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場面2
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「井上スズ子、赤井さん、アンドーロイコ。名前のじゅんばんだから、スズちゃんの前があたしの席ね!」
「へ、つくえの中じゃ、いやぁ?」
「いやよ、いやいやっ。だって、あたしも生徒だもん」
「だよねぇ。でも、つくえがねぇ……」
赤井さんとスズ子の席のあいだには、もうスペースはなかった。
「ないなら作って。じゃないと、泣くわよっ!」
「ひっ、ええ、へぇー」
けさのばく音を思いだすと、スズ子はあわてて前にいる赤井さんのかたをたたいた。
「ごめん。イスのうしろに、これ置かしてもらってもぉ?」
「わっ、スマホだ! わたし、はじめてなの!」
「だよねぇ。でも、先生にはシーで。じつは、家からいつ電話があるかわかんなくってぇ」
「もっ、もちろん! 休み時間に、見せてもらっていい?」
「おっけー」
けっきょく、わけのわからない理由を言って、赤井さんに協力してもらった。
「これ、つかって」
「紙コップ? ほー、天才だねぇ」
スズ子はさっそくハリ金で、理科の実験でつかった紙コップを、赤井さんのイスのせなかにとりつけた。
「これであたしも、小学四年生ね!」
「一寸法師みたいでわるいけど、がまんしてねぇ」
おかげで、紙コップがロイちゃんの席になった。
つぎの社会の時間、スズ子はつくえで、あてないでぇ、と強くねんじていた。
けれど、きん肉ムキムキの先生が、
「じゃあ、井上! この県の名前はなんだ?」
とみんなの前でスズ子をあてたのだ。
「へえぇ、ねんじてると、あたるよねぇ」
ビクビク。
「ほら、立ってこたえろ!」
「へえ、へええぇ……」
ガタッ。
「へええ……うーん。ひ、ひぃ」
クラスのみんなに見つめられ、スズ子は問題をわすれてしまった。
「そのぉ……ひぃ、ヒトデぇみたいなぁ……県ですかぁ」
「井上、ヒトデなんて県はないぞ、わっはっは!」
ぎゃははは!
スズ子のこたえに、クラスのみんなが大わらいした。
「まあ、おもしろいから正かいだ! よし、すわれ」
ガタッ。
「はー、たすかったぁ……んー? そうでもないかぁ」
ドキドキドキ。
いすにすわったスズ子は、しばらく手でむねをおさえていた。
すると、とつぜん赤井さんのイスが、パッと光りはじめたのだ。
「はー、いやな予感がするなぁ」
どうやら、ねていたロイちゃんが、目をさましたようだった。
「気にしない、気にしない、あーあー」
スズ子は集中して、プリントの北海道をながめた。
ジュワっ、じゅうう。
「へえぇ? お肉、焼いてるのぉ!」
ジュワっ、じゅうじゅう、じゅううう。
「だめぇ、バレちゃうよぉ」
その音に、クラスのなんにんかが鼻をクンクンとさせた。
黒板にむかった先生も、あたりをキョロキョロ見まわした。
「これは、ロース! おい、教室でうまそうな肉を焼くのはだれだ!」
「だよねぇ、そりゃ気づくよねぇ」
スズ子はこっそりと、紙コップのスマホを手にとった。
画面には、もうもうとケムリをあげる、焼き肉屋さんの動画がながれていた。
「わぁー。ふつかは、服のにおいがとれないねぇ」
「これは、ホルモン焼よ」
おもわず動画に見いるスズ子に、ロイちゃんが話しかけてきた。
「そう、ここはまさにおじさまの天国よ」
じゅううう、じゅううう。
「お楽しみのとこわるいけどぉ、静かになんないかなぁ」
焼き肉の音は、どんどん大きくなっていった。
授業そっちのけで、鼻をクンクンさせる先生が、
「ちがうぞ。まさかこれは、てっちゃんハチノス、レバーにミノ。ホルモンだ! 大さかではすてるもの、ほうるもん。だからホルモンだ、わっはっは!」
とびみょうなちがいまで言いあてた。
「ほらぁ、先生がおかしくなってるぅ」
「ロイちゃんも、いつか行ってみたいなあって」
「わかる、わかるよぉ。でもねぇ」
クンクンクン。
クラスのみんなは、もうプリントをほうりだして、においをかいでいる。
「やばいよぉ、バレたらぶっ飛ばされるよぉ」
なんとか両手でスマホをかくすスズ子に、かんのいい赤井さんがふりむいた。
「まさかスマホだなんて、思ってないよ。とにかくジューシーな音をなんとかしないと」
「だよねぇ」
「せすじのばすから、そのうちに」
「ごめんねぇ」
赤井さんが、体をはって先生の目からブロックしてくれた。
そのすきに、スズ子は小声でロイちゃんにお願いしたのだ。
「かわいい女子なら、ソフトクリームだよぉ。こんど、つれていってあげるから、どぉ」
「ソフトクリーム?」
パッ、パパパッ!
すると、こんどは画面がきりかわった。
「それって、この茶色のマキマキのやつ?」
「もー、きたないなぁ」
スマホには、チョコレートのソフトクリームがうつっていた。
「でも、それだよ。こんど、赤井さんもつれていこうねぇ」
「わかったわ! 約束よ、ぜったいね」
パッ、ピーー。
「はー、たすかったぁ」
約束をすませると、ようやくスマホの画面が暗くなった。
ドキドキしながら、スズ子はそっとクラスを見まわした。
「あれ? おれのジューシーが……えっと、そ、そうだ。ほっかいどーは、デッカいどー、わっはっは!」
「はー、バレてないやぁ。でもまだお昼まえかぁ」
ドキドキドキ。
「このままぶじにおわってほしいなぁ。はー、今日は、強いハートが必要だぁ」
さきを思いやると、ぐったりしてしまったスズ子は、とうとうつくえにうなだれてしまった。
「へ、つくえの中じゃ、いやぁ?」
「いやよ、いやいやっ。だって、あたしも生徒だもん」
「だよねぇ。でも、つくえがねぇ……」
赤井さんとスズ子の席のあいだには、もうスペースはなかった。
「ないなら作って。じゃないと、泣くわよっ!」
「ひっ、ええ、へぇー」
けさのばく音を思いだすと、スズ子はあわてて前にいる赤井さんのかたをたたいた。
「ごめん。イスのうしろに、これ置かしてもらってもぉ?」
「わっ、スマホだ! わたし、はじめてなの!」
「だよねぇ。でも、先生にはシーで。じつは、家からいつ電話があるかわかんなくってぇ」
「もっ、もちろん! 休み時間に、見せてもらっていい?」
「おっけー」
けっきょく、わけのわからない理由を言って、赤井さんに協力してもらった。
「これ、つかって」
「紙コップ? ほー、天才だねぇ」
スズ子はさっそくハリ金で、理科の実験でつかった紙コップを、赤井さんのイスのせなかにとりつけた。
「これであたしも、小学四年生ね!」
「一寸法師みたいでわるいけど、がまんしてねぇ」
おかげで、紙コップがロイちゃんの席になった。
つぎの社会の時間、スズ子はつくえで、あてないでぇ、と強くねんじていた。
けれど、きん肉ムキムキの先生が、
「じゃあ、井上! この県の名前はなんだ?」
とみんなの前でスズ子をあてたのだ。
「へえぇ、ねんじてると、あたるよねぇ」
ビクビク。
「ほら、立ってこたえろ!」
「へえ、へええぇ……」
ガタッ。
「へええ……うーん。ひ、ひぃ」
クラスのみんなに見つめられ、スズ子は問題をわすれてしまった。
「そのぉ……ひぃ、ヒトデぇみたいなぁ……県ですかぁ」
「井上、ヒトデなんて県はないぞ、わっはっは!」
ぎゃははは!
スズ子のこたえに、クラスのみんなが大わらいした。
「まあ、おもしろいから正かいだ! よし、すわれ」
ガタッ。
「はー、たすかったぁ……んー? そうでもないかぁ」
ドキドキドキ。
いすにすわったスズ子は、しばらく手でむねをおさえていた。
すると、とつぜん赤井さんのイスが、パッと光りはじめたのだ。
「はー、いやな予感がするなぁ」
どうやら、ねていたロイちゃんが、目をさましたようだった。
「気にしない、気にしない、あーあー」
スズ子は集中して、プリントの北海道をながめた。
ジュワっ、じゅうう。
「へえぇ? お肉、焼いてるのぉ!」
ジュワっ、じゅうじゅう、じゅううう。
「だめぇ、バレちゃうよぉ」
その音に、クラスのなんにんかが鼻をクンクンとさせた。
黒板にむかった先生も、あたりをキョロキョロ見まわした。
「これは、ロース! おい、教室でうまそうな肉を焼くのはだれだ!」
「だよねぇ、そりゃ気づくよねぇ」
スズ子はこっそりと、紙コップのスマホを手にとった。
画面には、もうもうとケムリをあげる、焼き肉屋さんの動画がながれていた。
「わぁー。ふつかは、服のにおいがとれないねぇ」
「これは、ホルモン焼よ」
おもわず動画に見いるスズ子に、ロイちゃんが話しかけてきた。
「そう、ここはまさにおじさまの天国よ」
じゅううう、じゅううう。
「お楽しみのとこわるいけどぉ、静かになんないかなぁ」
焼き肉の音は、どんどん大きくなっていった。
授業そっちのけで、鼻をクンクンさせる先生が、
「ちがうぞ。まさかこれは、てっちゃんハチノス、レバーにミノ。ホルモンだ! 大さかではすてるもの、ほうるもん。だからホルモンだ、わっはっは!」
とびみょうなちがいまで言いあてた。
「ほらぁ、先生がおかしくなってるぅ」
「ロイちゃんも、いつか行ってみたいなあって」
「わかる、わかるよぉ。でもねぇ」
クンクンクン。
クラスのみんなは、もうプリントをほうりだして、においをかいでいる。
「やばいよぉ、バレたらぶっ飛ばされるよぉ」
なんとか両手でスマホをかくすスズ子に、かんのいい赤井さんがふりむいた。
「まさかスマホだなんて、思ってないよ。とにかくジューシーな音をなんとかしないと」
「だよねぇ」
「せすじのばすから、そのうちに」
「ごめんねぇ」
赤井さんが、体をはって先生の目からブロックしてくれた。
そのすきに、スズ子は小声でロイちゃんにお願いしたのだ。
「かわいい女子なら、ソフトクリームだよぉ。こんど、つれていってあげるから、どぉ」
「ソフトクリーム?」
パッ、パパパッ!
すると、こんどは画面がきりかわった。
「それって、この茶色のマキマキのやつ?」
「もー、きたないなぁ」
スマホには、チョコレートのソフトクリームがうつっていた。
「でも、それだよ。こんど、赤井さんもつれていこうねぇ」
「わかったわ! 約束よ、ぜったいね」
パッ、ピーー。
「はー、たすかったぁ」
約束をすませると、ようやくスマホの画面が暗くなった。
ドキドキしながら、スズ子はそっとクラスを見まわした。
「あれ? おれのジューシーが……えっと、そ、そうだ。ほっかいどーは、デッカいどー、わっはっは!」
「はー、バレてないやぁ。でもまだお昼まえかぁ」
ドキドキドキ。
「このままぶじにおわってほしいなぁ。はー、今日は、強いハートが必要だぁ」
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