夢なしアカネ、地球へ行く!

泉蒼

文字の大きさ
上 下
3 / 17
第三章

火の玉がでた!

しおりを挟む
ケンタに追いついたアカネは、二人そろって早足で通学路を進みました。
やがて耳をつんざくようなセミの声がして、アカネはふと立ちどまったのです。
通学路の左手に、ケヤキの木が立ち並ぶ森が見えたのでした。
(ここだけは、いつ見ても真っ暗だなぁ……) 外は陽射しが降りそそぐというのに、ケヤキの森は真っ暗でした。
 セミはいるけど、人なんかだれもいなさそうな森。
 そんな暗黒の世界に、アカネは背筋がブルブルと震えました。
(いつも通る道だけど、ここだけは苦手なんだよなぁ……さっさと、通りすぎようっと)
 アカネはうつむきながら、ふたたび歩きだしました。
 ドンッ。そのとき、アカネはケンタの背中に頭をぶっつけてしまいました。
「痛っ! ちょっと、きゅうに止まんないでよ」
「シッ! 森の奥から、声がしないか?」
 おでこを押さえるアカネに、ケンタが人さし指を立てました。
「ほら、ヒソヒソって、話し声がする」
「えっ……ちょっとぉなにぃ」
 さすがにケヤキの森をのぞく勇気はありませんでした。
 もちろん、森からの声など聞きたくもありません。
「……な、言っただろ……ヒソヒソ……だから、ヒソヒソ……ってわけだよ」
けれど、アカネはたしかに耳にしてしまったのです。
「ひ、ひぃ……ほ、ホントに声がするぅ」
ちょうどセミの声がとぎれたときに、森から男の子の声が聞こえたのでした。
晴れた朝とはいえ、暗い森から人の声。ちょっと想像しただけで、アカネの心臓がバクバクと音を立てはじめました。
「ケンタぁ、そ、そんなのほっといて、はやく学校ぉ」
 ところがケンタは、興味津々といった様子でまじまじと森を観察しているのです。
片足はもうすでに、森のなかに踏みいれているではありませんか。
「ダメだってぇ……そういうの、朝でも出るんだってぇ」
「シーッ、オバケなんていねえよっ」
 ふりむいたケンタは、手首をたらして見せました。
「きゃっ、ちょっともう、ハッキリ言わないでよぉ」
「あ、いた! アカネ、ほらあそこだ。森の奥に大きなケヤキが見えるだろ? 木の幹のところに、ランドセルの男子が二人いるだろ」
「え、ら、ランドセル?」
 アカネは生きている人だとわかって、肩をなでおろしたのでした。
「これはヤバいな。オモシロいニオイがプンプンするぜ!」
 ケンタはアカネの肩をたたくと、「ほら、いくぞ」とさきに森のなかに入っていってしまったのでした。
「ね、ねえっ、遅刻するよっ」
「そんなの、なんとかなるって!」
 ザッザッザッ。
 通学路からケンタの背中を目で追うと、アカネはどんどん落ちつかなくなりました。
「ええ、どうしようぉ……」
「さっさとついてこいっ」
 ケンタの声に、アカネはため息をつきました。
 いまついていかないと、もうケンタを見失ってしまいそうです。
「遅刻なんて、したことないのにぃ」
 ところが、ワクワクと森を進むケンタを見ていると、アカネは気がかわったのでした。
(昨日は仮病をつかって休んだくせに、いまは遅刻するかどうかのことで悩んでる)
「学校は行くんだし、仮病よりましかぁ」
 アカネは一人うなずくと、覚悟をきめて森のなかに足を踏みいれたのです。
「神さま、ごめんなさい。仮病も遅刻も、これでヤメにしますから」
おいてきぼりだけはイヤだったアカネは、走ってケンタを追いかけました。
 十メートルほど森を進むと、
「シッ! アカネ、いまからオモシロい話が聞けそうだぞ」
 とランドセルの男子を見つけたケンタに止められました。
ケンタと木の幹に隠れると、アカネは男子のヒソヒソ話にそっと耳をすませたのでした。
「ヒソヒソ……だから、ここに、火の玉がでるんだって!」
「しかも、青いんだろ? ホントだったら、ヤバいよなっ」
 男子たちの話を聞いて、アカネは目が飛びでそうになりました。
「ひいっ」
 なんと、ランドセルの男子たちは火の玉の話しをしていたのです。
 暗い森にうかぶ青い火の玉が、アカネの頭をよぎっていきました。
「ひぃぃ、お、オバケぇ!」
「アカネ、しずかにしろって!」
 アカネの悲鳴がもれるとどうじに、「うわあっ」と森の奥からも男子たちの悲鳴が聞こえてきました。
「あ、ちょっと、なあ、待ってって!」
 アカネはすぐに手で口をふさぎましたが、ケンタと身をひそめる木のわきを、男子たちがランドセルをゆらしながら一気に走り抜けていったのでした。
「ったくぅ……。あーあ、びっくりして逃げちゃったじゃねえか」
「ご、ごめん。でもケンタ、いまの聞いた? あ、青い火の玉よ」
「だからつづきが聞きたかったんだって。せっかくオモシロくなるとこだったのによ、アカネのせいだからなっ」
「だ、だってぇ」
けっきょく、火の玉の正体はわかりませんでした。
ケンタは残念そうな顔をすると、アカネの肩をたたいてすっくと立ち上がりました。
「あの男子たち、たしか森の奥に指をさしてたな。だったらこのさきに、謎を解決するナニかがあるのかもしれない。アカネ、悪いと思ってるならついてこいっ」
「ちょ、そんなぁ」
 一瞬アカネは迷いましたが、ここはケンタについていくことにしました。
 こんなところに一人で置いていかれるほうが、よっぽどイヤだったのです。
 ザッザッザッ。
 ケンタとアカネは、さらに森の奥へと進んでいきました。
落ち葉や小枝を踏むたびに、アカネは小さな悲鳴をもらしました。
「アカネ、見てみろ! ほら、ようやく明るくなってきたぞ」
 前を見ると、ケヤキの木々のあいだから光が射しこんできました。
(もしかして、やっと出口についたのかな?)
「ふう――ついたぞ」
思った通り、ケンタが立ちどまるのがわかりました。
「あ、ここは? ……ちぇ、なんだ、そういうことかよ」
 ところがケンタは、森の出口をながめると、とたんに肩をすくめたのでした。
まぶしさに目を細めていたアカネも、ゆっくりと目をあけてながめたのです。
「きゃあっ! お、お墓じゃないっ」
「うるせえな、アカネは。こんなの、ただの墓地だろ」
 なんとケヤキの森の奥には、見たこともない広大な墓地が広がっていたのでした。
 およそ百個はくだらない石造りのお墓が、伸び放題の雑草のあいだから、ニョキニョキと顔をだしているのです。
「火の玉、火の玉、うーん、見たことねえなぁ」
 ブルブルと肩を震わせるアカネとちがって、ケンタはまったく驚いてはいませんでした。まるで自分の部屋だといわんばかりに、近くの石の山に腰を下ろしているのです。
「ケンタぁ、ここ、しってるのぉ?」
「うーん、まあな」
「ええぇ」
「なんだ、アカネはこわいのか?」
「決まってるじゃないぃ……だって、お墓だよぉ」
「アッハハ! だいじょうぶだって、ここにはオバケも火の玉もいねえよ」
「きゃあっ」
 ケンタはまたアカネに、手首をたらしてみせたのでした。
「ここはさ、小学校の裏門と通じてるのさ」
「え、ウソ? 学校につながってるの……」
 もう五年生だというのに、アカネはまったく気がついていませんでした。
 するとケンタは、またポケットから腕時計をだしたのです。
「あと一分ではじまるぞ。いまからダッシュすれば、遅刻しないですむかも!」
「えっ。じゃ、じゃあ、はやく、はやくっ」
「遅刻するつもりが、けっきょく早道だったってわけだ、アッハハハ」
「はやくぅ、はやくぅ」
 二人はいそいで墓地を横ぎって、学校の裏門へと走っていったのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

少女が過去を取り戻すまで

tiroro
青春
小学生になり、何気ない日常を過ごしていた少女。 玲美はある日、運命に導かれるように、神社で一人佇む寂しげな少女・恵利佳と偶然出会った。 初めて会ったはずの恵利佳に、玲美は強く惹かれる不思議な感覚に襲われる。 恵利佳を取り巻くいじめ、孤独、悲惨な過去、そして未来に迫る悲劇を打ち破るため、玲美は何度も挫折しかけながら仲間達と共に立ち向かう。 『生まれ変わったら、また君と友達になりたい』 玲美が知らずに追い求めていた前世の想いは、やがて、二人の運命を大きく変えていく──── ※この小説は、なろうで完結済みの小説のリメイクです ※リメイクに伴って追加した話がいくつかあります  内容を一部変更しています ※物語に登場する学校名、周辺の地域名、店舗名、人名はフィクションです ※一部、事実を基にしたフィクションが入っています ※タグは、完結までの間に話数に応じて一部増えます ※イラストは「画像生成AI」を使っています

あいしてるから

会川 明
児童書・童話
あいってなに?いうことをきくこと?だれかのためにぎせいなること?

ラブラブ・コロン

れなれな
児童書・童話
愛のようせいコロンは、うしなわれた愛をもとめてたびをします。

チュヴィン

もり ひろし
児童書・童話
スズメのチュヴィンと和寿のきずなの物語

処理中です...