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婚約破棄されました

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「そんな不気味な痣を持つ気持ち悪い女となど結婚できるわけがない!」

    美しく着飾った見知らぬ女性の腰を片手に抱きながら、婚約者である第三王子は眉をしかめて目の前にいる私に言いはなった。

    私……ラメルーシェ・ロジスクスは“呪われた公爵令嬢”と呼ばれている。そんな私がなぜ第三王子の婚約者になれたかと言えば、生まれる前から決まっていたからだ。私は公爵家の唯一の女児で、この時出産を控えていた母から産まれた赤子が女児であれば2年早く生まれていた第三王子の婚約者になることがすでに決定されていた。

    例え、体に消えることの無い奇妙な形の痣を持っていたとしても。

    私の左胸の上には生まれつき大きな痣がある。成長により消えるかと思われたが消えるどころかそれは年々大きくなり、奇妙な模様をかたどっているようにも見えた。

    胸元の開いたドレスを着ればその痣がチラリと顔を出す程になった頃……常日頃から私に暴言を吐いていた婚約者から婚約破棄を突き付けられたのだ。

「いくら父上の言い付けだとは言え我慢の限界だ。しかも医者は奇病だと言うじゃないか?!俺はお前を妻にして子を成すなどムリだ……気持ち悪いっ!
    やはり妻にするなら白く美しい肌の女じゃないとな」

    そう言って抱き寄せた女性は胸元の大きく開いたドレスを着ていて、こぼれ落ちそうな大きな胸は痣どころか黒子すらない美しい肌をしていた。それに比べ、私の肌はなんて醜いのだろうか。消えること無く肌に広がる大きな痣。この痣は確かにあらゆる医者から奇病だと匙を投げられたものだ。

    今まで、こんな痣を持つ人間など見たこと無いと。

    もしかしたら本当にこの痣は奇病で、明日にでも私の命は消えるかもしれない。そんな不安に怯える中、励まして欲しかった婚約者は私を捨てた。

「そんな……待って下さい!私はあなた様の婚約者でなくなったら、父からどう扱われるか……もう少し時間を下さい……!」

    私の父は恐ろしい人だ。実の娘だって政略の駒としか見ていない。こんな痣を持って産まれてしまったせいで録に社交にも出れない私の存在価値は“第三王子の婚約者”というものしかなかった。逆に言えば産まれた時から第三王子の婚約者だったから社交に出なくても許されたのだ。

    婚約破棄されたら、私の利用価値はなくなる。父はきっとそう考えるだろう。跡取りは兄がいるのだ。利用価値の無い私がどうなるか想像もしたくなかった。

    思わず王子にすがり付く形で手を伸ばしたが「触るな!奇病がうつったらどうしてくれる!」と拳で殴られ吹っ飛ばされた私は壁に頭を打ち付けてしまいそのまま気を失ってしまった。
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