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23 お茶会の場とは恐ろしいものです
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私が招待されたのは“お茶会”です。
貴族令嬢にとってお茶会とは淑女の嗜みであり、小さな社交界でもあります。……そう、それは令嬢の気品の差を見せつける“女の戦い”の場所でもあるのです。
***
今日のお茶会は、なんと言っても王女様主催のお茶会ですもの。しかもあのアミィ嬢も招待されているとなれば、きっと何かが起こるだろうとはもちろん予測していました。ですが、まさか顔を合わせた瞬間からこんなことになっているなんて思いもしていなかったのです……。
ジルさんにエスコートされて到着したのは王城にある薔薇の咲き乱れる庭園でした。その見事な程に咲き誇る薔薇の中で私が目撃したのは、睨み合って火花を散らしている王女様と現公爵令嬢であるアミィ嬢の姿でした。王女様はフリルのついた可愛らしい黄色のドレスを着ていらしたのですが、アミィ嬢はなんていうか……今にも胸が零れ落ちそうな際どい真っ赤なドレスを着ていらっしゃいました。腰まで丸見えになりそうな際どいスリットの入ったそのドレスは、申し訳ないですが王女様のおっしゃるとおりその道のお仕事を極めた方の装いに見えてしまいそうでした。
「あらぁ、公爵令嬢ともあろう人がそんな下品なドレスを着てくるなんて世も末ね!そんなに肌を露出するなんてまるで娼婦かと思ったわ。それとも、もしかして露出狂だったのかしら?」
「うふふ、王女様みたいなお子様には着こなせないドレスを着ているだけよ?やっぱりお子様には大人の魅力溢れるデザインのドレスを理解するのは無理よねぇ。あたしが王女様みたいな可愛らしいドレスなんて着たら胸が苦しくってとても着られないのよねぇ。凹凸がないスタイルだとなんでも選ばすに着れて羨ましいわぁ。でもセンスが壊滅的にダサいわね、あたしのお下がりあげましょうか?着こなせるとは思えないけど!」
金色の縦ロールと揺る巻きの黒髪がもう火花バッチバチでぶつかり合っています。なんと言うか……かなり怖いです。なんでいきなりケンカしてらっしゃるんでしょうか?めちゃくちゃ怖いんですけど。
私にとってお茶会と言えばレベッカ様との楽しい思い出しかないですけど、一応令嬢同士のお茶会のマナーなどもレベッカ様から教授されています。
レベッカ様はよく「いいですか、特に仲良くもない令嬢同士の最初のお茶会とはお互いの牽制と探り合いなのです。そして将来自分と手を組むに相応しいかを見極める場所でもあります。だからこそ表面は穏やかでも内心は火花が散るものですのよ。でも決してそれを相手に悟らせてはいけませんわ、そんな簡単に悟られるようでは三流です。そんなことでは、とてもではないですが貴族社会の荒波を乗り越えられませんわよ」とおっしゃっていましたが……。
このおふたりは内心どころか表面でバッチバチなんですけれど。王女様はまぁ、まだ子供でいらっしゃいますし……けれどアミィ嬢には令嬢としての基礎が元からないような、そんな雰囲気が漂っている気がするのはなぜでしょうか。
「女同士の争いって怖いねぇ」
私の隣でジルさんがぽつりと呟きますが、顔がにんまりしてますよ。結局何を企んでいるのか詳しく教えてもらえませんでしたが私としてもこのチャンスをなんとかしなくてはいけません。覚悟はそれなりにしてきたつもりでしたが、それでもこのバッチバチの火花の間に割り込むのはかなり勇気がいります。
どうしたものかとタイミングが掴めず戸惑っていると、王女様の方が先に私たちに気づいてくれました。すると王女様はアミィ嬢を軽くひと睨みしてから、にっこりと笑顔を作って私達に向けてくれたのです。
「ごめんなさい、みっともない所をお見せしてしまったわ」
「いえ、そんな……「へぇ、あなたが噂の聖女なの?」は、はいっ!そうですけど……」
王女に向かって下げた頭を戻した途端、アミィ嬢がぐいっと顔を寄せてき値踏みするかのようにジロジロと視線を上下させてきました。例え私が聖女でなかったもしても、初対面の相手に対し手これはかなり失礼な態度になるでしょう。私が対応に困っていると、アミィ嬢はまるで馬鹿にするように「ふん!」と鼻を鳴らしました。……貴族令嬢のマナーとしては最悪です。
そして、がっかりしたかのように肩を竦めて「なーんだ。わざわざ異国から大使がくるほどの聖女って言うからどんなのかと思ったけど、たいしたこと無いじゃなぁい。しかも気味の悪い桃毛だし!」とケラケラ笑い出したのです。さらに私の隣に立っているジルさんにも同じ視線を向けました。
いえ、少し違いますね。ジルさんに対しては、なんだかねっとりとまとわりつくような感じで見ていて思わず背筋がゾクリと寒くなるほどの変わりようです。
「うふふ、こっちが異国の大使様ぁ?あらやだぁ、確か灰色の瞳って不吉なんじゃなかったっけ?こわぁ~い。……でも顔はなかなかいい男だわ。そうね、ギリギリ合格だわ」
一体何の審査を受けて何に合格したのかは謎ですが、「合格」と言われた途端にジルさんがにっこりとアミィ嬢にキラキラとした笑顔を見せ出しました。えっ、こわっ。無闇矢鱈にキラキラしないで下さい。背筋が寒くなる怖さですよ。
しかし、その笑顔を見てアミィ嬢が嬉しそうにほんのりと頬を染めました。どうやらアミィ嬢はキラキラなジルさんがお気に召したようですが……私からしたらジルさんのあんなキラキラ笑顔こそ不吉なんですが。
するとアミィ嬢は、ジルさんの腕に絡みつき自身の胸をぎゅうぎゅうとその腕に押し付けだしたのです。
「ねぇ。あたし、異国の話が聞きたいわ。公爵令嬢であるこのあたしが誘ってるんだから、もちろん聞かせてくれるわよね?」
そしてなんてことでしょうか。アミィ嬢はジルさんの返事も聞かずに、腕に絡みついたまま攫うように連れていってしまったではないですか。……アミィ嬢が去った後には甘い香水の香りが残っていてやたらに鼻につきました。
流れるような手際の良さにただ見ているしか出来なかったのですが、どのみちどんな言葉を発すれば良かったのかもわかりませんでした。
だって、あまりにも酷かったんですもの。
私の記憶が間違ってなければアミィ嬢って一応公爵令嬢でしたよね?いくら元男爵令嬢とは言え、現公爵令嬢で隣国の王子の婚約者候補でしたよね?
と言うか、貴族の令嬢ですよね?
申し訳無いですけど平民だってもう少し気品があると思います。あれじゃ王女様のおっしゃるとおり、まるで娼婦じゃないですか……。いえ、まだ娼婦の方々の方が気品がある気がします。
アミィ嬢を間近で見たのはこれが二度目ですが、ここまで酷いとは思いませんでした。
ーーーーこんな人のせいで、レベッカ様は婚約破棄され修道院に送られたなんて。人を見た目で判断するなんて愚かな行為かもしれませんが、ハッキリ言って貴族令嬢としてレベッカ様の足元にも及ばないと言い切れます。同列に並ぶなど烏滸がましい程ですね。それくらい、レベッカ様は素敵な令嬢でしたのに……。
それにしても、ジルさんも何を笑顔で対応してるんでしょうか。ベタベタと触られても嬉しそうにして……。エドガーといい、やっぱり男の人ってアミィ嬢みたいな女性に弱いのかもしれませんね。
アミィ嬢に引っ張られるように連れられていくジルさんの(おっと、こっちをチラッと見ました。なにやら笑ってますけど、なんなんでしょうか)後ろ姿に思わずため息をついてしまいました。
「異国の聖女様」
王女様に声をかけられ、はっと我に返ります。しまった。と、体に力が入ります。王女様の前でこんな態度をしては不敬になるかもしれません。
「……申し訳ありません、王女殿下。どうか私の事はロティーナとお呼びください」
「いいのよ。あれを目の当たりにしたら誰でもそうなるわ。あんなのが公爵令嬢で、もしかしたら未来の隣国の王妃になるかもだなんて考えたらため息くらいつきたくなるわよ。それよりロティーナ……いえ、ロティーナ様。あなたには異国の聖女としてわたくしと交流して欲しいの。是非お友達になって欲しいのよ!」
そう言って縦ロールをピョコンと揺らした王女様は、目がキラキラと輝いて年相応な少女に見えました。なんだが噂とは違う感じがします。
「私でよければ喜んで」
どうやら王女様は私に対して友好的なご様子なのでなんとかなりそうなのですが……私としては、さっきのジルさんの態度が怖すぎて気になります。今回の私の目的は情報収集ですので、あまり派手な行動は控えて欲しいのですが……あぁもぅ、本当に今度は何をする気でしょうか?
貴族令嬢にとってお茶会とは淑女の嗜みであり、小さな社交界でもあります。……そう、それは令嬢の気品の差を見せつける“女の戦い”の場所でもあるのです。
***
今日のお茶会は、なんと言っても王女様主催のお茶会ですもの。しかもあのアミィ嬢も招待されているとなれば、きっと何かが起こるだろうとはもちろん予測していました。ですが、まさか顔を合わせた瞬間からこんなことになっているなんて思いもしていなかったのです……。
ジルさんにエスコートされて到着したのは王城にある薔薇の咲き乱れる庭園でした。その見事な程に咲き誇る薔薇の中で私が目撃したのは、睨み合って火花を散らしている王女様と現公爵令嬢であるアミィ嬢の姿でした。王女様はフリルのついた可愛らしい黄色のドレスを着ていらしたのですが、アミィ嬢はなんていうか……今にも胸が零れ落ちそうな際どい真っ赤なドレスを着ていらっしゃいました。腰まで丸見えになりそうな際どいスリットの入ったそのドレスは、申し訳ないですが王女様のおっしゃるとおりその道のお仕事を極めた方の装いに見えてしまいそうでした。
「あらぁ、公爵令嬢ともあろう人がそんな下品なドレスを着てくるなんて世も末ね!そんなに肌を露出するなんてまるで娼婦かと思ったわ。それとも、もしかして露出狂だったのかしら?」
「うふふ、王女様みたいなお子様には着こなせないドレスを着ているだけよ?やっぱりお子様には大人の魅力溢れるデザインのドレスを理解するのは無理よねぇ。あたしが王女様みたいな可愛らしいドレスなんて着たら胸が苦しくってとても着られないのよねぇ。凹凸がないスタイルだとなんでも選ばすに着れて羨ましいわぁ。でもセンスが壊滅的にダサいわね、あたしのお下がりあげましょうか?着こなせるとは思えないけど!」
金色の縦ロールと揺る巻きの黒髪がもう火花バッチバチでぶつかり合っています。なんと言うか……かなり怖いです。なんでいきなりケンカしてらっしゃるんでしょうか?めちゃくちゃ怖いんですけど。
私にとってお茶会と言えばレベッカ様との楽しい思い出しかないですけど、一応令嬢同士のお茶会のマナーなどもレベッカ様から教授されています。
レベッカ様はよく「いいですか、特に仲良くもない令嬢同士の最初のお茶会とはお互いの牽制と探り合いなのです。そして将来自分と手を組むに相応しいかを見極める場所でもあります。だからこそ表面は穏やかでも内心は火花が散るものですのよ。でも決してそれを相手に悟らせてはいけませんわ、そんな簡単に悟られるようでは三流です。そんなことでは、とてもではないですが貴族社会の荒波を乗り越えられませんわよ」とおっしゃっていましたが……。
このおふたりは内心どころか表面でバッチバチなんですけれど。王女様はまぁ、まだ子供でいらっしゃいますし……けれどアミィ嬢には令嬢としての基礎が元からないような、そんな雰囲気が漂っている気がするのはなぜでしょうか。
「女同士の争いって怖いねぇ」
私の隣でジルさんがぽつりと呟きますが、顔がにんまりしてますよ。結局何を企んでいるのか詳しく教えてもらえませんでしたが私としてもこのチャンスをなんとかしなくてはいけません。覚悟はそれなりにしてきたつもりでしたが、それでもこのバッチバチの火花の間に割り込むのはかなり勇気がいります。
どうしたものかとタイミングが掴めず戸惑っていると、王女様の方が先に私たちに気づいてくれました。すると王女様はアミィ嬢を軽くひと睨みしてから、にっこりと笑顔を作って私達に向けてくれたのです。
「ごめんなさい、みっともない所をお見せしてしまったわ」
「いえ、そんな……「へぇ、あなたが噂の聖女なの?」は、はいっ!そうですけど……」
王女に向かって下げた頭を戻した途端、アミィ嬢がぐいっと顔を寄せてき値踏みするかのようにジロジロと視線を上下させてきました。例え私が聖女でなかったもしても、初対面の相手に対し手これはかなり失礼な態度になるでしょう。私が対応に困っていると、アミィ嬢はまるで馬鹿にするように「ふん!」と鼻を鳴らしました。……貴族令嬢のマナーとしては最悪です。
そして、がっかりしたかのように肩を竦めて「なーんだ。わざわざ異国から大使がくるほどの聖女って言うからどんなのかと思ったけど、たいしたこと無いじゃなぁい。しかも気味の悪い桃毛だし!」とケラケラ笑い出したのです。さらに私の隣に立っているジルさんにも同じ視線を向けました。
いえ、少し違いますね。ジルさんに対しては、なんだかねっとりとまとわりつくような感じで見ていて思わず背筋がゾクリと寒くなるほどの変わりようです。
「うふふ、こっちが異国の大使様ぁ?あらやだぁ、確か灰色の瞳って不吉なんじゃなかったっけ?こわぁ~い。……でも顔はなかなかいい男だわ。そうね、ギリギリ合格だわ」
一体何の審査を受けて何に合格したのかは謎ですが、「合格」と言われた途端にジルさんがにっこりとアミィ嬢にキラキラとした笑顔を見せ出しました。えっ、こわっ。無闇矢鱈にキラキラしないで下さい。背筋が寒くなる怖さですよ。
しかし、その笑顔を見てアミィ嬢が嬉しそうにほんのりと頬を染めました。どうやらアミィ嬢はキラキラなジルさんがお気に召したようですが……私からしたらジルさんのあんなキラキラ笑顔こそ不吉なんですが。
するとアミィ嬢は、ジルさんの腕に絡みつき自身の胸をぎゅうぎゅうとその腕に押し付けだしたのです。
「ねぇ。あたし、異国の話が聞きたいわ。公爵令嬢であるこのあたしが誘ってるんだから、もちろん聞かせてくれるわよね?」
そしてなんてことでしょうか。アミィ嬢はジルさんの返事も聞かずに、腕に絡みついたまま攫うように連れていってしまったではないですか。……アミィ嬢が去った後には甘い香水の香りが残っていてやたらに鼻につきました。
流れるような手際の良さにただ見ているしか出来なかったのですが、どのみちどんな言葉を発すれば良かったのかもわかりませんでした。
だって、あまりにも酷かったんですもの。
私の記憶が間違ってなければアミィ嬢って一応公爵令嬢でしたよね?いくら元男爵令嬢とは言え、現公爵令嬢で隣国の王子の婚約者候補でしたよね?
と言うか、貴族の令嬢ですよね?
申し訳無いですけど平民だってもう少し気品があると思います。あれじゃ王女様のおっしゃるとおり、まるで娼婦じゃないですか……。いえ、まだ娼婦の方々の方が気品がある気がします。
アミィ嬢を間近で見たのはこれが二度目ですが、ここまで酷いとは思いませんでした。
ーーーーこんな人のせいで、レベッカ様は婚約破棄され修道院に送られたなんて。人を見た目で判断するなんて愚かな行為かもしれませんが、ハッキリ言って貴族令嬢としてレベッカ様の足元にも及ばないと言い切れます。同列に並ぶなど烏滸がましい程ですね。それくらい、レベッカ様は素敵な令嬢でしたのに……。
それにしても、ジルさんも何を笑顔で対応してるんでしょうか。ベタベタと触られても嬉しそうにして……。エドガーといい、やっぱり男の人ってアミィ嬢みたいな女性に弱いのかもしれませんね。
アミィ嬢に引っ張られるように連れられていくジルさんの(おっと、こっちをチラッと見ました。なにやら笑ってますけど、なんなんでしょうか)後ろ姿に思わずため息をついてしまいました。
「異国の聖女様」
王女様に声をかけられ、はっと我に返ります。しまった。と、体に力が入ります。王女様の前でこんな態度をしては不敬になるかもしれません。
「……申し訳ありません、王女殿下。どうか私の事はロティーナとお呼びください」
「いいのよ。あれを目の当たりにしたら誰でもそうなるわ。あんなのが公爵令嬢で、もしかしたら未来の隣国の王妃になるかもだなんて考えたらため息くらいつきたくなるわよ。それよりロティーナ……いえ、ロティーナ様。あなたには異国の聖女としてわたくしと交流して欲しいの。是非お友達になって欲しいのよ!」
そう言って縦ロールをピョコンと揺らした王女様は、目がキラキラと輝いて年相応な少女に見えました。なんだが噂とは違う感じがします。
「私でよければ喜んで」
どうやら王女様は私に対して友好的なご様子なのでなんとかなりそうなのですが……私としては、さっきのジルさんの態度が怖すぎて気になります。今回の私の目的は情報収集ですので、あまり派手な行動は控えて欲しいのですが……あぁもぅ、本当に今度は何をする気でしょうか?
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