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サマリー1 音無光平
評価と訓練
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プロ意識からなのかSTとして向き合おうと思ったとたん、以前感じていた彼女の美貌がほとんど気にならなくなっていた。
「フィーネさん、発音を治したくはない?」
「え!? な、治るんですた? ととの音の呪いは治らない不治の病、呪いだって……」
「でも君は練習を続けているよね」
「小さいとろや だとぅ院(がくいん)で学んだととを思い出して、ふとぅ習(ふくしゅう)をとぅりたえして(繰り返して)いるんです……でもあれ以来一度も魔法だ発動したととはありません」
ひどく落ち込んだ様子であった。
普段の溌溂とした明るさが嘘のように、現実を突きつけられ少しつつけば崩れ落ちてしまいそうなほどに脆く薄氷を踏むような精神状態であったのかもしれない。
「僕はね、前のせ、えっと言葉を治す仕事をしていたんだ。もしかしたら君の力になれるかと思ってさ、とりあえず口の中を見せて欲しい。舌の動きもチェックしたいな」
「え!? く、とぅちの中ですた?」
「舌の動きに制限がかかっていて発音がうまくできないケースがある。症状を把握するためには問題点をしっかり把握することが大切なんだ」
恥ずかしがっていたフィーネではあるが、覚悟を決め口を開き始めた。
構音障害の原因になりうる可能性があったのはk音 つまり軟口蓋摩擦音(なんこうがいまさつおん)の構音点である軟口蓋の形状把握だ。
軟口蓋とは俗にいう【のどちんこ】とその上部の組織のことだ。
「舌の動きを真似してみて、上、下、右、左、回して、舌の裏を舐められる?」
他の音の状況や可動域などをチェックしてみても、鼻咽腔閉鎖機能に問題はない。
これは鼻腔(びくう)と口腔(こうくう)を自分の意志で閉じたり開いたりできる機能とも言える。
鼻に抜ける音と抜けない音、飲み物を飲むとき鼻にいかないよう閉じたりなどに関わる。
一通りするりこなしてみせるフィーネ。口腔内の形状には問題が見られない、無論 軟口蓋もだ。
不思議そうな顔をしているが、綺麗な歯と唇だから余計に動きのスムーズさが伝わってくる。
「舌や口腔内の動きに問題はないね、じゃあ音を真似してみて」
それから50音に関する復唱を試してみたが、やはりカ行がタ行に置換していた。
音の聞き分け事態は出来ている。
こうなると、年齢的にありえないが機能的構音障害に近い状態と考えるしかない。ならば試してみるか。
「じゃあ新しい音を勉強してみよう。詠唱に役立つかもしれないからね」
この一言でフィーネは食いついた。
がっつりと、逃がしてたまるかという気迫すら感じられる。決意の念が目から迸っているようにさえ見える。さすが聖賢の乙女、集中力と覚悟に圧倒されそうだ。
森の中でのやりとりでは色々と不便なので、治療院の屋上に椅子を持ってきての簡易訓練室に移動することにした。
「じゃあ 口を開けながらやってみよう。繰り返してね」
光平 : んー
フィーネ: んー
「よしうまいぞ、つぎはこれだ」
光平 : あー
フィーネ: あー
「うまいね」
「あのとの音は誰でも出せる音だと思うのですだ」
「そうだよ、出せる音から知らない音を作っていくんだ」
「次は 同じく口を開けながら、こう」
光平 : んーー あーー
フィーネ: んーー あーー
「うまい!」
「え、えっととんなととで本当に良いのですた?」
「いいんだよ、じゃあ続けていくぞ」
光平 : んー あー
フィーネ: んー あー
「いいね、短くなってもついていけるね」
フィーネは本当にこんなことでいいのだろうか、という不思議そうな顔をしているが、魔法が使えるようになるかもしれないという微かな希望にしがみついているのが分かる。
大丈夫だ、しがみつかなくても。もうすぐそこだ。
「じゃあ今度は、二つをくっつけてみよう。んーとあーをできるだけくっつけて続けて言えるかな?」
光平 : んーあー
フィーネ: んーあー
「すごい!」
「なんだたすごいととって思えないのですだ」
「なんだって? じゃあもっと短く言える!?」
「いてます!」
この子の良い面での勝気さが表に出てきた瞬間だ。
この反応を引き出せたことに、光平は自分のことのような喜びに打ち震える。
フィーネ: んーあー
んーあー
光平 : もっと短く!
フィーネ: んあー
んŋあー
「それ!」
今確実に ŋ の音を引き出せた。
この音がどんな聴覚印象を与えるのかというと、 ん と が のあいだの音。
「んが」 をすごく短く圧縮したように聞こえるだろう。鼻に抜ける「が」の音と想起してもらえばいい。
この音を導くための「んー あー」練習であったのだ。
口を開けた状態で「んーあー」を繰り返すと、ちょうどカ行の構音点である軟口蓋と舌の奥が接し摩擦音として生成される現象である。気になった方は試してみて欲しい。 / ŋ/が生成されているのを自覚できると思う。
「じゃあ今のを短く繰り返してみよう」
「はい」
フィーネは必死に食いついた。
訓練効果を定着させるため、一回15分程度を毎日繰り返した。
焦る気持ちを抑えながら、フィーネは宿舎に戻っても練習を欠かさないらしい。
新しい未獲得の音を習得するには、単発練習だけではあまり意味がない。
日常的に扱えるレベルでの習熟、般化(はんか)とも呼ばれる段階への到達こそが重要。
こうして一週間ほど単純な単音訓練を継続していった結果……
「じゃあ後に続いてね」
「はい!」
光平 : んーŋあー
フィーネ: んーŋあー
「いいね! 今のはすごくいい!」
「やった!」
弾ける笑顔に引き摺られ周囲の空気が煌めいたような気がした。
そろそろ次の段階だな。
「じゃあ次は 【んŋあー】を他の音と組み合わせて練習してみるよ。目的は新しい音を学ぶためだからね」
「はい、先生!」
新しい音ということを強調しておくことにした。
就学前後の子が陥りやすい機能的構音障害では、思い込みにより音の間違った認識と使用により様々な発音の勘違いが生じる。
口腔内の形状や動きに問題がある子や口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)など先天的な形態異常のあるケースとは異なり、健常で生じる発音問題とも言える。
しかし、フィーネの場合には学業は優秀で運動障害もない健康体での現象。
後発的に獲得した構音技術を喪失という、光平のいた世界では考えにくい症状であった。
もちろん医学には絶対はないし、基本的にカルテや報告書でも断定的表現は避けるのが通例である。「~ことがある」という表現があれば医学系テストでは◎という通説もあるほどだ。
この症状の原因となる疾患としては、後天的な特殊疾患により小脳などの運動記憶領域の微細脳梗塞、両側被殻(ひかく)や聴覚運動野の特異的失認症状……と強引に考えられなくもない。
だが不自然すぎるのだ。
新しい音として学習中の /ŋ/ 音についての構音運動にはなんら問題が生じていない。
これから待ち受ける最大の難関は、単語や短文レベルで構音可能かどうか。
意味を持った言葉がどういった現象、発語を生じさせるかは予測不可能であると。
「フィーネさん、発音を治したくはない?」
「え!? な、治るんですた? ととの音の呪いは治らない不治の病、呪いだって……」
「でも君は練習を続けているよね」
「小さいとろや だとぅ院(がくいん)で学んだととを思い出して、ふとぅ習(ふくしゅう)をとぅりたえして(繰り返して)いるんです……でもあれ以来一度も魔法だ発動したととはありません」
ひどく落ち込んだ様子であった。
普段の溌溂とした明るさが嘘のように、現実を突きつけられ少しつつけば崩れ落ちてしまいそうなほどに脆く薄氷を踏むような精神状態であったのかもしれない。
「僕はね、前のせ、えっと言葉を治す仕事をしていたんだ。もしかしたら君の力になれるかと思ってさ、とりあえず口の中を見せて欲しい。舌の動きもチェックしたいな」
「え!? く、とぅちの中ですた?」
「舌の動きに制限がかかっていて発音がうまくできないケースがある。症状を把握するためには問題点をしっかり把握することが大切なんだ」
恥ずかしがっていたフィーネではあるが、覚悟を決め口を開き始めた。
構音障害の原因になりうる可能性があったのはk音 つまり軟口蓋摩擦音(なんこうがいまさつおん)の構音点である軟口蓋の形状把握だ。
軟口蓋とは俗にいう【のどちんこ】とその上部の組織のことだ。
「舌の動きを真似してみて、上、下、右、左、回して、舌の裏を舐められる?」
他の音の状況や可動域などをチェックしてみても、鼻咽腔閉鎖機能に問題はない。
これは鼻腔(びくう)と口腔(こうくう)を自分の意志で閉じたり開いたりできる機能とも言える。
鼻に抜ける音と抜けない音、飲み物を飲むとき鼻にいかないよう閉じたりなどに関わる。
一通りするりこなしてみせるフィーネ。口腔内の形状には問題が見られない、無論 軟口蓋もだ。
不思議そうな顔をしているが、綺麗な歯と唇だから余計に動きのスムーズさが伝わってくる。
「舌や口腔内の動きに問題はないね、じゃあ音を真似してみて」
それから50音に関する復唱を試してみたが、やはりカ行がタ行に置換していた。
音の聞き分け事態は出来ている。
こうなると、年齢的にありえないが機能的構音障害に近い状態と考えるしかない。ならば試してみるか。
「じゃあ新しい音を勉強してみよう。詠唱に役立つかもしれないからね」
この一言でフィーネは食いついた。
がっつりと、逃がしてたまるかという気迫すら感じられる。決意の念が目から迸っているようにさえ見える。さすが聖賢の乙女、集中力と覚悟に圧倒されそうだ。
森の中でのやりとりでは色々と不便なので、治療院の屋上に椅子を持ってきての簡易訓練室に移動することにした。
「じゃあ 口を開けながらやってみよう。繰り返してね」
光平 : んー
フィーネ: んー
「よしうまいぞ、つぎはこれだ」
光平 : あー
フィーネ: あー
「うまいね」
「あのとの音は誰でも出せる音だと思うのですだ」
「そうだよ、出せる音から知らない音を作っていくんだ」
「次は 同じく口を開けながら、こう」
光平 : んーー あーー
フィーネ: んーー あーー
「うまい!」
「え、えっととんなととで本当に良いのですた?」
「いいんだよ、じゃあ続けていくぞ」
光平 : んー あー
フィーネ: んー あー
「いいね、短くなってもついていけるね」
フィーネは本当にこんなことでいいのだろうか、という不思議そうな顔をしているが、魔法が使えるようになるかもしれないという微かな希望にしがみついているのが分かる。
大丈夫だ、しがみつかなくても。もうすぐそこだ。
「じゃあ今度は、二つをくっつけてみよう。んーとあーをできるだけくっつけて続けて言えるかな?」
光平 : んーあー
フィーネ: んーあー
「すごい!」
「なんだたすごいととって思えないのですだ」
「なんだって? じゃあもっと短く言える!?」
「いてます!」
この子の良い面での勝気さが表に出てきた瞬間だ。
この反応を引き出せたことに、光平は自分のことのような喜びに打ち震える。
フィーネ: んーあー
んーあー
光平 : もっと短く!
フィーネ: んあー
んŋあー
「それ!」
今確実に ŋ の音を引き出せた。
この音がどんな聴覚印象を与えるのかというと、 ん と が のあいだの音。
「んが」 をすごく短く圧縮したように聞こえるだろう。鼻に抜ける「が」の音と想起してもらえばいい。
この音を導くための「んー あー」練習であったのだ。
口を開けた状態で「んーあー」を繰り返すと、ちょうどカ行の構音点である軟口蓋と舌の奥が接し摩擦音として生成される現象である。気になった方は試してみて欲しい。 / ŋ/が生成されているのを自覚できると思う。
「じゃあ今のを短く繰り返してみよう」
「はい」
フィーネは必死に食いついた。
訓練効果を定着させるため、一回15分程度を毎日繰り返した。
焦る気持ちを抑えながら、フィーネは宿舎に戻っても練習を欠かさないらしい。
新しい未獲得の音を習得するには、単発練習だけではあまり意味がない。
日常的に扱えるレベルでの習熟、般化(はんか)とも呼ばれる段階への到達こそが重要。
こうして一週間ほど単純な単音訓練を継続していった結果……
「じゃあ後に続いてね」
「はい!」
光平 : んーŋあー
フィーネ: んーŋあー
「いいね! 今のはすごくいい!」
「やった!」
弾ける笑顔に引き摺られ周囲の空気が煌めいたような気がした。
そろそろ次の段階だな。
「じゃあ次は 【んŋあー】を他の音と組み合わせて練習してみるよ。目的は新しい音を学ぶためだからね」
「はい、先生!」
新しい音ということを強調しておくことにした。
就学前後の子が陥りやすい機能的構音障害では、思い込みにより音の間違った認識と使用により様々な発音の勘違いが生じる。
口腔内の形状や動きに問題がある子や口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)など先天的な形態異常のあるケースとは異なり、健常で生じる発音問題とも言える。
しかし、フィーネの場合には学業は優秀で運動障害もない健康体での現象。
後発的に獲得した構音技術を喪失という、光平のいた世界では考えにくい症状であった。
もちろん医学には絶対はないし、基本的にカルテや報告書でも断定的表現は避けるのが通例である。「~ことがある」という表現があれば医学系テストでは◎という通説もあるほどだ。
この症状の原因となる疾患としては、後天的な特殊疾患により小脳などの運動記憶領域の微細脳梗塞、両側被殻(ひかく)や聴覚運動野の特異的失認症状……と強引に考えられなくもない。
だが不自然すぎるのだ。
新しい音として学習中の /ŋ/ 音についての構音運動にはなんら問題が生じていない。
これから待ち受ける最大の難関は、単語や短文レベルで構音可能かどうか。
意味を持った言葉がどういった現象、発語を生じさせるかは予測不可能であると。
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