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***
『来月から見回りは外れる』と、彼は言っていた。先週うっかり店の窓から見かけてしまっていたので、更にもう1週間は警戒をした。のに。
今、店のカウンターにはリカルドがいる。カウンターの中にいるのは……私だ。
「……はぁ」
「はぁ、じゃねぇ。よくもまぁ逃げてくれたな」
「はい、すみません。でもあの、お客様の邪魔になるのでお買い物でなければ帰っていただきたいのですが?」
「もう店じまいの時間だな?」
リンゴーン、と夕方の鐘が街に鳴り響く。
「ぐぅ……」
「飯、おごるから行こう。」
「ごはん……」
ピクっと顔をあげる。正直、ご飯の誘いは嬉しい。実のところ、ここ最近はあまり大したものを食べていない。朝と昼はパンとスープ、夜は食堂で少しおかずを食べる。部屋にキッチンはあるが、まだ私の腕で自炊は難しかった。
「聞かなきゃならん話がたっぷりあるからな」
そういえば彼は私服姿だ。お休みの日まで私を探してたのか……と、ある意味感心する。
「シルヴィア、もう今日は上がっていいわ。観念して行ってらっしゃいな。引き伸ばして仕事に支障が出ると困るわ」
「ミアさん……。はい、わかりました。」
雇い主の言う事には従う、これは鉄則。
「騎士様、くれぐれもよろしくお願いしますね。」
「……わかりました、彼女次第ですが。念のため、明日はこちらはお休みですね?」
「ええ、そうです。どうぞ、ごゆっくり」
……そんなに絞られるのかな?
***
「まず、だな……あんな事した意味はあったか?」
「ありました!それはもう、効果絶大で!ありがとうございました!!」
「そこで礼を言うのかよ……」
深々と頭を下げる。だってほんとにそこは、感謝しているところなので。お陰でおかしな見合い話も立ち消え、実家の干渉も無くなり、仕事に専念できている。
「で、何も言わずに姿をくらました事については」
「えーと、ああいう事もしたので、その方が……後腐れないかな?と思って、ですね……」
「たっぷり俺は腐れてるんだが?」
お酒のグラスをコン、とテーブルに置く。すっかり据わった目がこちらを捉えていた。
「……何故、と聞いても?」
「当然だろ、家族同然なのに、突然消えてどこ行ったかもわからないなんて、心配するに決まってる」
「でも家族ではないです。あと、家族ならあんなことしません」
「……妻になら、する」
無言になる。そりゃそうですね、と思うが。
「……私は妻じゃないし」
「でも、妹でもない。他人だ」
「矛盾してますよ、リカルド様」
「なんだよその言葉遣い」
はぁ、ともう一度ため息をつく。
「姿を消した事はすみませんでした。でも、私の様なものが次期伯爵となる方の側にいるのは不自然かなと思ったのです」
「……変なとこ、律儀だよな。お前」
「変ですか」
「変だな」
ちんもく。立ちあがろうとしてみる。
「……お話、それだけならもう」
「まだある。有るけど、……ここじゃ話せない」
そう言って伝票を掴んで、彼が先に立ち上がる。
「行くぞ」
「え、どこに」
「俺んち」
えええ……どこの?
***
食事した店からほんの少し歩いて、『俺んち』に到着しました。どうやら彼も寮を出て一人暮らしを始めた様子。小綺麗な賃貸らしきその部屋は、一人暮らしには少し広いような、二人暮らしにちょうど良さそうな物件で……ただ、ものすごーく、物がなかった。
「なんというか……寒々しいお部屋ですね」
「色々と揃える時間までなくてな。……お前を探してたから」
そんなことを言われましても。
「いやほんとなんで、そこまで私を?あの時までそんな素振りなかったですよね?」
「勝手にやり逃げされて振り回されたら、変わるんだよ。何もかもな。」
あー。……やっちゃったからかぁ。
***
『来月から見回りは外れる』と、彼は言っていた。先週うっかり店の窓から見かけてしまっていたので、更にもう1週間は警戒をした。のに。
今、店のカウンターにはリカルドがいる。カウンターの中にいるのは……私だ。
「……はぁ」
「はぁ、じゃねぇ。よくもまぁ逃げてくれたな」
「はい、すみません。でもあの、お客様の邪魔になるのでお買い物でなければ帰っていただきたいのですが?」
「もう店じまいの時間だな?」
リンゴーン、と夕方の鐘が街に鳴り響く。
「ぐぅ……」
「飯、おごるから行こう。」
「ごはん……」
ピクっと顔をあげる。正直、ご飯の誘いは嬉しい。実のところ、ここ最近はあまり大したものを食べていない。朝と昼はパンとスープ、夜は食堂で少しおかずを食べる。部屋にキッチンはあるが、まだ私の腕で自炊は難しかった。
「聞かなきゃならん話がたっぷりあるからな」
そういえば彼は私服姿だ。お休みの日まで私を探してたのか……と、ある意味感心する。
「シルヴィア、もう今日は上がっていいわ。観念して行ってらっしゃいな。引き伸ばして仕事に支障が出ると困るわ」
「ミアさん……。はい、わかりました。」
雇い主の言う事には従う、これは鉄則。
「騎士様、くれぐれもよろしくお願いしますね。」
「……わかりました、彼女次第ですが。念のため、明日はこちらはお休みですね?」
「ええ、そうです。どうぞ、ごゆっくり」
……そんなに絞られるのかな?
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「まず、だな……あんな事した意味はあったか?」
「ありました!それはもう、効果絶大で!ありがとうございました!!」
「そこで礼を言うのかよ……」
深々と頭を下げる。だってほんとにそこは、感謝しているところなので。お陰でおかしな見合い話も立ち消え、実家の干渉も無くなり、仕事に専念できている。
「で、何も言わずに姿をくらました事については」
「えーと、ああいう事もしたので、その方が……後腐れないかな?と思って、ですね……」
「たっぷり俺は腐れてるんだが?」
お酒のグラスをコン、とテーブルに置く。すっかり据わった目がこちらを捉えていた。
「……何故、と聞いても?」
「当然だろ、家族同然なのに、突然消えてどこ行ったかもわからないなんて、心配するに決まってる」
「でも家族ではないです。あと、家族ならあんなことしません」
「……妻になら、する」
無言になる。そりゃそうですね、と思うが。
「……私は妻じゃないし」
「でも、妹でもない。他人だ」
「矛盾してますよ、リカルド様」
「なんだよその言葉遣い」
はぁ、ともう一度ため息をつく。
「姿を消した事はすみませんでした。でも、私の様なものが次期伯爵となる方の側にいるのは不自然かなと思ったのです」
「……変なとこ、律儀だよな。お前」
「変ですか」
「変だな」
ちんもく。立ちあがろうとしてみる。
「……お話、それだけならもう」
「まだある。有るけど、……ここじゃ話せない」
そう言って伝票を掴んで、彼が先に立ち上がる。
「行くぞ」
「え、どこに」
「俺んち」
えええ……どこの?
***
食事した店からほんの少し歩いて、『俺んち』に到着しました。どうやら彼も寮を出て一人暮らしを始めた様子。小綺麗な賃貸らしきその部屋は、一人暮らしには少し広いような、二人暮らしにちょうど良さそうな物件で……ただ、ものすごーく、物がなかった。
「なんというか……寒々しいお部屋ですね」
「色々と揃える時間までなくてな。……お前を探してたから」
そんなことを言われましても。
「いやほんとなんで、そこまで私を?あの時までそんな素振りなかったですよね?」
「勝手にやり逃げされて振り回されたら、変わるんだよ。何もかもな。」
あー。……やっちゃったからかぁ。
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