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異世界奇譚。
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この話は中学生の時分、私に家庭教師をしてくれていた当時大学生だった佐藤さんという方から聞いた話だ。
佐藤さんは栃木県出身で、都内の某有名大学に通う為に上京してきたと言っていた記憶がある。
早速だが、本題に入ろう。
佐藤さんは小学生だった時に少年野球チームに所属していたらしく、他のチームと練習試合をする為に割と頻繁にマイクロバスで移動をしていたらしい。
これはそのマイクロバスでの移動の際に起きた出来事だ。
――佐藤さんはその日もいつものようにチームメイトの父親が運転するマイクロバスに乗り込み、チームメイト達と談笑しながら目的地に着くのを待っていた。
だが、高速道路に入りしばらくすると、見慣れた景色が途中から一変した。
監督やコーチなど、数人の保護者も同乗していたが、皆すぐに異変に気付いた。
高い建物は消え、木造のあばら家の様な建物がぽつぽつと垣間見え、偶にすれ違う人々は和服に身を包み、気が付けば路面は土に変わっていた。
この時、子供達は当然、保護者も大騒ぎになっていた。
この異常な自体に運転をしていたチームメイトの父親は適当に車を止め、保護者同士で話し合いがなされた。
動転しながら行われた保護者達の議論の末、とりあえず付近にいる人に話しかけてみることになった。
万が一にも子供に何かあってはいけないので、代表して2人の保護者が話を伺いに行った。
佐藤さんは付近にいた鞠をついていた女の子に、保護者が話しかけているのをマイクロバスの窓から見ていた。
すると一通り会話を終えたのか、2人がマイクロバスに戻ってきた。
聞いた話を要約すると以下の通りだ。
まず場所だが、その女の子が言うにはなんとここは鎌倉なのだ。
距離にして約200キロは移動したことになる。
もちろんその保護者2人は、何度も女の子に問いただしたらしい。
だが、何度聞いても返ってくる答えは変わらない。
それどころか服装を面白がったり、マイクロバスを見て驚いていた。
するとそれを聞いた保護者の誰かが鎌倉なら近くに海が無ければおかしい、と言い始めた。
保護者達は口々に鎌倉だからといってどこからでも海が見える訳ではないだの、いや、潮の匂いがするだの、と議論が白熱し始めた。
その保護者達の様子を見て数人の子供が泣き始めた。
早く帰りたい、早く家に帰らせて、と酷く泣き喚いていた。
それはそうだ。大人が動転していると子供は不安になるものだ。小学生ぐらいでは泣いてしまっても仕方が無いだろう。
自分達の不甲斐ない姿に申し訳なさを感じたであろう幾人かの保護者が、泣いている子供達を宥めていると、マイクロバスを運転していた保護者が提案をした。
とにかく今来た道を戻ってみよう。と
そうすれば帰れるかもしれない、少なくとも帰る方面に間違いはないはずだ。と
誰の頭にも過ぎった考えだろうが、何一つ帰れる確証は無い。
かと言って他に浮かぶ案も無い、土地勘の一切無い場所で、あちこち動き回る方が危険だろう。
やむなく一同はその提案に賛成し、運転手の保護者は再びマイクロバスのエンジンをかけた。
皆が不安な気持ちに落ち込む中、マイクロバスは来た道を戻る。
マイクロバスに乗っている誰もが時間の経過も忘れ、ただただ一心に帰りたい、と願っていただろう。
子供がすすり泣く声しか聞こえてこない、暗い雰囲気に包まれた車内には、諦めを口にする保護者もいた。
――だが、走り始めてからしばらくすると、突然景色が変わった。
見慣れた街、見慣れた道、見慣れた景色、その全てが唐突に全員の視界に現れた。
その見慣れた光景に、マイクロバスの車内には安堵の声が溢れた。
無事に帰って来れたのだ。
――さて、いかがだっただろうか、私はこの話を佐藤さんから聞いた時、もちろん恐怖心もあった。
見知らぬ土地に突然着いてしまうなんて、と
この気持ちを正確になんと表現して読者の皆に伝えれば良いのかわからないが、端的に言えば不思議な気持ちが勝っていたと思う。
佐藤さん達が行き着いたのは本当に鎌倉だったのか、着ている服から考えて時代も明らかにおかしい、保護者が話した女の子は何処の誰で、建物は、道はどうなってる。
どこか恐怖よりも様々な好奇心が湧いていたのを憶えている。
それに加え、マイクロバスに乗っていた全員が目撃者なのだ。一体どうなってる。
それだけの大人数を巻き込んだ話なら信憑性も増す? 確かにそうだ。少なくとも信じやすい。
などと佐藤さんが考えて作った話なのだとしたら、もっと恐怖に、もっと不思議な話に脚色できたのではないかとも思ってしまう。
とはいえ、もちろん関係者に私が直接事実を聞いて回ったりなどしていないし、真偽の程ははっきり言って不明だ。
そしてこの話を作り話だと鼻で笑うことは至極簡単に違いない。
だがしかし、世の中にはきっとこれの上をいく想像もつかない体験をした者がいるに違いない、と私自身は思っている。
何故なら、私もまた不思議な体験に遭遇したことのある一人だからだ。
完
佐藤さんは栃木県出身で、都内の某有名大学に通う為に上京してきたと言っていた記憶がある。
早速だが、本題に入ろう。
佐藤さんは小学生だった時に少年野球チームに所属していたらしく、他のチームと練習試合をする為に割と頻繁にマイクロバスで移動をしていたらしい。
これはそのマイクロバスでの移動の際に起きた出来事だ。
――佐藤さんはその日もいつものようにチームメイトの父親が運転するマイクロバスに乗り込み、チームメイト達と談笑しながら目的地に着くのを待っていた。
だが、高速道路に入りしばらくすると、見慣れた景色が途中から一変した。
監督やコーチなど、数人の保護者も同乗していたが、皆すぐに異変に気付いた。
高い建物は消え、木造のあばら家の様な建物がぽつぽつと垣間見え、偶にすれ違う人々は和服に身を包み、気が付けば路面は土に変わっていた。
この時、子供達は当然、保護者も大騒ぎになっていた。
この異常な自体に運転をしていたチームメイトの父親は適当に車を止め、保護者同士で話し合いがなされた。
動転しながら行われた保護者達の議論の末、とりあえず付近にいる人に話しかけてみることになった。
万が一にも子供に何かあってはいけないので、代表して2人の保護者が話を伺いに行った。
佐藤さんは付近にいた鞠をついていた女の子に、保護者が話しかけているのをマイクロバスの窓から見ていた。
すると一通り会話を終えたのか、2人がマイクロバスに戻ってきた。
聞いた話を要約すると以下の通りだ。
まず場所だが、その女の子が言うにはなんとここは鎌倉なのだ。
距離にして約200キロは移動したことになる。
もちろんその保護者2人は、何度も女の子に問いただしたらしい。
だが、何度聞いても返ってくる答えは変わらない。
それどころか服装を面白がったり、マイクロバスを見て驚いていた。
するとそれを聞いた保護者の誰かが鎌倉なら近くに海が無ければおかしい、と言い始めた。
保護者達は口々に鎌倉だからといってどこからでも海が見える訳ではないだの、いや、潮の匂いがするだの、と議論が白熱し始めた。
その保護者達の様子を見て数人の子供が泣き始めた。
早く帰りたい、早く家に帰らせて、と酷く泣き喚いていた。
それはそうだ。大人が動転していると子供は不安になるものだ。小学生ぐらいでは泣いてしまっても仕方が無いだろう。
自分達の不甲斐ない姿に申し訳なさを感じたであろう幾人かの保護者が、泣いている子供達を宥めていると、マイクロバスを運転していた保護者が提案をした。
とにかく今来た道を戻ってみよう。と
そうすれば帰れるかもしれない、少なくとも帰る方面に間違いはないはずだ。と
誰の頭にも過ぎった考えだろうが、何一つ帰れる確証は無い。
かと言って他に浮かぶ案も無い、土地勘の一切無い場所で、あちこち動き回る方が危険だろう。
やむなく一同はその提案に賛成し、運転手の保護者は再びマイクロバスのエンジンをかけた。
皆が不安な気持ちに落ち込む中、マイクロバスは来た道を戻る。
マイクロバスに乗っている誰もが時間の経過も忘れ、ただただ一心に帰りたい、と願っていただろう。
子供がすすり泣く声しか聞こえてこない、暗い雰囲気に包まれた車内には、諦めを口にする保護者もいた。
――だが、走り始めてからしばらくすると、突然景色が変わった。
見慣れた街、見慣れた道、見慣れた景色、その全てが唐突に全員の視界に現れた。
その見慣れた光景に、マイクロバスの車内には安堵の声が溢れた。
無事に帰って来れたのだ。
――さて、いかがだっただろうか、私はこの話を佐藤さんから聞いた時、もちろん恐怖心もあった。
見知らぬ土地に突然着いてしまうなんて、と
この気持ちを正確になんと表現して読者の皆に伝えれば良いのかわからないが、端的に言えば不思議な気持ちが勝っていたと思う。
佐藤さん達が行き着いたのは本当に鎌倉だったのか、着ている服から考えて時代も明らかにおかしい、保護者が話した女の子は何処の誰で、建物は、道はどうなってる。
どこか恐怖よりも様々な好奇心が湧いていたのを憶えている。
それに加え、マイクロバスに乗っていた全員が目撃者なのだ。一体どうなってる。
それだけの大人数を巻き込んだ話なら信憑性も増す? 確かにそうだ。少なくとも信じやすい。
などと佐藤さんが考えて作った話なのだとしたら、もっと恐怖に、もっと不思議な話に脚色できたのではないかとも思ってしまう。
とはいえ、もちろん関係者に私が直接事実を聞いて回ったりなどしていないし、真偽の程ははっきり言って不明だ。
そしてこの話を作り話だと鼻で笑うことは至極簡単に違いない。
だがしかし、世の中にはきっとこれの上をいく想像もつかない体験をした者がいるに違いない、と私自身は思っている。
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