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不気味なお茶会(フレデリック視点)

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    今日は、突然だがロゼリアが友人を招いてお茶会をしたいと言ってきた。
 なぜか最近王宮の使用人の数がかなり減ってしまったのであまり豪華な準備は出来ないがそれでもいいと言うので許可をした。

 だって、友人に俺を紹介したいから――――なんてあんな可愛い笑顔で言われたら断れるはずがないじゃないか。ロゼリアの友人ならさぞかし素晴らしい淑女たちであろう。フッ、俺の美しさに惚れなければ良いがな。












 そして今、俺は令嬢たちに囲まれている。しかしそれは思っていた状況とはだいぶ違っていた。

 ……なぜだ?!なぜこうなった?!




「まぁぁぁぁぁ、これは噂以上ですわね……」

「はぁーはぁーはぁー、なんて素晴らしい逸材……」

「まさかここまでとは……眼福ですわぁ!」

「えっ、これってどこまでオッケーなんですかぁ?!」

「皆様落ち着いてください。お触り以外なら本日は無礼講ですわよ。ね?フレデリック殿下」

「あ、あぁ!どうぞくつろいでくれ」

 今まで恥ずかしいからと全然俺の名前を口にしなかったロゼリアが、にっこりと微笑みながら名前を呼んでくれたので嬉しくなり思わず頷いたがお触り以外は無礼講ってなんだ?

 さっきから俺を舐め回すように見つめてくるこの令嬢たち。もちろん視線を向けられるとは思っていたが、これは想像していた恋慕の視線とは違う気がしてならない。
 そして、いくら無礼講だと言ったとは言え王子である俺に対する態度ではないことはあきらかなのに、誰もそれを気にする様子は無かった。

 だって鼻息は荒いし目はギラギラしてるし、ちょっと涎が出てるし……瞬きせずにガン見しながらひたすら紙になにかを書いている令嬢もいる。ちょっと怖い。

「ロ、ロゼリア、この令嬢たちは……」

 なにか変じゃないか?そう聞こうとした。だがロゼリアは嬉しそうににっこりと微笑んだ。

「皆さん、とても素晴らしいご令嬢たちですのよ。わたしの大切なお友達なので、フレデリック殿下も仲良くしてくださると嬉しいです。なんと言ってもこの方たちはわたしと同じ〈に憧れる会〉に所属なされてる仲間で、みんなで競いあってを目指しているのですよ」

「ほ、ほう。を目指しているなのか……」

 そう言われて改めて令嬢たちを見るが、どう見ても貴婦人たる気品があるとは思えなかった。結婚したあとは付き合いを控えさせないといけないかもしれないな。これならテイレシアの方がまだマシだ。あいつは尻軽だと判明したが外面はよかったからな。

 せめてお茶を飲もうと手を伸ばすが、よく見たらお茶会なのにティーカップすら準備されていない。確かアルファン伯爵の紹介で新しく入った見習い執事がいたはずなのに何をしているんだ。まだ年若い少年だとはいえ不手際にも程がある。その見習い執事を探そうと腰を浮かせるが、突如目の前ギリギリに令嬢たちが詰めよって来て再び腰をおろした。

「ねぇ、殿下!お聞きしたいことがたくさんあるんです!無礼講ならよろしいでしょうか?!」

「う、うむ」

 この令嬢たちはやたら積極的のようだ。しかしやはりそこに恋慕の情は感じない。なんだろう、まるで見世物にでもなっているようで居心地が悪い。

「殿下は、筋肉質な方はお好きですか?」

「は?」

 普段パーティー会場で俺に寄ってくる令嬢ならば必ず「好きな女性のタイプは?」と聞いてくるのに、俺は一体何を聞かれているんだ?

「あ、やっぱり太マッチョより細マッチョですよね?!わたくしは隠れマッチョが良いと思うんです!」

「もう、アマリリス様ったら本当にマッチョ好きなんだからぁ」

「だってマッチョがマッチョを抱き締める時の筋肉のぶつかり合いがなんとも……うふふ」

 アマリリスと呼ばれた令嬢は、ひまわり色の豊かな髪と鮮やかな夕焼けのような瞳をした美しい令嬢だった。……筋肉についてうっとりした顔で語っているが。

「はぁーはぁーはぁー、それならあたくしは隠れ細マッチョがいいですわ!普段は弱々しいのにいざとなったら攻めに転じるんですの!……フレデリック殿下も、どちらかというと細マッチョかしら?!」

「まぁ、ユーレイル様だってなかなかのマッチョ通ですこと」

 ユーレイルと呼ばれた令嬢は藍色の髪をハーフアップにしていてマリンブルーの瞳をしたこれまた美しい令嬢だ。ずっと鼻息を荒くして俺の体を瞬きもせずにガン見さえしてなければ、だが。

「フレデリック殿下はまさに理想的な殿方ですわねぇ……ぐふふふ」

「いいんですかぁ?!NGなしなんですかぁ?!か、絡みは?!よし、わっかりましたぁぁぁ!!」

「まぁぁぁぁぁ。サエリナ様もマデリン様も張り切ってますわねぇ」

 見事な赤毛にレモン色の瞳をしたサエリナ嬢と亜麻色の髪と瞳のマデリン嬢もそれぞれとても美しい顔立ちをしている。ヨダレを垂らしながらうっとりしていたり、目を血走らせて紙に物凄い勢いでなにかを書いてさえいなければダンスにくらい誘ったかもしれない。

 なんなんだこのお茶会は?いや、これはお茶会なのか?この気味の悪い令嬢どもはなんなんだ?女に囲まれてこんなにも居心地が悪いと感じたのは生まれてはじめてだ。

 戸惑う俺を穏やかな笑みを浮かべて見ているロゼリアの顔を見たとき、初めて彼女が“何を考えているかわからない”と感じる。

 そして、ふと浮かぶのはアルファン伯爵との心安らぐあの時間だった。

 そういえばアルファン伯爵はどこに?とそわそわと視線を動かすが見当たらない。

「なぁ、ロゼリア。アルファン伯爵はどこへ行ったんだ」

「ジークにい様ですか?それならほら……あちらに」

 そうロゼリアが指差した方向には、確かにアルファン伯爵がいた……見習い執事の少年と一緒に。
 頬を赤く染めている見習い執事に優しい微笑みを向けるアルファン伯爵の姿を見てなぜかチクリと胸が痛んだ。

「あ、あれはどういうことだ……」

 自分の口から震えた声が出て驚くが、アルファン伯爵の微笑みがあの見習い執事に向けられていることに俺は苛立ちを感じているようだった。

「フレデリック殿下?」

「くっ……許せん!」

 気が付いたら俺はアルファン伯爵の元へと走り出していたのだ。





 令嬢たちとロゼリアがニヤリと口元を歪めながら見ているとも知らずに……。





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