上 下
23 / 58

メリケンサック最強伝説

しおりを挟む
    やっと上級クラスにたどり着き、近くにいた生徒に声をかけ色黒王子を呼んでもらう。が、

「おぉ、どうしたレディ?わざわざオレの顔を見に来たのか?」

 呼ばれる前に色黒王子の方から来た。やたらとニヤニヤしていて気持ち悪いにも程がある。
 私は出来るだけ平常心を心がけて営業スマイルで答えた。

「いいえ、先生方がどうしてもとおっしゃるのでご挨拶にだけ伺いました。では失礼いたしますね。行きましょう、セバスチャン」

 それだけ一気に伝えると私はくるりと踵を返す。あなたになんか興味ありませんわ!アピールだ。

「まて、レディ!せっかく来たのだ、昼食を一緒にどうだ」

「いえ、これから友人と昼食の約束がごさいますのでご遠慮いたしますわ」

 すると色黒王子は馬鹿にしたように鼻で笑った。

「ふんっ、友人とはあのルチアとか言う生意気そうな女か?この国の王子たちの婚約者らしいが、2人の王子を手玉にとりどちらつかずの尻軽女など、レディの友にはふさわしくなほがぁっ!?」

 ルーちゃんの悪口を言われて思わずメリケンサックで殴ってしまった。私の黄金の右ストレートは健在だ。
 色黒王子は教室の入り口から壁まで吹っ飛んで、少し壁にめり込んでいる。

「……私の親友の事を悪く言うような方と同じ空気を吸うのも嫌なので、もう2度と私の前に現れないで下さいませ」

 私はにっこり微笑んで言った。もちろん目は笑っていない。本当は先生方の顔を立てるためにも数回は通いつつ(ちゃんと通ったと言う証拠を残すため)嫌われていこう思っていたのに、この色黒王子の顔と発言がムカつきすぎる。
 まぁ、1回だけでも来たのだからいいだろう。

「れ、れでぃ、こんなことをして、どうなるか……」

 ちっ、さすが筋肉の塊だけあって気絶はしなかったようだ。(壁にはめり込んだのに)

「なんですか?筋肉自慢の王子ともあろう方が、たかだか小娘ひとりに打ち負かされたと、親に泣きつくんですか?みっともないことですこと」

 自分の発言だがなんとなく女王様モードのルーちゃんに似てきたな。と思った。ブチギレするとこうなる仕様なのだろう。

「お、お前は手に武器をはめているのだから、これは正式な戦いで負けたわけでは……」

「そうですか、私ごときか弱い小娘が護身用の武器を持つことすらも卑怯だと?ご自慢の筋肉があってもこんな武器すら脅威なのでしたら、どうぞ剣でも持ち出して私の事を切り裂かれればよろしいではありませんか。
 だって私は卑怯者なのでしょう?この教室にいる先輩方が証人ですわ」

 ざわっと教室内の空気が揺れた。巻き込んで申し訳ないけど、昼休みとはいえまだほとんどの生徒が見ている前で起きたことなのでしょうがない。

「れ、レディは変わってしまった!運命の出会いをした時のレディは可憐で可愛らしく純粋で、涙を浮かべてオレを見つめていたのにっ!」

 は?それは誰のこと?殴ったことしか覚えてないけど。

「誰が、誰がオレのレディを変えてしまったんだ!オレはそいつを許さない!元のレディに戻ってくれ!」

 色黒王子が叫んでいると、私の後で黙っていたセバスチャンが一歩前に出て、私の肩をつかんだ。

「セバスチャン?」

「アイリ様が変わってしまって、もう昔のアイリ様には絶対に戻らない。と証明してしまえばよろしいのでは?」

 いや、そんなこと言われても。戻るもなにも私は子供の時からこのままなんですが?

「アイリ様はまっすぐ前を向いて立っていてくだされば大丈夫です」

 そう言われ、おとなしく言う通りにする。するとセバスチャンは私の髪をかきあげ、普段は長い髪で隠れている首筋をあらわにした。

 そこには昔、吸血鬼様につけられた小さな傷痕が2つ並んでいるはずだ。しかしこの傷痕は普通の人には見えないはずだし、私も特別に隠してなどいない。
 そういえばこの間から(高熱で倒れてから)セバスチャンが私の髪型を結んだりせずに首筋を隠すかのようなストレートヘアにするようにしていた。私の髪型や服装などは全部セバスチャンに任せているので好きなようにやってもらっているが。(私自身も鏡の前でおとなしく身支度するのは苦手なのでセバスチャンに3秒で身支度してもらった方が楽だからなにも文句などないのだ)

「……なっ!」

 その首筋を見て色黒王子が驚愕する。教室内のざわつきがいっそう激しくなった。

 なんだ、この反応は?!もしかして吸血鬼様の傷痕がみんなに見えてるの?!
 しかし色黒王子と教室内の生徒の顔はみるみる赤くなりざわつきながらも静かになった。

 え?見えてるの?見えてないの?!どっちなの?!
 なんで色黒王子は急にうずくまって動かなくなったの?!

「と言うわけで、もうアイリ様は昔のような純粋なアイリ様には戻れないのでございます。ご理解下さい」

 セバスチャンは私の髪を戻してささっと整えるとにっこり執事スマイルで微笑んだ。

 なんだろう、これって悪口言われてる?昔から純粋に吸血鬼様を観賞用ペットにしたいと思ってるよ?ピュアハートだよ?

「では、失礼いたします」

 セバスチャンに肩を捕まれたままくるりと方向転換され、そのまま上級クラスを立ち去った。

セバスチャンとアイリのいなくなった教室には、うずくまったまま動けない色黒王子を見ないようにしながら、なんとも言えない空気が漂ったとか。




「セバスチャン、もしかして吸血鬼の傷痕を見せたの?」

 廊下を歩きながらさっきのことを質問すると、セバスチャンはクスッと笑いながら私の横に並んだ。

「まさか、あの程度の人間にあの傷痕が見えるはずありません。その辺はアイリ様の方がお詳しいでしょう?」

 まぁ、確かに。この傷痕が見えるのは吸血鬼に関わる者だ。あの中に私と同じように吸血鬼に咬まれた人(だって吸血鬼様はセバスチャンしかいないのだし)や眷属か妖精などがいるとは思えない。が、

「じゃあ、何を見せたのよ?なんで色黒王子はおとなしくなっちゃったの?」

「ちょっとショックを与えてやっただけです」

 私の首は水戸○門の印籠か何かなのか。それとも100年の恋も覚めるくらい酷い首なのか?

「私の首って、見れたもんじゃないってこと?」

「そんなことありませんが、今日はもう誰にも首筋を見せないことをおすすめいたします」

 にっこりとそう言われたのでとりあえず従うが、まったく意味がわからないんですが……。

「一体何がそんなにショックを与えたのかしら?」

 頭の上にクエスチョンマークを浮かべて首を捻る私をセバスチャンが楽しそうに見ていた。

「気まぐれにマーキングしたのが変な所で役にたちましたね」

「え?何か言った?セバスチャン」

「いいえ、なにも。まぁ今夜にでも消しておきます」

「う、うん?」

 よくわからないがセバスチャンの機嫌がよいからいいことにしておこう。とりあえずルーちゃんとお昼ご飯を食べて、それから先生方に謝りに行くか。
 まさか本当に学園が潰されたりはしないだろう。だって学園が無くなったらゲームが続かないもんね。ゲーム内でも先生のデフォルメの変更は無かったはずだし。
 いざとなったら私が責任をとって学園を退学するなどすれば色黒王子が訴えてきても学園の体裁が保たれるだろう。ルーちゃんと離れるのは寂しいが、セバスチャンがいてくれるなら別に学園で無くてもいいのだから。

 こうして私は、色黒王子のフラグを木っ端微塵にできたと軽い足取りでルーちゃんの待つ教室へと急いだのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

悪役令嬢の居場所。

葉叶
恋愛
私だけの居場所。 他の誰かの代わりとかじゃなく 私だけの場所 私はそんな居場所が欲しい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。 ※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。 ※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。 ※完結しました!番外編執筆中です。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

悪役令嬢なのに下町にいます ~王子が婚約解消してくれません~

ミズメ
恋愛
【2023.5.31書籍発売】 転生先は、乙女ゲームの悪役令嬢でした——。 侯爵令嬢のベラトリクスは、わがまま放題、傍若無人な少女だった。 婚約者である第1王子が他の令嬢と親しげにしていることに激高して暴れた所、割った花瓶で足を滑らせて頭を打ち、意識を失ってしまった。 目を覚ましたベラトリクスの中には前世の記憶が混在していて--。 卒業パーティーでの婚約破棄&王都追放&実家の取り潰しという定番3点セットを回避するため、社交界から逃げた悪役令嬢は、王都の下町で、メンチカツに出会ったのだった。 ○『モブなのに巻き込まれています』のスピンオフ作品ですが、単独でも読んでいただけます。 ○転生悪役令嬢が婚約解消と断罪回避のために奮闘?しながら、下町食堂の美味しいものに夢中になったり、逆に婚約者に興味を持たれたりしてしまうお話。

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

処理中です...