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27 何かが狂い始めた日(アミィ視点)

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    なにかがおかしい。

    そう感じたのはその日の夜からだった。

    確か、あの異国の大使を誘惑してやろうと聖女の目の前からかっさらってあたしの為に用意されていた客間に連れ込んだはずだ。

    そこまではちゃんと覚えてる。そうよ、あの男はあたしを抱き締めたわ。そして確かにあたしの纏う香りを嗅いだ。

    ……でも、その後は?

    どうにも記憶が曖昧で、なんだか体調も悪く感じられた。ほら、自分から香るいつもの香りもなにか違うもの。あたしが付けていた香水ってこんな香りだったっけ?なんだか変な匂い……。課金アイテムのくせに香りが変化するなんてぼったくりもいいとこよ。

    あぁ、なんだか頭が重い……気がつくと部屋のベッドに横たわっていたし、もしやあの大使との事後の後で眠ってしまったのだろうか?だが、さすがに全く覚えてないなんて変だ。ドレスも全然乱れてないし、もしそれなりの事があったなら男があたしをそのままにして放っておくはずないもの。それこそあたしが目覚めるまで何時間だって側から離れないだろう。なのに……なぜ、あの男はここにいないの?

    結局お茶会はいつの間にか終わってたし、あの生意気な王女が嫌味を言ってくることもなかったがどうにも自分の違和感が拭えずにいた。

    何かがいつもと違う。空気というか、雰囲気というか……上手く言えないけれど、絶対に何かが違うのだ。

    だって、ほら……周りの男たちの視線が今までと全然違う気がするんだもの。



「ねぇ、ちょっと頼みがあるんだけど」

    部屋を出て、試しに近くを通った使用人の男に声をかけてみた。いつもならそれだけで頬を染め欲にまみれたねっとりとした視線をあたしに絡ませるのに、その男の反応は全く違ったのだ。

「あぁ、はい。なんですか?」

「え、あの……えっと、お茶が欲しいのだけど」

「はぁ……では、メイドに伝えておきます」

    なんとその男はめんどくさそうにため息をつくと、そそくさとその場を去ってしまった。

    なに?どうなってるの?!いつもなら誰があたしの部屋にお茶を運ぶかで殴り合いが始まるほどなのに。あの男なんなのよ?!

    すぐさま、あたしは出来るだけドレスから肌を露出させ次の使用人に声をかける。

「ねぇ、今夜はお酒が欲しい気分なの……」

「え……あー、はい。あとでメイドに運ばせますので」

    ……ほんとにどうなってるのよ?!

    あたしはその反応に怒りでおかしくなりそうだった。だってあたしがお酒を飲みたいと言っているのよ?!いつもなら向こうから「是非ご一緒させて下さい」とか「他の男に酔った姿を見せたくありません」とかって言い寄ってくるのに……!

    逃げるように去っていく使用人の後ろ姿を見ながら意味がわからなくて歯をギリギリと食い縛っていると「アミィ様、どうなされました?」とあたしのお気に入りの男の声がした。

    隣国から来たあたしの護衛である騎士だ。

    そうだ、この男なら。そう思ったら気分が上昇する。さすがに隣国の王子が直々に寄越した騎士だからと慎重に口説いていたがそろそろ靡きそうな頃合いだったはずだ。

    あたしは騎士の胸にイキオイ良く飛び込み、抱きついた。うふふ、これでもうイチコロね!

「……実は、今日の王女様のお茶会であたしだけのけ者にされてしまったんです!あの異国の聖女とか言う人も元は伯爵令嬢のくせに公爵令嬢であるあたしに嫌がらせをしてくるし……あたし、悲しくて。どうか慰めて欲し「お止めください」……え?」

    いつもなら優しい蕩けるような目であたしを見てくる騎士の目が、今日は冷たく厳しいものだった。

「王女殿下のお茶会についてはアミィ様がご自分からご辞退なさったと聞いております。異国の聖女様とも、まともに挨拶すらなされていないとか。……それなのに聖女様を貶めるような言葉を口にし、ましてや嘘をついて護衛に抱きつくなどもってのほかです。あなた様は隣国の王子の婚約者候補なのですよ?もう少しご自分の立場を理解なさって下さい」

「な、何を言って……」

「この事は王子に報告させて頂きます。このまま態度が改善されないようなら、あなた様は隣国の王子妃には相応しくないと申告せねばなりませんね。…… あぁそれと、今夜は王女様のご好意で城に泊まってよいと知らせが来ております。あなた様をのけ者にした王女様というのは随分お優しい方ですね」

    冷たい視線。あたしをはねのける冷たい手。うそよ、なんで?なんでみんな、あたしに冷たくするの……?!なんであたしを愛してくれないの?!こんなストーリー知らない……!!あたしはヒロインなのに…………!!!

 どこかで、ガラガラとあたしの世界が壊れる音がした気がした。








    翌日、公爵家に帰ると異国の聖女から手紙が来ていることを知らされた。なんだか公爵家の使用人の態度もいつもと違うし、義両親に当たるジジイとババアに至ってはあたしの様子すら見に来ない。具合が悪いってんなら、早く死ねばいいのに。そうすれば公爵家の財産は全て養女となったあたしの物になるはずだ。あぁ、ほんとにむかつく!

手紙の中身はあたしに会いたいから公爵家に遊びに行きたいと書いてあった。ふん!聖女だからってたかだか伯爵令嬢のくせに偉そうに……何様のつもりよ!しかし、あの異国の大使も連れてくるという。そうとなれば話は別だ。

    あたしはすぐに返事を出した。

    なんとしてもあの大使にもう一度会わなければならない。なんのバグかはわからないが今のヒロインの座が揺らいでいるのだ、何がなんでも聖女の地位を手にいれてあたしは再び愛されヒロインになるの……!だってそれが、あたしの運命だから。

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