2 / 25
2。 公爵令嬢の懇願
しおりを挟む
改めまして、私はセレーネ・カタストロフ。今年で15歳になりましたわ。カタストロフ公爵家の嫡女として時に厳しく、時に柔軟に育てられました。我が家には他に子供がいませんので、将来は婿を取って女公爵となることが決まっております。
これでも公爵令嬢としてはそれなりに有名でもありますわ。伯爵家出身である母親譲りの蜂蜜色の髪はいつでも艶やかであるように手入れをしており、倭国でしか手に入らない珍しい花の香油をつけていますのでほんのり甘い香りがすると他の令嬢たちにも評判です。父親譲りのマリンダークブルーの瞳もミステリアスな輝きで素敵だとよく言われますわ。現在は学園に通っておりまして成績も上位3位以内には必ず入っておりますのよ。女公爵となることが決まっていて、さらに三番目とはいえ自国の王子を入婿に迎えるならばその妻となる私もそれなりの評判を手にいれていなければいけませんもの。でないとどこの誰に足元をすくわれるかわかりません。それがドロドロとした貴族社会の闇というものですわ。だからこそいくら今は学生とはいえ油断も隙も見せてはいけないのです。
オスカー殿下はなんというか……昔からあの通りの方でしたので、そのぶん私がしっかりしていなければなりませんでしたので。でも、今から思い返すと隙が無さ過ぎたせいで可愛げはなかったと思いますが。
え、オスカー殿下の学園での成績ですか?……あの方は、見目は良いと思いますけれど中身は好きな事にだけ全力疾走する方なので察してくださいませ。まぁ、王族特有の髪色と瞳の色はとても目立ちますし、わがままなのは私に対してだけですからそれなりに人気はあるようですね。
でも中身は残念な方なんです。今日だって、せっかくの休日だったのに突然呼び出されたと思ったらアレでしたからね……。
私は死んだ魚のような目のままお父様の部屋に突撃し、すべての事情を話しました。あ、ちゃんと仕事の合間の休憩時間にですわよ?公爵当主として領地の仕事をこなすお父様の邪魔はいたしませんわ。休憩時間を潰してしまうのは申し訳なく思いますが、これはある意味公爵家の一大事……というか、私の一刻を争いますのでご了承下さいませ。
「ーーーーと、言う訳でございますわ」
「マジで?」
お父様……言葉遣いが乱れてますわ、落ち着ついて下さい。そんな言葉どこで覚えてきたのです?
私は深いため息をつきました。お父様は聡明だと思っておりましたのに、まさかこんなにショックをお受けになるなんて……逆に荒治療をしたほうがよいのかしら?
「こんなことで嘘をついてどうしますの?私はそんなに暇ではありませんわよ。ちなみに今まで婚約破棄だと言われた時の理由は全て記録しております。アンナ、カモンですわ!」
アンナとは私専属の侍女の名前ですわ。いつも沈着冷静で私がオスカー殿下に暴言を吐かれている時も取り乱すこと無くオスカー殿下の言葉一句全てを書き記していたのです。なにせ日付はもとより時間から天気、その時の風向きから温度。その場にいた人間の数とそれぞれ個々の名前や個人情報まで正確に記されているので証拠としてはかなりのものになると思います。……その場にいた王家の使用人の個人情報までどうやって調べたのかしら?まぁ、アンナは昔からなんでもそつなくこなすなら深く追求しない方がいいような気もしますが。
私の心情を知ってか知らずか……たぶんわかりつつもいつもの無表情でアンナは分厚い手帳を取り出し今まであの馬鹿王子が発言した言葉を読み上げました。
「まず初めての婚約破棄宣言が7歳の春、◯月△日。晴天でお散歩日和の適温……セレーネお嬢様が一緒に食べようとお持ちしたおやつにチョコチップクッキーが入ってなかったことにご立腹されたご様子で、興奮したように突然その言葉を口になされました」
そうだったわ。初めての婚約破棄宣言は7歳の時でした。婚約をした3歳から6歳の時まではそれなりに仲良くしていましたもの。
……あの頃の私が愛犬のルドルフを撫でていると「ぼくも」と言うので仕方なく小枝を投げて“取ってこい”を(殿下に)覚えさせ、三回まわってわんと(殿下に)鳴かせ、あと神木だと祀られている大樹に(お尻を木の枝で押して)登らせたら降りれなくなって(殿下が)泣いていましたわね。最初はルドルフより下手でしたけれど根気よくちょうきょ……ゲフンゲフン。根気よく教えたらとっても上手にできるようになったので「殿下は犬がお好きなのね」と頭を撫でてあげたんです。(殿下は)喜んでおりましたよ?
そんなにルドルフの真似がしたかったなんて、と驚きましたわ。てっきり動物には興味がないと思っておりましたもの。まぁ、ルドルフはとても可愛いですから真似したくなるのは仕方ないかもしれませんね。でもルドルフに勝手に触ろうとしたのでお仕置きはしましたけれど。ルドルフは人見知りが激しいので慣れない人に触られると噛みついてしまうかもしれませんから。オスカー殿下なんかに噛みついたせいでルドルフが処罰されたらどうしてくれますの?と思ってつい右から左に投げ飛ばしただけですけれど。
そんなある時、私とオスカー殿下の姿を見ていた王家の侍女から「セレーネ様はオスカー様のどんなところがお好きなんですか?」と聞かれたことがありました。たぶん子どもに向けた特に意味の無い質問だったのでしょうけれど、その時の私はいつか誰かが言っていた言葉を思い出したのです。
そしてちょうどピークでお姉さんぶっていた私は思わず……「バカな子ほど可愛いと言いますでしょ?」と大人ぶって返事をしたのを覚えています。そう答えることで大人みたいというか、私の方がオスカー殿下より余裕があると虚勢を張っていたのですわ。でも、全てが偽りではありません。あの頃は本当にオスカー殿下のお姉さんになったつもりで見守っていましたから。
だって最初はなにをやっても下手でしたわ。あんなに下手くそなお座りとお手なんてルドルフだってしませんもの。でも私は諦めませんでした。殿下は根気よく教えたらちゃんと出来る子だったんです。……そう、あの頃は。
あの頃の感情があったからこそ婚約破棄宣言が始まってからも我慢できていたんだと思います。なんというか、ちゃんと最後まで面倒みなくてはいけないという使命感でしょうか。でも7歳の時の宣言を皮切りに撤回はしたもののどんどん酷くなり、何を言っても無駄感が半端なく募っていったのをよく覚えています。あれが俗に言う反抗期というやつかしらと〈犬の躾〉という本を読んだりもしましたけれどなんの効果もなく、もう諦めてしまったのですわ。
「…………さらに加えて本日は堂々と浮気相手がいらっしゃることを名言なさり、101回目の婚約破棄宣言となりました」
あら、考え事をしている間にアンナが手帳を読み終えましたわ。お父様が私と同じ死んだ魚のような目になってますから、きっと同じ事を思っていらっしゃるのでしょうね。でも、少しは落ち着いてくれたかしら?
「……マジで?」
まだ言葉遣いが乱れたままでした。現実逃避しないでください、お父様。
「オスカー殿下は私の見た目も性格もお気に召さないそうですわ。いつだったかしら?この髪と瞳のこともさんざん言われましたもの」
「75回目の時です、お嬢様。突然お嬢様の髪を掴んで引っ張ったと思ったら『お前の髪は虫がよってきそうな甘ったるい髪だな!』と暴言を吐き、そのあと見下すように上から瞳を覗き込んで『お前の瞳はまるで提灯アンコウが泳いでいそうだな!』と高笑いをなされました。そして空気が悪くなったと感じたのか『俺の言葉を喜ばないと婚約破棄だぞ!』と叫んでその場でふんぞり返っておられたと記憶しております」
……あぁ、そうでした。さすがにあれはあとでちょっと泣きましたもの。一応おしゃれをしていたつもりでしたし、両親譲りの自慢の髪と瞳をあそこまでバカにされたのも初めてでした。お友達に慰めてもらってなんとか気持ちを持ち直せたくらいには私も子供だったのですわ。
「……」
お父様がとうとう言葉をなくしてしまいましたわね。最初にアンナが時系列で読み聞かせていた時は「見た目を蔑んだあげくの婚約破棄宣言」だと省略して聞かされていた内容がこの髪と瞳の事だったから余計にショックだったのかもしれません。お父様は両親によく似た私のことをとても自慢に思ってくれていますから。
「まさか、そんなことになっていたとは……」
お父様が頭を抱えて深いため息をつきました。なんでも私と面会した後はいつもオスカー殿下の機嫌がとても良かったらしいのです。だから仲良くしていたのだと思っていたらしいですわね。まさかそれが理不尽な内容で婚約破棄宣言をして私を困らせていたあとだなんて思いもしなかったのでしょう。
「そうゆうことですので、今度こそオスカー殿下のお望みを叶えて差し上げたいと思いますのよ。婚約破棄を認めて下さいませ」
「いや、でもこれは王命で……それに陛下がなんというか……。も、もう少しだけセレーネが我慢してくれたら……」
国王陛下とは仲がよいお父様は王命だからとうこうというよりは陛下がショックを受けることを心配なさっているようです。陛下はヘソを曲げると扱いが面倒くさいことになるそうですがもう知ったことではありませんわ。それにしても我慢ですって?我慢はしていましたよ。婚約破棄となればどうなるか……それがわかっていたからこそここまで私が我慢していたことも是非わかっていただきたいものです。
「……お父様、どんなに大きなグラスでも水を注ぎ続ければいつかは溢れてしまうものですわ」
「へ?」
「私の中にあった“我慢する”というグラスはとっくに溢れかえっておりますのよ。今はそのグラスにヒビが入りそうな状況なのですわ。つまりーーーー」
にっこりと。それはもうにーっこりとお父様に微笑みかけました。ついでに立てた右手の親指を目の前で逆さにして首の前で真横に動かす動作も忘れません。もちろん極上の笑顔で。
「今すぐ行け。ですわ、お父様」
「い、今すぐ陛下のところにいってきますぅぅぅぅぅ!!」
私の本気度がやっとわかったのかお父様は真っ青な顔をして飛び出していきました。勇気を出して懇願したかいがありましたわね。
「アンナ、お茶を入れてちょうだい」
「畏まりました、お嬢様」
長年我慢していたことが出来たからか、ちょっとだけスッキリした気分になることが出来ました。でもあの殿下のことです、自分の望みが叶ってもどんないちゃもんを付けてくるかわかりませんわ。やはり先手は打っておかねばなりませんわね?
だって私、これ以上理不尽な責任を押し付けられる気はありませんもの。
これでも公爵令嬢としてはそれなりに有名でもありますわ。伯爵家出身である母親譲りの蜂蜜色の髪はいつでも艶やかであるように手入れをしており、倭国でしか手に入らない珍しい花の香油をつけていますのでほんのり甘い香りがすると他の令嬢たちにも評判です。父親譲りのマリンダークブルーの瞳もミステリアスな輝きで素敵だとよく言われますわ。現在は学園に通っておりまして成績も上位3位以内には必ず入っておりますのよ。女公爵となることが決まっていて、さらに三番目とはいえ自国の王子を入婿に迎えるならばその妻となる私もそれなりの評判を手にいれていなければいけませんもの。でないとどこの誰に足元をすくわれるかわかりません。それがドロドロとした貴族社会の闇というものですわ。だからこそいくら今は学生とはいえ油断も隙も見せてはいけないのです。
オスカー殿下はなんというか……昔からあの通りの方でしたので、そのぶん私がしっかりしていなければなりませんでしたので。でも、今から思い返すと隙が無さ過ぎたせいで可愛げはなかったと思いますが。
え、オスカー殿下の学園での成績ですか?……あの方は、見目は良いと思いますけれど中身は好きな事にだけ全力疾走する方なので察してくださいませ。まぁ、王族特有の髪色と瞳の色はとても目立ちますし、わがままなのは私に対してだけですからそれなりに人気はあるようですね。
でも中身は残念な方なんです。今日だって、せっかくの休日だったのに突然呼び出されたと思ったらアレでしたからね……。
私は死んだ魚のような目のままお父様の部屋に突撃し、すべての事情を話しました。あ、ちゃんと仕事の合間の休憩時間にですわよ?公爵当主として領地の仕事をこなすお父様の邪魔はいたしませんわ。休憩時間を潰してしまうのは申し訳なく思いますが、これはある意味公爵家の一大事……というか、私の一刻を争いますのでご了承下さいませ。
「ーーーーと、言う訳でございますわ」
「マジで?」
お父様……言葉遣いが乱れてますわ、落ち着ついて下さい。そんな言葉どこで覚えてきたのです?
私は深いため息をつきました。お父様は聡明だと思っておりましたのに、まさかこんなにショックをお受けになるなんて……逆に荒治療をしたほうがよいのかしら?
「こんなことで嘘をついてどうしますの?私はそんなに暇ではありませんわよ。ちなみに今まで婚約破棄だと言われた時の理由は全て記録しております。アンナ、カモンですわ!」
アンナとは私専属の侍女の名前ですわ。いつも沈着冷静で私がオスカー殿下に暴言を吐かれている時も取り乱すこと無くオスカー殿下の言葉一句全てを書き記していたのです。なにせ日付はもとより時間から天気、その時の風向きから温度。その場にいた人間の数とそれぞれ個々の名前や個人情報まで正確に記されているので証拠としてはかなりのものになると思います。……その場にいた王家の使用人の個人情報までどうやって調べたのかしら?まぁ、アンナは昔からなんでもそつなくこなすなら深く追求しない方がいいような気もしますが。
私の心情を知ってか知らずか……たぶんわかりつつもいつもの無表情でアンナは分厚い手帳を取り出し今まであの馬鹿王子が発言した言葉を読み上げました。
「まず初めての婚約破棄宣言が7歳の春、◯月△日。晴天でお散歩日和の適温……セレーネお嬢様が一緒に食べようとお持ちしたおやつにチョコチップクッキーが入ってなかったことにご立腹されたご様子で、興奮したように突然その言葉を口になされました」
そうだったわ。初めての婚約破棄宣言は7歳の時でした。婚約をした3歳から6歳の時まではそれなりに仲良くしていましたもの。
……あの頃の私が愛犬のルドルフを撫でていると「ぼくも」と言うので仕方なく小枝を投げて“取ってこい”を(殿下に)覚えさせ、三回まわってわんと(殿下に)鳴かせ、あと神木だと祀られている大樹に(お尻を木の枝で押して)登らせたら降りれなくなって(殿下が)泣いていましたわね。最初はルドルフより下手でしたけれど根気よくちょうきょ……ゲフンゲフン。根気よく教えたらとっても上手にできるようになったので「殿下は犬がお好きなのね」と頭を撫でてあげたんです。(殿下は)喜んでおりましたよ?
そんなにルドルフの真似がしたかったなんて、と驚きましたわ。てっきり動物には興味がないと思っておりましたもの。まぁ、ルドルフはとても可愛いですから真似したくなるのは仕方ないかもしれませんね。でもルドルフに勝手に触ろうとしたのでお仕置きはしましたけれど。ルドルフは人見知りが激しいので慣れない人に触られると噛みついてしまうかもしれませんから。オスカー殿下なんかに噛みついたせいでルドルフが処罰されたらどうしてくれますの?と思ってつい右から左に投げ飛ばしただけですけれど。
そんなある時、私とオスカー殿下の姿を見ていた王家の侍女から「セレーネ様はオスカー様のどんなところがお好きなんですか?」と聞かれたことがありました。たぶん子どもに向けた特に意味の無い質問だったのでしょうけれど、その時の私はいつか誰かが言っていた言葉を思い出したのです。
そしてちょうどピークでお姉さんぶっていた私は思わず……「バカな子ほど可愛いと言いますでしょ?」と大人ぶって返事をしたのを覚えています。そう答えることで大人みたいというか、私の方がオスカー殿下より余裕があると虚勢を張っていたのですわ。でも、全てが偽りではありません。あの頃は本当にオスカー殿下のお姉さんになったつもりで見守っていましたから。
だって最初はなにをやっても下手でしたわ。あんなに下手くそなお座りとお手なんてルドルフだってしませんもの。でも私は諦めませんでした。殿下は根気よく教えたらちゃんと出来る子だったんです。……そう、あの頃は。
あの頃の感情があったからこそ婚約破棄宣言が始まってからも我慢できていたんだと思います。なんというか、ちゃんと最後まで面倒みなくてはいけないという使命感でしょうか。でも7歳の時の宣言を皮切りに撤回はしたもののどんどん酷くなり、何を言っても無駄感が半端なく募っていったのをよく覚えています。あれが俗に言う反抗期というやつかしらと〈犬の躾〉という本を読んだりもしましたけれどなんの効果もなく、もう諦めてしまったのですわ。
「…………さらに加えて本日は堂々と浮気相手がいらっしゃることを名言なさり、101回目の婚約破棄宣言となりました」
あら、考え事をしている間にアンナが手帳を読み終えましたわ。お父様が私と同じ死んだ魚のような目になってますから、きっと同じ事を思っていらっしゃるのでしょうね。でも、少しは落ち着いてくれたかしら?
「……マジで?」
まだ言葉遣いが乱れたままでした。現実逃避しないでください、お父様。
「オスカー殿下は私の見た目も性格もお気に召さないそうですわ。いつだったかしら?この髪と瞳のこともさんざん言われましたもの」
「75回目の時です、お嬢様。突然お嬢様の髪を掴んで引っ張ったと思ったら『お前の髪は虫がよってきそうな甘ったるい髪だな!』と暴言を吐き、そのあと見下すように上から瞳を覗き込んで『お前の瞳はまるで提灯アンコウが泳いでいそうだな!』と高笑いをなされました。そして空気が悪くなったと感じたのか『俺の言葉を喜ばないと婚約破棄だぞ!』と叫んでその場でふんぞり返っておられたと記憶しております」
……あぁ、そうでした。さすがにあれはあとでちょっと泣きましたもの。一応おしゃれをしていたつもりでしたし、両親譲りの自慢の髪と瞳をあそこまでバカにされたのも初めてでした。お友達に慰めてもらってなんとか気持ちを持ち直せたくらいには私も子供だったのですわ。
「……」
お父様がとうとう言葉をなくしてしまいましたわね。最初にアンナが時系列で読み聞かせていた時は「見た目を蔑んだあげくの婚約破棄宣言」だと省略して聞かされていた内容がこの髪と瞳の事だったから余計にショックだったのかもしれません。お父様は両親によく似た私のことをとても自慢に思ってくれていますから。
「まさか、そんなことになっていたとは……」
お父様が頭を抱えて深いため息をつきました。なんでも私と面会した後はいつもオスカー殿下の機嫌がとても良かったらしいのです。だから仲良くしていたのだと思っていたらしいですわね。まさかそれが理不尽な内容で婚約破棄宣言をして私を困らせていたあとだなんて思いもしなかったのでしょう。
「そうゆうことですので、今度こそオスカー殿下のお望みを叶えて差し上げたいと思いますのよ。婚約破棄を認めて下さいませ」
「いや、でもこれは王命で……それに陛下がなんというか……。も、もう少しだけセレーネが我慢してくれたら……」
国王陛下とは仲がよいお父様は王命だからとうこうというよりは陛下がショックを受けることを心配なさっているようです。陛下はヘソを曲げると扱いが面倒くさいことになるそうですがもう知ったことではありませんわ。それにしても我慢ですって?我慢はしていましたよ。婚約破棄となればどうなるか……それがわかっていたからこそここまで私が我慢していたことも是非わかっていただきたいものです。
「……お父様、どんなに大きなグラスでも水を注ぎ続ければいつかは溢れてしまうものですわ」
「へ?」
「私の中にあった“我慢する”というグラスはとっくに溢れかえっておりますのよ。今はそのグラスにヒビが入りそうな状況なのですわ。つまりーーーー」
にっこりと。それはもうにーっこりとお父様に微笑みかけました。ついでに立てた右手の親指を目の前で逆さにして首の前で真横に動かす動作も忘れません。もちろん極上の笑顔で。
「今すぐ行け。ですわ、お父様」
「い、今すぐ陛下のところにいってきますぅぅぅぅぅ!!」
私の本気度がやっとわかったのかお父様は真っ青な顔をして飛び出していきました。勇気を出して懇願したかいがありましたわね。
「アンナ、お茶を入れてちょうだい」
「畏まりました、お嬢様」
長年我慢していたことが出来たからか、ちょっとだけスッキリした気分になることが出来ました。でもあの殿下のことです、自分の望みが叶ってもどんないちゃもんを付けてくるかわかりませんわ。やはり先手は打っておかねばなりませんわね?
だって私、これ以上理不尽な責任を押し付けられる気はありませんもの。
1,378
お気に入りに追加
1,833
あなたにおすすめの小説
妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした
水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」
子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。
彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。
彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。
こんなこと、許されることではない。
そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。
完全に、シルビアの味方なのだ。
しかも……。
「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」
私はお父様から追放を宣言された。
必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。
「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」
お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。
その目は、娘を見る目ではなかった。
「惨めね、お姉さま……」
シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。
そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。
途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。
一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。
婚約破棄をしたら、推進している事業が破綻しませんか?
マルローネ
恋愛
フォルナ・アッバース侯爵令嬢は、リガイン・ブローフェルト公爵と婚約していた。
しかし、突然、リガインはフォルナに婚約破棄を言い渡す。別の女性が好きになったからという理由で。
フォルナは悲しんだが、幼馴染の第二王子と婚約することが出来た。
ところで……リガインは知らなかったのだ。自分達の領地で進めていた事業の大半に、アッバース侯爵家が絡んでいたことに。全てを知った時にはもう遅かった。
元婚約者がマウント取ってきますが、私は王子殿下と婚約しています
マルローネ
恋愛
「私は侯爵令嬢のメリナと婚約することにした! 伯爵令嬢のお前はもう必要ない!」
「そ、そんな……!」
伯爵令嬢のリディア・フォルスタは婚約者のディノス・カンブリア侯爵令息に婚約破棄されてしまった。
リディアは突然の婚約破棄に悲しむが、それを救ったのは幼馴染の王子殿下であった。
その後、ディノスとメリナの二人は、惨めに悲しんでいるリディアにマウントを取る為に接触してくるが……。
(完)婚約破棄ですか? なぜ関係のない貴女がそれを言うのですか? それからそこの貴方は私の婚約者ではありません。
青空一夏
恋愛
グレイスは大商人リッチモンド家の娘である。アシュリー・バラノ侯爵はグレイスよりずっと年上で熊のように大きな体に顎髭が風格を添える騎士団長様。ベースはこの二人の恋物語です。
アシュリー・バラノ侯爵領は3年前から作物の不作続きで農民はすっかり疲弊していた。領民思いのアシュリー・バラノ侯爵の為にお金を融通したのがグレイスの父親である。ところがお金の返済日にアシュリー・バラノ侯爵は満額返せなかった。そこで娘の好みのタイプを知っていた父親はアシュリー・バラノ侯爵にある提案をするのだった。それはグレイスを妻に迎えることだった。
年上のアシュリー・バラノ侯爵のようなタイプが大好きなグレイスはこの婚約話をとても喜んだ。ところがその三日後のこと、一人の若い女性が怒鳴り込んできたのだ。
「あなたね? 私の愛おしい殿方を横からさらっていったのは・・・・・・婚約破棄です!」
そうしてさらには見知らぬ若者までやって来てグレイスに婚約破棄を告げるのだった。
ざまぁするつもりもないのにざまぁになってしまうコメディー。中世ヨーロッパ風異世界。ゆるふわ設定ご都合主義。途中からざまぁというより更生物語になってしまいました。
異なった登場人物視点から物語が展開していくスタイルです。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい
水空 葵
恋愛
一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。
それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。
リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。
そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。
でも、次に目を覚ました時。
どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。
二度目の人生。
今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。
一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。
そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか?
※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。
7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m
両親から溺愛されている妹に婚約者を奪われました。えっと、その婚約者には隠し事があるようなのですが、大丈夫でしょうか?
水上
恋愛
「悪いけど、君との婚約は破棄する。そして私は、君の妹であるキティと新たに婚約を結ぶことにした」
「え……」
子爵令嬢であるマリア・ブリガムは、子爵令息である婚約者のハンク・ワーナーに婚約破棄を言い渡された。
しかし、私たちは政略結婚のために婚約していたので、特に問題はなかった。
昔から私のものを何でも奪う妹が、まさか婚約者まで奪うとは思っていなかったので、多少驚いたという程度のことだった。
「残念だったわね、お姉さま。婚約者を奪われて悔しいでしょうけれど、これが現実よ」
いえいえ、べつに悔しくなんてありませんよ。
むしろ、政略結婚のために嫌々婚約していたので、お礼を言いたいくらいです。
そしてその後、私には新たな縁談の話が舞い込んできた。
妹は既に婚約しているので、私から新たに婚約者を奪うこともできない。
私は家族から解放され、新たな人生を歩みだそうとしていた。
一方で、私から婚約者を奪った妹は後に、婚約者には『とある隠し事』があることを知るのだった……。
婚約者を奪われた私は、他国で新しい生活を送ります
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルクルは、エドガー王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。
聖女を好きにったようで、婚約破棄の理由を全て私のせいにしてきた。
聖女と王子が考えた嘘の言い分を家族は信じ、私に勘当を言い渡す。
平民になった私だけど、問題なく他国で新しい生活を送ることができていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる