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第1章 婚約破棄の章
〈7〉尾行します大作戦
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ふざけた態度を見せていてもやはりスパイとは恐ろしい存在なのだと改めて感じたあの夜から数日。
確かにあの銀髪の男は「エドガーの浮気調査」と「婚約破棄」を止めるように言ってきました。ですが正当な理由も教えてくれずにただ止めろと言われてもやはり納得がいきません。
あと少し……エドガーとアミィ嬢が言い逃れ出来ないような決定的な証拠さえあれば、エドガーと婚約破棄してアミィ嬢にだってダメージを与えられるはずなのに。
後から思えば私も意地になっていたのかもしれません。今まで何も出来ずにいたのが悔しかったからこそ復讐できるチャンスを掴んだ気がしていたのです。
どのみち調査はすでに頼んだ後ですし、報告書と証拠さえ受け取れれば……!と。
ですが、私の思惑などすでにあのスパイの手の上で転がされていたのです。
内密に調査を頼んでいた者から「もう手を貸す事は出来ない」と連絡がありました。
詳しい事は教えてもらえませんでしたがそれから音信不通となり、揃えて貰っていたはずの証拠も手に入らなかったのです。
「そんな……」
何でこんなことになったのかはなんとなく察しました。私が忠告を守らないとわかっていて、たぶんあのスパイが裏から手を回したのでしょう。
あのスパイがにんまり顔で「ここまでされたら普通は諦めるでしょ?」と言っているような気がしました。
ーーーーこんなことで諦めると思ったら大間違いです!
私はドレスを脱ぎ捨て動きやすい男物の服に着替えるとロイのウィッグを被りました。
こうなったら、自分の手で証拠を掴むまでの事。エドガーとアミィ嬢の密会の場を暴いてやろうじゃないですか!
***
その夜、私は仕事を休む事を伝えてからエドガーの現れそうな場所を探しました。あの男は定期的に街に現れては店を物色しているそうなのでそろそろだと思ったのです。
「あっ」
曲がり角のところで辺りを窺っているとエドガーを発見しました。今日も安定の馬鹿面ですね。
「俺は次期伯爵だぞ!この領地にいたいのならそれを寄越せ!」
「で、ですが、それはこの店で1番高い商品でして……」
やはり各店から商品を強奪しているようですね。エドガーが手にしているのは大きな宝石のついた髪飾りでしたが、なんと勝手に箱から取り出してそれを鷲掴みにするとジロジロと値踏みするように見てから「お前、この次期当主である俺にそんな口を聞いていいのか?ロティーナは俺のいいなりなんだ。もしこの事を知ればどうなるか……」と店主を脅し始めたのです。
私が知ったらどうなるか?そんなのすぐさまその髪飾りを店主に返してエドガーを殴りたい衝動にかられていますよ!
本当なら今すぐあの場に飛び出して行きたいですが今は我慢です。あとで店主さんには謝罪とお詫びを致しますのでごめんなさい!と心の中で謝りました。
結局エドガーは「これで文句ないだろう」と小銭を投げつけるように払うと足早にその場を去っていきました。もちろん悪態をつきながらですが。どの口が「この守銭奴め」とか「俺が伯爵になったら覚えていろ」などと言っているのでしょうか。
私は項垂れる店主さんに後ろ髪を引かれる思いでエドガーの後を尾行すると、さらに酒屋の扉を乱暴に足で蹴りつけて中に入ると高級なワインを奪って出てきました。デジャウのような台詞を叫んだかと思うと「たかが酒のひとつやふたつで、ケチくさい領民どもだ!」と店に唾を吐いたのです。
報告書に書かれていたよりもさらに酷い現状に、こんな人と結婚しようとしていたなんてと背筋がゾッしました。やっぱり絶対に婚約破棄しなければと決意を新たに尾行を続けると、やはりエドガーの行き先は公爵家の……アミィ嬢がいる別邸でした。
「……やっぱり」
思わずため息混じりに声が漏れました。わかっていた事とは言え、やはりショックです。でも落ち込んでいる暇はありません。ここまでは報告書でもわかっていた事ですが、問題はこの先ですから。
今のままでもエドガーとの婚約破棄は出来そうですが、アミィ嬢に「エドガーが無理矢理やってきただけで自分は断った」などと言われてしまってはたまりません。アミィ嬢が隣国の王子を裏切ってエドガーと密通している証拠を手に入れなければ……!
エドガーがだらしない顔をしながら門を潜ったのを確認して木陰を利用しながら侵入すると窓の近くに出てこれました。中をそっと覗くとそこに人影がありました。
昔、学園で遠目に見たことのある人物……アミィ嬢がそこにいたのです。
黒く長い髪はゆるく巻かれ、空色の瞳は大きな宝石を見つめてうっとりと輝いていました。その部屋には壁一面にドレスが並べられ、たくさんのアクセサリーは宝石箱から溢れています。
学園にいた頃よりも濃いめの化粧を施した彼女は、まるでどこかの女王のような雰囲気を纏っていたのです。
……そして、あの頃もアミィ嬢から匂っていたあの不思議な甘ったるい香りも健在のようでした。相変わらず何の香水なのかは不明ですが、学園時代よりもさらに臭いが濃くなった気がします。
そこへエドガーがやって来ました。
何を話しているかはよく聞こえませんが、「俺の女神」とか「会いたかった」とかうっとりした顔で語っているようです。ただアミィ嬢が窓に背を向けてしまったのでどんな表情をしているかが見えません。
果たして嫌がっているのか、喜んでいるのか……。もう少し見えやすい角度に……。
ガタッ!
「誰だ?!」
身を乗り出し過ぎたせいで手元が滑って音を立ててしまいました。とんだ失態です。窓側にエドガーが近づいてくる気配がして身がすくみました。
今、窓を開けられたら私がここにいることがバレてしまいます……!変装はしていてもウィッグを取られたら終わりです。
そうしたらエドガーとアミィ嬢の密会を暴く前に私が公爵家に不法侵入した罪で裁かれてしまうでしょう。公爵令嬢であるアミィ嬢には、その力があるのですから。
「出てこい不審者め!」
もうダメ……!私は神に祈るように目を固く瞑りました。
確かにあの銀髪の男は「エドガーの浮気調査」と「婚約破棄」を止めるように言ってきました。ですが正当な理由も教えてくれずにただ止めろと言われてもやはり納得がいきません。
あと少し……エドガーとアミィ嬢が言い逃れ出来ないような決定的な証拠さえあれば、エドガーと婚約破棄してアミィ嬢にだってダメージを与えられるはずなのに。
後から思えば私も意地になっていたのかもしれません。今まで何も出来ずにいたのが悔しかったからこそ復讐できるチャンスを掴んだ気がしていたのです。
どのみち調査はすでに頼んだ後ですし、報告書と証拠さえ受け取れれば……!と。
ですが、私の思惑などすでにあのスパイの手の上で転がされていたのです。
内密に調査を頼んでいた者から「もう手を貸す事は出来ない」と連絡がありました。
詳しい事は教えてもらえませんでしたがそれから音信不通となり、揃えて貰っていたはずの証拠も手に入らなかったのです。
「そんな……」
何でこんなことになったのかはなんとなく察しました。私が忠告を守らないとわかっていて、たぶんあのスパイが裏から手を回したのでしょう。
あのスパイがにんまり顔で「ここまでされたら普通は諦めるでしょ?」と言っているような気がしました。
ーーーーこんなことで諦めると思ったら大間違いです!
私はドレスを脱ぎ捨て動きやすい男物の服に着替えるとロイのウィッグを被りました。
こうなったら、自分の手で証拠を掴むまでの事。エドガーとアミィ嬢の密会の場を暴いてやろうじゃないですか!
***
その夜、私は仕事を休む事を伝えてからエドガーの現れそうな場所を探しました。あの男は定期的に街に現れては店を物色しているそうなのでそろそろだと思ったのです。
「あっ」
曲がり角のところで辺りを窺っているとエドガーを発見しました。今日も安定の馬鹿面ですね。
「俺は次期伯爵だぞ!この領地にいたいのならそれを寄越せ!」
「で、ですが、それはこの店で1番高い商品でして……」
やはり各店から商品を強奪しているようですね。エドガーが手にしているのは大きな宝石のついた髪飾りでしたが、なんと勝手に箱から取り出してそれを鷲掴みにするとジロジロと値踏みするように見てから「お前、この次期当主である俺にそんな口を聞いていいのか?ロティーナは俺のいいなりなんだ。もしこの事を知ればどうなるか……」と店主を脅し始めたのです。
私が知ったらどうなるか?そんなのすぐさまその髪飾りを店主に返してエドガーを殴りたい衝動にかられていますよ!
本当なら今すぐあの場に飛び出して行きたいですが今は我慢です。あとで店主さんには謝罪とお詫びを致しますのでごめんなさい!と心の中で謝りました。
結局エドガーは「これで文句ないだろう」と小銭を投げつけるように払うと足早にその場を去っていきました。もちろん悪態をつきながらですが。どの口が「この守銭奴め」とか「俺が伯爵になったら覚えていろ」などと言っているのでしょうか。
私は項垂れる店主さんに後ろ髪を引かれる思いでエドガーの後を尾行すると、さらに酒屋の扉を乱暴に足で蹴りつけて中に入ると高級なワインを奪って出てきました。デジャウのような台詞を叫んだかと思うと「たかが酒のひとつやふたつで、ケチくさい領民どもだ!」と店に唾を吐いたのです。
報告書に書かれていたよりもさらに酷い現状に、こんな人と結婚しようとしていたなんてと背筋がゾッしました。やっぱり絶対に婚約破棄しなければと決意を新たに尾行を続けると、やはりエドガーの行き先は公爵家の……アミィ嬢がいる別邸でした。
「……やっぱり」
思わずため息混じりに声が漏れました。わかっていた事とは言え、やはりショックです。でも落ち込んでいる暇はありません。ここまでは報告書でもわかっていた事ですが、問題はこの先ですから。
今のままでもエドガーとの婚約破棄は出来そうですが、アミィ嬢に「エドガーが無理矢理やってきただけで自分は断った」などと言われてしまってはたまりません。アミィ嬢が隣国の王子を裏切ってエドガーと密通している証拠を手に入れなければ……!
エドガーがだらしない顔をしながら門を潜ったのを確認して木陰を利用しながら侵入すると窓の近くに出てこれました。中をそっと覗くとそこに人影がありました。
昔、学園で遠目に見たことのある人物……アミィ嬢がそこにいたのです。
黒く長い髪はゆるく巻かれ、空色の瞳は大きな宝石を見つめてうっとりと輝いていました。その部屋には壁一面にドレスが並べられ、たくさんのアクセサリーは宝石箱から溢れています。
学園にいた頃よりも濃いめの化粧を施した彼女は、まるでどこかの女王のような雰囲気を纏っていたのです。
……そして、あの頃もアミィ嬢から匂っていたあの不思議な甘ったるい香りも健在のようでした。相変わらず何の香水なのかは不明ですが、学園時代よりもさらに臭いが濃くなった気がします。
そこへエドガーがやって来ました。
何を話しているかはよく聞こえませんが、「俺の女神」とか「会いたかった」とかうっとりした顔で語っているようです。ただアミィ嬢が窓に背を向けてしまったのでどんな表情をしているかが見えません。
果たして嫌がっているのか、喜んでいるのか……。もう少し見えやすい角度に……。
ガタッ!
「誰だ?!」
身を乗り出し過ぎたせいで手元が滑って音を立ててしまいました。とんだ失態です。窓側にエドガーが近づいてくる気配がして身がすくみました。
今、窓を開けられたら私がここにいることがバレてしまいます……!変装はしていてもウィッグを取られたら終わりです。
そうしたらエドガーとアミィ嬢の密会を暴く前に私が公爵家に不法侵入した罪で裁かれてしまうでしょう。公爵令嬢であるアミィ嬢には、その力があるのですから。
「出てこい不審者め!」
もうダメ……!私は神に祈るように目を固く瞑りました。
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