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第3章 アールスト国の章

〈34〉全てお見通し(隣国の王子視点)

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    おかしい。おかしいぞ……!なにがどうなっているんだ?!

    さっきの聖女の素っ気ない素振り。父の態度。どれも俺の予想と違っていた。

「しかし……」

    実はさっきの聖女の素っ気なく冷たい態度が気になって仕方ない。あんなに慈愛に満ちた優雅な微笑みを浮かべているのに言葉の端々に感じる冷たい拒否の意思。それに、俺を見つめる時だけ突き刺さるような感情を感じた。

そう、あれは俺だけに・・・・向けられた特別な・・・感情だとわかる。

    それを思い出すだけで、なんだか……背筋がゾクゾクとしてなんとも不思議な快感が体の芯を突き抜けた。

    こんな不思議な感情は生まれて初めてだ。

    あの時のロティーナの顔と態度を脳裏に思い浮かべれば、なにやら体温が上がり息が荒くなった。

    一瞬、昔の婚約者……レベッカの姿を思い出すが、あいつは俺のお気に入りを虐めた上に尻軽だったからな。まぁ今となってはアミィを虐めていたことなどどうでもいいが、俺という婚約者がいながら他の男にすり寄ったというのが俺の存在を軽く見られているようでそれだけが未だにどうしても許せなかった。今頃は俺に逆らった事を悔いながら惨めな生活をしているだろう。

    俺は特別なのだ。生まれながらにしてアールスト国の第1王子という地位を手にした。なにもかもが俺の思う通りになり、どんな願いもすぐに叶えられる。それが俺なのだ。特に幼い頃から忙しい父や母に代わって俺を育ててくれた宰相が一際俺を可愛がってくれていた。宰相のアドバイスさえ聞いていれば俺は間違えることはない。

    だから、いくら父上の命令とは言え婚約者を自分で選べなかったのは不満だった。宰相にも訴えたがさすがに婚約者問題だけは口を出せないと言われた。

    国の為の政略結婚とはいえ、あんな女になど何の価値もない。だいたい婚約者だというのに唇すらも俺に許さなかったんだ。あの女はなんとも傲慢で生意気な女だったのだ!

    アミィはちょっとワガママを聞いてやればなんでもやらせてくれたのだけは良かったが、書き置きだけで姿を消すような身勝手な女だと判明したしもうそんなに興味もない。


    やはり、俺には聖女が相応しいな。


    今までの女には無いあの素っ気ない反応。俺の芯を射抜くあの眼差し。
    そして心の奥に見え隠れする俺にだけわかる俺への熱い想い。

    なによりも、聖女だけが与えてくれるこの未知の快感!
    あぁ、またあの冷たい眼差しで見つめられたい!

    ロティーナはたぶんツンデレなのだろう。そしてかなりの恥ずかしがり屋だ。だがどんなに隠そうとも俺にかかれば女心など手に取るようにわかってしまう。ならば、そんなロティーナの心を解放して素直にさせてやるのも男の手腕というものだろう。

    よし、これでロティーナの事は解決だな。俺たちは相思相愛で決まりだ。


    だが問題は父上だ。何を考えているのかさっぱりわからなくなってしまった。てっきりロティーナを俺の婚約者にしようとしているのだと思っていたのに、さっきの父上の態度にはまったくそんな気配を感じ取れなかった。しかも、母上が臥せっているなんて初耳だったし……。

「ま、まさか……!」

    なんてことだ。俺は大変な事に気付いてしまった。

    きっと父上はロティーナを狙っているんだ!愛人……いや、側室か?もしこのまま母上が不幸に見舞われたとなれば聖女と再婚しようなどと企んでいるということでは?!

    まさか父上が若い女にうつつを抜かすなど、母上に対するなんたる裏切りか!しかし父上は国益を1番に考える金の亡者な節がある。俺が第1王子なのに立太子されないのも父上が「まだそのときではない」と渋っているからだが、俺はその理由を王太子には金がかかるからだろうと推測しているくらいだ。

    だって、他に俺が立太子されない理由が思い付かない。

    つまり、あの父上は国益の為に自分の娘程の年齢の女に手を出そうとしているとんだエロジジイということだ!

    待っていろ、ロティーナ。俺がお前を守ってやろう。

    今夜のパーティーでお前は俺の物だと父上に見せしめ、既成事実をもって正式な婚約者にしてやるからな!

    そして父上が失態を犯したのだとわかれば、俺が次の国王に決まりだ。

    聖女を妻に娶り、俺がこの国と異国を手にするのだ!ふははははは!!

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