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襲われました

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    私の体の上にのし掛かってきたローランド様は肩を力強く掴んできた。

「痛い……!」

    不揃いに伸びた爪が肩の肉に食い込み血が滲む。身を捩って逃げようとしたがそれは叶わなかった。

「お前のせいだ……!お前が悪いんだ!」

    憎悪と憎しみの塊のような目で私を貫くローランド様は以前のような優雅さは欠片も無く、本当に人の形をした獣のようで私にはただ恐怖でしかない。

    そんなローランド様の口からは、信じられない事が語られたのだ。

「いいか、お前がいなくなってからすぐさま公爵家は潰れた。お前の兄は乗馬中に落馬して打ち所が悪かったそうで今も寝たきりだ。もう2度と歩く事は叶わないらしい。
    そして父親のロジスクス公爵は裏でやっていた悪事がなぜか全て暴露され犯罪者の烙印を押され、爵位は剥奪され罪人となった。死ぬまで奴隷として最下層で働く事が決まった。そしてロジスクス夫人は自ら命を絶ったぞ。

    それだけならまだいい。公爵家が潰れようと俺には関係ないはずだった。だが、お前はこの尊き俺まで呪ったんだ」

    まさか、父と母……いえ、両親だった人たちがそんなことになっているとは思わなかった。兄に至ってはほとんど会話をした記憶すらない。あの人たちはいつも私を蔑んだ目で見下すだけだった。どんなに愛されたいと願っても家族の愛は得られなかったからか、家族だった人たちに対する情は薄い。それでも、決してそんな目に合って欲しいとは思っていなかった。

    私が口を開かずにただ震えているだけだったのが気に入らなかったのかローランド様は右手を振り上げ私の頬を殴った。

「!」

    バシッ!と音を立て、その衝撃に身を竦める。口の中にほのかに鉄の味が広がった。

「公爵家が取り潰しとなり、領地や財産などの後始末に追われた。俺の手を煩わせたのは罪だが、それでもちゃんと後始末してやったのに!次は俺が呪われた!

    ……ファリーナが死んだんだ!俺の愛するファリーナが暴漢に襲われ見るも無惨な姿になって発見された!」

    ローランド様が叫んだ名前は、あの日……ローランド様が私に婚約破棄を言い渡した日に隣にいた令嬢の名前だった。白く美しい肌をした子爵令嬢。彼女は不用心にも夜に出歩いて暴漢に襲われた。乱暴された上に体をナイフで引き裂かれた姿で湖に浮かんでいたらしい。

    バシッ!と鈍い音を立てて反対側の頬を殴られる。痛くて怖くて悲しかったが、恐怖と混乱で私は抵抗出来ずにいた。

「俺はファリーナの死を悲しみ、犯人を探そうと躍起になった。暴漢共はすぐに捕まったが……そしたらどうだ!今度は俺が呪われた!

    俺は王子だ!この国の第三王子なんだ!それなのにあんな些細な事で陥れられるなんて……!あんな……!

    王子が、ギャンブルをやって何が悪い?!平民の女と遊んで何が悪い!?あんな借金くらい王家の財産があれば簡単に返せるのに!あの女共も妊娠しただのなんだのとわざわざ王城に訴えやがって……!あまりに煩わしいから殺しただけなのに、なぜ俺が罪人にならねばならないんだ!」

    そしてローランド様は「これも全部、お前が呪ったんだろう?!不気味な痣を持った呪われた女のくせに、俺を逆恨みしやがって……!」と、私の首にその手をかけたのでした。



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