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62 変わりゆくこの国で
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ジルさんがラスドレード国の王となってから3年の月日が経ちました。なんだか慌ただしくてあっという間だった気がします。
最初の1年目は聖女として国中の町や村を巡礼して回ったのですが……みなさん聖女の存在をとても喜んでくださりました。
最初は灰眼の王子が新たな国王になることに多少複雑な思いを掲げていた方々もいましたが、今ではジルさんの仕事ぶりにみなさん信頼を寄せてくれているようです。聖女を連れてきたこともその功績に入っているようで、ちょっぴりホッとしました。私が頑張れることでジルさんが認められるならとても嬉しいです。
とにかくこの1年はとても目まぐるしかったです。私はターイズさんに護衛されながら巡礼を続け、ジルさんは法律の見直しや人事で城に缶詰め状態でした。アニーには巡礼の間は城に残ってもらい人手の足らないところの手伝いをしてもらいました。元々いた料理人や洗濯メイドたちの半数があの騒ぎで仕事を辞めてしまったのでそれはもう猫の手を借りたいほどの忙しさだったようです。戻ってきてもらえたらいいのでしょうが、やはりまだ前国王の支持者だった方達は複雑なのでしょう。ジルさんも無理強いはしたくないと言っていましたから。
そんなわけで、 お互いに忙しくてジルさんとまともに顔を合わす事はほとんどなかったのです。
でもひとつ良いこともありました。それは国境沿いを進んでいるときだったのですが、なんと流れ者たちの集団と出会ったのです。
しかも彼らはルーナ様の事を知っておられ、あの事件からずっとラスドレード国には近付かないようにしていたのだとか。ラスドレード国を介さずに別の国へ行くのはかなり遠回りで大変らしいのですが、それほどにルーナ様の事が流れ者の方々に深い傷を残したのでしょう。
ですが最近ラスドレード国の王が代替わりして、しかも新たな王は灰眼だと噂を聞いてこの国にやってきたのだとか。
「灰眼は流れ者の中でも珍しいんです。だから、もしかしたらと……」
おずとずと流れ者たちのリーダー的な人が申し出てくれたので、私は急いでお城に来てくれるように言いました。ジルさんは事務仕事で部屋に缶詰めでしたがひっぱり出しましたよ!数カ月ぶりに見たジルさんは少し痩せたみたいでした。
そんなジルさんの顔を見て、流れ者のリーダー格の年老いた男性が涙を流しました。
「ルーナの子か……そうか……。あの子は孤独ではなかったんだな……っ」と息を詰まらせ、ジルさんを抱き締めたのです。
そして一晩中ジルさんはルーナ様の思い出話に華を咲かせ、翌朝ルーナ様の眠る丘に流れ者のリーダーを招いたようでした。
これからは流れ者たちが快くこれる国にすると約束して別れたのです。
それから2年目の春。私の母国の王女……メルローズ様からお手紙が来ました。
「まぁ、これは……」
手紙の内容にはかなり驚きました。なんとメルローズ様は父親でもある国王を王の座から蹴落とし、女王となられたそうなのです。どうやら公爵家と私の実家も裏でメルローズ様に協力したのだとか。今までのような悲劇は2度と繰り返さない!と奮闘されているようでした。メルローズ様は正統な後継者ですし、なによりあの国王よりメルローズ様の方が何百倍も頼もしいですからね。
え、元国王のその後ですか?メルローズ様にケチョンケチョンにされて意気消沈し、田舎に隠居されたそうです。財産も没収されて監視付きの生活だとか。今までの罪は許されるものではありませんが、老後は反省させてボランティアに残りの人生を費やさせるそうです。主にゴミ拾いをさせるつもりらしいですが……ぜひ頑張って頂きましょう。
メルローズ様は今では経済のお勉強も頑張っているそうで成長したところを見てもらいたいから私が帰ったらまたお茶会をしましょう、とも書いてありました。今から楽しみですね。
公爵家のおじさまとおばさまには私から手紙を出して、レベッカ様の事をお伝えしていました。もちろん占星術師の事は口外出来ないので、修道院が襲われ逃げた先でラスドレード国に保護されていた旨と、レベッカ様からのお手紙を同封しておきました。レベッカ様が今後どうなさるのかは私が口を出す事ではありませんが、レベッカ様の無事を知って公爵家は安堵に包まれたようです。
そして、とうとう3年目。ラスドレード国の情勢はかなり安定し、今ではジルさんは国民に信頼される立派な国王となりました。あの時に城を去った方たちも少なからず戻ってきて下さり、もはや灰眼の事をとやかく言う人などもういないでしょう。
そういえば元アールスト国にはターイズさんが推薦する真面目な人を領主にと送ったそうで、定期的に報告書が送られてきています。あの時の元国王夫妻のお子さんは無事に産まれて可愛く育っているそうですよ。不正をする輩がいなくなったのでとても平和みたいです。
そんな時に、こんな噂を聞いてしまいました。
「国王はとうとう王妃を娶られるそうだ」
「他国から是非にと婚約の申し込みが殺到しているらしい」
「貿易の為にやって来た遠い王国の姫がジーンルディ国王に一目惚れしたそうだ。あの国と縁が結べれば異国はさらに発展するだろうな」
……ジルさんが、とうとう結婚してしまうそうです。
そういえば、ラスドレード国の噂を聞き付けた遠い諸国から貿易の申し込みの為に大使団が来ていました。なぜ貿易に姫様が同行しているのでしょうかとは思ってはいましたが、どうやらあれはお見合いだったようですね。
確か、綺麗な金髪の美しい方でしたね。庇護欲をそそるような儚げな美少女で、ジルさんと並べばとてもお似合いでした。私が聖女として挨拶をした時もなにやらにこやかにジルさんの方を見ていましたが……もうあの時にはすでに決まっていたのでしょう。
最近ジルさんが私と顔を合わす度になにかを言いたそうにしていたのはこの事だったのでしょうね。それくらい教えてくれてもいいのに……。
そういえば、ここ最近は少し余裕が出来たからと時々一緒に食事をしていたのですがその度に何か言いたげにソワソワしだしては顔を赤くしていました。さらに口を開いたと思ったら焦った様子で舌を噛んで悶絶して口を閉じてしまうのです。その時は結局なんだったのかわからず終いでしたが。
ちなみにその様子を見ていたターイズさんがジルさんに「このヘタレ」と呟いていました。あのターイズさんがジルさんに苦言を強いるなんてきっと余程のことのはずです。
「……まさか!」
その時、私はハッ!としました。もしかして、ジルさんはその姫様との結婚を聖女に祝福して欲しいのではないでしょうか?名ばかりとはいえいまや私がこの国の聖女であることはそれなりに有名になりましたし、お相手の姫様が望んでいるとか、箔付けになるとか……。
でも私はもうすぐ3年のお役目を終えて帰ってしまうからそれまで引き留めたいとか?姫様との婚約から結婚となれば準備だけでも通常ならば1年から2年はかかりますものね。それならジルさんのあの焦りようにも納得です。
「仕方がないですね……今夜にでも話を聞きに行きましょうか」
私はため息混じりにそう呟き、空を見上げました。
お役目期間が延びるのならば実家やメルローズ様にもお伝えしなければいけませんし、早く決めてもらわなくてはいけません。なにより、はっきりとしてもらえば私も諦められるというものです。
遅かれ早かれいつかはこんな日が来るとわかっていたじゃないですか。そろそろ覚悟を決めなくてはいけません。
「……それでも、完全に想いを断ち切るのは難しいかもしれませんけどね」
ルーナ様、どうか私が笑顔でジルさんを祝福出来るように見守って下さい。と、空に祈ったのでした。
最初の1年目は聖女として国中の町や村を巡礼して回ったのですが……みなさん聖女の存在をとても喜んでくださりました。
最初は灰眼の王子が新たな国王になることに多少複雑な思いを掲げていた方々もいましたが、今ではジルさんの仕事ぶりにみなさん信頼を寄せてくれているようです。聖女を連れてきたこともその功績に入っているようで、ちょっぴりホッとしました。私が頑張れることでジルさんが認められるならとても嬉しいです。
とにかくこの1年はとても目まぐるしかったです。私はターイズさんに護衛されながら巡礼を続け、ジルさんは法律の見直しや人事で城に缶詰め状態でした。アニーには巡礼の間は城に残ってもらい人手の足らないところの手伝いをしてもらいました。元々いた料理人や洗濯メイドたちの半数があの騒ぎで仕事を辞めてしまったのでそれはもう猫の手を借りたいほどの忙しさだったようです。戻ってきてもらえたらいいのでしょうが、やはりまだ前国王の支持者だった方達は複雑なのでしょう。ジルさんも無理強いはしたくないと言っていましたから。
そんなわけで、 お互いに忙しくてジルさんとまともに顔を合わす事はほとんどなかったのです。
でもひとつ良いこともありました。それは国境沿いを進んでいるときだったのですが、なんと流れ者たちの集団と出会ったのです。
しかも彼らはルーナ様の事を知っておられ、あの事件からずっとラスドレード国には近付かないようにしていたのだとか。ラスドレード国を介さずに別の国へ行くのはかなり遠回りで大変らしいのですが、それほどにルーナ様の事が流れ者の方々に深い傷を残したのでしょう。
ですが最近ラスドレード国の王が代替わりして、しかも新たな王は灰眼だと噂を聞いてこの国にやってきたのだとか。
「灰眼は流れ者の中でも珍しいんです。だから、もしかしたらと……」
おずとずと流れ者たちのリーダー的な人が申し出てくれたので、私は急いでお城に来てくれるように言いました。ジルさんは事務仕事で部屋に缶詰めでしたがひっぱり出しましたよ!数カ月ぶりに見たジルさんは少し痩せたみたいでした。
そんなジルさんの顔を見て、流れ者のリーダー格の年老いた男性が涙を流しました。
「ルーナの子か……そうか……。あの子は孤独ではなかったんだな……っ」と息を詰まらせ、ジルさんを抱き締めたのです。
そして一晩中ジルさんはルーナ様の思い出話に華を咲かせ、翌朝ルーナ様の眠る丘に流れ者のリーダーを招いたようでした。
これからは流れ者たちが快くこれる国にすると約束して別れたのです。
それから2年目の春。私の母国の王女……メルローズ様からお手紙が来ました。
「まぁ、これは……」
手紙の内容にはかなり驚きました。なんとメルローズ様は父親でもある国王を王の座から蹴落とし、女王となられたそうなのです。どうやら公爵家と私の実家も裏でメルローズ様に協力したのだとか。今までのような悲劇は2度と繰り返さない!と奮闘されているようでした。メルローズ様は正統な後継者ですし、なによりあの国王よりメルローズ様の方が何百倍も頼もしいですからね。
え、元国王のその後ですか?メルローズ様にケチョンケチョンにされて意気消沈し、田舎に隠居されたそうです。財産も没収されて監視付きの生活だとか。今までの罪は許されるものではありませんが、老後は反省させてボランティアに残りの人生を費やさせるそうです。主にゴミ拾いをさせるつもりらしいですが……ぜひ頑張って頂きましょう。
メルローズ様は今では経済のお勉強も頑張っているそうで成長したところを見てもらいたいから私が帰ったらまたお茶会をしましょう、とも書いてありました。今から楽しみですね。
公爵家のおじさまとおばさまには私から手紙を出して、レベッカ様の事をお伝えしていました。もちろん占星術師の事は口外出来ないので、修道院が襲われ逃げた先でラスドレード国に保護されていた旨と、レベッカ様からのお手紙を同封しておきました。レベッカ様が今後どうなさるのかは私が口を出す事ではありませんが、レベッカ様の無事を知って公爵家は安堵に包まれたようです。
そして、とうとう3年目。ラスドレード国の情勢はかなり安定し、今ではジルさんは国民に信頼される立派な国王となりました。あの時に城を去った方たちも少なからず戻ってきて下さり、もはや灰眼の事をとやかく言う人などもういないでしょう。
そういえば元アールスト国にはターイズさんが推薦する真面目な人を領主にと送ったそうで、定期的に報告書が送られてきています。あの時の元国王夫妻のお子さんは無事に産まれて可愛く育っているそうですよ。不正をする輩がいなくなったのでとても平和みたいです。
そんな時に、こんな噂を聞いてしまいました。
「国王はとうとう王妃を娶られるそうだ」
「他国から是非にと婚約の申し込みが殺到しているらしい」
「貿易の為にやって来た遠い王国の姫がジーンルディ国王に一目惚れしたそうだ。あの国と縁が結べれば異国はさらに発展するだろうな」
……ジルさんが、とうとう結婚してしまうそうです。
そういえば、ラスドレード国の噂を聞き付けた遠い諸国から貿易の申し込みの為に大使団が来ていました。なぜ貿易に姫様が同行しているのでしょうかとは思ってはいましたが、どうやらあれはお見合いだったようですね。
確か、綺麗な金髪の美しい方でしたね。庇護欲をそそるような儚げな美少女で、ジルさんと並べばとてもお似合いでした。私が聖女として挨拶をした時もなにやらにこやかにジルさんの方を見ていましたが……もうあの時にはすでに決まっていたのでしょう。
最近ジルさんが私と顔を合わす度になにかを言いたそうにしていたのはこの事だったのでしょうね。それくらい教えてくれてもいいのに……。
そういえば、ここ最近は少し余裕が出来たからと時々一緒に食事をしていたのですがその度に何か言いたげにソワソワしだしては顔を赤くしていました。さらに口を開いたと思ったら焦った様子で舌を噛んで悶絶して口を閉じてしまうのです。その時は結局なんだったのかわからず終いでしたが。
ちなみにその様子を見ていたターイズさんがジルさんに「このヘタレ」と呟いていました。あのターイズさんがジルさんに苦言を強いるなんてきっと余程のことのはずです。
「……まさか!」
その時、私はハッ!としました。もしかして、ジルさんはその姫様との結婚を聖女に祝福して欲しいのではないでしょうか?名ばかりとはいえいまや私がこの国の聖女であることはそれなりに有名になりましたし、お相手の姫様が望んでいるとか、箔付けになるとか……。
でも私はもうすぐ3年のお役目を終えて帰ってしまうからそれまで引き留めたいとか?姫様との婚約から結婚となれば準備だけでも通常ならば1年から2年はかかりますものね。それならジルさんのあの焦りようにも納得です。
「仕方がないですね……今夜にでも話を聞きに行きましょうか」
私はため息混じりにそう呟き、空を見上げました。
お役目期間が延びるのならば実家やメルローズ様にもお伝えしなければいけませんし、早く決めてもらわなくてはいけません。なにより、はっきりとしてもらえば私も諦められるというものです。
遅かれ早かれいつかはこんな日が来るとわかっていたじゃないですか。そろそろ覚悟を決めなくてはいけません。
「……それでも、完全に想いを断ち切るのは難しいかもしれませんけどね」
ルーナ様、どうか私が笑顔でジルさんを祝福出来るように見守って下さい。と、空に祈ったのでした。
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