上 下
5 / 35

005_加護

しおりを挟む
 ■■■■■■■■■■
 005_加護
 ■■■■■■■■■■


「皆さん、席についてください」
 2人の教師が入ってきて、教壇の前に立った。
「私は担任のメルリッチです。教科は魔法の実技を担当してます」
 30前くらいのストレートの黒髪と黒いローブの女性が、担任のメルリッチだと自己紹介した。
 実に魔法使いらしい出で立ちだ。

「私は副担任のグロリアと申します。テイム系戦闘術を担当しています」
 淡い緑色の髪をした20歳くらいの女性が、副担任のグロリア先生。
 こちらは平民以上貴族未満の服を着ている。服のセンスはいいと思う。

 メルリッチ先生は視線が鋭く、グロリア先生は可愛らしい顔をしている。

「これから【神威の儀】を行いますので、聖堂に移動します」
 学園に入学した子供は、この国で一番早く【神威の儀】が行われる。
 この学園が終わると、他の公立学校、私立学校、そして個人の順で【神威の儀】が行われていくのだ。

 2人の教師について聖堂に移動した。
 学園の敷地は広大で、移動するのが大変だ。

 聖堂では保護者がすでに待っていた。
 パパの姿もあるけど、国王と談笑している。その笑顔がムカつく。
 一応、パパは公爵だから国王に一番近い席らしい。

「それでは、名前を呼ばれた人から前に出るように」
 メルリッチ先生が名簿を取り出した。

「リーン・ソリティアさん。前に」
「はい」
 最初は王女様だ。

 リーン様は艶やかな紫色の髪を揺らしながら、前に出て行く。きっと将来は絶世の美女になることだろう。
 俺じゃなくても婚約話は腐るほどあるだろうに……。

 俺の髪は白に近い灰色をしている。遠くから見たら老人と間違えられるような色だ。
 あまり見た目には拘らない俺だが、この髪の色は好きではない。リーン様の艶やかな紫色の髪が羨ましい。

「おおっ! リーン・ソリティア殿の加護は【魔女】です!」
「「「わぁぁぁっ」」」
 司祭の声がしたら、歓声が起こった。
 俺の記憶では、【魔女】というのは魔法使い系の特殊加護で、【賢者】と並ぶ魔法使い系最高クラスの加護だ。
 これでリーン様は国から離れることができなくなった。その伴侶も同様だ。

「俺じゃなくてよかった~」
「スピナー様。声が漏れてますよ」
 思わず声を出してしまったのを、ロックが注意してくる。
 ロック以外は近くに居ないので、まあいいだろう。

「ナルジニア・ベニック君。前に」
 パパから聞いていた要注意人物の1人。
 ベニック公爵家の長男であるナルジニアは、サラサラの金髪のイケメン君だ。イケメンはどうでもいいが、髪の色はちょっと羨ましい。

 ウチのボルフェウス公爵家と同格の家。
 ベニック公爵家とウチはあまりいい関係ではないと聞いているが、俺には関係ないことだ。ただ……。
「あの金髪をむしりたい」
「ですから、声が漏れてますって」
「お、おう」
 いかん、いかん。つい思っていることが声に出る。

「おお、ナルジニア殿は【剣王】にございます!」
「「「おぉぉぉっ!」」」
【剣王】は剣士系の加護で、比較的珍しいものだ。その才能は【剣士】よりも高いことから、ナルジニアは鼻高々だろう。
 俺以外の奴が良い加護をもらうのは、全然いいことだ。

「スピナー・ボルフェウス君。前へ」
 担任のメルリッチ先生に名前が呼ばれ、俺は前に歩いて行く。どうやら家格の順ぽい。

 途中でナルジニアとすれ違ったんだが、「ふんっ」と鼻で笑われた。
 なぜ笑う? 俺の顔に何かついているのか? ロックは何も言わなかったから、そんなことはないはずだ。
 うーん、意味不明。

「スピナー・ボルフェウス殿ですね」
「はい。スピナーです」
 司祭に応えると、石板に手を触れろと言われた。
 石板には古代魔法文字が刻まれている。
 ほう、なかなか面白そうなことが刻まれているじゃないか。

「怖がることはありません。肩の力を抜いて、石板に手を置いて意識を集中すればいいのです」
 石板に刻まれている古代魔法文字の解読は終わった。これが終わったらメモしておこう。いつか役に立つかもしれない。

 手を置く。石板がほんのり光る。黒光りだ。

 石板に置かれた金属カードに、【クモ使い】と表示された。
「これは……。スピナー・ボルフェウス殿の加護は【クモ使い】です」
 言い淀んだ司祭だったが、俺は歓喜した。良い加護じゃないか!
 だが、会場の反応は俺とは逆のものだ。

「【クモ使い】だと!? はっ、貴族の面汚しめ!」
 そう罵ってくれたのは、パパのそばに座るオッサンだ。
 パパが睨んでいるが、そのオッサンは満面の笑みだ。
 あれはベニック公爵だと思う。ウチに喧嘩を売れるのは、同じ公爵家だけだ。

「止めぬか。加護は神からの授かりものだ。それを侮辱するのは、神への冒涜であるぞ!」
 国王がベニック公爵にビシッと言った。

 さっきの謝罪といい、俺の中の国王の好感度が上がっていく……。これでは暗殺する時に少しだけ躊躇するじゃないか。

 どうでもいいが、ベニック公爵は国王に叱られてショボンとなっている。あんた、アホだろ。場所を弁えろよ。
 子供の俺でさえ場を弁えていると言うのに、まったく何を考えているのか。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クモ使いだとバカにしているようだけど、俺はクモを使わなくても強いよ?【短編】

大野半兵衛
ファンタジー
 騎士や戦士、魔法使いなどの戦闘系加護がもてはやされる世の中で、クモのような下等な生き物を使役するスピナーは貴族たちからバカにされていた。  王立レイジング学園の六年生であるスピナーは、剣士の加護を持つナルジニアと決闘をすることに。だが、その決闘の条件は一対一でクモを使わないというものだった。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

皇国の復讐者 〜国を出た無能力者は、復讐を胸に魔境を生きる。そして数年後〜

ネコミコズッキーニ
ファンタジー
「あいつがどこの国のどんな貴族でも関係ない。必ず追い詰めて絶対に殺してやる! 絶対に絶対に絶対に絶対にっ!!」  七星皇国の武家に生まれた陸立理玖。幼い頃は剣の才に溢れ、将来を期待されていた彼であったが「霊力」に目覚める事なく15才を迎えてしまった。そんな彼を家に置く事はできないと生家を追われてしまう。だが理玖はただでは追い出されまいと、家宝の刀を持ち出して国を出た。  出奔した先で自由気ままに生きていたが、ある日帝国の魔術師の謀略に巻き込まれてしまう。復讐を決意し帝国へ向かうが、その道中の船旅で嵐に遭遇、目覚めるとそこは人外魔境の地であった。  数々の苦難に遭いながらも決して復讐を諦めず、意地と気合で生き抜く日々が始まる。そして数年後、理玖は魔境からの脱出を果たす。そこにはかつて無能者と呼ばれていた面影はなかった。  復讐から始まり、やがて世界を救う事になる救世の物語。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

追われる勇者と帰還の旅

MIYU1996
ファンタジー
まぁ魔王を倒した勇者が帰還するためのお話です。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【本編完結】魔眼持ちの伯爵令嬢〜2度目のチャンスは好きにやる〜

ロシキ
ファンタジー
魔眼、それは人が魔法を使うために絶的に必要であるが、1万人の人間が居て1人か2人が得られれば良い方という貴重な物 そんな魔眼の最上級の強さの物を持った令嬢は、家族に魔眼を奪い取られ、挙句の果てに処刑台で処刑された 筈だった ※どこまで書ける分からないので、ひとまず長編予定ですが、区切りの良いところで終わる可能性あり ローニャの年齢を5歳から12 歳に引き上げます。 突然の変更になり、申し訳ありません。 ※1章(王国編)(1話〜47話) ※2章(対魔獣戦闘編)(48話〜82話) ※3章前編(『エンドシート学園』編)(83話〜111話)    ※3章後編(『終わり』編)(112話〜145話) ※番外編『王国学園』編(1話〜)

ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。

処理中です...