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第4章 呪われた王子の章
〈56〉その思い
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『神聖なる奇跡の桃色の髪の少女を探しだすのです。その少女を“聖女”として国に迎え入れれば異国にさらなる繁栄をもたらすでしょう』
先代の占星術師が残した言葉。それは揶揄でもなんでもなく、真実の言葉であった。
「ーーーー!」
それは、突然の感覚でした。
温かくて優しい……そしてとても悲しい感覚が私の体をすり抜けていった気がしたのです。
いつの間にかあふれでた涙を拭う事も出来ず、私は天を仰ぎました。
「ルーナ様……」
今、ルーナ様がお亡くなりになられた。それがわかってしまったから。
最後に私の元へ逢いに来てくれたのでしょうか……。
そして、そんな優しさに溢れるルーナ様の気配が私を包み込んでくれた気がしたのです。
「……私、行かなくちゃ……!」
「ロティーナ様、どうされたのですか?まだ合図は……」
「レベッカ様、私は今すぐジルさんのところへ行かなくては……!お願いします、行かせて下さい!」
酷い胸騒ぎがしました。早くジルさんの所へ行かなくてはいけないと思ったんです。
「……ロティーナ様、わかりました。きっとあなたとジーンルディ王子にはわたくしではわからない絆があるのですね……。どうかお気を付けて」
「ありがとうございます……!」
私は教えてもらった外への抜け道を駆け抜けました。
不思議です。ジルさんがどこにいるのかなんとなくわかる気がするのです。これもルーナ様が導いて下っているのかもしれません。
とにかく今は1秒でも早く彼の元へ行きたいと焦る気持ちを押さえて走りました。
抜け道の出口を飛び出しさらに走りますが、まるで木々が避けてくれているかのように道ができていました。
「……ジルさん!!」
拓けた場所に出た瞬間、彼を見つけました。
血に汚れた自身の手を見つめながら佇んでいるジルさんの姿にいてもたってもいられず、思わずその背中に抱きつきます。
「……ジルさん!」
再び呼び掛けるとピクリと体を震わせ、こちらを振り向く事なくジルさんは口を開きました。
「……オレ、王妃たちを殺せなかったよ。
王妃たちは国王を殺して、母上を罵ったのに……怒りで思わず腕を切りつけてやったら少し血が出ただけで人が変わったように泣いて命乞いしだして……。今まであんなにオレを虐げてきたくせに、オレに慈悲を求めるなんておかしいよな……。
でも、そんなあいつらを見ていたらもう殺す価値もないような気がして……。こんなやつらにオレも母上も振り回されていたんだと思ったら情けなくて……ダメだよな、オレ……」
ジルさんの体の震えが強くなった気がして、私は彼を抱き締める手に力を込めました。
「ーーーー母上が死んだんだ」
「……はい」
「母上は病じゃなく毒に侵されていて、たった1度薬を飲まなかっただけで……オレの目の前で……。母上は空の下で躍りたかったって……なんで母上がーーーー」
「はい……」
きっと今のジルさんの悲しみは私には計り知れないほどのはずです。私に出来ることは、今はただ、彼の側にいることだけだと思ったのです……。
***
森の奥地で、わずかに漏れた悲鳴が木々のざわめきにかき消されていた。
「……本当に、我らが新王は甘いな。まぁ、それがあいつのいいところでもあるが」
剣についた血を薙ぎ払い、ターイズが苦笑いをしながら足元に転がるそれに視線を落とす。
「おまえたちがジルとルーナ様にしていた悪行を、自分は決して許しはしない。例えジルが許しても、だ。
……ルーナ様の為にも、ジルと聖女様を脅かそうとする者は全て排除するのが自分の役目なんでな」
そう言って6つの遺体の顔を潰し、剥ぎ取った衣服や装飾品に火をつけて遺体を特定する証拠を全て消し去ると、ターイズは火の後始末だけはきっちりとしてからその場を立ち去るのだった。
優しく微笑むルーナの顔を脳裏に思い浮かべながら。
先代の占星術師が残した言葉。それは揶揄でもなんでもなく、真実の言葉であった。
「ーーーー!」
それは、突然の感覚でした。
温かくて優しい……そしてとても悲しい感覚が私の体をすり抜けていった気がしたのです。
いつの間にかあふれでた涙を拭う事も出来ず、私は天を仰ぎました。
「ルーナ様……」
今、ルーナ様がお亡くなりになられた。それがわかってしまったから。
最後に私の元へ逢いに来てくれたのでしょうか……。
そして、そんな優しさに溢れるルーナ様の気配が私を包み込んでくれた気がしたのです。
「……私、行かなくちゃ……!」
「ロティーナ様、どうされたのですか?まだ合図は……」
「レベッカ様、私は今すぐジルさんのところへ行かなくては……!お願いします、行かせて下さい!」
酷い胸騒ぎがしました。早くジルさんの所へ行かなくてはいけないと思ったんです。
「……ロティーナ様、わかりました。きっとあなたとジーンルディ王子にはわたくしではわからない絆があるのですね……。どうかお気を付けて」
「ありがとうございます……!」
私は教えてもらった外への抜け道を駆け抜けました。
不思議です。ジルさんがどこにいるのかなんとなくわかる気がするのです。これもルーナ様が導いて下っているのかもしれません。
とにかく今は1秒でも早く彼の元へ行きたいと焦る気持ちを押さえて走りました。
抜け道の出口を飛び出しさらに走りますが、まるで木々が避けてくれているかのように道ができていました。
「……ジルさん!!」
拓けた場所に出た瞬間、彼を見つけました。
血に汚れた自身の手を見つめながら佇んでいるジルさんの姿にいてもたってもいられず、思わずその背中に抱きつきます。
「……ジルさん!」
再び呼び掛けるとピクリと体を震わせ、こちらを振り向く事なくジルさんは口を開きました。
「……オレ、王妃たちを殺せなかったよ。
王妃たちは国王を殺して、母上を罵ったのに……怒りで思わず腕を切りつけてやったら少し血が出ただけで人が変わったように泣いて命乞いしだして……。今まであんなにオレを虐げてきたくせに、オレに慈悲を求めるなんておかしいよな……。
でも、そんなあいつらを見ていたらもう殺す価値もないような気がして……。こんなやつらにオレも母上も振り回されていたんだと思ったら情けなくて……ダメだよな、オレ……」
ジルさんの体の震えが強くなった気がして、私は彼を抱き締める手に力を込めました。
「ーーーー母上が死んだんだ」
「……はい」
「母上は病じゃなく毒に侵されていて、たった1度薬を飲まなかっただけで……オレの目の前で……。母上は空の下で躍りたかったって……なんで母上がーーーー」
「はい……」
きっと今のジルさんの悲しみは私には計り知れないほどのはずです。私に出来ることは、今はただ、彼の側にいることだけだと思ったのです……。
***
森の奥地で、わずかに漏れた悲鳴が木々のざわめきにかき消されていた。
「……本当に、我らが新王は甘いな。まぁ、それがあいつのいいところでもあるが」
剣についた血を薙ぎ払い、ターイズが苦笑いをしながら足元に転がるそれに視線を落とす。
「おまえたちがジルとルーナ様にしていた悪行を、自分は決して許しはしない。例えジルが許しても、だ。
……ルーナ様の為にも、ジルと聖女様を脅かそうとする者は全て排除するのが自分の役目なんでな」
そう言って6つの遺体の顔を潰し、剥ぎ取った衣服や装飾品に火をつけて遺体を特定する証拠を全て消し去ると、ターイズは火の後始末だけはきっちりとしてからその場を立ち去るのだった。
優しく微笑むルーナの顔を脳裏に思い浮かべながら。
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