上 下
19 / 74

19 やっぱり胡散臭いんです

しおりを挟む
     エドガーと無事に婚約破棄が出来たあの日からすでに数日。ここ最近では1番穏やかな日々を過ごしています。領民の方たちにも正式に私とエドガーの婚約破棄を発表すると、とても大喜びされました。

「どうだい?とりあえずは君の望み通り公爵家にダメージを与えずに婚約破棄が出来ただろう?まとめてやろうとするからややこしいことになるんだよ。こうゆうのはひとつずつ確実にやらなきゃね」

「えぇ、あなたのおかげです。ありがとうございました……」

     今まで胡散臭いなんて言って申し訳なかったわ。と反省し、これにはちゃんと感謝を伝えました。確かにジルさんが私を聖女に任命してくれなければここまでスムーズに婚約破棄できなかったかもしれませんから。もし問題があるとすれば、私と婚約破棄したせいでエドガーがもうアミィ嬢に貢ぎ物をできなくなくなった事に対してアミィ嬢がなにかしてくるかもしれないことくらいでしょうか。もしかしたらアミィ嬢がエドガーを助けようと動くかもしれないと一瞬だけ考えましたが……やはりそれは無いでしょう。アミィ嬢が今の座を蹴ってまでエドガーを助けようとするとは思えません。確かにエドガーはアミィ嬢に心酔していましたが、アミィ嬢もそうかと言えば違うでしょうから。

     それにしてもエドガーはあの日、なぜあんなに自信満々でやって来たのでしょう?私がエドガーとの婚約を破棄するはずがないと信じていたからこそあんなに強気だったのでしょう、どこからか情報を手に入れていたような感じでした。……もしかしたら誰かに入れ知恵されたのでは……とも思ってしまいます。

     いえ、もう考えるのはやめましょう。彼は遠い所へ行ったのですもの……。

 あの時はお母様に抱き締められた反動でさらに泣いてしまってお父様たちの会話はよく聞いてなかったのですが、後から確認したらエドガーは「もう2度と私の前に姿を見せられない場所」へ送られたそうです。もしかしたら国外へ追放されたのかもしれません。せめて命は見逃してあげて欲しいと願ったら「死にはしない場所だから大丈夫だ」と言われました。あんな婚約者でしたが、それでも死んで欲しいとまでは思ってませんから。

     たぶん、あんなに馬鹿にしていたレベッカ様と同じように修道院のような場所へ連れていかれたのでしょう。こんなことを言ったら性格が悪いと思われるかもしれませんが金品の強奪は犯罪ですし、あれほど私を罵倒したのですからお父様もとてもお怒りになったようでしたのでさすがに無罪とはいかないでしょう。……自業自得ですね。
     子爵家には申し訳なく思いますがアミィ嬢との浮気がさらに上乗せされればもっと大問題になっていたかもしれませんので、私のワガママだと言われても許して欲しいです。

     アミィ嬢との事も……もちろん許せませんが、今は公爵家を巻き込まずに婚約破棄出来た事に心からホッとしました。

「さて、じゃあ次はオレの方に協力してくれる?」

「それはもちろんですが……何をさせる気ですか?今度こそちゃんと事前に教えてください!」

     この腹黒ジルさんはいつもはぐらかして肝心な事を教えてくれないので困ります。今回の事だって結局教えてくれなかったせいで感情が爆発して泣いてしまったんですから。まさか、エドガーが乗り込んで来るのを確信して子爵家のおふたりを裏口から屋敷に招き入れてあのやり取りを見せていただなんて……。私にまで隠す必要ありました?

「なぁに、簡単なことさ」

     そう言って1枚の封書を私に手渡し、差出人のところを指差しました。

「こ、これは……!」

「そ。ロティーナ嬢宛の招待状。王女様からのね」

     そう。それは、この国の王女様からのお茶会の招待状だったのです。

「な、な、なんで私なんかに王女様からの招待状が届くんですか?!私と王女様は何の接点も無いし、私は伯爵令嬢で「今は・・、異国に選ばれた聖女様だ」えっ」

     またもやにんまりと笑うジルさん。もうこの顔は見飽きました。なんでそんなに楽しそうなんですか。

「ところで、ロティーナ嬢は王女様についてどのくらい知ってる?」

「えっ、そうですね。ご年齢と……その、」

「ワガママ三昧だって?ついでに時代遅れの縦ロールね」

「!……えーと、まぁ。ちょっと、ジルさん!誰かに聞かれたら不敬で捕まりますよ!それに、髪型は余程奇抜でない限り個人の自由ですわ!」

「まぁまぁ、さらに情報を追加するとかなりの珍しいもの好きなんだ。迷信とか占いとか……もちろん“聖女”にも興味津々なわけ。それで今ならその珍しい“聖女”が見放題触り放題ってなれば……どうなると思う?」

     そこまで言われて、あの時エドガーが言っていた「大使が王女に謁見」と言う言葉を思い出しました。というか、触り放題ってどんな謁見してきたんですか?私は珍獣じゃありません!

     私がジットリと疑いの目を向けるとジルさんはにんまりしたままそしらぬ顔で話を続けます。

「それで、なんとそのお茶会には現公爵令嬢も招待されてるんだ。君は“異国の聖女”として王女と公爵令嬢に堂々と会えるってわけ」

「……アミィ嬢が?」

「なんだかんだ言っても君もそこまでアミィ嬢について詳しいわけじゃないだろ?これはある意味チャンスだ。まずは近づかないとね。ついでに聖女として牽制してくるのもいいんじゃない?」

     確かに今までの私ではアミィ嬢に直接会うことも話すことも出来ませんでしたが、“異国の聖女”としてなら同等の立場で会えると言うことですね。上手く行けば、なにか聞き出せるかもしれません。

「……それで、今度は何を企んでるんですか?」

「ん~?企むなんて人聞きが悪いなぁ。王女様の願いを聞き入れて、君を無事に聖女として異国に連れ出したいだけさ。下手に反対されたらめんどくさいだろ?

     それに……オレは優しいから、誰かさんの願いもついでに・・・・叶えてやろうと思っているだけさ」

    誰かさんって誰の事でしょうか? 一体なにをする気で何を企んでいるのかさっぱりわかりません。

「結局詳しくは教えてくれないんですから……。まぁ、わかりました。どのみち王家からの招待状なら断れませんし。でも、私は王城へ行けるようなドレスなんて持ってませんよ」

「あ、それはこっちで色々としちゃうから大丈夫~。ちなみに使用人たちにはすでに通達済みなんだけど、君の楽しい侍女ちゃんや執事長さんが張り切ってたよ?なんかやっとオレの事を認めてくれたみたいでよかった~」

「いつの間にアニーやトーマスと仲良くなったんですか……」

「ん?なんかロティーナ嬢を聖女として見初めるとはその目だけは素晴らしい、神眼だ!とか、エドガーを追いやった手腕だけは認めてやるとか……。オレ、この目をそんなに褒められたの初めてだよ」

 なにやら楽しそうに思い出し笑いをしながら目を細めます。確かにジルさんの瞳は不吉な色だと言われていますから過去には色々と中傷されたのかもしれませんね。

「……あのふたりは、人の“色”など気にしませんわ」

「うん。伯爵家の人たちも、領地の人たちもみんな……ここは良いところだね」

「……ありがとうございます」

 私の大切な自慢の家族たちや領地が褒められて素直にお礼が言えました。ちゃんとわかってもらえたのが嬉しかったのです。やっぱりこの人は信頼出来る人なのかも知れないーーーー。少しだけジルさんに心の扉が開きかけたその時。


「いやぁ、これでオレも動きやすくなるなぁ。やっぱり人手は多いほうが仕込みがやりやすいんだよね。こっそりやるにも限界があるし。今なら堂々となんでも出来るなぁ。あれとこれとそれと~♪」

 ジルさんがいかにも悪巧みを企んでいるにんまり顔でサラッとそう言ったのを聞いて、開きかけた扉が勢い良く閉まります。



     あぁ、もう!やっぱり胡散臭いです!本当に何をする気なんですか?!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。

As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。 例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。 愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。 ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します! あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 番外編追記しました。 スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします! ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。 *元作品は都合により削除致しました。

【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!?  今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!

黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。 そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

処理中です...