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第2章 悪女アミィの章

〈29〉断罪劇のその後(エドガー視点)

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※残酷な表現があります。ご注意ください。





    その日、俺は歓喜した。奴隷に身を落とし母上に裏切られ、絶望しながらもそれでも生きる事にしがみついてきた。あぁ、神は俺を見捨てなかったのだ。

    なぜなら、叶うはずがないと諦めながらもずっと夢見てきた瞬間を味わうことができたからだ。

    もう2度と見る事すら出来ないかもしれないと思っていた俺の女神が俺の花嫁として目の前にいる。こんなに嬉しい事が他にあるだろうか?しかも結婚祝いだとなんとミルクのスープと透明な水まで与えられたのだ。

「うーーーー!うーーーー!」

    やはりアミィは俺の女神だ。俺はアミィを力いっぱい抱き締めた。

    アミィは隣国の王子ではなく俺を選んでくれた。公爵令嬢や王子妃の地位を捨て、俺との真実の愛を選んでくれたんだ!

    今の俺には宝石もドレスも贈ることは出来ないが、俺に出来ることはなんでもしようと誓った。

「……ごめんなさい。許してください……」

    俺はアミィを娶るために1番過酷だと言われている仕事を誰よりも最速でやり遂げた。もう誰にもアミィを奪われたくなかったらだ。その喜びで抱き締めていたのに、俺の腕の中でアミィはガタガタと震えていた。

    改めてアミィをじっくりと見つめる。今は髪もパサパサで、着ているものもあの頃のドレスとは程遠いがやはりアミィは美しい。涙を流し、鼻水まで流してるがその美しさを損なうことはなかった。

「うーーーー!」

    俺は歓喜のあまり再びアミィを抱き締めた。
    バキッボキッと変な音が聞こえ「○☆◇▽◆□?!」とアミィが泡を吹きながら何かを叫んだがよく聞き取れなかった。ここで働き始めてから耳が悪くなった気がする。そういえば腕の力が強くなっただろうか?毎日岩や丸太を担いでいるせいだろう。

    アミィの腕がだらんとぶら下がり、ヒューヒューと息が漏れたかと思うと鼻から血が流れてきた。アミィはよほど嬉しかったのだろう、顔が真っ赤を通り越してどす黒くなってきていた。

    そうか、興奮し過ぎてしまったか。アミィは繊細なんだな。

    大丈夫だよ、アミィ。これからは俺が君を守るから。毎日抱き締めてあげるから。

「……ごべんなざい、だじげでぐだざい……」

    俺をすがるように見つめてくるアミィの姿と鼻から下を真っ赤に染める血の色に、今までに感じたことのない快感が背筋をゾクゾクと走った。

    俺はアミィの鼻から滴る血をべろりと舐める。それはミルクのスープよりも甘くて美味しい。そうしてわかったんだ。そうか、アミィ。君は俺の為にその身を捧げてくれるんだね?俺とアミィは本当の意味でひとつになれるんだ。

    愛しているよ、アミィ。










    数年後、聖女と呼ばれる女奴隷が死んだ。

    奴隷たちの願いによりかつて彼女が花に飾られて座っていた木の台の上にその死体が置かれ、みんながその死を嘆いた。

    体中の骨は粉々に砕かれ手足はあり得ない方向に曲がり、泥と土によごれた肌には数えきれない程の噛み痕がある。

    まだ若いはずなのに体内に血が残ってないないかのように干からび、黒かった髪もほとんど残っていなかった。

    だが、その顔はそれこそ聖女のように微笑んでいたという。

    そして死体は切り刻まれ、奴隷たちはその破片の奪い合いを始めた。

    1度は景品となりたったひとりの男の物になってしまった聖女が、やっと自分たちのものになると、死してもなお男たちは自分たちの唯一無二の聖女を求めたのだ。


    そんな聖女の首から上を抱き締めて死んだ奴隷がいたそうだが、その奴隷の胃袋からは血にまみれた大量の黒い髪の毛が出てきたと言う。



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