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28 これってもしかしなくても罠ですよね

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 あれからすぐに公爵家へ手紙を出すと、翌日には返事がきました。歓迎するとは書いてありましたが、やたらとジルさんを必ず連れてくるようにと念押しされているような内容です。これはアミィ嬢がジルさんに狙いを定めたということでしょうか。逆に言えばジルさんがまだアミィ嬢に魅了されていない証拠にもなるかもしれません。……もう少しだけ信頼してあげてもいいかしら。

 そして、あっと言う間に公爵家を訪問する約束の日になりました。手紙で指定された公爵家の別邸の門の前で馬車を降りると、そこには甲冑を全身に纏った男の人が立っていてなにやらものすごく睨まれている気がしました。顔もしっかり隠れていて表情すらわかりませんが、なぜか妙な緊張感が漂っています。


 うーん、この甲冑の模様からして隣国の騎士ですよね。しかも王家に直属している方だとお見受けします。昔、歴史の本で読んだのですが確か隣国は王族から直々に命令されて動く直属の騎士軍団がいるはずですから、もしかしたら隣国の王子がアミィ嬢の護衛につけている方なのかもしれません。背が高いからか圧迫感がありますし、隣国の騎士ならば相手を敵と見なしたら瞬時に腰の剣を動かし薙ぎ払う俊敏さを兼ね備えているでしょう。

 なんと言っても隣国の王子にとってアミィ嬢は他の令嬢から虐めを受けていた守ってあげなくてはいけない・・・・・・・・・・・・・大切な女性ですから。



「もしや、あなたが聖女様ですか?本当に桃色の髪をなさっているのですね。濃い茶色ではなく……」

「はい、まぁ……」

 あんまりジロジロ見ないで欲しいです。甲冑越しとは言え、人を値踏みするような視線は苦手なんですよね……。しかしなんで茶髪と比べられたんでしょうか……やはりこんな桃毛の女では本物の聖女ではないかもと疑われているのかもしれませんが、茶髪なら聖女だと言うわけでも無いと思うのですが。それともアミィ嬢を虐めに来たとでも思われてるのかもしれません。もしかしなくてもこの人もアミィ嬢の虜になっているのでしょうし、敵視されていてもおかしくありませんから。申し訳ありませんがエドガーといい隣国の王子といいアミィ嬢信者の男性はヤバイ人たちにしか見えませんわ。だってこの人たちはアミィ嬢以外の女性を害虫だとでも思っているんですもの。もはや女の敵です。

「この方は正真正銘、異国に選ばれた聖女様です。本日の訪問はちゃんと手紙を出して返事ももらっていますが……何か問題でも?」

「……いえ、アミィ様より伺っております。ようこそおいでくださいました、聖女様」

 ジルさんの言葉に騎士の方は渋々頷きますが、そうは言ってもまだ何か納得してない感じです。なんだか複雑そうに戸惑っているような雰囲気なのはなぜでしょうか?

「あの、まずは公爵夫妻にご挨拶をしたいのですが。手紙ではご夫妻もこの別邸にいらっしゃると……「その必要はございません」えっ」

 そしておもむろに私の手を取り「公爵ご夫妻は体調が優れないとのことで休まれておいでですので、聖女様がいらっしゃったら直接アミィ様の元へとご案内するように承っております」と恭しく頭を下げたのです。

 というか、手を離して欲しいんですけど。でもここで手を振り払ったら聖女として品がないとか思われるのかしら?こうなったらジルさんに助けを求めようかと一瞬悩んだその時。

「その手を離せ」

 なんとジルさんが騎士の方の手を掴み止めてくれたのです。

「聖女様のエスコートをするのはオレの役目なんで、気軽に触らないでくれる?」

「……それは、失礼致しました。異国の大使殿」

 やっと手を離してもらえました。どうもエドガー事件のせいで男の人は苦手です。……ん?なんで今度はこのふたりが睨み合いしてるんですか?

 その後は重い沈黙のまま歩き出し別邸の入り口に到着したのですが、騎士の方は扉の取手に手をかけたまま、なかなか開けようとはしてくれません。そして甲冑越しに私をギロリと睨むと、ようやく口を開きました。

「……どうぞ、くれぐれもお気をつけて」

 そうしてやっと扉を開けてくれたのですが、その重々しい言葉に……まさかこの別宅って罠屋敷なんでしょうか?と思ってしまいました。









 ***








 そうして扉の中にいたメイドに案内された客間でアミィ嬢を待っているのですが、なかなかやってこないので緊張し過ぎて疲れてきました。メイドもお茶の準備をしたらすぐにいなくなってしまいましたし、ジルさんとふたりきりで静まり返る中、時計の針の音だけがやたらと響きます。すると、ジルさんが急ににやりと唇の端を歪めました。

「さっきの男、隣国の騎士だったね」

 余裕そうな態度で出されたお茶をがぶがぶと飲んでいるジルさんにちょっとだけイラッしました。こっちは何も説明してもらえないから不安だっていうのに!

「全く、人の気も知らないで……。あぁ……さっきの人ですか?そうですね、階級もかなり上位の方だと思います。あの甲冑の色と模様はたぶん隣国の王子の直属騎士ですよ。……というか、ジルさんはあの方に顔を見られても大丈夫なんですか?さすがにその顔が変装だとは言いませんよね?」

 だってあなたは隣国のスパイなんでしょ?と視線で訴えますが、いつものにんまり顔を向けられました。

「甲冑見ただけでよくわかったね?さすがは聖女様だ。というか、オレの心配してくれてる?やっさしぃ~ねぇ」

「誰がーーーー」

「まあまあ、そんな可愛い聖女様にはこれをあげよう。ほら「むぐっ?!」美味しい?」

 誰が心配なんかするんですか!と思わず反論しようと開いた口に小さな飴玉を放り込まれそのまま飲み込んでしまいました。味なんかわかりませんよ!

 まったくこの人は、こんな時もふざけてばかりなんだから!箒で追いかけ回してやりたいくらいです!しませんけどね!

「それにしてもアミィ嬢は来ませんね。いくらなんでも遅くないでしょうか……」

 一応警戒してお茶にも手をつけていなかったのですが、ジルさんは平然と飲んでますし緊張で喉が渇いてしまいました。さっきの飴玉が途中で引っ掛かってるような気もしますしね。さすがにお茶に細工されてるかもなんて気にし過ぎだったかもしれません。

 そうして、少し冷めてしまったお茶をひと口含み。ホッと気が緩んでしまったその瞬間。




「飲んだ!飲んだわね!あはははは!!これであたしの勝ちよ!」




 狂ったように高笑いするアミィ嬢が乱暴な音を立てて部屋に入ってきたのです。

「あ、アミィ嬢?!あなた、まさかこのお茶に……」

 思わず立ち上がろうとしましたが、途端に酷い立ち眩みに襲われその場に倒れてしまいました。

「……ジ、ル、さ……」

 咄嗟にジルさんに向かって手を伸ばしました。しかし、その指先は何も掴むことはできなかったのです。

「……聖女様、ごめんね?」

 倒れ込む私の耳元に、はっきりとジルさんの声が聞こえました。

 ーーーーまさか。

 そんな想いが駆け巡る中、意識が遠のき……私は動けなくなってしまったのでした。





 まさか、こんな事になるなんて……失態にもほどがあります。というか、ジルさんのせいですよね!これって何を企んだ結果なんですか?!




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