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005_加護
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005_加護
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「皆さん、席についてください」
2人の教師が入ってきて、教壇の前に立った。
「私は担任のメルリッチです。教科は魔法の実技を担当してます」
30前くらいのストレートの黒髪と黒いローブの女性が、担任のメルリッチだと自己紹介した。
実に魔法使いらしい出で立ちだ。
「私は副担任のグロリアと申します。テイム系戦闘術を担当しています」
淡い緑色の髪をした20歳くらいの女性が、副担任のグロリア先生。
こちらは平民以上貴族未満の服を着ている。服のセンスはいいと思う。
メルリッチ先生は視線が鋭く、グロリア先生は可愛らしい顔をしている。
「これから【神威の儀】を行いますので、聖堂に移動します」
学園に入学した子供は、この国で一番早く【神威の儀】が行われる。
この学園が終わると、他の公立学校、私立学校、そして個人の順で【神威の儀】が行われていくのだ。
2人の教師について聖堂に移動した。
学園の敷地は広大で、移動するのが大変だ。
聖堂では保護者がすでに待っていた。
パパの姿もあるけど、国王と談笑している。その笑顔がムカつく。
一応、パパは公爵だから国王に一番近い席らしい。
「それでは、名前を呼ばれた人から前に出るように」
メルリッチ先生が名簿を取り出した。
「リーン・ソリティアさん。前に」
「はい」
最初は王女様だ。
リーン様は艶やかな紫色の髪を揺らしながら、前に出て行く。きっと将来は絶世の美女になることだろう。
俺じゃなくても婚約話は腐るほどあるだろうに……。
俺の髪は白に近い灰色をしている。遠くから見たら老人と間違えられるような色だ。
あまり見た目には拘らない俺だが、この髪の色は好きではない。リーン様の艶やかな紫色の髪が羨ましい。
「おおっ! リーン・ソリティア殿の加護は【魔女】です!」
「「「わぁぁぁっ」」」
司祭の声がしたら、歓声が起こった。
俺の記憶では、【魔女】というのは魔法使い系の特殊加護で、【賢者】と並ぶ魔法使い系最高クラスの加護だ。
これでリーン様は国から離れることができなくなった。その伴侶も同様だ。
「俺じゃなくてよかった~」
「スピナー様。声が漏れてますよ」
思わず声を出してしまったのを、ロックが注意してくる。
ロック以外は近くに居ないので、まあいいだろう。
「ナルジニア・ベニック君。前に」
パパから聞いていた要注意人物の1人。
ベニック公爵家の長男であるナルジニアは、サラサラの金髪のイケメン君だ。イケメンはどうでもいいが、髪の色はちょっと羨ましい。
ウチのボルフェウス公爵家と同格の家。
ベニック公爵家とウチはあまりいい関係ではないと聞いているが、俺には関係ないことだ。ただ……。
「あの金髪をむしりたい」
「ですから、声が漏れてますって」
「お、おう」
いかん、いかん。つい思っていることが声に出る。
「おお、ナルジニア殿は【剣王】にございます!」
「「「おぉぉぉっ!」」」
【剣王】は剣士系の加護で、比較的珍しいものだ。その才能は【剣士】よりも高いことから、ナルジニアは鼻高々だろう。
俺以外の奴が良い加護をもらうのは、全然いいことだ。
「スピナー・ボルフェウス君。前へ」
担任のメルリッチ先生に名前が呼ばれ、俺は前に歩いて行く。どうやら家格の順ぽい。
途中でナルジニアとすれ違ったんだが、「ふんっ」と鼻で笑われた。
なぜ笑う? 俺の顔に何かついているのか? ロックは何も言わなかったから、そんなことはないはずだ。
うーん、意味不明。
「スピナー・ボルフェウス殿ですね」
「はい。スピナーです」
司祭に応えると、石板に手を触れろと言われた。
石板には古代魔法文字が刻まれている。
ほう、なかなか面白そうなことが刻まれているじゃないか。
「怖がることはありません。肩の力を抜いて、石板に手を置いて意識を集中すればいいのです」
石板に刻まれている古代魔法文字の解読は終わった。これが終わったらメモしておこう。いつか役に立つかもしれない。
手を置く。石板がほんのり光る。黒光りだ。
石板に置かれた金属カードに、【クモ使い】と表示された。
「これは……。スピナー・ボルフェウス殿の加護は【クモ使い】です」
言い淀んだ司祭だったが、俺は歓喜した。良い加護じゃないか!
だが、会場の反応は俺とは逆のものだ。
「【クモ使い】だと!? はっ、貴族の面汚しめ!」
そう罵ってくれたのは、パパのそばに座るオッサンだ。
パパが睨んでいるが、そのオッサンは満面の笑みだ。
あれはベニック公爵だと思う。ウチに喧嘩を売れるのは、同じ公爵家だけだ。
「止めぬか。加護は神からの授かりものだ。それを侮辱するのは、神への冒涜であるぞ!」
国王がベニック公爵にビシッと言った。
さっきの謝罪といい、俺の中の国王の好感度が上がっていく……。これでは暗殺する時に少しだけ躊躇するじゃないか。
どうでもいいが、ベニック公爵は国王に叱られてショボンとなっている。あんた、アホだろ。場所を弁えろよ。
子供の俺でさえ場を弁えていると言うのに、まったく何を考えているのか。
005_加護
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「皆さん、席についてください」
2人の教師が入ってきて、教壇の前に立った。
「私は担任のメルリッチです。教科は魔法の実技を担当してます」
30前くらいのストレートの黒髪と黒いローブの女性が、担任のメルリッチだと自己紹介した。
実に魔法使いらしい出で立ちだ。
「私は副担任のグロリアと申します。テイム系戦闘術を担当しています」
淡い緑色の髪をした20歳くらいの女性が、副担任のグロリア先生。
こちらは平民以上貴族未満の服を着ている。服のセンスはいいと思う。
メルリッチ先生は視線が鋭く、グロリア先生は可愛らしい顔をしている。
「これから【神威の儀】を行いますので、聖堂に移動します」
学園に入学した子供は、この国で一番早く【神威の儀】が行われる。
この学園が終わると、他の公立学校、私立学校、そして個人の順で【神威の儀】が行われていくのだ。
2人の教師について聖堂に移動した。
学園の敷地は広大で、移動するのが大変だ。
聖堂では保護者がすでに待っていた。
パパの姿もあるけど、国王と談笑している。その笑顔がムカつく。
一応、パパは公爵だから国王に一番近い席らしい。
「それでは、名前を呼ばれた人から前に出るように」
メルリッチ先生が名簿を取り出した。
「リーン・ソリティアさん。前に」
「はい」
最初は王女様だ。
リーン様は艶やかな紫色の髪を揺らしながら、前に出て行く。きっと将来は絶世の美女になることだろう。
俺じゃなくても婚約話は腐るほどあるだろうに……。
俺の髪は白に近い灰色をしている。遠くから見たら老人と間違えられるような色だ。
あまり見た目には拘らない俺だが、この髪の色は好きではない。リーン様の艶やかな紫色の髪が羨ましい。
「おおっ! リーン・ソリティア殿の加護は【魔女】です!」
「「「わぁぁぁっ」」」
司祭の声がしたら、歓声が起こった。
俺の記憶では、【魔女】というのは魔法使い系の特殊加護で、【賢者】と並ぶ魔法使い系最高クラスの加護だ。
これでリーン様は国から離れることができなくなった。その伴侶も同様だ。
「俺じゃなくてよかった~」
「スピナー様。声が漏れてますよ」
思わず声を出してしまったのを、ロックが注意してくる。
ロック以外は近くに居ないので、まあいいだろう。
「ナルジニア・ベニック君。前に」
パパから聞いていた要注意人物の1人。
ベニック公爵家の長男であるナルジニアは、サラサラの金髪のイケメン君だ。イケメンはどうでもいいが、髪の色はちょっと羨ましい。
ウチのボルフェウス公爵家と同格の家。
ベニック公爵家とウチはあまりいい関係ではないと聞いているが、俺には関係ないことだ。ただ……。
「あの金髪をむしりたい」
「ですから、声が漏れてますって」
「お、おう」
いかん、いかん。つい思っていることが声に出る。
「おお、ナルジニア殿は【剣王】にございます!」
「「「おぉぉぉっ!」」」
【剣王】は剣士系の加護で、比較的珍しいものだ。その才能は【剣士】よりも高いことから、ナルジニアは鼻高々だろう。
俺以外の奴が良い加護をもらうのは、全然いいことだ。
「スピナー・ボルフェウス君。前へ」
担任のメルリッチ先生に名前が呼ばれ、俺は前に歩いて行く。どうやら家格の順ぽい。
途中でナルジニアとすれ違ったんだが、「ふんっ」と鼻で笑われた。
なぜ笑う? 俺の顔に何かついているのか? ロックは何も言わなかったから、そんなことはないはずだ。
うーん、意味不明。
「スピナー・ボルフェウス殿ですね」
「はい。スピナーです」
司祭に応えると、石板に手を触れろと言われた。
石板には古代魔法文字が刻まれている。
ほう、なかなか面白そうなことが刻まれているじゃないか。
「怖がることはありません。肩の力を抜いて、石板に手を置いて意識を集中すればいいのです」
石板に刻まれている古代魔法文字の解読は終わった。これが終わったらメモしておこう。いつか役に立つかもしれない。
手を置く。石板がほんのり光る。黒光りだ。
石板に置かれた金属カードに、【クモ使い】と表示された。
「これは……。スピナー・ボルフェウス殿の加護は【クモ使い】です」
言い淀んだ司祭だったが、俺は歓喜した。良い加護じゃないか!
だが、会場の反応は俺とは逆のものだ。
「【クモ使い】だと!? はっ、貴族の面汚しめ!」
そう罵ってくれたのは、パパのそばに座るオッサンだ。
パパが睨んでいるが、そのオッサンは満面の笑みだ。
あれはベニック公爵だと思う。ウチに喧嘩を売れるのは、同じ公爵家だけだ。
「止めぬか。加護は神からの授かりものだ。それを侮辱するのは、神への冒涜であるぞ!」
国王がベニック公爵にビシッと言った。
さっきの謝罪といい、俺の中の国王の好感度が上がっていく……。これでは暗殺する時に少しだけ躊躇するじゃないか。
どうでもいいが、ベニック公爵は国王に叱られてショボンとなっている。あんた、アホだろ。場所を弁えろよ。
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