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怒りと嫉妬
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※残酷な表現があります。苦手な方は御注意下さい。
ぽーん ぽーん ぽーん
それは手のひらよりも大きな丸い何かだった。
完全な球体ではなく少し卵形をした歪なそれは、骨だけの指にはじかれては床に叩き付けられその反動でまた骨だらけの手のひらの中に戻ってくるを繰り返している。
「ぐえっ」「べはぁっ」「がふっ」
床に叩き付けられるたびにそれが不快な音を奏でたが、骨の指が動きを止めることはなかった。
「待たせたすまないね、不死王」
「暇潰しに遊んでいたから問題ない。それで君の大切な花嫁殿は?」
「今は眠っているよ。傷も全て治してきた。妖精たちが心配して群がっていたから任せてきたよ」
にこりと微笑む妖精王の顔にわずかな疲れを感じとり不死王は手を動かしつつもその指に力が籠る。
「がふぇっ」
「そんなに傷が酷かったのか?」
「ぶほぉっ」
「命に別状は無いし、体の傷自体はそれほどたいしたものでもなかったが……心の方がね」
「もお、やめ゛っ」
「そうか、それは気の毒に」
「い゛だい゛っ「うるさい」ぎぃやぁぁぁぁぁぁあっ!」
苛立ち始めた不死王が指の動きを止めてそれを思い切り踏みつける。骨だけの足は黒い革のブーツに包まれているがその靴底には金剛石で出来た鋭いヒールが備えられていて、そのヒールがわめくそれの右目を貫いた。
ずるりとヒールの先を引き抜くと、ドロリとした液体が目玉があった場所から溢れ出て床を汚した。
「……悪い、少し壊してしまった」
「大丈夫さ、脳さえ無事ならいくらでも記憶を覗けるからね」
妖精王は笑みを張り付けたままその場に屈み、汚れるのも厭わず未だわめいているそれに指を這わせる。
「……なるほど。ラメルーシェがいなくなってから不幸の連続に見舞われたか。そしてそれをラメルーシェのせいにして逆恨みし、わざわざ探しに来たとはなんとも迷惑な話だ。どうやらラメルーシェが自分を呪ったなどと妄想したようだよ」
妖精王の抑揚のない声に不死王が肩を竦める。
「それはまた被害妄想が酷いな。逆に今までは花嫁殿がいたから妖精王の加護の力の恩恵を得ていただけだろうに。例えわずかに滲み出るささやかな力の欠片だとしても、人間にしたら相当な力のはずだ。その花嫁殿との縁を切ったのだから恩恵が消え元々が持つ運命に戻っただけの話だ。馬鹿につける薬は無いと言うが……確かにどんなに薬も効きそうにない」
「本当に。ラメルーシェは家族や元婚約者に対して恨み言など言わなかった。それどころか、それぞれ幸せになってくれたらいいとさえ思っていたのに……。
だからこそ俺はお前たちに何もしなかったのだ。それに、ラメルーシェを失った反動で今まで押さえられていた不幸が押し寄せるだろうとわかっていたしな。だが誤解するなよ?お前たちに降りかかった不幸は全てお前たちが生み出したものだ。ただラメルーシェが巻き込まれるような不幸は押さえ込まれていただけのこと。
……そう、全てはお前たちのせいなのだ」
ブスリ。と鈍い音を立ててわめき散らすもう片方の目玉に指を突き刺した。
「ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁ」
「この目が、あのラメルーシェを見ていたと思うとなんとも憎たらしいものだ。不死王よ、これの体は?」
「そこに転がっているぞ」
不死王が指差した方向には確かに首の無い体が糸の切れた人形のように無造作に転がっている。妖精王は指を引き抜き耳障りな音を出すばかりのそれを爪先で蹴飛ばしてから体の方に赴き、「この手がラメルーシェに触れたのか」と、どこからともなく出した太い杭をその体の手のひらに突き刺す。
「ぎゃあっ!」
「体の方の痛みも全て頭に行くようにしてあるぞ。気絶することすら許されずにずっと苦しむから……」
だから、気が済むまで遊んでこい。と、不死王が笑った。
ぽーん ぽーん ぽーん
それは手のひらよりも大きな丸い何かだった。
完全な球体ではなく少し卵形をした歪なそれは、骨だけの指にはじかれては床に叩き付けられその反動でまた骨だらけの手のひらの中に戻ってくるを繰り返している。
「ぐえっ」「べはぁっ」「がふっ」
床に叩き付けられるたびにそれが不快な音を奏でたが、骨の指が動きを止めることはなかった。
「待たせたすまないね、不死王」
「暇潰しに遊んでいたから問題ない。それで君の大切な花嫁殿は?」
「今は眠っているよ。傷も全て治してきた。妖精たちが心配して群がっていたから任せてきたよ」
にこりと微笑む妖精王の顔にわずかな疲れを感じとり不死王は手を動かしつつもその指に力が籠る。
「がふぇっ」
「そんなに傷が酷かったのか?」
「ぶほぉっ」
「命に別状は無いし、体の傷自体はそれほどたいしたものでもなかったが……心の方がね」
「もお、やめ゛っ」
「そうか、それは気の毒に」
「い゛だい゛っ「うるさい」ぎぃやぁぁぁぁぁぁあっ!」
苛立ち始めた不死王が指の動きを止めてそれを思い切り踏みつける。骨だけの足は黒い革のブーツに包まれているがその靴底には金剛石で出来た鋭いヒールが備えられていて、そのヒールがわめくそれの右目を貫いた。
ずるりとヒールの先を引き抜くと、ドロリとした液体が目玉があった場所から溢れ出て床を汚した。
「……悪い、少し壊してしまった」
「大丈夫さ、脳さえ無事ならいくらでも記憶を覗けるからね」
妖精王は笑みを張り付けたままその場に屈み、汚れるのも厭わず未だわめいているそれに指を這わせる。
「……なるほど。ラメルーシェがいなくなってから不幸の連続に見舞われたか。そしてそれをラメルーシェのせいにして逆恨みし、わざわざ探しに来たとはなんとも迷惑な話だ。どうやらラメルーシェが自分を呪ったなどと妄想したようだよ」
妖精王の抑揚のない声に不死王が肩を竦める。
「それはまた被害妄想が酷いな。逆に今までは花嫁殿がいたから妖精王の加護の力の恩恵を得ていただけだろうに。例えわずかに滲み出るささやかな力の欠片だとしても、人間にしたら相当な力のはずだ。その花嫁殿との縁を切ったのだから恩恵が消え元々が持つ運命に戻っただけの話だ。馬鹿につける薬は無いと言うが……確かにどんなに薬も効きそうにない」
「本当に。ラメルーシェは家族や元婚約者に対して恨み言など言わなかった。それどころか、それぞれ幸せになってくれたらいいとさえ思っていたのに……。
だからこそ俺はお前たちに何もしなかったのだ。それに、ラメルーシェを失った反動で今まで押さえられていた不幸が押し寄せるだろうとわかっていたしな。だが誤解するなよ?お前たちに降りかかった不幸は全てお前たちが生み出したものだ。ただラメルーシェが巻き込まれるような不幸は押さえ込まれていただけのこと。
……そう、全てはお前たちのせいなのだ」
ブスリ。と鈍い音を立ててわめき散らすもう片方の目玉に指を突き刺した。
「ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁぁ」
「この目が、あのラメルーシェを見ていたと思うとなんとも憎たらしいものだ。不死王よ、これの体は?」
「そこに転がっているぞ」
不死王が指差した方向には確かに首の無い体が糸の切れた人形のように無造作に転がっている。妖精王は指を引き抜き耳障りな音を出すばかりのそれを爪先で蹴飛ばしてから体の方に赴き、「この手がラメルーシェに触れたのか」と、どこからともなく出した太い杭をその体の手のひらに突き刺す。
「ぎゃあっ!」
「体の方の痛みも全て頭に行くようにしてあるぞ。気絶することすら許されずにずっと苦しむから……」
だから、気が済むまで遊んでこい。と、不死王が笑った。
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