3 / 6
その3(アレックス視点)
しおりを挟む「みんな、こんにちは。今日は友達を連れて来たんだ」
迎えてくれたのは院長シスターと若いシスター。ラナ、シレネ、それに数人の子供達だった。
「手前から、ヴィラトリア嬢、スペッサ、トンガリだよ」
「こんにちは。ヴィラと呼んでください」
「スペッサだよ~よろしくね」
「…………………トンガリだ」
トンガリ君は訂正しようか迷って、諦めたみたいだ。
いきなりやって来た身なりの綺麗な4人の貴族の子供と複数の護衛に、孤児院のみんなはビビってる。そりゃそうだよな。
「ラナ、今日はリアはいないの?」
リッチがラナに尋ねた。
「あいつなら、今日は用があるからって来てないよ」
「そんな!」
がくーん、と見るからにリッチが落ち込んだ。やっぱり、こいつはいつもリア目当てで来てたんだな。
その様子にシスターもあたふたしてる。貴族の機嫌を損ねる事ほど怖い事はないだろうしね。
とりあえず、少し緊張をほぐすか。
「孤児院の皆様に贈り物がありますの」
オレは侯爵家から連れて来ていた護衛に、準備していた物を運ばせた。
「日持ちのするパンやクッキーですの。中に野菜も練り込んでますので、多少は栄養が摂れますの」
「まぁ!」
シスターズが顔を輝かせた。孤児院の1番の悩みはきっと食費だろうから。これはとっても助かる筈。
ふと、ラナやシレネと目が合う。ラナは何か言いたげに、シレネは猫みたいにジーッとオレを観察していた。
これは…もしかしてバレた?
とりあえず誤魔化すようにオレは2人に微笑んでみせた。
◇◇◇
その後は、普段通りの孤児院を見せてもらいたいという事で。リッチの護衛騎士が教える剣の指導に、トンガリ君が交じったり。
シスターの魔法教室にスペッサが交じったりして各々過ごした。
オレは勉強してる子達のサポートをした。リアの時は教養があるのを知られたくなくて出来なかったけど、ヴィラの姿ならいくらでも勉強を見てやれる。
それが楽しくて時間もあっという間だった。
そろそろいい頃合いだから帰ろうか、と話してる時にその客はやって来た。
身なりの良い明らかに貴族と分かる男だった。
「ここに、10歳くらいのピンクの目をした子はいないか!?」
「ピンクですか?お待ちください」
シスターが慌てて、シレネを連れて来る。
男がシレネに何か話しかけて、頷いたシレネが首元から何かを取り出して見せた。
ロケットペンダントだ。
「あぁ、間違いない。この子は私の娘だ!」
その後は孤児院は大騒ぎだった。
ずっと孤児として育てていた子が、まさか行方不明の子爵の娘だったなんて、漫画やゲームなら王道すぎてビックリだ。
ん?王道?
最近すっかり忘れてたけど、ココは妹のハマっていた乙女ゲームの世界で。確かヒロインは、ピンクの髪で、目もピンクだった様な…。
今さらながら、オレはシレネがいずれこの世界を救うヒロインだという事に気づいた。
子爵やその護衛、シスターらに囲まれたシレネはとても不安そうだった。
いきなり知らない男がやって来て、住み慣れた場所や、親しかった仲間から引き離されようとしている。
そしてこれから、厳しい貴族としての生活や教育が待ってるんだ。
ふと、6歳の頃にいきなり記憶を思い出して不安になった自分を思い出した。オレにはあの時お母様がいたけど、シレネにはそんな存在はいないんだ。
「子爵、ちょっとよろしいですの?」
「ん、何だい?小さなレディ」
子爵はオレに目線を合わせるべくしゃがんでくれた。良かった。良い人そうだ。
「ワタクシ、トルマリン家の娘、ヴィラトリアですの」
貴族としての礼をして、オレは子爵を見つめた。
「無事、お嬢様が見つかって良かったですの。ぜひお祝いに贈り物をしてもいいですの?」
「あ、ああ。ありがとう」
戸惑う子爵をよそに、オレはシレネの手を引いて教会の中庭に連れて行く。みんなも、よく分からないままゾロゾロ後についてきた。
「見ててくださいの」
オレは、手の平からいくつもの水の塊を出すと、それを風魔法に乗せて空に飛ばした。続けて氷の塊を飛ばす。
水の塊が次々と空に弾けて、まるで霧雨の様に雨を降らす。本日の天気は晴れ。陽光を浴びて、うっすらと綺麗な虹が浮かび上がった。
「わあ、綺麗!」
シレネが目をキラキラとさせた。
そこに小さく砕いた氷の粒を降らせる。虹の中を、陽光を浴びた氷の粒達がまるで宝石みたいにキラキラと空を舞った。
これには、子爵含め、他のみんなも歓声を上げた。
美しい光景にみんなが見惚れる中、オレはシレネを振り返った。
「ワタクシは魔法の力が少なくて簡単なものしか使えないんですの。でも努力したらこんな綺麗な物を作れる様になりましたの」
「ヴィラ様…?」
「これから貴族として生きていくのはとても大変だと思いますの。だけど、努力は裏切りませんの」
オレはシレネの手をギュッと握った。
「だから大変だと思いますけど、頑張って欲しいですの。そして13歳になったら、また貴族学校で会いたいですの」
「…っ、はい。わたし、がんばります!」
シレネは泣きながら、でも笑顔で手を振って子爵と去って行った。子爵も何度もオレにお礼を述べて帰って行った。
ーーー
次話、第一部の最終話です。
迎えてくれたのは院長シスターと若いシスター。ラナ、シレネ、それに数人の子供達だった。
「手前から、ヴィラトリア嬢、スペッサ、トンガリだよ」
「こんにちは。ヴィラと呼んでください」
「スペッサだよ~よろしくね」
「…………………トンガリだ」
トンガリ君は訂正しようか迷って、諦めたみたいだ。
いきなりやって来た身なりの綺麗な4人の貴族の子供と複数の護衛に、孤児院のみんなはビビってる。そりゃそうだよな。
「ラナ、今日はリアはいないの?」
リッチがラナに尋ねた。
「あいつなら、今日は用があるからって来てないよ」
「そんな!」
がくーん、と見るからにリッチが落ち込んだ。やっぱり、こいつはいつもリア目当てで来てたんだな。
その様子にシスターもあたふたしてる。貴族の機嫌を損ねる事ほど怖い事はないだろうしね。
とりあえず、少し緊張をほぐすか。
「孤児院の皆様に贈り物がありますの」
オレは侯爵家から連れて来ていた護衛に、準備していた物を運ばせた。
「日持ちのするパンやクッキーですの。中に野菜も練り込んでますので、多少は栄養が摂れますの」
「まぁ!」
シスターズが顔を輝かせた。孤児院の1番の悩みはきっと食費だろうから。これはとっても助かる筈。
ふと、ラナやシレネと目が合う。ラナは何か言いたげに、シレネは猫みたいにジーッとオレを観察していた。
これは…もしかしてバレた?
とりあえず誤魔化すようにオレは2人に微笑んでみせた。
◇◇◇
その後は、普段通りの孤児院を見せてもらいたいという事で。リッチの護衛騎士が教える剣の指導に、トンガリ君が交じったり。
シスターの魔法教室にスペッサが交じったりして各々過ごした。
オレは勉強してる子達のサポートをした。リアの時は教養があるのを知られたくなくて出来なかったけど、ヴィラの姿ならいくらでも勉強を見てやれる。
それが楽しくて時間もあっという間だった。
そろそろいい頃合いだから帰ろうか、と話してる時にその客はやって来た。
身なりの良い明らかに貴族と分かる男だった。
「ここに、10歳くらいのピンクの目をした子はいないか!?」
「ピンクですか?お待ちください」
シスターが慌てて、シレネを連れて来る。
男がシレネに何か話しかけて、頷いたシレネが首元から何かを取り出して見せた。
ロケットペンダントだ。
「あぁ、間違いない。この子は私の娘だ!」
その後は孤児院は大騒ぎだった。
ずっと孤児として育てていた子が、まさか行方不明の子爵の娘だったなんて、漫画やゲームなら王道すぎてビックリだ。
ん?王道?
最近すっかり忘れてたけど、ココは妹のハマっていた乙女ゲームの世界で。確かヒロインは、ピンクの髪で、目もピンクだった様な…。
今さらながら、オレはシレネがいずれこの世界を救うヒロインだという事に気づいた。
子爵やその護衛、シスターらに囲まれたシレネはとても不安そうだった。
いきなり知らない男がやって来て、住み慣れた場所や、親しかった仲間から引き離されようとしている。
そしてこれから、厳しい貴族としての生活や教育が待ってるんだ。
ふと、6歳の頃にいきなり記憶を思い出して不安になった自分を思い出した。オレにはあの時お母様がいたけど、シレネにはそんな存在はいないんだ。
「子爵、ちょっとよろしいですの?」
「ん、何だい?小さなレディ」
子爵はオレに目線を合わせるべくしゃがんでくれた。良かった。良い人そうだ。
「ワタクシ、トルマリン家の娘、ヴィラトリアですの」
貴族としての礼をして、オレは子爵を見つめた。
「無事、お嬢様が見つかって良かったですの。ぜひお祝いに贈り物をしてもいいですの?」
「あ、ああ。ありがとう」
戸惑う子爵をよそに、オレはシレネの手を引いて教会の中庭に連れて行く。みんなも、よく分からないままゾロゾロ後についてきた。
「見ててくださいの」
オレは、手の平からいくつもの水の塊を出すと、それを風魔法に乗せて空に飛ばした。続けて氷の塊を飛ばす。
水の塊が次々と空に弾けて、まるで霧雨の様に雨を降らす。本日の天気は晴れ。陽光を浴びて、うっすらと綺麗な虹が浮かび上がった。
「わあ、綺麗!」
シレネが目をキラキラとさせた。
そこに小さく砕いた氷の粒を降らせる。虹の中を、陽光を浴びた氷の粒達がまるで宝石みたいにキラキラと空を舞った。
これには、子爵含め、他のみんなも歓声を上げた。
美しい光景にみんなが見惚れる中、オレはシレネを振り返った。
「ワタクシは魔法の力が少なくて簡単なものしか使えないんですの。でも努力したらこんな綺麗な物を作れる様になりましたの」
「ヴィラ様…?」
「これから貴族として生きていくのはとても大変だと思いますの。だけど、努力は裏切りませんの」
オレはシレネの手をギュッと握った。
「だから大変だと思いますけど、頑張って欲しいですの。そして13歳になったら、また貴族学校で会いたいですの」
「…っ、はい。わたし、がんばります!」
シレネは泣きながら、でも笑顔で手を振って子爵と去って行った。子爵も何度もオレにお礼を述べて帰って行った。
ーーー
次話、第一部の最終話です。
6
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

【完結】婚約者とのお茶の時に交換条件。「 飲んでみて?」
BBやっこ
恋愛
婚約者との交流といえば、お茶の時間。客間であっていたけど「飽きた」という言葉で、しょうがなくテラスにいる。毒物にできる植物もあるのに危機感がないのか、護衛を信用しているのかわからない婚約者。
王位継承権を持つ、一応王子だ。継承一位でもなければこの平和な国で、王になる事もない。はっきり言って微妙。その男とお茶の時間は妙な沈黙が続く。そして事件は起きた。
「起こしたの間違いでしょう?お嬢様。」

領地経営で忙しい私に、第三王子が自由すぎる理由を教えてください
ねむたん
恋愛
領地経営に奔走する伯爵令嬢エリナ。毎日忙しく過ごす彼女の元に、突然ふらりと現れたのは、自由気ままな第三王子アレクシス。どうやら領地に興味を持ったらしいけれど、それを口実に毎日のように居座る彼に、エリナは振り回されっぱなし!
領地を守りたい令嬢と、なんとなく興味本位で動く王子。全く噛み合わない二人のやりとりは、笑いあり、すれ違いあり、ちょっぴりときめきも──?
くすっと気軽に読める貴族ラブコメディ!

婚約破棄された令嬢の父親は最強?
岡暁舟
恋愛
婚約破棄された公爵令嬢マリアの父親であるフレンツェルは世界最強と謳われた兵士だった。そんな彼が、不義理である婚約破棄に激怒して元婚約者である第一王子スミスに復讐する物語。
救助隊との色恋はご自由に。
すずなり。
恋愛
22歳のほたるは幼稚園の先生。訳ありな雇用形態で仕事をしている。
ある日、買い物をしていたらエレベーターに閉じ込められてしまった。
助けに来たのはエレベーターの会社の人間ではなく・・・
香川「消防署の香川です!大丈夫ですか!?」
ほたる(消防関係の人だ・・・!)
『消防署員』には苦い思い出がある。
できれば関わりたくなかったのに、どんどん仲良くなっていく私。
しまいには・・・
「ほたるから手を引け・・!」
「あきらめない!」
「俺とヨリを戻してくれ・・!」
「・・・・好きだ。」
「俺のものになれよ。」
みんな私の病気のことを知ったら・・・どうなるんだろう。
『俺がいるから大丈夫』
そう言ってくれるのは誰?
私はもう・・・重荷になりたくない・・・!
※お話に出てくるものは全て、想像の世界です。現実のものとは何ら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ただただ暇つぶしにでも読んでいただけたら嬉しく思います。
すずなり。

妹が自ら89人目の妻になりにいった話。
序盤の村の村人
恋愛
妹リリは、私の物を何でも欲しがった。お気に入りのぬいぐるみに、高い羽ペン。友達からもらったお菓子まで。ついには、私の婚約者を欲しいと言ってきて無視していたが、婚約者である第一王子のレイに婚約破棄をすると宣言されてしまう。婚約者の隣には、妹が勝ち誇ったような顔でいて……。

騎士学校の卒業式の日に父親が横領で捕まったと思ったら、あまり話したことのない同期の屋敷に雇われた
kae
恋愛
士官クラスを目指す一握りのエリートが通う騎士学校。
創設以来初の女性首席としてその卒業式の日を迎えたイルゼ。
首席の証の赤バラを胸に、正にバラ色の未来へと歩み出す予定だった。
しかしなんとその日に、ダンスホールに第4騎士団の団員たちが大挙して押し寄せ、ダンスパートナーのユージーンと共に取り囲まれる。
「お前の平民出の父親の横領が発覚した。大方お前の首席の席料が高かったんだろうな!ローガンは今頃取り調べを受けている。お前もこれから事情聴取だ!」
無実の罪で捕まった父親。
決まっていた騎士団への入団も白紙に。
呆然と立ち尽くすイルゼは、なぜかあまり話した事もない同期のライバル、侯爵家次男のユージーンの家で、護衛として雇われることになって・・・・。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する
みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる