語彙力ゼロの騎士は言葉攻めできるか。

玉菜

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【前編】

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***

敷地の端にある仮眠室のある建物。その部屋は普段、仮眠室兼備品倉庫として使用されている。
この日、魔法省研究員のカールは、ドアの開閉を行う魔道具の実験をしていた。なぜか、この部屋のドアで。

入る時はスルーだが、中からは魔法陣に仕掛けたミッションをクリアしないと開かないという鬼仕様。

ドアの開放条件はその時々で変更できるようにしているのだが、今回は面白半分に「一人ならスルー、二人ならsexするまで出られない」という欲望にまみれた指示をし、一人で出入りを確認したあと、うっかりその魔法陣の解除をしないまま、その部屋を出てしまった。

騎士のケヴィン(19)は、その部屋に演習で使った魔道ランプを置いたら帰っていいと上官に言われて来た。そこに、同じようにリネンを収納にきた侍女のエミリア(21)が居合わせた。
二人は知り合いでもなく、全く偶然そこにやって来ただけである。

「あ、お疲れ様です」
「お疲れ様です。」

そう言って、すれ違う筈だった。ドアが、閉まらなければ。

ガチ。

先に部屋を出ようとノブを回したケヴィンの手が止まる。

「あれ?おかしいな」

ガチャガチャと何度かノブを回してみるが、ドアが開く気配はない。すると、シーツを収納したエミリアもドアのところにやって来た。

「え?ドア開かないんですか?」
「……そう、みたいです」

しばし呆然として沈黙した後、二人はドアを叩いて外に人がいないか呼びかける事にした。

「おーい、誰かいませんかー!」
「だれかー!」

しかし夕方の時間だったのが災いし、付近に人はいない様子だった。静まり返った棟で、ふたりは途方に暮れる。

「ええー、俺もう帰れるはずだったのに!何コレ」
「私も……えーもうなんで……?」
「あっ」
「えっ?」
「このドア、魔道具だ!研究棟で見たことある!」

ケヴィンがドアの上部にある特殊なロック機構に気づいた時には、すっかり日が暮れていた。暗くなりつつある室内で、ドアについた魔道具がぼんやりと明るく見える。動作している証拠の、魔法石の光だった。

「て、ことはこれ、何かしらの開放条件があるんですよ……ええ、めんどくさ!」
「なんでこんな部屋に……」
「あまり人が使ってない部屋で実験してるみたいです」
「そうなんだ……騎士様、詳しいですね」
「騎士様って柄じゃないけど……あ、俺、ケヴィンて言います。普段は魔法省の見回り業務、やってます」

そういえば名前も言ってなかったと、彼は改めて名乗った。

「私は魔法省侍女のエミリアです。洗ったシーツを仕舞いにきただけで、今日はそのまま帰っていいと言われたので……。この後、私がいない事に気づく人はいなそうです……」
「あーそれ、俺もだ……。」

どうやら二人とも、今姿が見えなくても「同僚が心配して探してくれる」という可能性がゼロに近かった。
薄暗くなってきたため、ケヴィンがさっき返却した魔道ランプを点けたので、明かりは確保できそうだ。

「出られるような道具とかないか、探してみましょうか」
「ですね」

自力で出られる要素はないものか、と、二人は部屋の中を探し回る。備品庫にされているだけあって、様々な物があるにはあったが、ドアをぶち壊せるようなものは見つからない。もうひとつ室内にあったドアの向こうは、小さなバスがついている。

「うーん、長期化しても水や排泄の確保は大丈夫そうだけど……出るにはやはり難しそうですね。ここ、3階だしな……」

窓から出るのも不可能そうな現状に、二人とも項垂れるしかなかった。

「開放条件みたいなの、ってわからないものなんですか?」
「魔法陣に記してあるとか聞いたけど……俺もそこまで魔力ある方じゃないから、見えるかな。どうだろ」
「なるほど……私も微力なんですよね……」

2人でドアの魔道具にもう一度近寄る。その魔法石にケヴィンが直に触れると、小さな魔法陣が浮かび上がった。

「あ、これか?読めるかな。えーと……?」

かろうじて解読できる文字だったものの、その内容が不可解だった。

「『室内に一人ならスルーできる、二人なら……』」
「二人なら?」
「『……sexすると開く』?!」

sexと、記されていた。

「……え?」
「だ……誰だこんな……恥知らずな……」
「……ほんとに?」
「あっ?!ウソじゃないよ、本当にそう書いてあるんだ!」
「ああ、いえ、ケヴィンさんを疑ったわけじゃないです。魔法陣作った人、本当に何考えてたのかな、って。」
「……ほんとに、ねぇ……」

頭をぽりぽりとかきながら、改めて彼は相手を見た。実はケヴィンはエミリアの事を少し知っていた。見回りをしている時に時々見かけて、「可愛い子だな」と思っていた相手なのだ。

当のエミリアは「えー」とか呟きながらドアノブをまだ回したりしている。
2人に今ある選択肢は二つだ。

1.明日の朝、誰かが部屋の近くに来るまで待つ
2.sexする

「……朝を待ちます、よね?」

エミリアが振り向いて、そう切り出す。

「それが無難ですよね。幸い、風呂はあるし……」
「着替えも、バスローブならありますよ。ここ、リネン庫でもあるので。」

そう言いながら、彼女はてきぱきとタオルやバスローブを出してきた。

「仮眠室だからベッドはありますけど、一台なのでケヴィン様どうぞ」
「え。女の子を椅子や床にとかありえないです。俺、野営に慣れてるし座って寝られるから、エミリアさんが使ってください」
「そんなの悪いです!お城を護っていただいてるんです、ケヴィン様がしっかり寝てください」

譲り合いが始まってしまうと長いが、妥当にエミリアがベッドを使うことになった。
その後、バスも譲り合いしてから、こちらはケヴィンが先に使うことになった。エミリアが入りながら掃除する、と言い張ったからだ。

「ケヴィン様は演習後でお疲れでしょうし、私は使ったらお掃除しないと、気持ち悪いので!」
「綺麗好きなんですね」
「職業病かもですけどね」

そう言って、ふふ、と笑う。
ここに入ってしまってから何かと不安だったけど、待つと決めたら互いに諦めと余裕が出てきたのかもしれない。

「じゃ、お先に使わせてもらいます」
「ごゆっくりどうぞ」

パタンとドアが閉まると、エミリアはふと冷静になった。

「……ヤバくない?あんな騎士様と朝まで一緒とか……なんのご褒美かしら……」

エミリアはごくごく普通の価値観の女性だった。恋に憧れもすれば、イケメンに騒いだりもする。ケヴィンは年下っぽいけど、一般的に見て十分にカッコいい騎士様である。平凡な自分とは、間違っても接点は無かったはずの相手だ。

「気さくだし、モテるんだろうなぁ。侍女なんか眼中にないかぁ。」

そんな事を思いながら、習慣的にベッドメイクをしていた。幸いベッドも部屋同様、定期的に使われているらしく、それほど埃っぽくもない。とりあえず、シーツ類を取り替えたら眠れそうでほっとした。

「ここが備品庫で幸いだったと思おう……」

椅子で寝る、というケヴィンのためにそこに毛布も準備していると、彼がバスから出てきた。

「すみません、先に使っちゃって」
「いえ、大丈夫です」
「あ、毛布!ありがとうございます」
「ほんとに椅子でいいんですか?」
「十分ですよ、屋内ですし」

確かに野営に比べたら百倍マシな環境だ。ケヴィンと入れ替わりにバスへと向かうエミリアを見送り、彼は椅子で短く濃い栗色の髪を拭いた。

「あー……あとは理性を……起こしておかねぇと」

正直な話、昼間に演習があったためか、精神的には興奮状態にあった。風呂で急いで抜いてはみたが、魔法陣にあった「sex」の文字に、妄想で色々と呼び起こされてしまったものは、なかなか収まらない。

それに、服を脱いでしまった。今はバスローブ一枚だ。季節的に寒いわけではないが、下着もつけていないので解放感たっぷりだ。さらに今から彼女も、そういう状態になる訳で。

「考えねーとか無理だな……」

両手を額に当てて俯く。バスローブ一枚になった彼女を妄想し、そのエミリアが頬を染めて自分に寄り添ってくる。その胸元に目をやると白い谷間が見え、そこにゆっくりと自分の無骨な手を這わせて……

「いやいやいやいや」

と、頭を振っていると

「どうかしましたか?」
「うわっ?!」

いつの間にか、彼女もバスから出て来ていた。驚いて椅子から立ち上がるが、妄想の中の彼女と現実の彼女が重なってしまい、慌てる事になった。

「あっ、あの、いえ、何でも?!」
「はぁ。えと、じゃあベッド……」
「ベッド?!あ、はい、ベッド!使っちゃってください!!どうぞ!!」

さっとベッドへと通路を開け、その場を濁す。

「ありがとう、ございます……?」

あまり見ないように視線を逸らしたが、自分の前をギリギリの距離で通り過ぎる彼女から、いい香りがした。同じ石鹸を使った筈なのに、なんだか自分とは違う気がして、ムズムズする。いやムズムズしてはならないのだ、と再び椅子に座り込んでため息をつく。

「ケヴィン様、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です!」

ちょっと吃ってしまったけれど、と改めて彼女を見れば……髪が濡れたままのようだ。

「あの、エミリアさん。髪、濡れたままだと風邪引きますよ」
「あれ?しっかり拭いたつもりだったんですが……」
「……ちょっとだけ、近寄ってもいいですか?」
「え?あ、はい?」

それを肯定と受け取り、彼女に近寄る。ベッドに腰掛けた彼女の綺麗な金色の旋毛を見ながら、その頭に両手をかざした。

「<ドライ>」

ボソッとそう呟くと、手のひらを中心に温風が渦巻いて、彼女の髪をふわりと乾かす。きらきらと舞う髪が美しい。

「わっ!魔法ですか?すごい!」
「生活魔法は、ちょっとだけできるので」
「わーもう乾いてる……すごーい!便利ですねぇ!」
「お役に立ててよかったです」

彼女がとても嬉しそうに笑うのを見て、ほっとする。しかしやはりまた、その胸元に目線を落としてしまった。先程の妄想と同様の、白い谷間がそこにある。
どきり、とした心臓を彼女に悟られないようにそっと目線をずらしたが、その目線の先はベッドだ。

「あ、えーと、じゃあ!」
「はい、ありがとうございました」

慌ててその場から立ち去ろうとした、その時。方向を変えようとしたのだが、動揺から足がもつれてバランスを崩してしまう。

「あっ!」
「きゃ?!」

そのまま、ベッドの方へ彼女を巻き込んで倒れてしまった。咄嗟に彼女を抱き込み、潰さないようにしたことは褒めて欲しい。

どさり、と二人で倒れ込んだベッドは少し硬く、抱き込んでおいてよかったと思う気持ちと……やばいと思う気持ちがせめぎ合った。なぜなら、彼女の胸の膨らみが彼の腹にがっつり当たっていたからだ。

「ご、ごめん!」
「いえ、あ、あのちょっと!動かないで!」

急いで離れようとしたが、バスローブを掴んで引き留められる。

「え?でも」
「バスローブが肌蹴てしまって、あの、し、下を見ないでください……!」
「え、下?」
「や、見ないでっ!」

つい自然に下に視線を落としてしまった。自分の足と彼女の足が、絡み合っている。もちろんどちらも、下着をつけてはいないのだ。
くらりと目眩を感じた気がして、顔が熱くなる。

「え、えっとあの……えっと……どうしよう」
「ま、待って……」

彼女が急いで肌蹴たバスローブを直そうとするが、震える手では思うようにならないようだ。裾を直そうとしているようだが、同時に胸元が緩く開いてしまいつつある。

「わっ、あの、エミリア、あの……」
「え?」
「む、胸が、今度はその……!俺はどうしたら……」
「きゃ!やだ、もう……」

彼の腕の中で俯いて縮こまり、バスローブを押さえている彼女の頸が、真っ赤に染まる。それを間近で見てしまい、欲情するなという方が無理だった。

「恥ずかしい、よね……ああもう、ヤバいな」
「あの、お見苦しいものをお見せして……すみません」
「えっ?!違うちがう!ヤバいのは俺!」
「ケヴィン様が、何か……?」

そっと顔を上げたエミリアが、上目遣いにケヴィンの瞳を覗く。その上気した顔までもが彼を煽る。

「うっ……待って、緊張して変な汗出てきた」
「えっ、大丈夫ですか?」
「あっ」

彼女が彼を心配して身動きしたその刹那、緩んだバスローブから白い胸がふるりと溢れてしまった。先端を彩るピンク色の蕾まではっきり見えてしまい、ケヴィンのケヴィンが完全に勃ち上がる。

「うわ、ごめん!俺がとんでもないことに」
「と、とんでもないのはこちらで……!」
「いや君はすごく綺麗だから!!」
「えっ」

顔を見合わせて、2人とも真っ赤になっているのがわかった。その視線の中には間違いなく、拒絶ではない光りが宿っている。

「あの……ええと、その……」
「はい……」
「あの、すれば、出られる、んだよね……」
「そう、ですね……」
「……す、する?」
「えと……あの、私が相手でケヴィン様はお嫌では」
「ない!それは絶対、ない!!」

その薄い肩を思わずつかみ、力いっぱい否定したら、エミリアは唖然とした。

「あの、でしたら……早く出られた方がいいとも思うので……」
「うん」
「ど、どうぞ……?」
「……ほんとに?いい?」

両肩をそっと掴んで覗き込むと、真っ赤な顔で頷かれる。夢のような肯定だった。

***
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