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第4章 呪われた王子の章

〈59〉変わりゆく異国

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    ジルさんが異国の王となってから3年の月日が経ちました。なんだかあっという間だった気がします。

    最初の1年は聖女として異国中の町や村を巡礼して回ったのですが……みなさん聖女の存在をとても喜んでくださり、最初は灰眼の王子が新たな国王になることに多少複雑な思いを掲げていた方々もいましたが今ではジルさんの仕事ぶりにみなさん信頼を寄せてくれているようです。ちょっぴりホッとしたのは内緒ですよ。

    とにかくこの1年はとても目まぐるしく、私はターイズさんに護衛されながら外回り。ジルさんは法律の見直しや人事で城に缶詰め状態。数人の支持者が手伝ってくれていたものの猫の手も借りたい程の忙しさだったとか。

    なので、ジルさんと顔を合わす事もほとんどありませんでした。

    でもひとつ良いこともあったのです。それは国境沿いを進んでいるときでした。なんと、流れ者たちの集団と出会ったのです。

    しかも彼らはルーナ様の事を知っておられ、あの事件からずっと異国には近付かないようにしていたのだとか。異国を介さずに別の国へ行くのはかなり遠回りで大変らしいのですが、それほどにルーナ様の事が流れ者の方々に深い傷を残したのでしょう。

    ですが最近異国の王が代替わりして、しかも新たな王は灰眼だと噂を聞いて異国にやってきたのだとか。

「灰眼は流れ者の中でも珍しいんです。だから、もしかしたらと……」

    おずとずと流れ者たちのリーダー的な人が申し出てくれたので、私は急いでお城に来てくれるように言いました。ジルさんは事務仕事で部屋に缶詰めでしたがひっぱり出しましたよ!

    ジルさんの顔を見て、流れ者のリーダー格の年老いた男性が涙を流しました。

「ルーナの子か……そうか……。あの子は孤独ではなかったんだな……っ」と息を詰まらせ、ジルさんを抱き締めました。

    そして一晩中ジルさんはルーナ様の思い出話に華を咲かせ、翌朝ルーナ様の眠る丘に流れ者のリーダーを招いたようでした。

    これからは流れ者たちが快くこれる国にすると約束して別れたのです。





    それから2年目の春。私の母国の王女……メルローズ様からお手紙が来たのです。

「まぁ、これは……」

    手紙の内容にはかなり驚きました。なんとメルローズ様は父親でもある国王を王の座から蹴落とし、女王となられたそうなのです。どうやら公爵家と私の実家も裏でメルローズ様に協力したのだとか。今までのような悲劇は2度と繰り返さない!と奮闘されているようです。メルローズ様は正統な後継者ですし、なによりあの・・国王よりメルローズ様の方が何百倍も頼もしいですからね。

    え、元国王のその後ですか?メルローズ様にケチョンケチョンにされて意気消沈し、田舎に隠居されたそうです。財産も没収されて監視付きの生活だとか。今までの罪は許されるものではありませんが、老後は反省させてボランティアに残りの人生を費やさせるそうです。……道のゴミ拾いをする元国王……ぜひ頑張って頂きましょう。
    メルローズ様は今では経済のお勉強も頑張っているそうで成長したところを見てもらいたいから私が帰ったらまたお茶会をしましょう。とも書いてありました。楽しみですね。

    公爵家のおじさまとおばさまには私から手紙を出して、レベッカ様の事をお伝えしていました。もちろん占星術師の事は口外出来ないので、修道院が襲われ逃げた先で異国に保護されていた旨と、レベッカ様からのお手紙を同封しておきました。レベッカ様が今後どうなさるのかは私が口を出す事ではありませんが、レベッカ様の無事を知って公爵家は安堵に包まれたようです。



    とうとう3年目。異国の情勢はかなり安定し、今ではジルさんは国民に信頼される立派な国王となりました。もはや灰眼の事をとやかく言う人などいないでしょう。

    そういえば元隣国にはターイズさんが推薦する真面目な人を領主にと送ったそうで、定期的に報告書が送られてきます。あの時の元国王夫妻のお子さんは無事に産まれて可愛く育っているそうですよ。不正をする輩がいなくなったのでとても平和みたいです。

    そんな時、こんな噂を聞いてしまいました。

「国王はとうとう王妃を娶られるそうだ」

「他国から是非にと婚約の申し込みが殺到しているらしい」

「貿易の為にやって来た遠い王国の姫がジーンルディ国王に一目惚れしたそうだ。あの国と縁が結べれば異国はさらに発展するぞ」

    ……ジルさんが、結婚してしまうそうです。
    そういえば、異国の噂を聞き付けた遠い諸国から貿易の申し込みの為に大使団が来ていました。なぜ貿易に姫様が同行しているのでしょうかと思ってはいましたが、どうやらあれはお見合いだったようですね。

    確か、綺麗な金髪の美しい方でしたね。庇護欲をそそるような儚げな美少女で、ジルさんと並べばとてもお似合いでした。私が挨拶をした時もなにやらにこやかにジルさんの方を見ていましたが……もうあの時にすでに決まっていたのでしょう。

    最近ジルさんが私と顔を合わす度になにかを言いたそうにしていたのはこの事だったのでしょうね。
    顔を赤くして焦った様子で舌を噛んでしまったようで結局なんだったのかわからず終いでしたが。ちなみにその様子を見ていたターイズさんがジルさんに「このヘタレ」と呟いていました。

「……まさか」

    ジルさんはその姫様との結婚を聖女に祝福して欲しいのでは?でも私はもうすぐ3年のお役目を終えて帰ってしまうからそれまで引き留めたいとか?姫様との婚約から結婚となれば準備だけでも通常ならば1年から2年はかかりますものね。それならジルさんのあの焦りようにも納得です。

「仕方がないですね……今夜にでも話を聞きに行きましょうか」

    私はため息混じりにそう呟き、空を見上げました。

    お役目期間が延びるのならば実家やメルローズ様にもお伝えしなければいけませんし、早く決めてもらわなくてはいけません。なにより、はっきりとしてもらえば私も諦められるというものです。

    遅かれ早かれいつかはこんな日が来るとわかっていたじゃないですか。

「……それでも、完全に想いを断ち切るのは難しいかもしれませんけどね」

    ルーナ様、どうか私が笑顔でジルさんを祝福出来るように見守って下さい。と、空に祈ったのでした。
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