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024_リーンの場合3
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024_リーンの場合3
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「今度は何をしたのだ?」
「わ、わたくしは何も……ただ、私の言葉が気に入らなかったようです……」
わたくしの言葉を聞いた瞬間、スピナー様は目を吊り上げた。
たしかにわたくしはスピナー様のことを何もかも知っているわけではない。それが気に障ったようです。
距離を縮められたと思ったのに……。
「やっと話を進められたものを……」
「困ったことになりましたな」
お父様と丞相が暗い顔をしました。
「わたくし、スピナー様にお会いしてきます。お会いして謝罪します」
「そのスピナーは公爵家の屋敷にも帰ってない。相当臍を曲げたようだと、公爵が言っておった」
ボルフェウス公爵家ともなると、お父様とのホットラインがあって連絡を取り合っている。
昔は2人で色々悪さをしていたと聞いたことがあるけど、本当なのかしら? 今のお父様からはそういったイメージが湧きませんわ。
今はそんなことを考えている時ではないですね。
「わたくしはそれほど嫌なことを言ったのでしょうか……」
そんなつもりは全くなかった。
わたくしはスピナー様のことを分かった気になっていたのかもしれません。何も分かっていないのに、分かった気に……。
スピナー様にはそれが我慢ならなかったのかもしれません。
「奇人変人と言われるような者だからな。我らとは考えることが違うのだろう。とりあえずボルフェウス公爵の連絡が来るまで、リーンは自室で大人しくしておれ」
「はい……」
距離が縮まったと思ったら、とても遠くに感じる。スピナー様はわたくしを疎ましく思っているのでしょうか……?
「姫様のことはそれで良いでしょうが、ガリアス伯爵家のミランダ嬢はどういたしますか」
「スピナーと決定的な溝ができた者だな」
「はい。売り言葉に買い言葉でしょうが、法廷闘争も辞さないともなれば、簡単には収まることはないかと」
「その者は地方の学園に編入させよ。これ以上、スピナーを不快にさせるな」
「承知しました」
「お、お待ちください。お父様」
こんなことでミランダさんが学園を移されるなんて、可愛そうです。
「なんだ」
「ミランダさんはわたくしのためにあのようなことを言ったのです。それを転校だなんて、あまりにも───」
「その者はお前の名を使い、スピナーに不敬だと言ったのだ。それによってスピナーがリーンを疎んじるようになったらどうする。それを考えればその者をスピナーの目に入らぬように、そしてリーンの邪魔にならぬように排除するべきであろう」
「しかし……」
「王女であるリーンの威を借りて自分を大きく見せようとした者だ。相手が公爵家のスピナーだと知りながら、伯爵家の者が虚勢を張ればそのようになると見せしめにもなる。公爵家は王家の一門である。伯爵家の小娘が生意気な言葉を吐くこと自体、不敬だと言えるのだ」
「そこをなんとかなりませんか」
「ならぬ。学園で貴族位を振りかざすことは避けるべきことだが、ミランダ自身がそれを振りかざしたのだ。それが自分に返って来ただけにすぎぬ」
わたくしのせいでミランダさんまで取り返しのつかないことになってしまいました。わたくしはどうしたらいいのでしょうか。
それから数日。わたくしはお父様に呼ばれるまで自室で謹慎していました。
執務室に入るとお父様と丞相が難しい顔をしていました。あまりいい話ではないようです。
「リーンはイキッター・ガーナンドなる教師を知っているか?」
「はい、知っています。わたくしは直接教えていただいたことはありませんが、ガーナンド先生はテイマーの戦闘術を教えています」
「報告があったのだが、その教師が隷属魔法を持っている可能性があるそうだ」
「っ!?」
隷属魔法を持つ者は国が厳しく管理しています。間違っても教師になるはずがありません。
もし貴族やその師弟に隷属魔法が行使されたら大変なことになるからです。
「何かの間違いでは?」
「そう思いたいが、それを指摘したのがスピナーなのだ」
「え?」
スピナー様がなぜ?
「どうもその教師がスピナーに喧嘩を売って、返り討ちにあったらしい」
「はい?」
なぜ教師が生徒に喧嘩を売るのですか? 理解に苦しみます。それに、返り討ちというのは、どういうことでしょうか?
「陛下。返り討ちされたのはワイバーンですよ。その教師は傷1つありません。もっとも、隷属魔法が確認されたら死罪もありますが」
「ワイバーン!?」
ワイバーンと言えばBランクの魔物。そんな高ランクの魔物を使って生徒と喧嘩を? それだけでガーナンド先生の教師としての資質を疑います。
「そのワイバーンだが、スピナーが使役しているクモの魔物に瞬殺されたそうだ」
「え?」
Bランクのワイバーンを瞬殺ってどういうことですか?
「私の聞き間違いでしょうか?」
「いや、聞き間違いではない。スピナーの行動を監視させている者からの報告だ」
「スピナー様を監視しているのですか」
「リーンとの婚約のことがあるからな。スピナーの行動はしっかり把握している」
お父様はそういうことを徹底される方でした。
「しかし監視されていると知ったら、またお怒りになられるのでは?」
そうなったら関係修復がさらに難しくなります。
「スピナーは監視されていることを知っているさ」
「え?」
「監視をさせている者からの報告では、時々視線を向けられ牽制されるらしい」
「………」
王であるお父様が使っている密偵は、この国でも右に出る者がないほどの凄腕ばかり。その彼らの気配を感知するなんて、あり得ません。
「されどワイバーンの死体を処分したことから考えても、その教師は黒でしょう」
死体を処分ですか。それではガーナンド先生が隷属魔法を扱える証拠がないことに。
「ああ、そうだろうな。魔力残滓を確認されたらマズいと思ったのだろう。だが、確認などいくらでもできる。その教師とそれを教師に推薦した者、ワイバーンを処分した者、そして学園長は処分しなければならぬな」
学園はいったいどうなるのでしょうか……。
024_リーンの場合3
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「今度は何をしたのだ?」
「わ、わたくしは何も……ただ、私の言葉が気に入らなかったようです……」
わたくしの言葉を聞いた瞬間、スピナー様は目を吊り上げた。
たしかにわたくしはスピナー様のことを何もかも知っているわけではない。それが気に障ったようです。
距離を縮められたと思ったのに……。
「やっと話を進められたものを……」
「困ったことになりましたな」
お父様と丞相が暗い顔をしました。
「わたくし、スピナー様にお会いしてきます。お会いして謝罪します」
「そのスピナーは公爵家の屋敷にも帰ってない。相当臍を曲げたようだと、公爵が言っておった」
ボルフェウス公爵家ともなると、お父様とのホットラインがあって連絡を取り合っている。
昔は2人で色々悪さをしていたと聞いたことがあるけど、本当なのかしら? 今のお父様からはそういったイメージが湧きませんわ。
今はそんなことを考えている時ではないですね。
「わたくしはそれほど嫌なことを言ったのでしょうか……」
そんなつもりは全くなかった。
わたくしはスピナー様のことを分かった気になっていたのかもしれません。何も分かっていないのに、分かった気に……。
スピナー様にはそれが我慢ならなかったのかもしれません。
「奇人変人と言われるような者だからな。我らとは考えることが違うのだろう。とりあえずボルフェウス公爵の連絡が来るまで、リーンは自室で大人しくしておれ」
「はい……」
距離が縮まったと思ったら、とても遠くに感じる。スピナー様はわたくしを疎ましく思っているのでしょうか……?
「姫様のことはそれで良いでしょうが、ガリアス伯爵家のミランダ嬢はどういたしますか」
「スピナーと決定的な溝ができた者だな」
「はい。売り言葉に買い言葉でしょうが、法廷闘争も辞さないともなれば、簡単には収まることはないかと」
「その者は地方の学園に編入させよ。これ以上、スピナーを不快にさせるな」
「承知しました」
「お、お待ちください。お父様」
こんなことでミランダさんが学園を移されるなんて、可愛そうです。
「なんだ」
「ミランダさんはわたくしのためにあのようなことを言ったのです。それを転校だなんて、あまりにも───」
「その者はお前の名を使い、スピナーに不敬だと言ったのだ。それによってスピナーがリーンを疎んじるようになったらどうする。それを考えればその者をスピナーの目に入らぬように、そしてリーンの邪魔にならぬように排除するべきであろう」
「しかし……」
「王女であるリーンの威を借りて自分を大きく見せようとした者だ。相手が公爵家のスピナーだと知りながら、伯爵家の者が虚勢を張ればそのようになると見せしめにもなる。公爵家は王家の一門である。伯爵家の小娘が生意気な言葉を吐くこと自体、不敬だと言えるのだ」
「そこをなんとかなりませんか」
「ならぬ。学園で貴族位を振りかざすことは避けるべきことだが、ミランダ自身がそれを振りかざしたのだ。それが自分に返って来ただけにすぎぬ」
わたくしのせいでミランダさんまで取り返しのつかないことになってしまいました。わたくしはどうしたらいいのでしょうか。
それから数日。わたくしはお父様に呼ばれるまで自室で謹慎していました。
執務室に入るとお父様と丞相が難しい顔をしていました。あまりいい話ではないようです。
「リーンはイキッター・ガーナンドなる教師を知っているか?」
「はい、知っています。わたくしは直接教えていただいたことはありませんが、ガーナンド先生はテイマーの戦闘術を教えています」
「報告があったのだが、その教師が隷属魔法を持っている可能性があるそうだ」
「っ!?」
隷属魔法を持つ者は国が厳しく管理しています。間違っても教師になるはずがありません。
もし貴族やその師弟に隷属魔法が行使されたら大変なことになるからです。
「何かの間違いでは?」
「そう思いたいが、それを指摘したのがスピナーなのだ」
「え?」
スピナー様がなぜ?
「どうもその教師がスピナーに喧嘩を売って、返り討ちにあったらしい」
「はい?」
なぜ教師が生徒に喧嘩を売るのですか? 理解に苦しみます。それに、返り討ちというのは、どういうことでしょうか?
「陛下。返り討ちされたのはワイバーンですよ。その教師は傷1つありません。もっとも、隷属魔法が確認されたら死罪もありますが」
「ワイバーン!?」
ワイバーンと言えばBランクの魔物。そんな高ランクの魔物を使って生徒と喧嘩を? それだけでガーナンド先生の教師としての資質を疑います。
「そのワイバーンだが、スピナーが使役しているクモの魔物に瞬殺されたそうだ」
「え?」
Bランクのワイバーンを瞬殺ってどういうことですか?
「私の聞き間違いでしょうか?」
「いや、聞き間違いではない。スピナーの行動を監視させている者からの報告だ」
「スピナー様を監視しているのですか」
「リーンとの婚約のことがあるからな。スピナーの行動はしっかり把握している」
お父様はそういうことを徹底される方でした。
「しかし監視されていると知ったら、またお怒りになられるのでは?」
そうなったら関係修復がさらに難しくなります。
「スピナーは監視されていることを知っているさ」
「え?」
「監視をさせている者からの報告では、時々視線を向けられ牽制されるらしい」
「………」
王であるお父様が使っている密偵は、この国でも右に出る者がないほどの凄腕ばかり。その彼らの気配を感知するなんて、あり得ません。
「されどワイバーンの死体を処分したことから考えても、その教師は黒でしょう」
死体を処分ですか。それではガーナンド先生が隷属魔法を扱える証拠がないことに。
「ああ、そうだろうな。魔力残滓を確認されたらマズいと思ったのだろう。だが、確認などいくらでもできる。その教師とそれを教師に推薦した者、ワイバーンを処分した者、そして学園長は処分しなければならぬな」
学園はいったいどうなるのでしょうか……。
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