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第4章 呪われた王子の章

〈38〉偽りとわずかな真実(ジル視点)

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「ねぇ、ジルさん。初めて出会った時のことを覚えてますか?」

    異国へと向かう馬車に揺られながら、頬に触れるオレの手をそっと外したロティーナがぽつりと口を開いた。

「もちろん、覚えてるよ。女の子に火かき棒で威嚇されたの初めてだったし」

「あれは不法侵入した方が悪いんです。あの時は怖くて必死だったんですからね」

    プクリと頬を膨らませてつんと横を向くロティーナ。さっきまでは聖女として凛とした雰囲気だったのに今は普通の少女に戻ったようにも見えた。

「わかってる。いきなり見知らぬ男が現れて怖くないはずないよ。しかも不吉な灰眼だもんな」

    ハッキリ言って、この眼のせいで怯えられたり毛嫌いされた経験なら山ほどあるし、オレが憐れな立場だろうと決め込んで利用しようと近づいてくる奴もいた。だけど、あんな風に立ち向かわれたのは初めてだったんだ。

「あら、ジルさんの目の色は関係ないですよ。あの時も言ったと思いますけど私だって不気味な桃毛ですもの。私があなたの目の色を怖がる理由なんてありません。私は胡散臭い侵入者が怖かっただけです」

「うん、ありがと」

    また胡散臭いって言われた。けれどロティーナに言われるとそれほど不快でもないから不思議だ。

「もちろん、今でも胡散臭い人だと思ってますけどね。……だって、ジルさんは私に嘘ばかりつくんですもの」

「……うん。そうだね」

    思えば初めての出会いから、オレは嘘ばかりだったかもしれない。嘘で塗り固めたのが“ジル”という存在だったから。

    次にロティーナが何を言おうとしているのかは薄々わかっている。オレって嘘つくの下手なのかなぁ。

「ジルさんは隣国のスパイではなく異国のスパイだったんでしょう?ジルさんの目的はアミィ嬢に復讐することだけじゃなく、最初から隣国を異国の領土にするまでが目的だった……。
    私の復讐は全て計画の内だったんですね」

    真っ直ぐにオレを見つめるロティーナは真剣な表情だった。まだ騙されてて欲しかったんだけどしょうがないか。

「うん、あの国についてはほぼ正解。実はね、異国の占星術師が言ったんだ。あの王子を野放しにすると今後異国にも悪影響が出るって。確かに目障りだったし、悪い芽は早めに摘み取っておかなくちゃいけないだろ?」

    にっこりと誤魔化すがロティーナの真剣な表情は変わらない。

「じゃあ、あなたの正体は?」

「それは……」

    ガタン!と馬車が大きく揺れて止まった。おっともうお迎えが来たみたいだ。もう少しロティーナと一緒にいたかったな。

    扉がゆっくりと開き、馬車の外には異国の騎士の甲冑を着た仲間たちが揃っていたのだ。

「お迎えに上がりました。ジーンルディ殿下」

「……ジルさん?」

    声を震わせるロティーナに、にっこりと笑顔を見せる。嘘で固めたオレは胡散臭いと言われたが、本当のオレはもっと酷いかもしれない。出来れば君の前では“胡散臭いスパイの男”でいたかったな。

「実はオレ、異国の王子なんだって言ったら信じる?」

    オレの正体は、不吉な灰色の瞳を持って産まれた“呪われた王子”だ。

   異国の占星術師はある意味国王よりも権力を持っている。だから、それが運命だと言われれば誰も逆らおうとはしない。そんな国の最も信頼ある占星術師が言ったんだ。

「神聖なる奇跡の桃色の髪の少女を“聖女”として国に迎え入れ“呪われた王子”を滅する事が出来れば、異国はさらに栄える」とね。

    今さらながら、こんな運命に巻き込んでしまって……本当にごめん。と、心の中でずっと懺悔しているのに、笑顔が貼り付いたままの自分が大嫌いだった。
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