上 下
4 / 20

見つけました

しおりを挟む
『千年だ、千年探し続けた。とうとう、“乙女”の魂を見つけたぞ』

    星屑のように煌めく銀髪をふわりと靡かせた、それはそれは美しい人がそこにいた。

    いやではあり得ない美しさを持った彼は……そう、彼は妖精王だ。

    濃い蜂蜜色の瞳が“私”をとらえ、優しく微笑みかけてくる。

    彼は“私”の魂に触れ、形のよい唇をそっと開いてこう言ったのだ。

『“乙女”よ、君が地上に生まれ落ちてから17年経ったその時に迎えに行く。待っていてくれ。俺は永遠に君を愛すると誓うよ』

    その時まで、君が愛され守られるように“印”を残しておこうーーーー。と







    ラメルーシェの胸にある痣には秘密があった。

    そこには、妖精の文字が刻まれていたのだ。

『この娘は妖精王の寵愛を受ける魂の持ち主である。妖精王が花嫁として迎えに行くまで大切に育ててくれれば、未来永劫の妖精王の加護を与えると約束しよう』

    この魂がどんな家に産まれるかまでは妖精王にもわからなかった。だからこそ、わざと目立つように痣として“印”を残したのである。普通の人間には妖精の文字は読めないしただの奇妙な痣に見えるだけだが、少しでも力のある聖職者が見ればすぐにわかるはずだった。

    我が子に奇妙な痣があるとなれば、きっと不思議に思い教会に行くだろう。そうすればすぐに子供がどれだけ貴重な存在かわかる。この娘を17年大切に育てればその家には未来永劫の妖精王の加護が手に入るのだ。

    妖精は自然と共にいる存在だ。妖精の加護があれば作物は豊富に育ち災害に遭うこともなくなる、妖精王のとなればその国ごと加護を受けることになるだろう。

    きっと、たくさん愛されて育っているはずだ。





    妖精王は人間の世界に疎い。だが、千年前までは人間には信仰心があり、例え貧困層でも子供が産まれればだいたいの夫婦が礼拝を受けていたはずだった。もしも奇妙な痣があるとなれば尚更だ。

    だが魂を見つけたものの、その魂がどのタイミングで生を受けるかは神しかわからない。しかし生まれ落ちるまで魂を見張っているわけにもいかなかったので“印”をつけたのだ。

    この魂が体を持ってから17年経ったらわかるように。それまでに乙女を迎い入れる準備をしなくてはと、妖精王は魂の元を離れた。

    神様は気まぐれだ。千年探し続けてやっと見つけた魂が、それからさらに何百年と転生せずにいて……やっとこの世に生を受けた時には、妖精王が知っている常識など廃れてしまい、妖精の文字が見えるような聖職者などいなくなっていたなんて想像もつかなかった。もしも神に祈り嘆けば何か変わったかもしれないが、ラメルーシェの周りにいる大人は誰ひとりとしてそうしなかったのだ。

    妖精の存在などお伽噺だとしか思っていない人間がその痣を見て気付くはずもなく、ラメルーシェは虐げられてきたのだ。せめて産まれた家が平民の家ならばここまで酷い扱いは受けなかったかもしれないが、逆に気味悪がられてすぐに捨てられていた可能性もあった。




    17年の時間が過ぎた。幸か不幸か貴族の、公爵家の家に産まれ約束の時まで生き延びたラメルーシェが人間の世界に唯一残る“妖精の泉”に辿り着いたのは……これも神の気まぐれだったのかもしれない。




    ちゃぷん……。

    冷たい泉の中から浮かび上がるように生還したラメルーシェの体にふわふわと淡い光が飛び交った。それは白く柔らかな布のようになり、ラメルーシェの体を包む絹のシンプルなドレスへと変貌する。

    濡れているはずの肌や髪は雫もなく柔らかな風がその頬を撫でた。

    ラメルーシェの胸から広がる痣が光り輝き出し、その光りが体から離れ……文字の羅列を組み合わせて宙に魔方陣のような模様を浮かび上がらせる。

    そして、その光から妖精王が姿を現した。

『約束の時は来た。迎えに来たぞ、我が乙女よ……』

    妖精王は未だ目を覚まさないラメルーシェの体をそっと抱き締めた。



今まで感じたことのないぬくもりに意識が戻ってくる。

    私はこのぬくもりを知っている。ずっとずっと昔……生まれるずっと前に、私を愛してくれると誓ってくれた人のぬくもりだ。

    魂が歓喜に震えるのを感じた。

    やっと、見つけたーーーー。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

私が妻です!

ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。 王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。 侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。 そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。 世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。 5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。 ★★★なろう様では最後に閑話をいれています。 脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。 他のサイトにも投稿しています。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈 
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

処理中です...