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その3(アレックス視点)
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唐突だが、オレには前世の記憶というものがある。6歳の誕生日の夜、寝相が悪かったオレはベットから転がり落ち頭を強打したのだが、その時に突如思い出したのである。
主体となるのは今のオレなのでその記憶についてもなんとなく第三者から見たような……そう、まるで演劇を見てきたかのような感想しかないのだが、それでもその記憶が真実だということだけは理解していた。
そしてその記憶によると、なんとオレがいるこの世界は乙女ゲームとやらという遊戯によって作り上げられた世界と至極似通っているのだ。
それこそ本当に演劇で披露されているかのような内容ではあったが、愛に生き真実を訴える主人公は悪役令嬢と呼ばれる者に虐げられる悲劇のヒロインであった。そして、勘違いやすれ違いを繰り返しながらも真実の愛を貫き最後は悪役令嬢を断罪して幸せになる物語なのだが……。その記憶では、確かに“オレ”がその主人公を意のままに操って物語を進めていた。
そう、“オレ”が主人公を幸せにしていたのだ。だからか、“今”の世界でも“オレ”こそが主人公を幸せにしてやらねばならないのではないか。そんな風に思っていた。
ただ、ひとつ問題がある。それは……オレはその主人公たる少女の顔がわからない。なぜか主人公と悪役令嬢の顔だけが記憶から抜け落ちている状態だ。オレが覚えているのは、可憐で清らかな美しい少女であるとしか……。
オレはその事実に肩を落とした。
オレが守るべき運命の相手の顔がわからないとなれば、どうやって守り幸せにすればいいのか。と。
「いや、しかし……。そうか、そうだな」
その時、オレの中の“誰か”が「大丈夫だ」と語りかけてきた気がした。
その言葉に妙に納得してしまったのは真実だからだ。
本当に守るべき運命の相手ならば、顔など知らなくても出会った瞬間に感覚でわかるはずだ。記憶の中の遊戯でも「真実の愛」について熱く語られている。
ならばオレもその運命とやらに従い、身を任せてよう。
そして、10歳のあの日。
オレは別荘地に遊びに来ていたのだが、護衛を振り切って探検をしていたら足を滑らせて湖に落ちてしまった。もちろん溺れた。なにせオレは泳げないからな!
しかし俺は助かった。護衛にではなく、ひとりの少女によって。
気を失っていたオレが目を覚ますと、そこには天使かと見間違えるほどの美しい少女がいたのだ。なにやらぼんやりと、それでいて心配そうにどこかを見ているようだが……か、かわいい!!
オレは彼女と目があった瞬間に運命を感じた。そう、彼女こそがオレが守るべき相手なのだと!
「オレは君に一目惚れした」
「へ……?」
「どうかオレの婚約者になってくれ!」
「えーと……、あなたはどこのどなたでしょうか……?」
照れているのか眉をハの字にして首を傾げるその姿に胸が締め付けられる。やっぱりかわいい!
「オレはこの国の王子だぁ!」
「えーと……お断りするわけには……」
やはり照れているらしい。さらに眉がハの字になった。まぁ、王子だとわかれば遠慮もしてしまうか。ここはおれが男らしくハッキリ言わねばなるまい。
「王家からの求婚は絶対だぁ!!」
「は、はい……(どうしましょう……困ったわぁ。でも下手に怒らせたら妹にも被害がいってしまうかも……それでなくてもこの人を助けたせいで倒れてしまったのに。あぁ、あの子は大丈夫かしら。使用人が運んでくれたけれど、私だってこの人が絡んでこなければすぐにでも側に行きたいのに)わかりました、お受け致します……」
こうしてオレは守るべき人、オリヴィアと運命の出会いを果たしたのである。
その後、妹だと紹介された女がいたが……そいつについても見た瞬間にわかってしまったことがある。
ーーーーこの女こそ、悪役令嬢だと!
オリヴィアの前ではしおらしくしているようだが、時折見せる憎悪の目をオレは見逃さなかった。オリヴィアの背後から、まるでオレまでをも射抜くかのような鋭い視線。きっとこのヴァーマナがオリヴィアを破滅させようとする悪役令嬢だ。オリヴィアは騙されているようだが、オレは目は誤魔化せないぞ!
それから数年。オレはオリヴィアを守るために獅子奮闘した。
確か悪役令嬢は主人公に地味な格好をさせて蔑んでいたはず。だからオレはオリヴィアにド派手で綺羅びやかなドレスや装飾品を贈った。オリヴィアはやはり遠慮しているのか「そのように派手なものは苦手ですので、もう少し控えてくださると嬉しいのですが……」とため息混じりに言ってきたが、もしかしたらあの悪役令嬢に嫌味でも言われているのかと心配になった。
だから「オリヴィアは何も心配しなくていい!」とさらに絢爛豪華な贈り物をオリヴィアの実家に送り続けたのだ。そうすればヴァーマナに見せつけてやれるからな!
さらにオリヴィアが心配で指輪やネックレス、花束にヘアアクセ、ピアスやドレスのリボンの隙間などに発信機や盗聴器、それに録音器など。少々物騒ではあるが王家の隠密が使うような極秘気密な品物をふんだんに仕込んで贈ったのだ。
それもこれも全ては、オリヴィアを守るために。
もしもオレの知らぬ間にヴァーマナがオリヴィアに酷いことをしてもすぐにわかるようにだ。だが、悪賢いヴァーマナはオリヴィアからそれらを奪い発信機を壊してしまうのだ。なんて酷いやつなのか。
そう、今回もまた……。
ピーーーーブツッ!と不快な電子音が聞こえ、音が途切れた。
またしても、オリヴィアの身の安全を守るための発信機は壊されてしまったのだ。
「おのれ、悪役令嬢め。オレは必ずオリヴィアを守ってみせるぞ!オリヴィアこそがオレの全てなのだから!」
こうしてオレは今日もまた、新たに発信機を仕込む贈り物を選ぶのだった。
主体となるのは今のオレなのでその記憶についてもなんとなく第三者から見たような……そう、まるで演劇を見てきたかのような感想しかないのだが、それでもその記憶が真実だということだけは理解していた。
そしてその記憶によると、なんとオレがいるこの世界は乙女ゲームとやらという遊戯によって作り上げられた世界と至極似通っているのだ。
それこそ本当に演劇で披露されているかのような内容ではあったが、愛に生き真実を訴える主人公は悪役令嬢と呼ばれる者に虐げられる悲劇のヒロインであった。そして、勘違いやすれ違いを繰り返しながらも真実の愛を貫き最後は悪役令嬢を断罪して幸せになる物語なのだが……。その記憶では、確かに“オレ”がその主人公を意のままに操って物語を進めていた。
そう、“オレ”が主人公を幸せにしていたのだ。だからか、“今”の世界でも“オレ”こそが主人公を幸せにしてやらねばならないのではないか。そんな風に思っていた。
ただ、ひとつ問題がある。それは……オレはその主人公たる少女の顔がわからない。なぜか主人公と悪役令嬢の顔だけが記憶から抜け落ちている状態だ。オレが覚えているのは、可憐で清らかな美しい少女であるとしか……。
オレはその事実に肩を落とした。
オレが守るべき運命の相手の顔がわからないとなれば、どうやって守り幸せにすればいいのか。と。
「いや、しかし……。そうか、そうだな」
その時、オレの中の“誰か”が「大丈夫だ」と語りかけてきた気がした。
その言葉に妙に納得してしまったのは真実だからだ。
本当に守るべき運命の相手ならば、顔など知らなくても出会った瞬間に感覚でわかるはずだ。記憶の中の遊戯でも「真実の愛」について熱く語られている。
ならばオレもその運命とやらに従い、身を任せてよう。
そして、10歳のあの日。
オレは別荘地に遊びに来ていたのだが、護衛を振り切って探検をしていたら足を滑らせて湖に落ちてしまった。もちろん溺れた。なにせオレは泳げないからな!
しかし俺は助かった。護衛にではなく、ひとりの少女によって。
気を失っていたオレが目を覚ますと、そこには天使かと見間違えるほどの美しい少女がいたのだ。なにやらぼんやりと、それでいて心配そうにどこかを見ているようだが……か、かわいい!!
オレは彼女と目があった瞬間に運命を感じた。そう、彼女こそがオレが守るべき相手なのだと!
「オレは君に一目惚れした」
「へ……?」
「どうかオレの婚約者になってくれ!」
「えーと……、あなたはどこのどなたでしょうか……?」
照れているのか眉をハの字にして首を傾げるその姿に胸が締め付けられる。やっぱりかわいい!
「オレはこの国の王子だぁ!」
「えーと……お断りするわけには……」
やはり照れているらしい。さらに眉がハの字になった。まぁ、王子だとわかれば遠慮もしてしまうか。ここはおれが男らしくハッキリ言わねばなるまい。
「王家からの求婚は絶対だぁ!!」
「は、はい……(どうしましょう……困ったわぁ。でも下手に怒らせたら妹にも被害がいってしまうかも……それでなくてもこの人を助けたせいで倒れてしまったのに。あぁ、あの子は大丈夫かしら。使用人が運んでくれたけれど、私だってこの人が絡んでこなければすぐにでも側に行きたいのに)わかりました、お受け致します……」
こうしてオレは守るべき人、オリヴィアと運命の出会いを果たしたのである。
その後、妹だと紹介された女がいたが……そいつについても見た瞬間にわかってしまったことがある。
ーーーーこの女こそ、悪役令嬢だと!
オリヴィアの前ではしおらしくしているようだが、時折見せる憎悪の目をオレは見逃さなかった。オリヴィアの背後から、まるでオレまでをも射抜くかのような鋭い視線。きっとこのヴァーマナがオリヴィアを破滅させようとする悪役令嬢だ。オリヴィアは騙されているようだが、オレは目は誤魔化せないぞ!
それから数年。オレはオリヴィアを守るために獅子奮闘した。
確か悪役令嬢は主人公に地味な格好をさせて蔑んでいたはず。だからオレはオリヴィアにド派手で綺羅びやかなドレスや装飾品を贈った。オリヴィアはやはり遠慮しているのか「そのように派手なものは苦手ですので、もう少し控えてくださると嬉しいのですが……」とため息混じりに言ってきたが、もしかしたらあの悪役令嬢に嫌味でも言われているのかと心配になった。
だから「オリヴィアは何も心配しなくていい!」とさらに絢爛豪華な贈り物をオリヴィアの実家に送り続けたのだ。そうすればヴァーマナに見せつけてやれるからな!
さらにオリヴィアが心配で指輪やネックレス、花束にヘアアクセ、ピアスやドレスのリボンの隙間などに発信機や盗聴器、それに録音器など。少々物騒ではあるが王家の隠密が使うような極秘気密な品物をふんだんに仕込んで贈ったのだ。
それもこれも全ては、オリヴィアを守るために。
もしもオレの知らぬ間にヴァーマナがオリヴィアに酷いことをしてもすぐにわかるようにだ。だが、悪賢いヴァーマナはオリヴィアからそれらを奪い発信機を壊してしまうのだ。なんて酷いやつなのか。
そう、今回もまた……。
ピーーーーブツッ!と不快な電子音が聞こえ、音が途切れた。
またしても、オリヴィアの身の安全を守るための発信機は壊されてしまったのだ。
「おのれ、悪役令嬢め。オレは必ずオリヴィアを守ってみせるぞ!オリヴィアこそがオレの全てなのだから!」
こうしてオレは今日もまた、新たに発信機を仕込む贈り物を選ぶのだった。
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