夢なしアカネ、地球へ行く!

泉蒼

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第六章

終業式の日

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キーンコーンカーンコーン。
「みんな、夏休の宿題は忘れずにね!」
 校内にチャイムが鳴ると、レイコ先生がクラスのみんなに言いました。
ようやく、待ちに待った夏休みが、アカネにおとずれたのです。
(あ、そうだ!)
 今日こそはいっしょに帰ろうと、アカネは首をまわして、教室のうしろの席にいるケンタに視線をおくったのでした。
カレンちゃんが地球にいってから、もう一週間がたちました。そのあいだ、アカネはまだケンタと帰れずにいたのです。どういうわけか、ケンタは学校が終わるとすぐに、アカネをおいてさきに走って帰ってしまうのでした。
(ケンタ……いた!)
でも今日のケンタは、まだ自分の席に座っていたのです。
しかも、なにやら真剣な顔をして机とにらめっこをしていました。
(今日はゼッタイに逃がさないんだから)
アカネがゆっくりと近づいていくと、
「できた!」
とケンタがレイコ先生を呼びとめたのです。
「まあ、すごい」
なんとケンタは、さっそく夏休みの宿題を一つ終えたようでした。『将来の夢』についての作文を、さっさと仕あげてしまったのです。それにはレイコ先生も、さすがに驚きを隠せないようでした。
「石川くん、もうできちゃったのね?」
「まあね。おれの夢は、大発明家だから!」
ケンタの夢を聞いて、クラスのみんながいっせいにふりかえりました。
カバンに宿題のプリントをつめる手をとめて、みんながケンタを見つめています。
「石川くんの夢は、もうちゃんと決まってたんだ」
ケンタの作文用紙は、鉛筆の字でびっしりとうまっていたのでした。
「うーん、うんうん。作文、よく書けてるわ。石川くん、もう発明家のアイデアもたくさんもってあるのね。すごい、先生も楽しみだわ!」
レイコ先生が読むケンタの作文用紙は、ほとんど真っ黒けの用紙に見えました。
そんな熱心な作文に、クラスのみんなも興味の眼差しをむけていたのです。
「わあー、未来になると、ケンタの発明で家が浮かぶんだって!」
「すごーい。ケンタくんの発明したペット翻訳機のおかげで、犬と猫もしゃべられるようになるんだって!」
気がつくと、クラスのみんなは帰り支度をほうりだしていました。
ケンタを取りかこんで、作文に書かれた数々の発明のアイデアを読んでいるのです。
(もう、ケンタってば……。去年はたしか、宇宙船のパイロットになるって、たしか授業参観で言ってなかったっけ?)
ころころと変わるケンタの夢に、アカネは思わずため息をつきました。
でもそれは、ケンタの夢が変わったことにではなく、ころころと変わるほど、ケンタがたくさんの夢をもっていることに、アカネがうらやましさを感じたからでした。
(でも、夢の力ってすごいな。みんなの目が、キラキラしてる……あたしには、夢がない)
 にぎやかなクラスのみんなをよそに、アカネの心のなかはだんだんと暗い気分におおわれていきました。アカネには、まだ自分のしたいことなんて、なにも見つかっていなかったからです。
(夢……か。いったいどうすれば、ケンタみたいに自分の夢が見つかるんだろう?)

 夏休の前日に、アカネはようやくケンタと学校から帰ることができました。
「ねえケンタ、なんでいっつもさきに帰ってたのよ?」
 学校が終わるとすぐ、どこかに消えてしまうケンタが気になっていたのです。
「ねえケンタったら、学校帰りに、どこでなにをしてたの?」
「へへっ」
 しつこく質問を続けるアカネに、ケンタは頭のうしろに手を組んで、ただただ笑って答えるだけでした。
「もうっ、ケンタってば、いったいなにをかくしてるのよ!」
「まだ、ヒミツな」
「なによそれ」アカネは口をとがらせました。「べつに気にはなってないけど、教えてくれてもいいんじゃない? カレンちゃんが転校してから、ケンタはつめたいよ」
 ケンタは通学路を歩きながら、クルリとアカネをふりかえりました。
「アカネにつめたい? そうかな?」ケンタはそのまま器用にうしろ歩きで進みます。「あ、そうだ! おい聞いたぞ、アカネって、夏休みにカレンちゃんに会いに、地球の銀河遊園地に行くんだろう?」
「え、ケンタしってたの?」
「みーんなしってるぜ。レイコ先生が、上手くいくといいねってさ」
「もう、そうなんだぁ。あ、うしろ! ケンタっ、電柱!」
「え、あ、おっ……とっと、へへ」
 ケンタは電柱にブツかるすんでのところで、華麗に身をひるがえしてみせました。
「もう、気をつけてよ。たしかに、家族で宇宙旅行に行けるようになったって、レイコ先生には言ったけどさ……あーあ、つまんないな。いまからケンタを、びっくりさせようと思ってたのに」
 前を歩くケンタは、また頭のうしろで手を組みました。
 そしてカレンちゃんとの思い出を、楽しそうに話したのです。
「カレンちゃん、地球に行ってがんばってるかなあ。オレたちのあこがれだもんなあ」
アカネとケンタとカレンちゃんは、小学校に入学してすぐに友達になりました。
学校のだれもが認める仲よし三人組で、不思議とアカネたちの家も近所にあったのです。だからカレンちゃんが転校するまでの、四年と少しのあいだは、よくこの三人でケヤキ
の道を通って帰っていたのでした。
「アカネ、ちゃんとカレンちゃんにあやまれよ」
そのとき、すこし前を進むケンタがひとりごとのように言いました。
「地球で、カレンちゃんにあやまるんだぞ」
そして今度は、ケンタが空にむかって言いました。
「きっと、気にしてると思うからな」
 ケンタの言葉に、ついにアカネは立ちどまってしまいました。
 あの日のことを思いだすと、いまでもアカネの胸はズキンと痛くなるのです。
「あたしも、そう思う。カレンちゃん、ゼッタイに気にしてるって」
「あー、そうじゃなくって!」
 空を見あげていたケンタは、立ちどまってアカネをふりかえりました。
「気にしてるのは、カレンちゃんじゃなくって、アカネのほうだって!」
「え、あたし?」
「そうだよ。いちばん気にしてるのは、アカネのほうだ。ちゃんと、顔にかいてあるぞ」
「……あたしか、そっかぁ」
ケンタの言葉に、アカネは思わず鼻をすすりました。
なんだか涙がでそうになって、「あ、砂が入った」とアカネはケンタにバレないように、しきりに手でまぶたをこすってみせたのです。
「ほら、アカネ。これは、ちゃんと帰ってきたら返してもらうからな」
するとケンタは、首にかけていた麦わら帽子を取ってアカネにさしだしたのです。
「これをもって、ちゃんと地球でカレンちゃんにあやまってこいよな」
 そう告げると、ケンタは強引にアカネに麦わら帽子を手渡したのです。
 麦わら帽子を受けとると、アカネは小さくうなずきました。
「うん……わかった」
「よし。じゃあアカネ、夏休はうんと楽しめよ!」
 そうしてケンタは、自分の家のほうへと一人で歩きだしいきました。いつものように、頭のうしろで手を組んで、ケンタは鼻歌をかなでながら家へと帰っていったのです。
 しばらくアカネは、ケンタが歩くすがたを見つめていました。
(ケンタのやつ、ちゃんとあたしのこと、考えてくれたんだ)
 アカネは麦わら帽子を、たいせつに胸にだきました。
 いつにもまして、ケンタの存在が自分にとって、とても大きく思えたのでした。
「ケンタ、ありがとう。地球に行ったら、ちゃんとカレンちゃんにあやまるから」
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