駅前のベンチで待ち合わせをしていたのでした。
ミーンミンミン。
「ママぁ、はやくぅ……あー、こんなに暑いなら、はやく地球に行きたいぃ」
明日はようやく、待ちに待った宇宙旅行。家族で地球に旅立つ大切な日です。
ママは旅行のためにと、デパートで洋服を買うことにしていたのです。
アカネは開放プールの帰りでした。水着をいれた黄色いキンチャク袋を胸にかかえたアカネは、なんども駅前の時計を見つめては、ぐったりとした顔をしています。
「アカネ、ごめんごめん!」
そのとき、紙袋をかかえたママが、駅前のスーパーから出てくるのが見えました。
「もー、ママったらぁ」
笑顔で走ってくるママに、アカネはプッと頬をふくらませました。
「おそいよぉ」
「え、ウソ?」ベンチにやってくると、ママが腕時計に目をやりました。「あら、ホントだわ。もう、二時十分ね。あ、そうだ! パパのシャツを買ってたのよね。ちょうどバーゲンでさ、迷っちゃったの、ごめんね。でもアカネ、あそこのスーパーね、じつはお野菜だけじゃなくって、男性のお洋服も、すっごく安かったの」
「パパの新しい服、もう買ったんだ。もったいないなあ」
「そうだけどさ、パパの楽しそうな顔を見ると、ついね」
旅行が決まってから、パパは毎晩のようにご機嫌だったのです。
「ふうん」アカネは紙袋のなかをのぞきこみました。「げっ、ピンクぅ?」
ママは、パパにピンク色のTシャツを選んだようでした。
(ホントにこれを着て、地球に行く気なの……)
ピンクのTシャツを着るパパを想像すると、アカネははずかしくなりました。
「アカネはそう言うけどね、パパったら、意外とにあうのよ」
「ホントぉ?」
わかってないわね、とママは肩をすくめてみせました。
「じゃあアカネ、つぎはデパートにいきましょう」
ママがアカネの手をにぎりました。ベンチを立ったアカネは、なかば引っ張られる勢いでママについてデパートへと急いだのです。
「ランランララーン」
デパートにまっしぐらのママは、とってもウキウキしているようでした。アカネはさっそくその理由の一つを発見したのです。
アカネの手を引くママの髪型が変わっているのでした。いつもはうしろで一つに束ねている髪が、今日はふわりとした巻き髪になってるのです。
「ママ、パーマあてたの?」
「え、あ……」アカネにつっこまれて、ママは一つ咳きこんだのです。「やっぱり、わかっちゃった? なんとなく、あのころとおなじ髪型にしてみたくなって」
顔を赤くしたママがおもしろくなって、アカネはしつこくたずねました。
「あのころって?」
「あ、いや……だから、あんまり老けたかっこうで、写真にうつりたくなかっただけよ」
「ふうん。ママ、ホントにそれだけ?」
「もうっ、それだけよ」
「ふーん」
アカネが名探偵のようにあごをさすって見あげると、ママはとっさに目をそらしてしまいました。
「ほらアカネ、さっさといくわよ」
肩にかかった髪を手ではらいのけると、ママはアカネの手をにぎったままデパートの自動ドアをくぐっていったのです。
アカネには、ママが髪型を変えたほんとうの理由がわかっていたのです。アカネはいつかママの部屋で見つけた写真を思いだしました。それはパパとママが二人でうつったもので、新婚旅行のときの写真だったのです。
(やっぱり、あれは地球のときのものだったんだぁ)
いま思えば、その写真は二人がはじめて地球をおとずれたときのものなのだと、アカネは気がついたのです。やっぱり、その写真にうつるパパはピンクのTシャツを着ていて、ママはふわりとしたパーマをあてていたからでした。
デパートの婦人服売り場は二階にありました。
「あー、どっちがいい? アカネ、どう思う?」
たくさんのお店をのぞいたあげく、けっきょくママは、最初に入ったお店のワンピースが気になるようでした。二人ではじめのお店にもどると、すぐにママは店員さんに誘われて、フリルのついたワンピースを試着したのです。
「こっちかなあ、どう思う、アカネ?」
と、いちおうアカネに相談はするものの、もうママの答えは決まっているようでした。
ママは迷っている黒のブラウスはときおり触るけど、黄色いワンピースのほうはずっと
胸にかえていたからです。
「んー、ヒマワリのほうが、ママにはあってたかなぁ」
「あ、やっぱり? ママも、そうかなぁって」
「あら、お嬢さんも奥様も、すっごくお目がたかいですわぁ、うふふ」
けれどやっぱり店員のお姉さんも、さすがにそれを見抜いていました。
黄色いワンピースを着たママに、「あらぁ、すっごくおにあいですうぅ」と笑顔をふりまいていたからです。
「ですよねぇ」
「うふふふふ」
(もう、お腹がこそばゆいよぉ)
大人が笑いあうすがたに、アカネはなんだかはずかしくなってしまいました。
(あー、はやく終わんないかなぁ。あたし、お腹がすいて倒れそうなんだけどぉ)
グウと、お腹が鳴りました。だからアカネは、「ママぁ、それが一番カワイイわよぉ。はやくぅ、かえろうぅ、うふふ」と、アカネも店員のお姉さんの口調をマネたのです。
「ママぁ、うふふふふ」
「じゃあ、これに決めた!」
(はあ……やっと終わった)
プロのモノマネは、ママの背中を静かに、そして強く押してくれたようでした。
「たっだいまあ!」
パパも、今日はいつもと様子がちがっていたのです。
旅行の前日のせいか、会社からの帰りがやけに早かったのでした。
「パパ、残業は?」
出むかえに行くと、玄関さきでママとアカネの声がそろいました。
「ん、うん」
そう答えたパパは、靴も脱がずにその場でもじもじとしたのです。
「いや、そのぉ、じつはさ――」
パパはいつも、たまには早く帰れよ、と部下に言ってたものだから、たまには部長も早く帰ってください、ボクたちがしっかりと店番をしておきますから、とかなんとか、パパも和菓子屋の職人さんたちに、今日は背中を押されてこうなったんだと、アカネとママに照れくさそうに説明したのでした。
「もう、パパもママも二人そろってぇ」
アカネは旅行に浮かれる二人に、ついため息をつきました。
「ママ、なんだかあのころを、思いだすなぁ」
「もうパパったら。ほら、アカネの前よ。でも、そうねぇ、パパ」
そのとき、パパとママが玄関さきで見つめあったのです。
(うわぁ、は、はじまったぁ!)
アカネには、とても耐えられそうにない時間が流れはじめたのでした。
猛烈にお腹もこそばゆくなってきました。
だからアカネは、
「ま、ママっ、ご飯できたらっ、よんでっ」
と自分の顔が熱くなるまえに、いそいで自分の部屋へと戻っていったのです。
ピーンポーン!
「アカネっ、ケンタくんよっ」
その夜、家族旅行の準備を終えると、とつぜんケンタが家にやってきたのです。
(え、ケンタ? なんだろ、こんなおそくに)
アカネはリュックサックのチャックをしめると、部屋の電気をつけたままにして玄関へと降りていきました。
ガチャ、と玄関ドアを開けると、外には短パンのポケットに手をつっこんだケンタが立っていたのです。
「どうしたのよ、ケンタ?」
「おっす、アカネ! 明日は、ようやく地球に行く日だろ?」
「そ、そうだけど」
「これ、持っていけよ」
ケンタはポケットから一通の手紙を取し、アカネにさしだしたのです。
「へ、なに?」
「いいからさ」
ポカンとするアカネに、ケンタはニヤリとして人さし指を立てました。
「いいか、アカネ。その手紙は、太陽系についたら開けて読むんだぞ。それまでは、ヒミツだからな」
「この手紙? 太陽系までの、ヒミツ?」
おもむろに首をかしげたアカネに、ケンタは手紙を押しつけてきました。
「だから、いまはヒミツだって! ほら、さっさとしまえよ」
「まさかケンタ、カレンちゃんにこの手紙を、渡してくれってこと?」
(なんだ、てっきりあたしにかと思ったのに)
「ケンタってば、あたしを使いっ走りにする気なんでしょう?」
疑いの目をむけたアカネに、ケンタは首をふりました。
「だからアカネ、まだヒミツだって言ってるだろ」
「もう。こっちはカレンちゃんに会えるかどうか、まだわからないんだからぁ。ちゃんと渡せるかどうかもわかんないのに、約束なんてできないからね」
口をとがらせるアカネに、ケンタはくるりと背をむけました。
「バカだな、アカネは。その手紙は、おまえに、だよ。だからさっきも言ったけど、太陽系につくまでのヒミツだ! 地球が見えたら手紙を読んでくれ」
(え? それって、どういう意味よ)
するとケンタは、いつものように頭のうしろで手を組むと、アカネの家から歩きだしていったのです。
「あっ、ケンタ! ちょっと待って? それだけっ?」
「それだけだよ。じゃあなー、アカネ」
アカネはあわててサンダルをはくと、いそいで外に飛びだしました。
けれどもう、ケンタのすがたは見えなくなってしまっていたのです。
「もうっ。ケンタはいつも勝手なんだから」
アカネは道路にたたずみながら、ケンタの手紙を見つめました。
白い封筒の、封のところには青い惑星のシールが貼ってありました。
「これって、地球ってことなのかな?」
アカネはふと手紙の封に指をもっていきました。
(読むなって言われると、読みたくなるんだよねぇ……)
けれどすぐにケンタとの約束を思いだし、頭をふってとどまったのでした。
「太陽系につくまでの、ヒミツかぁ。あっー、すっごく気になるんだけどぉ」
そのときふと、道路から夜空を見あげたアカネは、思わずハッと息をのんだのです。
「うわっ、宇宙って、すごいなぁ」
雲ひとつない濃紺の空には、キラキラと輝く無数の星が浮かんでいたのでした。
(ホントに……ホントにあたしは明日、あそこに行くんだぁ)
地球。
太陽系。
宇宙旅行――。
そう考えると、だんだんとアカネの胸はドキドキしてきたのです。
(あーっ、はやく明日になってくれないかなっ)
「おっと……」
アカネはふと、空から道路に目をやりました。
キョロキョロとあたりを見まわしてから、アカネはホッとしたのです。
「あぶないあぶないっ。誰かに見られたら、ゼッタイ変な子だと思われちゃうよぉ」
そうしてアカネは、ケンタからの手紙をズボンのポケットにしまいこみました。
(これじゃあ、あたしもパパとママと一緒だぁ)
アカネはもう一度、あたりを見まわしました。
「うん、誰も見てない――よし」
アカネは、大きく息を吸ってから、ゆっくりと息を吐きだしたのです。
そして何食わぬ顔をつくると、静かに家へともどっていったのでした。
ガチャン――。
夏休みに入ってから、二週間がたちました。
アカネはケンタからあずかった麦わら帽子をかぶって、駅前のベンチに腰をかけていました。今日はママとデパートに行く約束をした日です。アカネはお昼の二時に、ママと駅前のベンチで待ち合わせをしていたのでした。
ミーンミンミン。
「ママぁ、はやくぅ……あー、こんなに暑いなら、はやく地球に行きたいぃ」
明日はようやく、待ちに待った宇宙旅行。家族で地球に旅立つ大切な日です。
ママは旅行のためにと、デパートで洋服を買うことにしていたのです。
アカネは開放プールの帰りでした。水着をいれた黄色いキンチャク袋を胸にかかえたアカネは、なんども駅前の時計を見つめては、ぐったりとした顔をしています。
「アカネ、ごめんごめん!」
そのとき、紙袋をかかえたママが、駅前のスーパーから出てくるのが見えました。
「もー、ママったらぁ」
笑顔で走ってくるママに、アカネはプッと頬をふくらませました。
「おそいよぉ」
「え、ウソ?」ベンチにやってくると、ママが腕時計に目をやりました。「あら、ホントだわ。もう、二時十分ね。あ、そうだ! パパのシャツを買ってたのよね。ちょうどバーゲンでさ、迷っちゃったの、ごめんね。でもアカネ、あそこのスーパーね、じつはお野菜だけじゃなくって、男性のお洋服も、すっごく安かったの」
「パパの新しい服、もう買ったんだ。もったいないなあ」
「そうだけどさ、パパの楽しそうな顔を見ると、ついね」
旅行が決まってから、パパは毎晩のようにご機嫌だったのです。
「ふうん」アカネは紙袋のなかをのぞきこみました。「げっ、ピンクぅ?」
ママは、パパにピンク色のTシャツを選んだようでした。
(ホントにこれを着て、地球に行く気なの……)
ピンクのTシャツを着るパパを想像すると、アカネははずかしくなりました。
「アカネはそう言うけどね、パパったら、意外とにあうのよ」
「ホントぉ?」
わかってないわね、とママは肩をすくめてみせました。
「じゃあアカネ、つぎはデパートにいきましょう」
ママがアカネの手をにぎりました。ベンチを立ったアカネは、なかば引っ張られる勢いでママについてデパートへと急いだのです。
「ランランララーン」
デパートにまっしぐらのママは、とってもウキウキしているようでした。アカネはさっそくその理由の一つを発見したのです。
アカネの手を引くママの髪型が変わっているのでした。いつもはうしろで一つに束ねている髪が、今日はふわりとした巻き髪になってるのです。
「ママ、パーマあてたの?」
「え、あ……」アカネにつっこまれて、ママは一つ咳きこんだのです。「やっぱり、わかっちゃった? なんとなく、あのころとおなじ髪型にしてみたくなって」
顔を赤くしたママがおもしろくなって、アカネはしつこくたずねました。
「あのころって?」
「あ、いや……だから、あんまり老けたかっこうで、写真にうつりたくなかっただけよ」
「ふうん。ママ、ホントにそれだけ?」
「もうっ、それだけよ」
「ふーん」
アカネが名探偵のようにあごをさすって見あげると、ママはとっさに目をそらしてしまいました。
「ほらアカネ、さっさといくわよ」
肩にかかった髪を手ではらいのけると、ママはアカネの手をにぎったままデパートの自動ドアをくぐっていったのです。
アカネには、ママが髪型を変えたほんとうの理由がわかっていたのです。アカネはいつかママの部屋で見つけた写真を思いだしました。それはパパとママが二人でうつったもので、新婚旅行のときの写真だったのです。
(やっぱり、あれは地球のときのものだったんだぁ)
いま思えば、その写真は二人がはじめて地球をおとずれたときのものなのだと、アカネは気がついたのです。やっぱり、その写真にうつるパパはピンクのTシャツを着ていて、ママはふわりとしたパーマをあてていたからでした。
デパートの婦人服売り場は二階にありました。
「あー、どっちがいい? アカネ、どう思う?」
たくさんのお店をのぞいたあげく、けっきょくママは、最初に入ったお店のワンピースが気になるようでした。二人ではじめのお店にもどると、すぐにママは店員さんに誘われて、フリルのついたワンピースを試着したのです。
「こっちかなあ、どう思う、アカネ?」
と、いちおうアカネに相談はするものの、もうママの答えは決まっているようでした。
ママは迷っている黒のブラウスはときおり触るけど、黄色いワンピースのほうはずっと
胸にかえていたからです。
「んー、ヒマワリのほうが、ママにはあってたかなぁ」
「あ、やっぱり? ママも、そうかなぁって」
「あら、お嬢さんも奥様も、すっごくお目がたかいですわぁ、うふふ」
けれどやっぱり店員のお姉さんも、さすがにそれを見抜いていました。
黄色いワンピースを着たママに、「あらぁ、すっごくおにあいですうぅ」と笑顔をふりまいていたからです。
「ですよねぇ」
「うふふふふ」
(もう、お腹がこそばゆいよぉ)
大人が笑いあうすがたに、アカネはなんだかはずかしくなってしまいました。
(あー、はやく終わんないかなぁ。あたし、お腹がすいて倒れそうなんだけどぉ)
グウと、お腹が鳴りました。だからアカネは、「ママぁ、それが一番カワイイわよぉ。はやくぅ、かえろうぅ、うふふ」と、アカネも店員のお姉さんの口調をマネたのです。
「ママぁ、うふふふふ」
「じゃあ、これに決めた!」
(はあ……やっと終わった)
プロのモノマネは、ママの背中を静かに、そして強く押してくれたようでした。
「たっだいまあ!」
パパも、今日はいつもと様子がちがっていたのです。
旅行の前日のせいか、会社からの帰りがやけに早かったのでした。
「パパ、残業は?」
出むかえに行くと、玄関さきでママとアカネの声がそろいました。
「ん、うん」
そう答えたパパは、靴も脱がずにその場でもじもじとしたのです。
「いや、そのぉ、じつはさ――」
パパはいつも、たまには早く帰れよ、と部下に言ってたものだから、たまには部長も早く帰ってください、ボクたちがしっかりと店番をしておきますから、とかなんとか、パパも和菓子屋の職人さんたちに、今日は背中を押されてこうなったんだと、アカネとママに照れくさそうに説明したのでした。
「もう、パパもママも二人そろってぇ」
アカネは旅行に浮かれる二人に、ついため息をつきました。
「ママ、なんだかあのころを、思いだすなぁ」
「もうパパったら。ほら、アカネの前よ。でも、そうねぇ、パパ」
そのとき、パパとママが玄関さきで見つめあったのです。
(うわぁ、は、はじまったぁ!)
アカネには、とても耐えられそうにない時間が流れはじめたのでした。
猛烈にお腹もこそばゆくなってきました。
だからアカネは、
「ま、ママっ、ご飯できたらっ、よんでっ」
と自分の顔が熱くなるまえに、いそいで自分の部屋へと戻っていったのです。
ピーンポーン!
「アカネっ、ケンタくんよっ」
その夜、家族旅行の準備を終えると、とつぜんケンタが家にやってきたのです。
(え、ケンタ? なんだろ、こんなおそくに)
アカネはリュックサックのチャックをしめると、部屋の電気をつけたままにして玄関へと降りていきました。
ガチャ、と玄関ドアを開けると、外には短パンのポケットに手をつっこんだケンタが立っていたのです。
「どうしたのよ、ケンタ?」
「おっす、アカネ! 明日は、ようやく地球に行く日だろ?」
「そ、そうだけど」
「これ、持っていけよ」
ケンタはポケットから一通の手紙を取し、アカネにさしだしたのです。
「へ、なに?」
「いいからさ」
ポカンとするアカネに、ケンタはニヤリとして人さし指を立てました。
「いいか、アカネ。その手紙は、太陽系についたら開けて読むんだぞ。それまでは、ヒミツだからな」
「この手紙? 太陽系までの、ヒミツ?」
おもむろに首をかしげたアカネに、ケンタは手紙を押しつけてきました。
「だから、いまはヒミツだって! ほら、さっさとしまえよ」
「まさかケンタ、カレンちゃんにこの手紙を、渡してくれってこと?」
(なんだ、てっきりあたしにかと思ったのに)
「ケンタってば、あたしを使いっ走りにする気なんでしょう?」
疑いの目をむけたアカネに、ケンタは首をふりました。
「だからアカネ、まだヒミツだって言ってるだろ」
「もう。こっちはカレンちゃんに会えるかどうか、まだわからないんだからぁ。ちゃんと渡せるかどうかもわかんないのに、約束なんてできないからね」
口をとがらせるアカネに、ケンタはくるりと背をむけました。
「バカだな、アカネは。その手紙は、おまえに、だよ。だからさっきも言ったけど、太陽系につくまでのヒミツだ! 地球が見えたら手紙を読んでくれ」
(え? それって、どういう意味よ)
するとケンタは、いつものように頭のうしろで手を組むと、アカネの家から歩きだしていったのです。
「あっ、ケンタ! ちょっと待って? それだけっ?」
「それだけだよ。じゃあなー、アカネ」
アカネはあわててサンダルをはくと、いそいで外に飛びだしました。
けれどもう、ケンタのすがたは見えなくなってしまっていたのです。
「もうっ。ケンタはいつも勝手なんだから」
アカネは道路にたたずみながら、ケンタの手紙を見つめました。
白い封筒の、封のところには青い惑星のシールが貼ってありました。
「これって、地球ってことなのかな?」
アカネはふと手紙の封に指をもっていきました。
(読むなって言われると、読みたくなるんだよねぇ……)
けれどすぐにケンタとの約束を思いだし、頭をふってとどまったのでした。
「太陽系につくまでの、ヒミツかぁ。あっー、すっごく気になるんだけどぉ」
そのときふと、道路から夜空を見あげたアカネは、思わずハッと息をのんだのです。
「うわっ、宇宙って、すごいなぁ」
雲ひとつない濃紺の空には、キラキラと輝く無数の星が浮かんでいたのでした。
(ホントに……ホントにあたしは明日、あそこに行くんだぁ)
地球。
太陽系。
宇宙旅行――。
そう考えると、だんだんとアカネの胸はドキドキしてきたのです。
(あーっ、はやく明日になってくれないかなっ)
「おっと……」
アカネはふと、空から道路に目をやりました。
キョロキョロとあたりを見まわしてから、アカネはホッとしたのです。
「あぶないあぶないっ。誰かに見られたら、ゼッタイ変な子だと思われちゃうよぉ」
そうしてアカネは、ケンタからの手紙をズボンのポケットにしまいこみました。
(これじゃあ、あたしもパパとママと一緒だぁ)
アカネはもう一度、あたりを見まわしました。
「うん、誰も見てない――よし」
アカネは、大きく息を吸ってから、ゆっくりと息を吐きだしたのです。
そして何食わぬ顔をつくると、静かに家へともどっていったのでした。
ガチャン――。
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