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《18》悪役令嬢は関心する

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「あれは、マーリが8歳の時だったわ」

 なんとかお母様と皇帝を落ち着かせてお茶の場を設けることに成功した。皇帝はお母様の前では借りてきた仔猫状態だし、お母様はお母様でお祖母様の従者(さっき投げつけられた人)に怯えているが。……天井裏から引っ張り出すの大変だったなぁ。お父様がいてくれて本当によかった。(お父様を餌にしておびき寄せました)

 なんやかんやでやっとお茶を飲める環境になったところで、お祖母様が懐かしそうに目を細めてそう呟いた。

 お母様は昔からかなりの人見知りで、人前に姿を現すことは滅多になかったそうだ。そのかわり、屋敷の裏にあった森を駆け巡って遊んでいたのだとか。お母様の幼少期ってワイルドだったのね。

「いつものように森へ遊びに行って……泥んこになって帰って来たと思ったら、獣人の子供を引きずって帰ってきたの。タイマン勝負をして勝ったから今日から自分のペットにするって、それは素敵な笑顔で宣言してのよ。まさかお忍びでやってきて迷子になってた獣人の皇子だとわかって驚いたわぁ。うふ、獣人と猫を間違えるなんてマーリったらおっちょこちょいだったのよぉ」

 朗らかに笑っているが、それが後の皇帝である。

「我が祖国もそうだが、獣人といえば弱肉強食。強者こそ敬われるからな。今じゃひねくれて爵位だの血筋だのとほざいているが、昔はマーリに金魚のフンみたいにつきまとっていたなぁ」

「マーリにこてんぱんにされて、家畜扱いされてもずっときゅうあ「そ、それより!息子を……皇子をどこに隠したんだ?!あの子は獣人の国の大切な跡取りなんだ!家出してからずっと探してたのに、まさか誘拐したんじゃないだろうな?!」……あらぁ、まさかうちのマーリやエメリアちゃんを誘拐犯だと言っているの?」

 スッ……と、お祖母様の視線に冷気が宿る。ブリザードだ。体感温度が一気にマイナスになった気がした。ついでにお祖父様もニコニコしているがその背後には魔王がいる気がした。これが似た者夫婦というやつなのね。

「うっ、いや、それは言葉のあやで……「家出したってことは、なにかあったのかしら?」こ、婚約者を決めたから顔合わせをしたら、嫌だと反抗して……それで」

 お祖母様のブリザードを受けながら皇帝がしどろもどろと語り出す。なんと、あの猫耳皇子は家出猫だったのか。

「と、とにかく!皇子はすぐに連れて帰る。エメリア嬢を番にしたいと言っているらしいが、番制度はもう廃止にしたから無効だ。番なんて……争いの種にしかならないからな」

 ゴホン。と咳払いをしながらそう言うと皇帝がチラッとお母様を見る。お母様が「?」と首を傾げているとお祖母様が「ほほほ」と笑った。

「そういえば、あなたもあの時にマーリを番にするって騒いで大騒動に「言うなァァァ!!」そうなの、廃止にしたのね。いい判断だわぁ」

 お母様は覚えていないらしく「そうだったかしら?」とまたもや首を傾げていた。……あ、お父様がブリザード隊に加わってしまった。皇帝が凍えそうな顔をしてるわ。なんでも昔の獣人は自ら番なる伴侶を探し出していたらしいが、見つからなかったり奪い合いになったりとすんなり結ばれるケースの方が少なかったそうだ。“番を探し出し一生を添い遂げる種族”なんて言われているが、その裏では略奪や殺戮が横行していたのだとか。

「ん、ん"んっ!とにかく、“運命の番”なんて妄想に囚われていたら碌な事にならないからな。頭の硬い老害共を説得して、やっと廃止出来たんだ。だからこそ皇子には素晴らしい獣人の令嬢を婚約者としてあてがったのに……「家出されたのね。息子の説得は出来てないじゃないの」あの子は番に憧れを持っていたようでな。そんなお伽噺のようなロマンチックなものではないと教えたんだが」

 ブリザードと魔王に囲まれながら皇帝がため息をついた。平然そうな顔をしているが、冷や汗が止まらないのか滝のような汗を流しているし顔色も悪い。頭上の猫耳は相変わらずへんにゃりしているのでただの残念にしか見えないが。私としてはルークさえ守れればなんでもいいんだけど……。

「王族なら政略結婚だって仕方ないこともあるのに、番に憧れるだけならまだしも家出するなんて……。王族教育はどうなってるのかしら?このままじゃ将来は“真実の愛”の為なら浮気して婚約者を平気で断罪しようとするようなどこかのクズ王子みたいにならないか心配だわぁ。しかもどこぞの馬鹿国王が情報操作して婚約破棄された令嬢を貶めるような噂を流したのだけど、まさかそんなデマを信じて差別してくる皇帝の息子ですものねぇ。まぁ、エメリアちゃんを選んだのは良い目をしているから、そこは父親に似なくてよかった……あらあら、父親に似てるからエメリアちゃんを選んだのかしらぁ」

 お祖母様がコロコロと笑いながらまたもや目を細める。どうやら私に関する噂は国王が流していたようだ。あの王子が落ちぶれた事をまだ逆恨みされてるのだろうか。まぁ、どんな噂が流れてようとどうでもいいけど。

「それで?番云々は別として、家出するほどの相手とはどんなご令嬢なのかしら?本当に番への憧れだけで家出したのか、そのご令嬢に問題があって家出したのかでかなり変わるわよ」

「そ、それは……」

 皇帝がモゴモゴと口籠る。婚約者を決めたのは皇帝だし、皇子を教育してるのも皇帝だ。どっちが悪くても自分が責められると思っているのだろう。それにしても一国の皇帝をお説教するお祖母様って凄まじいわ。皇帝はお母様どころかその親であるお祖母様にも頭があがらないらしい。

「こ、これはこちらの問題だから、か、関係な「早く言いなさい」ひぃっ!お、狼の獣人の令嬢なんだ!あっちが皇子を気に入ったから婚約してくれるなら資金援助は惜しまないと……」

「まぁ、猫の獣人である我が子に、苦手な狼の獣人との婚約をお金のために押し付けたの。猫と狼は相性が悪いのではなかったかしら?」

「そ、その、周りの国に牽制しようと色々してたら国庫が大変なことになり、皇妃にバレる前になんとかしようと頭を悩ませていたら、ちょうど申し込みが……」

「ちなみに国庫が大変になるくらい何にお金を使ったのかしら?」

「……そ、それは、皇帝とは、服装も宝飾も一流でないといけないから……だが、皇子にそれを説明したら次の日にはいなくなっていて……」

 またもやモゴモゴと口籠り出した皇帝に、お祖母様が「ほほほ」と声を出す。もちろんその目は笑ってないしブリザードは余計に酷くなった気がした。

 つまり、自分の見栄とお金の使い過ぎを隠すために我が子を犠牲にしようとしたらしい。しかも素直にそれを本人に暴露して説得しようとするなんて。いくら王族なら政略結婚するのが当たり前とはいえ、思春期の子供になんてことを言うのか。

「そりゃ、家出くらいしたくもなるか……(御主人様を渡す気は毛頭ないけど)」

 ルークが同情したようにポツリと呟く。だからってルークを渡す気は欠片も無いけれど、確かにちょっと可哀想かも……。

 すると、お祖母様とお祖父様がアイコンタクトをしてこくりと頷いた。

「それじゃあ、それも含めて話し合いをしましょう。ーーーーね、獣人国の皇妃様?」

「えっ」

 お祖母様が数回手を叩くと、奥の扉がゆっくりと開き……中から深々とマントのフードを被った誰かが出て来た。マントを取るとその中からは立派な猫耳がぴょこりと姿を現す。

 その人物はにっこりと笑みを浮かべ皇帝を見た。

「ええ、もちろんですわ。ねぇ?あ・な・た」

 皇帝が白を通り越して透明になりそうな顔色をする中、お祖母様が「ついでに連れてきちゃった☆」とテヘペロしている。なんとなく勘が働いたからってわざわざ獣人国に寄って皇妃を連れてくるなんて……さすがはお祖母様であると妙に関心してしまったのだった。







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