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『千年だ、千年探し続けた。とうとう、“乙女”の魂を見つけたぞ』
星屑のように煌めく銀髪をふわりと靡かせた、それはそれは美しい人がそこにいた。
いや人ではあり得ない美しさを持った彼は……そう、彼は妖精王だ。
濃い蜂蜜色の瞳が“私”をとらえ、優しく微笑みかけてくる。
彼は“私”の魂に触れ、形のよい唇をそっと開いてこう言ったのだ。
『“乙女”よ、君が地上に生まれ落ちてから17年経ったその時に迎えに行く。待っていてくれ。俺は永遠に君を愛すると誓うよ』
その時まで、君が愛され守られるように“印”を残しておこうーーーー。と
ラメルーシェの胸にある痣には秘密があった。
そこには、妖精の文字が刻まれていたのだ。
『この娘は妖精王の寵愛を受ける魂の持ち主である。妖精王が花嫁として迎えに行くまで大切に育ててくれれば、未来永劫の妖精王の加護を与えると約束しよう』
この魂がどんな家に産まれるかまでは妖精王にもわからなかった。だからこそ、わざと目立つように痣として“印”を残したのである。普通の人間には妖精の文字は読めないしただの奇妙な痣に見えるだけだが、少しでも力のある聖職者が見ればすぐにわかるはずだった。
我が子に奇妙な痣があるとなれば、きっと不思議に思い教会に行くだろう。そうすればすぐに子供がどれだけ貴重な存在かわかる。この娘を17年大切に育てればその家には未来永劫の妖精王の加護が手に入るのだ。
妖精は自然と共にいる存在だ。妖精の加護があれば作物は豊富に育ち災害に遭うこともなくなる、妖精王のとなればその国ごと加護を受けることになるだろう。
きっと、たくさん愛されて育っているはずだ。
妖精王は人間の世界に疎い。だが、千年前までは人間には信仰心があり、例え貧困層でも子供が産まれればだいたいの夫婦が礼拝を受けていたはずだった。もしも奇妙な痣があるとなれば尚更だ。
だが魂を見つけたものの、その魂がどのタイミングで生を受けるかは神しかわからない。しかし生まれ落ちるまで魂を見張っているわけにもいかなかったので“印”をつけたのだ。
この魂が体を持ってから17年経ったらわかるように。それまでに乙女を迎い入れる準備をしなくてはと、妖精王は魂の元を離れた。
神様は気まぐれだ。千年探し続けてやっと見つけた魂が、それからさらに何百年と転生せずにいて……やっとこの世に生を受けた時には、妖精王が知っている常識など廃れてしまい、妖精の文字が見えるような聖職者などいなくなっていたなんて想像もつかなかった。もしも神に祈り嘆けば何か変わったかもしれないが、ラメルーシェの周りにいる大人は誰ひとりとしてそうしなかったのだ。
妖精の存在などお伽噺だとしか思っていない人間がその痣を見て気付くはずもなく、ラメルーシェは虐げられてきたのだ。せめて産まれた家が平民の家ならばここまで酷い扱いは受けなかったかもしれないが、逆に気味悪がられてすぐに捨てられていた可能性もあった。
17年の時間が過ぎた。幸か不幸か貴族の、公爵家の家に産まれ約束の時まで生き延びたラメルーシェが人間の世界に唯一残る“妖精の泉”に辿り着いたのは……これも神の気まぐれだったのかもしれない。
ちゃぷん……。
冷たい泉の中から浮かび上がるように生還したラメルーシェの体にふわふわと淡い光が飛び交った。それは白く柔らかな布のようになり、ラメルーシェの体を包む絹のシンプルなドレスへと変貌する。
濡れているはずの肌や髪は雫もなく柔らかな風がその頬を撫でた。
ラメルーシェの胸から広がる痣が光り輝き出し、その光りが体から離れ……文字の羅列を組み合わせて宙に魔方陣のような模様を浮かび上がらせる。
そして、その光から妖精王が姿を現した。
『約束の時は来た。迎えに来たぞ、我が乙女よ……』
妖精王は未だ目を覚まさないラメルーシェの体をそっと抱き締めた。
今まで感じたことのないぬくもりに意識が戻ってくる。
私はこのぬくもりを知っている。ずっとずっと昔……生まれるずっと前に、私を愛してくれると誓ってくれた人のぬくもりだ。
魂が歓喜に震えるのを感じた。
やっと、見つけたーーーー。
星屑のように煌めく銀髪をふわりと靡かせた、それはそれは美しい人がそこにいた。
いや人ではあり得ない美しさを持った彼は……そう、彼は妖精王だ。
濃い蜂蜜色の瞳が“私”をとらえ、優しく微笑みかけてくる。
彼は“私”の魂に触れ、形のよい唇をそっと開いてこう言ったのだ。
『“乙女”よ、君が地上に生まれ落ちてから17年経ったその時に迎えに行く。待っていてくれ。俺は永遠に君を愛すると誓うよ』
その時まで、君が愛され守られるように“印”を残しておこうーーーー。と
ラメルーシェの胸にある痣には秘密があった。
そこには、妖精の文字が刻まれていたのだ。
『この娘は妖精王の寵愛を受ける魂の持ち主である。妖精王が花嫁として迎えに行くまで大切に育ててくれれば、未来永劫の妖精王の加護を与えると約束しよう』
この魂がどんな家に産まれるかまでは妖精王にもわからなかった。だからこそ、わざと目立つように痣として“印”を残したのである。普通の人間には妖精の文字は読めないしただの奇妙な痣に見えるだけだが、少しでも力のある聖職者が見ればすぐにわかるはずだった。
我が子に奇妙な痣があるとなれば、きっと不思議に思い教会に行くだろう。そうすればすぐに子供がどれだけ貴重な存在かわかる。この娘を17年大切に育てればその家には未来永劫の妖精王の加護が手に入るのだ。
妖精は自然と共にいる存在だ。妖精の加護があれば作物は豊富に育ち災害に遭うこともなくなる、妖精王のとなればその国ごと加護を受けることになるだろう。
きっと、たくさん愛されて育っているはずだ。
妖精王は人間の世界に疎い。だが、千年前までは人間には信仰心があり、例え貧困層でも子供が産まれればだいたいの夫婦が礼拝を受けていたはずだった。もしも奇妙な痣があるとなれば尚更だ。
だが魂を見つけたものの、その魂がどのタイミングで生を受けるかは神しかわからない。しかし生まれ落ちるまで魂を見張っているわけにもいかなかったので“印”をつけたのだ。
この魂が体を持ってから17年経ったらわかるように。それまでに乙女を迎い入れる準備をしなくてはと、妖精王は魂の元を離れた。
神様は気まぐれだ。千年探し続けてやっと見つけた魂が、それからさらに何百年と転生せずにいて……やっとこの世に生を受けた時には、妖精王が知っている常識など廃れてしまい、妖精の文字が見えるような聖職者などいなくなっていたなんて想像もつかなかった。もしも神に祈り嘆けば何か変わったかもしれないが、ラメルーシェの周りにいる大人は誰ひとりとしてそうしなかったのだ。
妖精の存在などお伽噺だとしか思っていない人間がその痣を見て気付くはずもなく、ラメルーシェは虐げられてきたのだ。せめて産まれた家が平民の家ならばここまで酷い扱いは受けなかったかもしれないが、逆に気味悪がられてすぐに捨てられていた可能性もあった。
17年の時間が過ぎた。幸か不幸か貴族の、公爵家の家に産まれ約束の時まで生き延びたラメルーシェが人間の世界に唯一残る“妖精の泉”に辿り着いたのは……これも神の気まぐれだったのかもしれない。
ちゃぷん……。
冷たい泉の中から浮かび上がるように生還したラメルーシェの体にふわふわと淡い光が飛び交った。それは白く柔らかな布のようになり、ラメルーシェの体を包む絹のシンプルなドレスへと変貌する。
濡れているはずの肌や髪は雫もなく柔らかな風がその頬を撫でた。
ラメルーシェの胸から広がる痣が光り輝き出し、その光りが体から離れ……文字の羅列を組み合わせて宙に魔方陣のような模様を浮かび上がらせる。
そして、その光から妖精王が姿を現した。
『約束の時は来た。迎えに来たぞ、我が乙女よ……』
妖精王は未だ目を覚まさないラメルーシェの体をそっと抱き締めた。
今まで感じたことのないぬくもりに意識が戻ってくる。
私はこのぬくもりを知っている。ずっとずっと昔……生まれるずっと前に、私を愛してくれると誓ってくれた人のぬくもりだ。
魂が歓喜に震えるのを感じた。
やっと、見つけたーーーー。
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