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三章 異次元秘密聖文書館
死ねばいい
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「サイファー・コード・コンプレックス・キーをストレイファス将軍の娘に奪われたわけか。しかし、まぁ……何というか……」
額に大きな絆創膏を貼り、客室の隅で華奢な身体をさらに小さくしているグレムリンを一瞥し、ユーゴはこの得も言えぬ状況に言葉もなかった。
折悪しくもまさか、ロイドの見合い相手である将軍の娘がロイドの居城にすでに居るとは、ここへ到着するまで夢にも思っていなかった。
“ロイドの様子を見てきます”、などと将軍に告げてこなかったのは正解だった。
「グレムリンの持つCCCKは、メインユニットに直接アクセスできるオリジナルキーだ。他に持っている者は俺とグラファイト。この城のどこへでも行けてしまうキーだが、行き先は全て記録される。もうグラファイトが見つけた」
ロイドが客室の中央に置かれた椅子から立ち上がると同時に、出入口の扉が開いた。
両手首を黒のボウタイで縛られたルクレツィアは、グラファイトに牽かれて入ってくるとそのまま長椅子に倒れ込んだ。
「おいおい……」まるで奴隷でも牽引しているかのような有り様にユーゴは内心唖然とし、わずかに視線を逸らせた。
グラファイトは“奪われたCCCK”をグレムリンに放り投げると、グレムリンは飛び上がってなんとかキャッチし、大切なキーが手元に戻ったことに安堵の表情を浮かべた。
「外してやれ」
ロイドが指示を出すと、グレムリンが長椅子に座るルクレツィアの前に片膝をついて身を屈め、手首を縛る黒のボウタイをほどいてやった。
グラファイトに手渡そうとボウタイを差し出したが、予想通り受け取らないので仕方なく自分のポケットに入れた。
「貴婦人には触れません。罰せられますから」
グラファイトは出入口の真横に立っているユーゴに向けて、昂然と弁解した。
人間を蛇蝎のごとく嫌うこの若きドラゴンは、自身の傲慢と行き過ぎた自尊心の代償としてウロボロスの焼印をその胸に刻まれた失態をもう忘れたようだった。
ユーゴはグラファイトの視線をまっすぐに見据えたが、沈黙を通した。
ルクレツィアは手首を擦りながらグラファイトを睨んでいたが、喚き散らすこともなく大人しくなっていた。
グレムリンの額の大きな絆創膏を見たからなのか、勢いでやらかしてしまったことに、今更ながら申し訳なく思い始めていたのかは定かではなかった。
「城の探検は楽しかったか。よりによって文書館へ行くとは……。何か見たのか?」
ロイドは長椅子の背後からルクレツィアに問いかけた。
「人形のようなメイドがいたわ」
「人形のようなメイド? 自動人形か」
「ああ……あの、気持ち悪い動く人形ね。背中に武器を背負っていたわ」
どうやら何もおかしなものは見ていないらしい。
「グラファイトの無礼はおまえのグレムリンへの暴挙と相殺だ。車を用意する。大人しく待っていろ」
ロイドはグレムリンとグラファイトに車が用意されるまで見張ってるよう指示を出すと、ユーゴと共に廊下へ出た。
ロイドと共に執務室へ歩を進めながらユーゴは「言いたいことが3つある」と切り出した。
3という数字が好きなのか、それとも先に宣言することで相手を聞き役に徹させるためなのか、ユーゴの言いたいことはいつだって3つあった。
「グラファイトの傲慢は日が経つにつれ助長している。従者は主に似る。おまえと長く一緒にいるせいで、おまえそっくりに成長しつつある」
赤い絨毯の上を悠然と歩くロイドの背中へ語りかけた。
ロイドは鼻で笑った。
この上ない賛辞を浴びたかのように。
ユーゴは気にせず2つ目の話題に移った。
「ストレイファス将軍が、おまえがゲイかバイかとの噂を聞きつけたそうだ」
「どっちでもいい。なんだったらグレムリンよろしくアジェンダーでもいい」
ロイドは意に介さず即答した。
「おまえならそういうと思っていた。だが、娼楼へ立ち寄らないのを理由に、誰かを城に囲っているのではないかとの噂もたっている」
執務室のドアノブに手をかけたロイドは動きを止めてユーゴを振り返った。
「聞こえなかった、何だって?」
ロイドは予想外で解読困難な発言に対して何度も聞き返す癖があった。
「おまえがユノアを隠している噂がたっているんだ」
ユーゴはわざと具体的にロイドの心を揺さぶる言い回しをした。
「俺はもともと娼楼へは行かない。誰がそんな噂を?」
「“誰が”は、もはや問題ではない。そもそも、噂のていを借りて、将軍本人が疑問を抱いているのかもしれない。一を疑えば全てを疑わしく思いたがるのが人間だ。事実とは関係なく自分の都合の良いように解釈したがる。根も葉もない噂ならば放っておくのも良いが、これを機に偽装結婚するのもアリかもしれないな」
「ふざけてるのか?」
「冗談だよ」
ユーゴにしては珍しいあけすけな冗談にロイドはむっとした。
ユノアが絡むと平常心ではいられなかった。
「なぁ、さっきの話、おかしいと思わないか?」
ロイドは思案顔で切り出した。
「なんの話しだ」
「自動人形は見るからに人形だ」
「ああ、そうだな。見るからに人形だ」
ユーゴはロイドの話の意図が見えず復唱した。
「あの娘は言った。“人形のようなメイドに会った”と。明らかに人形を目にして“ような”、なんて表現をするか?」
ユーゴはしばしその言葉を吟味したのち、こう答えた。
「ロイ、あの娘はとても頭が良いとは思えない。ただの語彙力の問題のように思う。それにあの文書館はこの城の中でも特に異質な領域だ。おまえの考えすぎだろう」
「そうかな……」
ユーゴはロイドの疑念の真意を推察しかねて話を先に進めた。
「3つ目の話はユローシヴィ要塞攻略の件だ。今朝の議題でもあった。おまえは欠席してたがな。中で話そう」
ロイドは頷き、執務室の扉を開けた。
大きな執務室の扉の真正面の壁一面は、天井まであるテラス窓で、その手前にロイドの執務机がある。
その執務机にユノアが座っていた。
真っ白で艶やかなショートボブの髪は、片側が耳にかけられている。
大きな白いショールを肩にかけ、ウォルナットの机の天板に置かれた手には、書類が握られていた。
高い背もたれのある大きな皮張りの執務椅子に浅めに座ったユノアは右目は銀色、左目はグリーンに輝くオッドアイで、まるで活人画のように部屋に入りかけで動きを止めた二人の男を見つめた。
興味深げな視線を返す金髪碧眼の洗練されたスマートな男と、予期せぬ事態に警戒心もあらわに鋭く突き刺すような視線を投げる男。
ロイドは食い縛った歯の間から言った。
「ユノア。なぜここにいる?」
「ユローシヴィは要塞じゃない」
ユノアはロイドの質問を無視し、手に持つ書類を眺めた。
ロイドは扉を閉めると三歩で部屋を横切り、執務机まで来ると両手を天板に置きぐっと前かがみになった。
「俺の質問に答えろ。どうやってここへ来た?」
「そんなことが大事なことなの?」
ロイドは激昂しそうになる感情を、頭を垂れ目をつむって押し殺した。
「ユローシヴィは要所を守る砦じゃない。城塞地下都市よ。地下135階。巨大都市が広がっている。この計画書に書かれている事はでたらめばかり。なんの役にも立たない」
「ユノア……」
ユローシヴィが要塞か城塞地下都市かは、今はどうでも良かった。
CCCK持たないユノアがなぜ階上にあるこの執務室へたどり着けたのかを知ることが最重要だった。
浴室とダイニングとユノアの自室は二階にあった。
二階までのある一定の範囲内は自由に行動してもいいことにしていた。
CCCKがなければどこへも行けないのだから気を揉む必要がない。
だが、どういう理由かユノアはここにいる。
「死ねばいい」
ロイドははっとして顔を上げた。
「なんだと……?」
「悠久の時を経て歴史からその名は消え去り、今では廃墟と成り果てたユローシヴィ城塞地下都市は、迫害された佯狂者たちの最後の聖域。あなた達はここへ聖地巡礼でもしに行くつもりなの? でも、ただでお参りはできないわ。貢ぎ物が必要よ。都市の内部は人間の屍を糧に独自の生態系が形成されている。未知のモンスターはもちろん既存の生物も閉鎖された特殊な環境によって意外な進化を遂げているものもある。そして地下へ進めば進むほど、仕掛けられた罠は複雑で破滅的になる。ここを調査しようとした記録は多々あるけれども誰も生きては還れなかった。どれだけの規模で調査するのか知らないけれど、地下10階に到達するまでに半数の部下が神に召される。悲惨な姿となって。あなたの見る景色は朽ち果てた幾多の古い屍と、これから作られる新しいあなたの部下の屍の山。もちろん、遺体は回収されずその場で朽ち果てるか魔物の餌になる。自責の念に苛まれても、もう遅い。その頃には出口は塞がれあなたは進む他無くなる。地下32階の最奥に黄金に輝く枯れない花が群生する広間がある。もしかしたら、あなたはそれを持って帰りたいなんて思うかもしれない。でもそれは叶わぬ願い。ロイ、あなたの命はそこで尽きる。無知で無謀な作戦に部下を巻き込み全滅させた不名誉な指揮官としてその名を歴史に残す」
ユノアの輝くオッドアイはロイドの漆黒の瞳を捉えて離さなかった。
まるでその場に居合わせたかのような情景描写と、無機質で心のこもらぬ抑揚のない声音が言葉の辛辣さと冷淡さを際立たせた。
時が止まったようにしばらく誰も動こうとしなかった。
“人形のようなメイド”
ルクレツィアの言葉を思い出し、ロイドはその表現がごく自然だと思えた。
「文書館」
ロイドが言葉を発しようとしたその時、背後で手を叩く音がした。
額に大きな絆創膏を貼り、客室の隅で華奢な身体をさらに小さくしているグレムリンを一瞥し、ユーゴはこの得も言えぬ状況に言葉もなかった。
折悪しくもまさか、ロイドの見合い相手である将軍の娘がロイドの居城にすでに居るとは、ここへ到着するまで夢にも思っていなかった。
“ロイドの様子を見てきます”、などと将軍に告げてこなかったのは正解だった。
「グレムリンの持つCCCKは、メインユニットに直接アクセスできるオリジナルキーだ。他に持っている者は俺とグラファイト。この城のどこへでも行けてしまうキーだが、行き先は全て記録される。もうグラファイトが見つけた」
ロイドが客室の中央に置かれた椅子から立ち上がると同時に、出入口の扉が開いた。
両手首を黒のボウタイで縛られたルクレツィアは、グラファイトに牽かれて入ってくるとそのまま長椅子に倒れ込んだ。
「おいおい……」まるで奴隷でも牽引しているかのような有り様にユーゴは内心唖然とし、わずかに視線を逸らせた。
グラファイトは“奪われたCCCK”をグレムリンに放り投げると、グレムリンは飛び上がってなんとかキャッチし、大切なキーが手元に戻ったことに安堵の表情を浮かべた。
「外してやれ」
ロイドが指示を出すと、グレムリンが長椅子に座るルクレツィアの前に片膝をついて身を屈め、手首を縛る黒のボウタイをほどいてやった。
グラファイトに手渡そうとボウタイを差し出したが、予想通り受け取らないので仕方なく自分のポケットに入れた。
「貴婦人には触れません。罰せられますから」
グラファイトは出入口の真横に立っているユーゴに向けて、昂然と弁解した。
人間を蛇蝎のごとく嫌うこの若きドラゴンは、自身の傲慢と行き過ぎた自尊心の代償としてウロボロスの焼印をその胸に刻まれた失態をもう忘れたようだった。
ユーゴはグラファイトの視線をまっすぐに見据えたが、沈黙を通した。
ルクレツィアは手首を擦りながらグラファイトを睨んでいたが、喚き散らすこともなく大人しくなっていた。
グレムリンの額の大きな絆創膏を見たからなのか、勢いでやらかしてしまったことに、今更ながら申し訳なく思い始めていたのかは定かではなかった。
「城の探検は楽しかったか。よりによって文書館へ行くとは……。何か見たのか?」
ロイドは長椅子の背後からルクレツィアに問いかけた。
「人形のようなメイドがいたわ」
「人形のようなメイド? 自動人形か」
「ああ……あの、気持ち悪い動く人形ね。背中に武器を背負っていたわ」
どうやら何もおかしなものは見ていないらしい。
「グラファイトの無礼はおまえのグレムリンへの暴挙と相殺だ。車を用意する。大人しく待っていろ」
ロイドはグレムリンとグラファイトに車が用意されるまで見張ってるよう指示を出すと、ユーゴと共に廊下へ出た。
ロイドと共に執務室へ歩を進めながらユーゴは「言いたいことが3つある」と切り出した。
3という数字が好きなのか、それとも先に宣言することで相手を聞き役に徹させるためなのか、ユーゴの言いたいことはいつだって3つあった。
「グラファイトの傲慢は日が経つにつれ助長している。従者は主に似る。おまえと長く一緒にいるせいで、おまえそっくりに成長しつつある」
赤い絨毯の上を悠然と歩くロイドの背中へ語りかけた。
ロイドは鼻で笑った。
この上ない賛辞を浴びたかのように。
ユーゴは気にせず2つ目の話題に移った。
「ストレイファス将軍が、おまえがゲイかバイかとの噂を聞きつけたそうだ」
「どっちでもいい。なんだったらグレムリンよろしくアジェンダーでもいい」
ロイドは意に介さず即答した。
「おまえならそういうと思っていた。だが、娼楼へ立ち寄らないのを理由に、誰かを城に囲っているのではないかとの噂もたっている」
執務室のドアノブに手をかけたロイドは動きを止めてユーゴを振り返った。
「聞こえなかった、何だって?」
ロイドは予想外で解読困難な発言に対して何度も聞き返す癖があった。
「おまえがユノアを隠している噂がたっているんだ」
ユーゴはわざと具体的にロイドの心を揺さぶる言い回しをした。
「俺はもともと娼楼へは行かない。誰がそんな噂を?」
「“誰が”は、もはや問題ではない。そもそも、噂のていを借りて、将軍本人が疑問を抱いているのかもしれない。一を疑えば全てを疑わしく思いたがるのが人間だ。事実とは関係なく自分の都合の良いように解釈したがる。根も葉もない噂ならば放っておくのも良いが、これを機に偽装結婚するのもアリかもしれないな」
「ふざけてるのか?」
「冗談だよ」
ユーゴにしては珍しいあけすけな冗談にロイドはむっとした。
ユノアが絡むと平常心ではいられなかった。
「なぁ、さっきの話、おかしいと思わないか?」
ロイドは思案顔で切り出した。
「なんの話しだ」
「自動人形は見るからに人形だ」
「ああ、そうだな。見るからに人形だ」
ユーゴはロイドの話の意図が見えず復唱した。
「あの娘は言った。“人形のようなメイドに会った”と。明らかに人形を目にして“ような”、なんて表現をするか?」
ユーゴはしばしその言葉を吟味したのち、こう答えた。
「ロイ、あの娘はとても頭が良いとは思えない。ただの語彙力の問題のように思う。それにあの文書館はこの城の中でも特に異質な領域だ。おまえの考えすぎだろう」
「そうかな……」
ユーゴはロイドの疑念の真意を推察しかねて話を先に進めた。
「3つ目の話はユローシヴィ要塞攻略の件だ。今朝の議題でもあった。おまえは欠席してたがな。中で話そう」
ロイドは頷き、執務室の扉を開けた。
大きな執務室の扉の真正面の壁一面は、天井まであるテラス窓で、その手前にロイドの執務机がある。
その執務机にユノアが座っていた。
真っ白で艶やかなショートボブの髪は、片側が耳にかけられている。
大きな白いショールを肩にかけ、ウォルナットの机の天板に置かれた手には、書類が握られていた。
高い背もたれのある大きな皮張りの執務椅子に浅めに座ったユノアは右目は銀色、左目はグリーンに輝くオッドアイで、まるで活人画のように部屋に入りかけで動きを止めた二人の男を見つめた。
興味深げな視線を返す金髪碧眼の洗練されたスマートな男と、予期せぬ事態に警戒心もあらわに鋭く突き刺すような視線を投げる男。
ロイドは食い縛った歯の間から言った。
「ユノア。なぜここにいる?」
「ユローシヴィは要塞じゃない」
ユノアはロイドの質問を無視し、手に持つ書類を眺めた。
ロイドは扉を閉めると三歩で部屋を横切り、執務机まで来ると両手を天板に置きぐっと前かがみになった。
「俺の質問に答えろ。どうやってここへ来た?」
「そんなことが大事なことなの?」
ロイドは激昂しそうになる感情を、頭を垂れ目をつむって押し殺した。
「ユローシヴィは要所を守る砦じゃない。城塞地下都市よ。地下135階。巨大都市が広がっている。この計画書に書かれている事はでたらめばかり。なんの役にも立たない」
「ユノア……」
ユローシヴィが要塞か城塞地下都市かは、今はどうでも良かった。
CCCK持たないユノアがなぜ階上にあるこの執務室へたどり着けたのかを知ることが最重要だった。
浴室とダイニングとユノアの自室は二階にあった。
二階までのある一定の範囲内は自由に行動してもいいことにしていた。
CCCKがなければどこへも行けないのだから気を揉む必要がない。
だが、どういう理由かユノアはここにいる。
「死ねばいい」
ロイドははっとして顔を上げた。
「なんだと……?」
「悠久の時を経て歴史からその名は消え去り、今では廃墟と成り果てたユローシヴィ城塞地下都市は、迫害された佯狂者たちの最後の聖域。あなた達はここへ聖地巡礼でもしに行くつもりなの? でも、ただでお参りはできないわ。貢ぎ物が必要よ。都市の内部は人間の屍を糧に独自の生態系が形成されている。未知のモンスターはもちろん既存の生物も閉鎖された特殊な環境によって意外な進化を遂げているものもある。そして地下へ進めば進むほど、仕掛けられた罠は複雑で破滅的になる。ここを調査しようとした記録は多々あるけれども誰も生きては還れなかった。どれだけの規模で調査するのか知らないけれど、地下10階に到達するまでに半数の部下が神に召される。悲惨な姿となって。あなたの見る景色は朽ち果てた幾多の古い屍と、これから作られる新しいあなたの部下の屍の山。もちろん、遺体は回収されずその場で朽ち果てるか魔物の餌になる。自責の念に苛まれても、もう遅い。その頃には出口は塞がれあなたは進む他無くなる。地下32階の最奥に黄金に輝く枯れない花が群生する広間がある。もしかしたら、あなたはそれを持って帰りたいなんて思うかもしれない。でもそれは叶わぬ願い。ロイ、あなたの命はそこで尽きる。無知で無謀な作戦に部下を巻き込み全滅させた不名誉な指揮官としてその名を歴史に残す」
ユノアの輝くオッドアイはロイドの漆黒の瞳を捉えて離さなかった。
まるでその場に居合わせたかのような情景描写と、無機質で心のこもらぬ抑揚のない声音が言葉の辛辣さと冷淡さを際立たせた。
時が止まったようにしばらく誰も動こうとしなかった。
“人形のようなメイド”
ルクレツィアの言葉を思い出し、ロイドはその表現がごく自然だと思えた。
「文書館」
ロイドが言葉を発しようとしたその時、背後で手を叩く音がした。
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