婚約破棄された挙げ句に国外追放された猫耳男爵令嬢を拾ってくれたのは能面公爵様でした〜無表情な彼が私を溺愛する時だけ破顔してきます〜

As-me.com

文字の大きさ
上 下
2 / 2

その2

しおりを挟む
「やぁ、君のその耳……とても可愛らしいね。そんなは初めて見たよ。名前を聞いてもいいかな?」

 初めて足を踏み入れた王都で、白い毛並みをした男性に声をかけられた。別世界のように洗礼されな都会で初めて貴族……しかも高位貴族だろう身なりの男性に声をかけられてテンションがあがって受かれてしまったのは真実だ。だが、まさかそれが王太子だったなんてその時の私は夢にも思わなかったのである。その出会いが後に私の運命を狂わせるなんてこともーーーー。








 ***






 くんくんくん……。

 あぁ、なんだかいい匂いがする。これはお日様の匂いだ……。思わずその匂いを鼻から吸い込み、自身を包みこんでくれているに顔を埋めた。そのまま頬擦りをすると、少し硬いけど肌触りのよいそのがビクリと振動する。

 ……あれからどうしたんだっけ?と、わずかに覚醒してきた思考能力で記憶をさぐった。えーと……そうそう、あのクソッタレ王子のせいで母国を追い出されたのよね。こんなことなら学園になんか行かずに領地で畑仕事をしていればよかった。いや、学園に入学するのは貴族の子供の義務だからどのみち王都に行くしかなかったんだけどさ。いくら領民たちとほとんど変わらない暮らしをしていたとはいえ一応男爵家だったし。

 そんなことを考えていると意識がだんだんハッキリしてくる。ーーーーそうだ、私ったらせっかく亡命してきたのに空腹で倒れたんだった。まさか死んでないわよね?目を開けたら天国なんてこと……。

 そこまで考えて怖くなってきた。亡命なんてかっこいい言葉で濁しても所詮私は密入国してきた他国の犯罪者だ。獣人の国と人間の国はあまり交流がないと聞いている。あの時はいかにして獣人の国を抜け出すかばかりを考えていたが、もしこの国が獣人を蔑む国だったならば私の正体がバレたらどのみち牢獄行きなのではーーーー?!しかもこっそり密入国してきた獣人の娘が空腹で死亡してたなんてとんだスキャンダルだ。そんなことになったら、絶対に獣人の国へ連絡が行ってしまう。それこそ、国に残ってる両親に迷惑をかけてしまうかもしれないじゃないか!!




「ーーーーまだ、死ねないんだからぁ!!」




 そのまま一気に覚醒した私は、勢い良く起き上がった。同時にそれまで自分が匂いを嗅いだり頬擦りをしていたの正体を知ってしまったのだ。



「……やっと目覚めたか。気を失っているようなのに抱きついてきたと思ったらやたら力が強くて離せなかったがーーーー獣人なら納得だ」

「え」


 なんと私は、人間の国の誰かに抱きついていたらしいとその時初めて理解した。

「え、いや、え?」

 ほんのりパニクっているとその人がため息混じりに体を起こす。どうやら押し倒していたらしいとわかるとさらに嫌な汗が流れた。しかもさっそく獣人だとバレているようだ。あ、いつの間にかフードが取れてる?!やばいやばいやばい……!

 その人は起き上がった私の体を極力触れないように引き離すと、ひとつ息を吐きた。……だが、その表情は仮面のように無表情だ。失礼かもしれないがなんとなく怖いと思ってしまった。

「……覚えていないのか。たまたまここを通りかかったんだがその時に君が倒れたのを偶然見かけて、つい支えようと手を伸ばしたらなぜか抱きつかれてしまい、そのまま君は俺を押し倒したんだ。その後も腹の音がずっと鳴っていたが……もしかして空腹で倒れたのか」

「あ、えっと……はい。実は数日まともに食べて無くて……」

 思わず反射的に謝りながら頭を下げる。その間も腹の音は爆音で唸っていたがいまの状況を把握してしまい、血の気が引くサッと引いた気がした。

 私ったら、この人に馬乗り状態になってない?!しかも、はたから見たら押し倒して襲ってると思われても仕方ない状況なのだ。この人がどんな立場かは知らないが、この状況が彼にとってマイナスでしかないのはわかりきっている。なんでことだ、さすがにこんな初っ端から誰かに迷惑をかけるつもりなんかなかったのにーーーー!




「ご、ごめんなさい……!私は、あの、その……っ」

 慌ててその人の上から離れると、その人は無言のまま立ち上がる。座り込んだまま改めて見ると着ているものもすごく上等そうだし、腰には剣もぶら下げていた。つまりそれなりに権力のある立場なのだろう。そしてものすごく綺麗な顔をしている。無表情だけど。激昂されていきなり切りつけられるよりは全然いいのだけど、まるで精巧な人形のようで感情の欠片も読み取れない。青い瞳も綺麗だけど光の無いガラス玉をはめ込んだようだ。

「…………」

 ん?なんか、すっごく私を見てくる?!やっぱりこの人は高位貴族かなんかで、私のことを不審な獣人として捕まえようとしてるのでは?!

 さっきも思わず叫んだが、こんなところで死ぬわけにも捕まるわけにもいかないのだ。

「ご、ごめんなさいぃぃぃ!!」

「あっーーーー」

 そして私は、未だ鳴り続けるお腹を抑え最後の力を振り絞ると、その場から全力ダッシュで逃げ出したのだった。


 ふふふ!いくら強そうな人間でも獣人の全力には勝てまい!あ~っ、それにしてもお腹すいたよぉ!!







「……猫の獣人の娘、か」

 振り返ることもなくひたすらダッシュしていた私は知らなかったのだ。その時、無機質なガラス玉のようだったその瞳に光が差し込んでいたことに。










しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

ケダモノ王子との婚約を強制された令嬢の身代わりにされましたが、彼に溺愛されて私は幸せです。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ミーア=キャッツレイ。そなたを我が息子、シルヴィニアス王子の婚約者とする!」 王城で開かれたパーティに参加していたミーアは、国王によって婚約を一方的に決められてしまう。 その婚約者は神獣の血を引く者、シルヴィニアス。 彼は第二王子にもかかわらず、次期国王となる運命にあった。 一夜にして王妃候補となったミーアは、他の令嬢たちから羨望の眼差しを向けられる。 しかし当のミーアは、王太子との婚約を拒んでしまう。なぜならば、彼女にはすでに別の婚約者がいたのだ。 それでも国王はミーアの恋を許さず、婚約を破棄してしまう。 娘を嫁に出したくない侯爵。 幼馴染に想いを寄せる令嬢。 親に捨てられ、救われた少女。 家族の愛に飢えた、呪われた王子。 そして玉座を狙う者たち……。 それぞれの思いや企みが交錯する中で、神獣の力を持つ王子と身代わりの少女は真実の愛を見つけることができるのか――!? 表紙イラスト/イトノコ(@misokooekaki)様より

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約破棄された悪役令嬢は聖女の力を解放して自由に生きます!

白雪みなと
恋愛
王子に婚約破棄され、没落してしまった元公爵令嬢のリタ・ホーリィ。 その瞬間、自分が乙女ゲームの世界にいて、なおかつ悪役令嬢であることを思い出すリタ。 でも、リタにはゲームにはないはずの聖女の能力を宿しており――?

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

処理中です...