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第2章 悪女アミィの章
〈20〉恐怖のお茶会
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私が招待されたのは“お茶会”です。
貴族令嬢にとってお茶会とは淑女の嗜みであり、小さな社交界でもあります。……そう、それは令嬢の気品の差を見せつける“女の戦い”の場所でもあるのです。
***
今日のお茶会は、なんと言っても王女様主催のお茶会です。しかもあのアミィ嬢も招待されているとなれば、きっと何かが起こるだろうとはもちろん予測していました。ですが、まさか顔を合わせた瞬間からこんなことになっているなんて思いもしていなかったのです。
ジルさんにエスコートされ到着したのは王城にある薔薇の咲き乱れる庭園だったのですが……。
私がその場で目撃したのは、睨み合って火花を散らしている王女様と現公爵令嬢であるアミィ嬢の姿でした。
「あらぁ、公爵令嬢ともあろう人がそんな下品なドレスを着てくるなんて世も末ね」
「うふふ、王女様みたいなお子様には着こなせないドレスを着ているだけよ?凹凸がないスタイルだとなんでも選ばすに着れて羨ましいわぁ」
金色の縦ロールと揺る巻きの黒髪がもう火花バッチバチでぶつかり合っています。なんと言うか……かなり怖いです。なんでいきなりケンカしてらっしゃるんでしょうか?
私にとってお茶会と言えばレベッカ様との楽しい思い出しかないですけど、一応令嬢同士のお茶会のマナーなどもレベッカ様から教授されています。
レベッカ様はよく「いいですか、特に仲良くもない令嬢同士の最初のお茶会とはお互いの牽制と探り合いなのです。そして将来自分と手を組むに相応しいかを見極める場所でもあります。だから表面は穏やかでも内心は火花が散るものですのよ。でも決してそれを相手に悟らせてはいけませんわ」とおっしゃっていましたが……。
このおふたりは内心どころか表面でバッチバチなんですけれど。
「女同士の争いって怖いねぇ」
私の隣でジルさんがぽつりと呟きますが、顔がにんまりしてますよ。結局何を企んでいるのか詳しく教えてもらえませんでしたが私としてもこのチャンスをなんとかしなくてはいけません。
しかしこの火花の間に割り込むタイミングが掴めず戸惑っていると、王女様の方が先に私たちに気づいてくれました。
「ごめんなさい、みっともない所をお見せしてしまったわ」
「いえ、そんな……「へぇ、あなたが噂の聖女なの?」は、はいっ」
王女に向かって下げた頭を戻した途端、アミィ嬢がぐいっと顔を寄せてき値踏みするかのようにジロジロと視線を上下させてきました。
すると馬鹿にするように「なーんだ。わざわざ異国から大使がくるほどの聖女って言うからどんなのかと思ったけど、たいしたこと無いじゃない。しかも気味の悪い桃毛だし」と笑い、次にジルさんにも同じ視線を向けたのです。
いえ、少し違いますね。ジルさんに対しては、なんだかねっとりとまとわりつくような感じで見ていて背筋がゾクリと寒くなりました。
「うふふ、こっちが異国の大使?やだぁ、不吉な灰色の瞳じゃないの。こわぁ~い。……でも顔はなかなかいい男だわ。ギリギリ合格ね」
一体何の審査を受けて何に合格したのかは謎ですが、「合格ね」と言われてジルさんがにっこりとアミィ嬢にキラキラとした笑顔を見せると、その笑顔を見てアミィ嬢が嬉しそうにほんのり頬を染めました。……私からしたらジルさんのあんなキラキラ笑顔こそ不吉なんですが。
そして「ねぇ、あたし異国の話が聞きたいわ。公爵令嬢であるこのあたしが誘ってるんだから、もちろん聞かせてくれるわよね?」と、アミィ嬢は返事も聞かずにジルさんの腕に胸を押し付けながらなんとそのまま連れていってしまったのです。……やたらに甘い香水の香りが鼻につきました。
流れるような手際の良さにただ見ているしか出来なかったのですが、どのみちどんな言葉を発すれば良かったのかもわかりませんでした。
だって、あまりにも酷かったんですもの。
私の記憶が間違ってなければアミィ嬢って一応公爵令嬢でしたよね?いくら元男爵令嬢とは言え、現公爵令嬢で隣国の王子の婚約者候補でしたよね?
と言うか、貴族の令嬢ですよね?
申し訳無いですけど平民だってもう少し気品があると思います。あれじゃまるで娼婦じゃないですか……。
アミィ嬢を間近で見たのはこれが二度目ですが、ここまで酷いとは思いませんでした。
……こんな人のせいで、レベッカ様は婚約破棄され修道院に送られたなんて……。人を見た目で判断するなんて愚かな行為かもしれませんが、ハッキリ言って令嬢としてレベッカ様の足元にも及びませんよ。
ジルさんも何を笑顔で対応してるんでしょうか。ベタベタと触られて嬉しそうに……。エドガーといい、やっぱり男の人ってアミィ嬢みたいな女性に弱いのかもしれませんね。
アミィ嬢に引っ張られるように連れられていくジルさんの(おっと、こっちをチラッと見ました。なにやら笑ってますけど、なんなんでしょうか)後ろ姿に思わずため息をついてしまいました。
「異国の聖女様」
王女様に声をかけられ、はっと我に返ります。しまった、王女様の前でこんな態度をしては不敬かもしれません。
「……申し訳ありません、王女殿下。どうか私の事はロティーナとお呼びください」
「いいのよ。あれを目の当たりにしたら誰でもそうなるわ。あんなのが公爵令嬢で、もしかしたら未来の隣国の王妃だなんて考えたらため息くらいつきたくなるわよ。それよりロティーナ……いえ、ロティーナ様。あなたには異国の聖女としてわたくしと交流して欲しいの。是非お友達になって欲しいのよ!」
そう言って縦ロールをピョコンと揺らした王女様は、目がキラキラと輝いて年相応な少女に見えました。なんだが噂とは違う感じがします。
「私でよければ喜んで」
どうやら王女様は私に対して友好的なご様子なのでなんとかなりそうなのですが……私としては、さっきのジルさんの態度が怖すぎて気になります。
貴族令嬢にとってお茶会とは淑女の嗜みであり、小さな社交界でもあります。……そう、それは令嬢の気品の差を見せつける“女の戦い”の場所でもあるのです。
***
今日のお茶会は、なんと言っても王女様主催のお茶会です。しかもあのアミィ嬢も招待されているとなれば、きっと何かが起こるだろうとはもちろん予測していました。ですが、まさか顔を合わせた瞬間からこんなことになっているなんて思いもしていなかったのです。
ジルさんにエスコートされ到着したのは王城にある薔薇の咲き乱れる庭園だったのですが……。
私がその場で目撃したのは、睨み合って火花を散らしている王女様と現公爵令嬢であるアミィ嬢の姿でした。
「あらぁ、公爵令嬢ともあろう人がそんな下品なドレスを着てくるなんて世も末ね」
「うふふ、王女様みたいなお子様には着こなせないドレスを着ているだけよ?凹凸がないスタイルだとなんでも選ばすに着れて羨ましいわぁ」
金色の縦ロールと揺る巻きの黒髪がもう火花バッチバチでぶつかり合っています。なんと言うか……かなり怖いです。なんでいきなりケンカしてらっしゃるんでしょうか?
私にとってお茶会と言えばレベッカ様との楽しい思い出しかないですけど、一応令嬢同士のお茶会のマナーなどもレベッカ様から教授されています。
レベッカ様はよく「いいですか、特に仲良くもない令嬢同士の最初のお茶会とはお互いの牽制と探り合いなのです。そして将来自分と手を組むに相応しいかを見極める場所でもあります。だから表面は穏やかでも内心は火花が散るものですのよ。でも決してそれを相手に悟らせてはいけませんわ」とおっしゃっていましたが……。
このおふたりは内心どころか表面でバッチバチなんですけれど。
「女同士の争いって怖いねぇ」
私の隣でジルさんがぽつりと呟きますが、顔がにんまりしてますよ。結局何を企んでいるのか詳しく教えてもらえませんでしたが私としてもこのチャンスをなんとかしなくてはいけません。
しかしこの火花の間に割り込むタイミングが掴めず戸惑っていると、王女様の方が先に私たちに気づいてくれました。
「ごめんなさい、みっともない所をお見せしてしまったわ」
「いえ、そんな……「へぇ、あなたが噂の聖女なの?」は、はいっ」
王女に向かって下げた頭を戻した途端、アミィ嬢がぐいっと顔を寄せてき値踏みするかのようにジロジロと視線を上下させてきました。
すると馬鹿にするように「なーんだ。わざわざ異国から大使がくるほどの聖女って言うからどんなのかと思ったけど、たいしたこと無いじゃない。しかも気味の悪い桃毛だし」と笑い、次にジルさんにも同じ視線を向けたのです。
いえ、少し違いますね。ジルさんに対しては、なんだかねっとりとまとわりつくような感じで見ていて背筋がゾクリと寒くなりました。
「うふふ、こっちが異国の大使?やだぁ、不吉な灰色の瞳じゃないの。こわぁ~い。……でも顔はなかなかいい男だわ。ギリギリ合格ね」
一体何の審査を受けて何に合格したのかは謎ですが、「合格ね」と言われてジルさんがにっこりとアミィ嬢にキラキラとした笑顔を見せると、その笑顔を見てアミィ嬢が嬉しそうにほんのり頬を染めました。……私からしたらジルさんのあんなキラキラ笑顔こそ不吉なんですが。
そして「ねぇ、あたし異国の話が聞きたいわ。公爵令嬢であるこのあたしが誘ってるんだから、もちろん聞かせてくれるわよね?」と、アミィ嬢は返事も聞かずにジルさんの腕に胸を押し付けながらなんとそのまま連れていってしまったのです。……やたらに甘い香水の香りが鼻につきました。
流れるような手際の良さにただ見ているしか出来なかったのですが、どのみちどんな言葉を発すれば良かったのかもわかりませんでした。
だって、あまりにも酷かったんですもの。
私の記憶が間違ってなければアミィ嬢って一応公爵令嬢でしたよね?いくら元男爵令嬢とは言え、現公爵令嬢で隣国の王子の婚約者候補でしたよね?
と言うか、貴族の令嬢ですよね?
申し訳無いですけど平民だってもう少し気品があると思います。あれじゃまるで娼婦じゃないですか……。
アミィ嬢を間近で見たのはこれが二度目ですが、ここまで酷いとは思いませんでした。
……こんな人のせいで、レベッカ様は婚約破棄され修道院に送られたなんて……。人を見た目で判断するなんて愚かな行為かもしれませんが、ハッキリ言って令嬢としてレベッカ様の足元にも及びませんよ。
ジルさんも何を笑顔で対応してるんでしょうか。ベタベタと触られて嬉しそうに……。エドガーといい、やっぱり男の人ってアミィ嬢みたいな女性に弱いのかもしれませんね。
アミィ嬢に引っ張られるように連れられていくジルさんの(おっと、こっちをチラッと見ました。なにやら笑ってますけど、なんなんでしょうか)後ろ姿に思わずため息をついてしまいました。
「異国の聖女様」
王女様に声をかけられ、はっと我に返ります。しまった、王女様の前でこんな態度をしては不敬かもしれません。
「……申し訳ありません、王女殿下。どうか私の事はロティーナとお呼びください」
「いいのよ。あれを目の当たりにしたら誰でもそうなるわ。あんなのが公爵令嬢で、もしかしたら未来の隣国の王妃だなんて考えたらため息くらいつきたくなるわよ。それよりロティーナ……いえ、ロティーナ様。あなたには異国の聖女としてわたくしと交流して欲しいの。是非お友達になって欲しいのよ!」
そう言って縦ロールをピョコンと揺らした王女様は、目がキラキラと輝いて年相応な少女に見えました。なんだが噂とは違う感じがします。
「私でよければ喜んで」
どうやら王女様は私に対して友好的なご様子なのでなんとかなりそうなのですが……私としては、さっきのジルさんの態度が怖すぎて気になります。
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