心霊奇譚 

大志目マサオ

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流行り奇譚。

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 ――中学2年の夏休み、俺は宿題などそっちのけで友達とあちこち遊び呆けていた。

 そんな夏休みも半ばに差し掛かったある日のことだ。

 よく遊びに行くアキトの家にいつも通りのメンバー5人で集合し、当時流行っていたゲームをしたり、学校での話やまったく進んでいない宿題の話などをしながら時間を忘れて遊んでいた。
 
 アキトは両親が住んでいるアパートに別室を借りてもらい、そこを一人部屋代わりにさせてもらっていた。
 その為、大人のいない空間は思春期真っ盛りだった俺達にはかなり居心地がよく、みんなのたまり場になっていた。
 

 ――ふと気が付けば夕食時をとっくに過ぎていて、これもまたいつも通りの展開となっていた。
 みんながケータイの時計を見て帰るかどうか悩んでいると、そんな様子を見たアキトから待望のセリフが出た。

「みんな泊まってけよ。メシは出前かなんかうちの親に取ってもらうからさ」
「お、マジ? じゃあ泊まってくわ~オバサン寿司食いたいとか言ったら怒るかな?」
「あ、俺も~帰っても宿題やれって親ウルサイし」
「俺はちょっと親に聞いてみないと、電話してくる」
「ダイキはいつもそれだな。メール入れときゃ大丈夫だろ」
「いや連絡しないと怒られんだって、マジでめんどくせぇんだから」

 ――こうして結局なんやかんや言いながらも俺達はアキトの家に泊まることになり、多数決で選ばれたピザを平らげ、またくだらない話に花を咲かせていた。

「なあなあ、あいつ絶対ミユキのこと好きだよな?」
「いや、そんなの関係ねぇ! ミユキは俺がもらう」
「マサキ熱くなんなよ、お前が好きでもミユキの気持ちがわかんなくね?」
「そういう問題じゃねーんだって、勢いなんだよ勢い! 姉ちゃんが女はお、オシ? に弱いっつってたんだから」
「お前姉ちゃんに恋愛相談してんのかよヤバすぎだろ! コイツマジウケんだけど! 腹いてぇ」
「あ、バカにすんなよコウタ! こうしてやるわ!」
「おい、2人ともやめろ! 死ぬ死ぬ、笑い死ぬ!」

 そんなバカ丸出し、男子中学生丸出しのやりとりを繰り広げていると、呆れながらも含みのある笑顔でアキトが切り出した。

「おい、そんないつも通りの話やめてよ、怖い話しようぜ」

 アキトの提案に笑い転げていた俺達は静まり返り、互いの顔を見合わせた。

「怖い話? 俺そんなのないよ」
「俺もないな~、マサキは?」
「お、俺はそんなのそもそも興味ねぇし、心霊とか信じてねぇから」
「俺はイヤだな。苦手だよそういうの」
「ダイキは正直に言ったからわかったけど、マサキは本当はビビってんだろ?」
「は? ビビってねぇし、興味ねぇんだよ」
「ウソつけよ、姉ちゃんに恋愛相談してるヤツがビビんないワケねーじゃん!」
「あ、お前またそれイジんのかよ! 次はカンチョーしてやる! この!」
「カンチョーはやめて~! ギャハハハハ」

 ――今思えば姉に恋愛相談したところでそれがなんだと思えるのだが、男子中学生というのはどうしてか……まあこんなもんなのだろう。
 
「おい、騒いでないで聞けよ。こないだセンパイから仕入れたんだよ、ヤベェヤツ」
「いやアキト、俺本当聞きたくないから勘弁して」
「ダイキ大丈夫だって、アキトなんて大概テキトーなんだからどうせちゃんと話も憶えてないし大したことないって」
「あ、言ったなコウタ、平気そうなフリしてるけどお前がビビりだって知ってんだからな?」
「うっせーよアキト、俺のことはいいから話せって」
「じゃあ電気消そうぜ、な、な!」
「マサキがそれ言うのかよ、まあ俺は暗くしてもいいよ」
「じゃあマサキ電気消せよ、ロウソクあっからそれ囲んで話すわ」
「……イヤだなぁ」

 謎に意地の張り合いをした俺達は8畳のゴチャゴチャしたワンルームの中心に置いてある小さなテーブルの上を片付けて、アキトが何故か用意していたロウソクに火を点けてから電気を消した。

 みんなが静かになるのを待ってアキトが話し始めた。

「……この話は聞いた人間のところに実際に霊が来る話なんだ」
「絶対ウソだよ! ていうかイヤだよ!」
「ダイキ騒ぐな。もうここまできたら聞くだけ聞こうぜ、な?」
「……マジでムリだよ」
「……続き、話すぞ?」
「ああ」

 そもそも嫌がっていたダイキは膝を抱えて俯き、強がっていたマサキは部屋の暗さのせいか、心無しか少し顔が青褪めたようにも見えた。

「この話の霊は風呂場やトイレに1人でいる時に現れる」
「なあ、途中で止めて悪いんだけど、この話をしてるってことはアキトのところにもその霊は現れたのか?」
「……ああ、来たよ。俺の場合は風呂場だった」
「……マジか」
「ねえアキト、もうやめてくれない? 頼むから」
「すまんダイキ、もう遅いんだ。対策を教えるからちゃんと聞いてくれ」
「もう……俺泊まんなきゃよかったよ」

 俺はこの3人のやりとりを聞いて部屋の温度が急激に低下した気がした。

「……ここからは俺の体験を話すからよく聞いてくれ」

 アキトの言葉にみんな無言で頷いた。

「この話をセンパイから聞いて数日後ぐらいかな。学校から帰っていつも通りシャワーを浴びてたんだ。そしたら」

 ――ドンドン!ドンドンドンドン!

「って風呂場のドアを誰かがめちゃくちゃ叩いてくるんだよ。でもここで絶対開けちゃダメだだからな?」
「……なんでだよ」
「もし開けたら連れてかれる・・・・・・んだってよ」
「どこにだよ」
「さあね」
「……」

 絶対に対策の部分は聞き逃すまいと全員が再び黙った。

「ドアを叩かれても焦っちゃダメだ。少し待つと次は家族や友達に成りすましてまたドアを叩いてくるんだ」
「……ていうと?」
「親とか家族の声で話しかけながら叩いてくるんだよ……最初は母親の声で……」

 ――ドンドンドンドン!

『アキト! 開けて! お願いよ!』

「それでも開けずにいると今度は父親の声で……」

 ――ドンドンドンドン!ドンドンドンドン!

『おい、アキト! 開けてくれ! 早く開けるんだ!』

 アキトが再現した様子があまりにリアルで、俺は全身に鳥肌が立っていた。
 他のみんなも息を飲んでアキトの話に聞き入っていた。
 
「ここでも耐えてしばらくすると……」
「おい、まだあんのかよ」
「ああ、次で最後だ」
「……わかった」
「……最後は例えようもないぐらい低くて大きな声で叫びながらドアを叩いてくるんだ」

 ――ドンドンドンドン!ドンドンドンドン!

 『おい! 今すぐ開けろ! 開けなきゃ殺す! 殺してやるぞ!』

 ――ドンッ!ドンッ!

『殺してやる! 開けろ!』

 ――ドンドンドンドンドンドンドンドン!!

『開けろ開けろ開けろ開けろ開けろ開けろー!!」

 俺達はもう完全に怯えきっていた。これが自分の身にも起きてしまうことを想像して文字通りの顔面蒼白状態だった。

 俺達のそんな様子を見て、アキトは続けた。

「……本当に怖いけど、それでも絶対に開けるなよ。ここを乗り越えると霊は静かになる。油断するな」
「アキト、どうすればいいんだよ!」
「大丈夫だ。ある呪文を最後に唱えるとそいつは消える」
「なんて唱えればいいんだよ! 早く教えてくれよ!」
「……これは日本の古い言葉でな。いいか? 霊が黙ったら……」
「ああ、なんでもいいよ! 早く!」

 恐怖のあまり恐慌状態に陥ったダイキがアキトをまくし立てた。

「……ソーブンゼ。って唱えろ」
「ソーブンゼ? それを唱えればいいんだな?」
「これで話は終わりだ。みんな呪文をよくおぼえとけよ。忘れたら連れてかれるぞ」

 聞き慣れない語感に俺は何度も何度も頭の中でその呪文を反芻した。忘れてはいけないように何度も何度も……あ……。

 ロウソクを消し、電気をつけてからアキトの方を見ると肩が小刻みに揺れていた。なるほどな。

「クククク、お、オオシメ、もしかして気付いたか?」
「ああ、こうだろ? ソーブンゼ、逆から読むと」
「お、おわぁ! あぁああ! 良かった! 本当に良かった!」
「マサキ声デカすぎな。演技うますぎなんだよアキトお前……めちゃくちゃ覚悟してたわ」
「おい、ダイキ泣いてね? やりすぎだよアキト~」
「な、泣いてないよ……っく……別に」
「悪い悪い、大体みんな鉄板で騙されるからやってみろってセンパイがさ」
「はぁ……まあ良かったよ。怖い話はやめてミユキちゃんの話でもしようぜ」
「だな! ていうかコンビニ行こうぜ!」
「補導されないように慎重にな!」


 ――こうしてアキトの悪意しかないイタズラじみた怖い話は終わった。この話の被害者は同区内の中学校全域にまで及び、嘘か本当かは不明だが学校によっては集会で禁止令が出されたところもあったという。

                       完    

 

 あとがき

 読者の皆様は若い頃この手の話が学校内などで流布された経験はございませんでしょうか?
 私は強がりながらも真剣にビビってしまった記憶があります。嘘だとわかっていても風呂場やトイレが苦手になった記憶もあったりなかったり……。

 今後の更新予定はわかりませんが次回は私本人が体験した話を元に書いてみようと思います。
 皆様どうかくれぐれも「ソーブンゼ」の呪文をお忘れなく……それではまた次回m(_ _)m

 

 

 
 
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