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悪夢の始まりでした
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「えっ、今日はお出かけされるのですか?」
ここでの暮らしにもだいぶ慣れた頃、いつものようにふたりで朝食を終えた後にウィル様はものすごく嫌そうな顔をして頭を項垂れながら口を開いた。
「……そうなんだ。今日だけはどうしてもラメルーシェの側を離れなくてはいけないと思うと今から憂鬱で……」
なんでも今日は100年に1回の大切な集まりがあるそうだ。それは妖精王と肩を並べる方々との会合らしく、世界の均衡を保つ為にもどうしても必要なのだとか。
本当なら私もその場に連れていって皆に紹介したいと仰ってくれたのだが、まだ人間のままである私はその空間には入れないそうなのだ。
せ、正式にお嫁さんになれば入れるそうなのだが……それってつまり、そういう事をした後なのだそうで……ごにょごにょ。
婚約者とは名ばかりで、まだちゃんとキスすらしておりませんから……。
子供のように「行きたくない~っ」と私を背後から抱き締めるウィル様の姿に小さな妖精たちも困っているようである。
「……ウィル様、妖精王としての大切なお仕事なのですから駄々を捏ねずに会合に行ってください」
「……ラメルーシェがご褒美をくれるなら、行こうかな」
そう言ったかと思うと私に自分の頬を向けてくる。少しだけ意地悪そうに笑っているのは気のせいかしら?
「ご、ご褒美……ですか?」
言わんとする事がわかりごにょごにょと誤魔化そうとするが彼の楽しそうな笑みに負け、意を決した。
ちゅ。と、彼の頬に私の唇の先を触れさせる。まるで小鳥のついばみのような一瞬のキスだが、自分からこんな大胆な行動に出るなんて恥ずかしすぎて顔から湯気が出てきそうだ。
「お、お仕事、頑張ってきてください……」
「うん、ラメルーシェのおかげでいつもより頑張れそうだ。全員の意見をねじ伏せてすぐに帰ってくるから待ってて」
いえ、話し合いはちゃんとしてくださいよ?
こうしてウィル様はお仕事に行ってしまった。ここへ来てからこんな風にひとりになるのは初めてなのでどうしたものか。
私のまわりをふよふよと浮かぶ小さな妖精たちと頭を悩ませるが、ふと思い付いた。
「そうだわ、ウィル様に何か贈り物が出来ないかしら」
思えばあの日からウィル様にお世話になりっぱなしだ。せめてものお返しがしたいと思った。
すると妖精たちが集まり手振り身ぶりで何かを伝えてきた。小さな妖精たちの言葉はハッキリとはわからないがなんとなく感情は伝わってくるのである。これも私と妖精たちの絆が深まればだんだんわかってくると言われた。
どうやら森の中に不思議な木があるようだ。その木に咲く花からは糸が採れるらしい。なるほど、妖精たちの服はその花の糸から作られていると……。
「その糸って私でも分けてもらえるかしら?」
手慰みにと覚えただけだったがレースを編むことが出来る。それでリボンか何かが作れないだろうか。
「リボンなら、邪魔にはならないわよね?ウィル様の綺麗な髪を結ってさしあげたいわ」
すると妖精たちの光がぴょんぴょんと弾けるように輝き、同意して喜んでくれているようだった。
この森には人間を寄せ付けないための結界があるそうで、例のあの泉がその結界の境目になっている。そしてその木は森の結界の強化にも役立っていて森と外との境目にあるようだ。早速妖精たちと向かう事にした。
その時は“キヲツケテ”と、妖精たちの言葉がハッキリと流れ込んできた。境目の外に出ると結界で守れなくなるからと。
「……今、あなたたちの言葉がわかったわ」
“ボクラハ、ラメルーシェガダイスキ。ウィルサマガダイスキ”
「……私も、大好きよ」
素直に嬉しいと思った。初めての友達が出来た気分だった。
「私たち、ウィル様が大好き同士ね」
みんなで世界一のリボンを編もうと意気揚々と屋敷の外に出たのだった。
まさかこの判断が、こんなことを引き起こすなんて思いもせずに……。
***
妖精たちとその木の元に行けば、花は綺麗な糸をたくさん採らせてくれた。花の蜜が糸へと変化しているようで花びらの中からシュルシュルと糸が出てくる光景はとても不思議だ。光加減で蜂蜜色にも銀色にも見える糸はとえも美しい。
「糸がこんなにたくさん……!これなら妖精たちみんなの分もリボンが編めるわーーーー」
“ラメルーシェ、アブナイ!”
ほんの一瞬。
足が滑ったのだ。滑って、転けないようにと足の方向を変えた先が、足のほんの先だけが……境目を出てしまった。
すぐに引き戻せばなんの問題もなかったはずだった。
まさか、その足を誰かに掴まれ結界から引きずり出されるなんて思いもしなかったのだ。
「ーーーー見つけた。やっぱり生きていたんだな、ラメルーシェ」
「……っ!」
そこにいたのは、少しやつれた姿で飢えた獣のような恐ろしい目をした男。
元婚約者であった、ローランド様だった。
「な、なぜここに……は、離して!」
「お前のせいだ。お前のせいで俺は……!お前が俺を呪ったんだろう?!全部お前のせいだぁぁぁ!!」
言葉が通じないのか興奮気味のローランド様はギラギラした目を見開き、唾を飛ばしながら私に襲いかかってきたのだった。
ここでの暮らしにもだいぶ慣れた頃、いつものようにふたりで朝食を終えた後にウィル様はものすごく嫌そうな顔をして頭を項垂れながら口を開いた。
「……そうなんだ。今日だけはどうしてもラメルーシェの側を離れなくてはいけないと思うと今から憂鬱で……」
なんでも今日は100年に1回の大切な集まりがあるそうだ。それは妖精王と肩を並べる方々との会合らしく、世界の均衡を保つ為にもどうしても必要なのだとか。
本当なら私もその場に連れていって皆に紹介したいと仰ってくれたのだが、まだ人間のままである私はその空間には入れないそうなのだ。
せ、正式にお嫁さんになれば入れるそうなのだが……それってつまり、そういう事をした後なのだそうで……ごにょごにょ。
婚約者とは名ばかりで、まだちゃんとキスすらしておりませんから……。
子供のように「行きたくない~っ」と私を背後から抱き締めるウィル様の姿に小さな妖精たちも困っているようである。
「……ウィル様、妖精王としての大切なお仕事なのですから駄々を捏ねずに会合に行ってください」
「……ラメルーシェがご褒美をくれるなら、行こうかな」
そう言ったかと思うと私に自分の頬を向けてくる。少しだけ意地悪そうに笑っているのは気のせいかしら?
「ご、ご褒美……ですか?」
言わんとする事がわかりごにょごにょと誤魔化そうとするが彼の楽しそうな笑みに負け、意を決した。
ちゅ。と、彼の頬に私の唇の先を触れさせる。まるで小鳥のついばみのような一瞬のキスだが、自分からこんな大胆な行動に出るなんて恥ずかしすぎて顔から湯気が出てきそうだ。
「お、お仕事、頑張ってきてください……」
「うん、ラメルーシェのおかげでいつもより頑張れそうだ。全員の意見をねじ伏せてすぐに帰ってくるから待ってて」
いえ、話し合いはちゃんとしてくださいよ?
こうしてウィル様はお仕事に行ってしまった。ここへ来てからこんな風にひとりになるのは初めてなのでどうしたものか。
私のまわりをふよふよと浮かぶ小さな妖精たちと頭を悩ませるが、ふと思い付いた。
「そうだわ、ウィル様に何か贈り物が出来ないかしら」
思えばあの日からウィル様にお世話になりっぱなしだ。せめてものお返しがしたいと思った。
すると妖精たちが集まり手振り身ぶりで何かを伝えてきた。小さな妖精たちの言葉はハッキリとはわからないがなんとなく感情は伝わってくるのである。これも私と妖精たちの絆が深まればだんだんわかってくると言われた。
どうやら森の中に不思議な木があるようだ。その木に咲く花からは糸が採れるらしい。なるほど、妖精たちの服はその花の糸から作られていると……。
「その糸って私でも分けてもらえるかしら?」
手慰みにと覚えただけだったがレースを編むことが出来る。それでリボンか何かが作れないだろうか。
「リボンなら、邪魔にはならないわよね?ウィル様の綺麗な髪を結ってさしあげたいわ」
すると妖精たちの光がぴょんぴょんと弾けるように輝き、同意して喜んでくれているようだった。
この森には人間を寄せ付けないための結界があるそうで、例のあの泉がその結界の境目になっている。そしてその木は森の結界の強化にも役立っていて森と外との境目にあるようだ。早速妖精たちと向かう事にした。
その時は“キヲツケテ”と、妖精たちの言葉がハッキリと流れ込んできた。境目の外に出ると結界で守れなくなるからと。
「……今、あなたたちの言葉がわかったわ」
“ボクラハ、ラメルーシェガダイスキ。ウィルサマガダイスキ”
「……私も、大好きよ」
素直に嬉しいと思った。初めての友達が出来た気分だった。
「私たち、ウィル様が大好き同士ね」
みんなで世界一のリボンを編もうと意気揚々と屋敷の外に出たのだった。
まさかこの判断が、こんなことを引き起こすなんて思いもせずに……。
***
妖精たちとその木の元に行けば、花は綺麗な糸をたくさん採らせてくれた。花の蜜が糸へと変化しているようで花びらの中からシュルシュルと糸が出てくる光景はとても不思議だ。光加減で蜂蜜色にも銀色にも見える糸はとえも美しい。
「糸がこんなにたくさん……!これなら妖精たちみんなの分もリボンが編めるわーーーー」
“ラメルーシェ、アブナイ!”
ほんの一瞬。
足が滑ったのだ。滑って、転けないようにと足の方向を変えた先が、足のほんの先だけが……境目を出てしまった。
すぐに引き戻せばなんの問題もなかったはずだった。
まさか、その足を誰かに掴まれ結界から引きずり出されるなんて思いもしなかったのだ。
「ーーーー見つけた。やっぱり生きていたんだな、ラメルーシェ」
「……っ!」
そこにいたのは、少しやつれた姿で飢えた獣のような恐ろしい目をした男。
元婚約者であった、ローランド様だった。
「な、なぜここに……は、離して!」
「お前のせいだ。お前のせいで俺は……!お前が俺を呪ったんだろう?!全部お前のせいだぁぁぁ!!」
言葉が通じないのか興奮気味のローランド様はギラギラした目を見開き、唾を飛ばしながら私に襲いかかってきたのだった。
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