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第一章
お別れの手紙
しおりを挟むアカネちゃんへ
おなかの調子はどうですか?
レイコ先生がすごく心配してました。
わたしも、すっごく心配しています。
ケンタくんも、今日は元気がなかったよ……。
四年間、いつも仲よくしてくれてありがとう。
わたしは遠い星にいくけれど、アカネちゃんの
ことはずっと忘れません。
いつかアカネちゃんが、地球に遊びにきてくれ
る日を、楽しみに待っています!
そのときは、「星のオーケストラ」の演奏をきか
せてあげるね☆
バイバイ!
五年二組 上野カレン
アカネは手紙を読みおえると、小さなため息をつきました。
そしてぎゅっと目をとじて、手紙をスカートのポケットへとおしこんだのです。
このままだと、泣いてしまうと思ったからです。
(もう、学校なんていけないよ……)
チュンチュンと、外から小鳥のさえずりが聞こえてきました。
強い陽射しがさしこむ和室に、アカネはもう三十分も三角座りをしています。
ジャー、キュッ。
台所で洗い物をおえたママが、アカネに聞こえるようにつぶやきました。
「ケンタくん、あがっていけばよかったのに」
そして脱衣所へと、ママがかけ足でむかうすがたが見えたのです。
(ゼッタイに、明日も学校は休むから)
ママは乾燥機の中をのぞいたあと、まだ動こうとしないアカネを見つめました。
「明日はちゃんと学校で、ケンタくんにお礼を言わなきゃダメよ!」
「だれにも会いたくない」
「まだそんなこと言ってる。明日も学校を休むだなんて、ゼッタイにダメだからね。その手紙、わざわざケンタくんが、昨日の夕方にとどけてくれたんだから」
「明日も、あたし学校休むから!」
「ダメ! もうなおってるでしょ」
「まだ、痛いもん!」
乾燥機がとまると、ママが肩をすくめました。
「もう……。さっき電話でね、レイコ先生がすごく心配してた。きゅうに朝になって、アカネがお腹が痛いなんて言うからよ」
「だって、ホントにお腹が痛いもん」
「ウソつき。痛いのはアカネの心でしょう」
乾燥機のドアをあけると、ママは水泳の水着をとりだしました。
水着の胸のあたりには、白いゼッケンが大きくはりつけてあります。
五年二組 桜木アカネ。
どうやらママは、なんとしても明日は学校に行かせるつもりのようでした。
(こんなときに、みんなと水泳なんてできっこない!)
アカネは小学校のプールを想像して、嫌気がさしてしまいました。
「ゼッタイに明日も、お腹も心も痛いからっ」
「はいはい。じゃあ、明日の準備をしなくっちゃね。ランランララーン!」
ママは歌を口ずさみながら、テキパキとアカネの水泳の準備をはじめました。
やっぱりママは、アカネの言葉に耳をかすつもりはないようです。
「ランラララーン、と。よっし、今日もノッてきたわ!」
リズムを味方にしたママは、水泳の準備もトイレの掃除もドンドンこなしていくのです。
(ちょっとぉ! あたし、ゼッタイに行かないよ!)
けれど、アカネはどうしていいかわかりません。まるでハイパワーの電池を搭載したロボットのようなママを、いったいどうすればとめられるのでしょうか。
カチャ、カチャ、カチャン!
ママは軽い身のこなしで、ドンドンと竿に洗濯物を干していきました。
ポイ、ポイッ、ポーイッ!
そして脱ぎすてたパジャマや顔をふいたタオルを、ママは見事なコントロールで洗濯カゴへと投げ入れたのです。ママはすごいスピードで、三回目の洗濯にとりかかりました。
「ほら、いつまでブスッとしてるつもり?」
和室を横ぎるママが、ジッとして動かないアカネにキンチャク袋を手渡しました。
「はい、水着もってくるから。そうだ、今日はちゃんと寝てなきゃダメだよ」
「ええぇ、明日も痛いのに!」
すぐに乾燥機から水着をとってきたママは、ゴーグルの紐が伸びていないかと、アカネの目のまえで二回、パチンッと、ゴムを鳴らしてチェックしてみせました。
「はい、水着とゴーグル。これで全部かしら? ほら、さっさと確認して」
「もうっ……だからぁ」
「ダメよダメ、さあ!」
ママに水着とゴーグルを押しつけられました。アカネはしぶしぶ受けとると、ブスッとほっぺたをふくらませながら、袋の中身を確認したのです。
ゼッケンのついた青の水着。洗剤のニオイがするバスタオル。桜木アカネ、と書かれた緑の水泳キャップ。そしてやっぱり少しゴムの伸びた、黒のゴーグル。
アカネはがっくりとしました。
(はぁー、完璧にそろってる……このままだと、学校にいかされちゃうよぉ)
なにか良い方法はないかと、アカネはしかめっ面で考えました。
そしてコッソリと、和室のすみにキンチャク袋を押しやったのです。
「忘れていこうとしても、ムダだからね!」
「……あちゃぁ」
アカネがどんなにコソコソしても、ママの目はちゃんと光っているのでした。
もうほかに、抵抗する方法も見つかりません。
アカネはどうしても悔しかったので、目のまえの扇風機に目をつけました。
いつもは禁止されている、強風ボタンを押してから大きく口をあけたのです。
「ヤダっ! ぜったいに、いかないからっ!」
そのせいで、アカネの口のなかに大量の風が入ってきたのです。
「ババっ! ベッダいに、ビかダいガらっ!」
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