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棄てられました

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「この痣のせいでラメルーシェお前の価値は下がりっぱなしだ」

    いつか父がそんな事を言っていた。

    せっかくの母親似のプラチナブロンドの美しい髪や人が羨むはずのエメラルド色の大きな瞳も、その痣のせいで台無しだ。と。

「いいか、お前は産まれた瞬間から王家と婚約を結ぶ盟約のおかげで命拾いした娘だ。国王の気が変わる前に第三王子と子を成さねばならぬ。お前の価値はそれしかないのだから」

    だから私はすがり付くしかなかった。第三王子に見捨てられたらそこで私の価値は消えてしまうのだ。

    それでも、幼い頃はそれなりに仲が良かった。一緒に本を読んだり、花冠を作ったりもした。私が第三王子の婚約者でなくなったら父から怒られる事も知っていたはずだった。私を憐れに思った彼は「守ってあげるよ」と約束してくれたのに……。

    第三王子……ローランド様が変わってしまったのは2年程前からだった。

    だんだんと態度が冷たくなる婚約者。私の価値の計算ばかりする父親。母と兄は父の言いなりで私に手を差し出してくれることはなかった。

    そしてあまりに目立つこの痣が国の名医により「奇病」とされ、いつ命の灯が消えるかわからない。と宣言された時……“ラメルーシェ”の価値は消えたのである。








「もうお前には何の価値も無い」

    ひゅっと空気を切る音がして鞭がしなり、私の頬を打ち付けた。

「あぅっ……!」

    鞭は私の顔や肩を容赦なく打ち、肌は赤く腫れ上がった。

「唯一の価値であった第三王子の婚約者の立場さえも失くすとは、この役立たずが!」

    まだ婚約破棄を言い渡されたばかりだと言うのに話し合いも無く責め立てられた。いくら政略結婚だとはいえ公爵令嬢と言う婚約者がいながら浮気をしたローランド様にも少しは非があってもいいはずなのに。

    しかしそんな疑問も父の次の言葉でかき消されることになる。

「いいか、よく聞けラメルーシェ。

    お前は今夜、奇病で命を落とす。これは決定事項だ」

「……わ、私は、まだ……生きています……」

「婚約破棄などと不名誉な事になったのに、生き恥を晒す気か。公爵家の名に泥を塗りおって……儂の娘ならば舌を噛んで死ぬくらいしてみせろ!」

    再び鞭が音を立て、今度は背中の皮膚を裂いた。

「うぅっ!!」

    あまりの痛みに意識が朦朧とするが、ここで気を失えば確実に殺されると思い必死に目を開けた。

「全く腹立たしい……。そうか、そんなに死にたくないのか。意地汚い娘よ……ならばその願いを叶えてやろう」

    そして父はニヤリと口の端を吊り上げてこう言ったのだ。

「お前をあの森・・・に追放してやる。子供でも知っている死の森だ。お前も知っているだろう?毎夜轟く化け物の雄叫びが響くあの森で意地汚く生きればいい。まぁ、すぐに化け物に食い殺されるだろうがな」

    その森は国の最南端にある恐ろしい森だ。季節に関係なくいつも鬱蒼としていて太陽を拒むかのように暗い。夜になれば奇っ怪な叫び声が聞こえてくるのだ。そしてあの森に入り込んで無事に帰ってきた人間はいないと言われている。狂暴な野犬がいるのか、それとも凶悪な野党の根城なのか……いつしか化け物が蔓延る死の森と呼ばれていた。

    それに……裏では処分したい人間をその森へ追いやれば化け物が全て喰ってくれるとも……。

    そんな森で生き延びれる訳がない。それは恐怖に怯えて苦しみながら死ねと言う残酷な言葉だ。


    そして私は本当に森の奥へと追放されてしまったのだった。もしも生きて森から出てきたら、死よりも辛い拷問が待っているぞ。と父の最後の言葉を聞きながらーーーー。
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