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14 異世界から聖女が召喚された途端に「運命の恋を見つけたんだ」と婚約破棄してきた王子が見事に玉砕してるんですが後のことは知りません【前編】
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「今、なんて言ったんですか?」
ぽかんとした顔で思わず間抜けな返事をしてしまったが、こればかりは許して欲しい。田舎暮らしの平民の子供なのに、突然巫女なんかに任命されてしまってから約10年……、私はこれまでのことを走馬灯のように思い出していた。
脳裏に浮かぶのは、7歳の時に親から引き離され教会でひとりで辛い修行に耐えた日々だ。下手に逆らうと親にも迷惑がかかるからと寂しくても我慢してひたすら頑張ったおかげで祈りによる治癒魔法の力に開花した。これでも希少な力なので重宝されている……はずである。そう信じたい。
そして15歳の時に……バカボン丸出しの王子に(不運にも)見初められて婚約者にされてしまったのだ。
王子は確かにイケメンだ。だが、私の本能が全拒否していた。なんでかはわからないが本気で嫌だった。しかし巫女とはいえ元々は平民の娘である私に拒否権はない。渋々ながらも婚約を受け入れたのだが、この王子が我儘三昧のナルシストでこれまた最悪だった。たぶん政権的なアレコレで治癒の魔法が使え神殿の巫女である私を婚約者にしたのだろうが、それにしたって酷い。自分から婚約者に求めたクセに贈り物どころか優しい言葉すらかけてこないのに、私に対しては「婚約者のくせに気が利かない」と文句を言ってくる始末なのだ。いや、こちとら巫女のお勤めで忙しいんですけど?!気が利かないのはお前だよ!
確かに巫女は王家の恩恵を受けている。元が平民だろうと巫女に選ばれたら衣食住は安定するし、わずかながらも給金も出た。困っている人たちを治癒魔法で助けるのはもちろん無償だが、みんなに感謝されるのが嬉しかった。ちなみに私はその給金のほとんどを両親の為にと実家に送っている。その給金も王家から配給されているのでもちろん感謝はしているが、巫女となったからには毎日2回は神にお祈りをしなければならないし、お清めとして冷たい水で行水して、孤児院の訪問に無償の治療院を巡回、さらには王家の突撃訪問に対応して……ハッキリ言ってプライベートなんかあったもんじゃないのだ。それでも、両親も私が王子の婚約者に選ばれたことを喜んでくれていたから頑張っていたのに……。
この王子、数ヶ月ぶりに面会を求めてきたと思ったら開口1番にとんでもないことを言ってきたのである。
「何度も言わせるな!だから、俺は運命の恋を見つけたんだ。なのでお前はもう必要なくなったから婚約破棄すると言っているんだ!」
なぜかはわからないが、めちゃくちゃドヤ顔で鼻息を荒くした王子が偉そうにそう言い放った。なんでそんなにドヤッてるんだろう……キモい。
「……運命の恋、ですか」
なんだか怒るのも疲れてきた。私が死んだ魚のような目になってため息をつくと、王子がまたもや鼻息を荒くして「ふははは!そんなにショックか?!」と、さらに馬鹿丸出しで大笑いしてきたのだ。いえ、呆れているだけですが?
あー、これって理由聞かなきゃダメ?このまま帰っちゃダメなやつ?たぶん、王子は私が婚約破棄を泣いて嫌がって理由を聞いてくるのを待ってるっぽいよねぇ?一応それなりに長い付き合いだからか王子の感情が手に取るようにわかってしまう自分に辟易してしまう。
「……えーと、詳しk「そこまで言うなら答えてやろう!」あ、はい。どうぞ」
かなり被せ気味でペラペラと語り出す王子の姿に、よっぽど聞いて欲しかったんだなぁ。と再びため息が出そうになった。私としては決してそこまで聞きたい訳では無いが、聞かないとこの場が終わりそうにない。はっきり言ってこの王子に好感などミジンコ程も持っていないので婚約破棄自体は全然まるっとオッケーなのだ。慰謝料は欲しいところだが。
「先日、異世界から聖女が召喚されたのは知っているだろう」
「……」
……もちろん知ってますよ、だって国王から依頼されて聖女召喚の祈りをしたのは私ですから。というか、私の後ろにお前おったやんけ!なんてツッコんだらまた話が長くなるので敢えて黙秘することにした。私がどんな表情をしているかなんて気にもしていない王子はポッと頬を赤らめる。あ、キモい。
「俺はその召喚された聖女を見た瞬間、わかってしまったんだ。あんなに美しい人こそ俺の運命の相手だと!」
意気揚々と語っているが、要はつまり異世界の聖女様に一目惚れしたから私との関係をなかったコトにしたいようだ。しかし私との婚約は王命だったはずだが、これは国王陛下も王家の嫁にするなら巫女より聖女様の方がいいと乗り気になったのだろうか。いやいや、自分たちから申し込んでおいてさらに条件が良い相手がいたから簡単に乗り換えるとかそんな人として最低な事なんて……うん、この王子の親だしなぁ。
古代より伝承で伝わっている“異世界の聖女”とは、その名の通り別の世界から召喚される。しかも召喚の儀式をするにも色々と制約があり今回やっと全ての条件が整ったのだ。私としてはまさか本当に聖女様が召喚されるとは思っていなかったが、光と共に魔法陣から現れた聖女様は長く艷やかな黒髪と黒曜石のような瞳をしたとても可愛らしい少女だった。この国に黒髪黒目の人間はいない。身につけていた衣服も見たことのない“せーらー服”というもので、本当に異世界からやってきたのだとその場にいた人間がざわついていたのを今でもよく覚えている。
確かに、聖女様を召喚した国には幸福が訪れる。なんて伝承があるくらいだから、その聖女様を王妃に出来れば万々歳なのだろうが……。
私はちょっと疑問に思うところがあり、聖女様がどんなに美しく儚げで不安そうにしている彼女を支えられるのは自分しかいない事を長々と語り続ける王子の言葉を遮った。
「あの、それは聖女様も王子の事を想ってらっしゃるということですか?」
聖女様が召喚された後は私はお役御免だと遠ざけられてしまったが、確かに聞いたのだ。聖女様の第一声を。
『異世界召喚キターーーー!ここから始まるあたしの無双冒険譚!チート万歳!』と。はっきり言って不安気というよりはめちゃくちゃ楽しそうだった気がする。確かに美しい人だったが、儚げ?というよりは、生命力に溢れていたような印象なのだ。
さらに、私の記憶が確かならば聖女様は『どこ?!あたしの推しはどこーっ?!ハァハァ』とキョロキョロしていたが、その場にいた王子はスルーされていた気がするのだ。そんな聖女様がたった数日で本当にこの王子を好きになったのだろうか?
すると王子はまたもや鼻息を荒くして得意気にニヤリと笑った。やっぱキモい。
「ふん!そんなのこれからプロポーズするに決まっているだろう!俺を見つめる聖女の瞳を見ればその気持ちは手を取るようにわかるんだ!だが、聖女がお前の存在を知れば気にして素直になれないかも知れない。だからお前と婚約していたなんて恥ずかしい事実をさっさと抹消するんだろうがぁ!」
そして何を想像しているのか「ぐふふ」と笑い声を漏らしながらニヤニヤと鼻の下を伸ばしている。やばっ、マジキモい。
「とまぁ、そんな訳だから婚約は破棄だ!ついでに聖女がいれば巫女など必要ないと父上から言付かっているからお前はクビだ!あぁでも、俺と聖女の幸せを祈る大役だけは任せてやる、最後のおつとめだからしっかりやれよ!」
「えぇー……」
こうして私は王子の公開告白の場に連行されてしまった。確かに巫女が結婚式で祝福をすると未来永劫ふたりの愛は離れることはないと言われているが、巫女より強い聖女様には巫女の祈りなんて必要なくない?そしてやっぱり国王も最低だった。うん、知ってた。
まぁいいか。聖女様が王子と結婚するのを了承した後、ふたりの永遠の愛を祝福して祈りを捧げればお仕事終了。長く辛かった巫女生活やこのボンクラの婚約者生活からもやっと解放されるのだ。両親にはガッカリされてしまうだろうが、田舎でひっそり暮らすのも悪くない。もう結婚に振り回されるのはこりごりだ。
こうして、呼び出された聖女様が王子の前に姿を現したのだが……。
「はぁ?あたしが王子の事を好き?どんな勘違いしたのか知らないけど、寝言は寝てから言ってくれる?」
王子、見事に玉砕。ショックのあまり灰になりそうな顔をしている王子に聖女様がさらに追い打ちをかける。
「あたし、権力を振りかざす顔だけのナルシー男なんて大嫌いなの!それより、あたしの推しにはいつ会わせてくれるのよ?王様が推しに会わせてくれるって約束してくれたから、聖女のお仕事頑張ってるのに!」
「あ、あの、その“推し”って……?」
メンタルをズタボロにやられた王子が絞り出すように口を開いた。どうやら“推し”とは聖女様が気になる男性のようなのだが、王子は初耳らしい。いや、確かに初見で叫んでましたよ?聞いてなかったのか。
「だから、騎士団長のマルコス・アロンソ様よ!王様にも散々聞かれたのに何回説明させる気なの?」
「マルコス・アロンソ……って、あの顔に傷を持つ中年……?」
「失礼ね!マルコス様の顔の傷は敵国との戦いでついた名誉の負傷なのよ?!というか、あんたが子供のときにふざけて戦場に忍び込んで来て権力使ってマルコス様を馬鹿にしたのに、敵の剣に狙われたあんたを守って出来た傷でしょうがぁ!!感謝こそすれ、その傷を馬鹿にするなんてどこまで最低なの!?あたしはあんたみたいな攻略レベルチョロQのナルシストに用はないのよ!」
「な、なぜそれを……?!まさかマルコス・アロンソが聖女に俺の悪口を吹き込んでいたなんて!そんな奴、不敬罪でころ「このバカチンがぁぁぁぁ!!」ぐはぁっ!?」
なぜかこの国の過去にやたら(騎士団長の事のみ)詳しい聖女様が、怒りに顔を赤くして王子の横っ面をグーでぶん殴った。その手にはいつの間にか手頃な石が握られていて、聖女様の本気具合がはかりしれない。
「あたしの好きな人を馬鹿にするあんたなんかを、好きになるはずがないでしょって言ってんのよ!こちとらウルトラシークレットキャラのマルコス様フェチ20年のベテランなんですからね!」
その迫力と熱意に私が思わず拍手喝采すると、聖女様は「ありがとう」とにっこりと笑った。
こうして自信満々だった王子は、思いっきりフラレてしまったのだった。
ぽかんとした顔で思わず間抜けな返事をしてしまったが、こればかりは許して欲しい。田舎暮らしの平民の子供なのに、突然巫女なんかに任命されてしまってから約10年……、私はこれまでのことを走馬灯のように思い出していた。
脳裏に浮かぶのは、7歳の時に親から引き離され教会でひとりで辛い修行に耐えた日々だ。下手に逆らうと親にも迷惑がかかるからと寂しくても我慢してひたすら頑張ったおかげで祈りによる治癒魔法の力に開花した。これでも希少な力なので重宝されている……はずである。そう信じたい。
そして15歳の時に……バカボン丸出しの王子に(不運にも)見初められて婚約者にされてしまったのだ。
王子は確かにイケメンだ。だが、私の本能が全拒否していた。なんでかはわからないが本気で嫌だった。しかし巫女とはいえ元々は平民の娘である私に拒否権はない。渋々ながらも婚約を受け入れたのだが、この王子が我儘三昧のナルシストでこれまた最悪だった。たぶん政権的なアレコレで治癒の魔法が使え神殿の巫女である私を婚約者にしたのだろうが、それにしたって酷い。自分から婚約者に求めたクセに贈り物どころか優しい言葉すらかけてこないのに、私に対しては「婚約者のくせに気が利かない」と文句を言ってくる始末なのだ。いや、こちとら巫女のお勤めで忙しいんですけど?!気が利かないのはお前だよ!
確かに巫女は王家の恩恵を受けている。元が平民だろうと巫女に選ばれたら衣食住は安定するし、わずかながらも給金も出た。困っている人たちを治癒魔法で助けるのはもちろん無償だが、みんなに感謝されるのが嬉しかった。ちなみに私はその給金のほとんどを両親の為にと実家に送っている。その給金も王家から配給されているのでもちろん感謝はしているが、巫女となったからには毎日2回は神にお祈りをしなければならないし、お清めとして冷たい水で行水して、孤児院の訪問に無償の治療院を巡回、さらには王家の突撃訪問に対応して……ハッキリ言ってプライベートなんかあったもんじゃないのだ。それでも、両親も私が王子の婚約者に選ばれたことを喜んでくれていたから頑張っていたのに……。
この王子、数ヶ月ぶりに面会を求めてきたと思ったら開口1番にとんでもないことを言ってきたのである。
「何度も言わせるな!だから、俺は運命の恋を見つけたんだ。なのでお前はもう必要なくなったから婚約破棄すると言っているんだ!」
なぜかはわからないが、めちゃくちゃドヤ顔で鼻息を荒くした王子が偉そうにそう言い放った。なんでそんなにドヤッてるんだろう……キモい。
「……運命の恋、ですか」
なんだか怒るのも疲れてきた。私が死んだ魚のような目になってため息をつくと、王子がまたもや鼻息を荒くして「ふははは!そんなにショックか?!」と、さらに馬鹿丸出しで大笑いしてきたのだ。いえ、呆れているだけですが?
あー、これって理由聞かなきゃダメ?このまま帰っちゃダメなやつ?たぶん、王子は私が婚約破棄を泣いて嫌がって理由を聞いてくるのを待ってるっぽいよねぇ?一応それなりに長い付き合いだからか王子の感情が手に取るようにわかってしまう自分に辟易してしまう。
「……えーと、詳しk「そこまで言うなら答えてやろう!」あ、はい。どうぞ」
かなり被せ気味でペラペラと語り出す王子の姿に、よっぽど聞いて欲しかったんだなぁ。と再びため息が出そうになった。私としては決してそこまで聞きたい訳では無いが、聞かないとこの場が終わりそうにない。はっきり言ってこの王子に好感などミジンコ程も持っていないので婚約破棄自体は全然まるっとオッケーなのだ。慰謝料は欲しいところだが。
「先日、異世界から聖女が召喚されたのは知っているだろう」
「……」
……もちろん知ってますよ、だって国王から依頼されて聖女召喚の祈りをしたのは私ですから。というか、私の後ろにお前おったやんけ!なんてツッコんだらまた話が長くなるので敢えて黙秘することにした。私がどんな表情をしているかなんて気にもしていない王子はポッと頬を赤らめる。あ、キモい。
「俺はその召喚された聖女を見た瞬間、わかってしまったんだ。あんなに美しい人こそ俺の運命の相手だと!」
意気揚々と語っているが、要はつまり異世界の聖女様に一目惚れしたから私との関係をなかったコトにしたいようだ。しかし私との婚約は王命だったはずだが、これは国王陛下も王家の嫁にするなら巫女より聖女様の方がいいと乗り気になったのだろうか。いやいや、自分たちから申し込んでおいてさらに条件が良い相手がいたから簡単に乗り換えるとかそんな人として最低な事なんて……うん、この王子の親だしなぁ。
古代より伝承で伝わっている“異世界の聖女”とは、その名の通り別の世界から召喚される。しかも召喚の儀式をするにも色々と制約があり今回やっと全ての条件が整ったのだ。私としてはまさか本当に聖女様が召喚されるとは思っていなかったが、光と共に魔法陣から現れた聖女様は長く艷やかな黒髪と黒曜石のような瞳をしたとても可愛らしい少女だった。この国に黒髪黒目の人間はいない。身につけていた衣服も見たことのない“せーらー服”というもので、本当に異世界からやってきたのだとその場にいた人間がざわついていたのを今でもよく覚えている。
確かに、聖女様を召喚した国には幸福が訪れる。なんて伝承があるくらいだから、その聖女様を王妃に出来れば万々歳なのだろうが……。
私はちょっと疑問に思うところがあり、聖女様がどんなに美しく儚げで不安そうにしている彼女を支えられるのは自分しかいない事を長々と語り続ける王子の言葉を遮った。
「あの、それは聖女様も王子の事を想ってらっしゃるということですか?」
聖女様が召喚された後は私はお役御免だと遠ざけられてしまったが、確かに聞いたのだ。聖女様の第一声を。
『異世界召喚キターーーー!ここから始まるあたしの無双冒険譚!チート万歳!』と。はっきり言って不安気というよりはめちゃくちゃ楽しそうだった気がする。確かに美しい人だったが、儚げ?というよりは、生命力に溢れていたような印象なのだ。
さらに、私の記憶が確かならば聖女様は『どこ?!あたしの推しはどこーっ?!ハァハァ』とキョロキョロしていたが、その場にいた王子はスルーされていた気がするのだ。そんな聖女様がたった数日で本当にこの王子を好きになったのだろうか?
すると王子はまたもや鼻息を荒くして得意気にニヤリと笑った。やっぱキモい。
「ふん!そんなのこれからプロポーズするに決まっているだろう!俺を見つめる聖女の瞳を見ればその気持ちは手を取るようにわかるんだ!だが、聖女がお前の存在を知れば気にして素直になれないかも知れない。だからお前と婚約していたなんて恥ずかしい事実をさっさと抹消するんだろうがぁ!」
そして何を想像しているのか「ぐふふ」と笑い声を漏らしながらニヤニヤと鼻の下を伸ばしている。やばっ、マジキモい。
「とまぁ、そんな訳だから婚約は破棄だ!ついでに聖女がいれば巫女など必要ないと父上から言付かっているからお前はクビだ!あぁでも、俺と聖女の幸せを祈る大役だけは任せてやる、最後のおつとめだからしっかりやれよ!」
「えぇー……」
こうして私は王子の公開告白の場に連行されてしまった。確かに巫女が結婚式で祝福をすると未来永劫ふたりの愛は離れることはないと言われているが、巫女より強い聖女様には巫女の祈りなんて必要なくない?そしてやっぱり国王も最低だった。うん、知ってた。
まぁいいか。聖女様が王子と結婚するのを了承した後、ふたりの永遠の愛を祝福して祈りを捧げればお仕事終了。長く辛かった巫女生活やこのボンクラの婚約者生活からもやっと解放されるのだ。両親にはガッカリされてしまうだろうが、田舎でひっそり暮らすのも悪くない。もう結婚に振り回されるのはこりごりだ。
こうして、呼び出された聖女様が王子の前に姿を現したのだが……。
「はぁ?あたしが王子の事を好き?どんな勘違いしたのか知らないけど、寝言は寝てから言ってくれる?」
王子、見事に玉砕。ショックのあまり灰になりそうな顔をしている王子に聖女様がさらに追い打ちをかける。
「あたし、権力を振りかざす顔だけのナルシー男なんて大嫌いなの!それより、あたしの推しにはいつ会わせてくれるのよ?王様が推しに会わせてくれるって約束してくれたから、聖女のお仕事頑張ってるのに!」
「あ、あの、その“推し”って……?」
メンタルをズタボロにやられた王子が絞り出すように口を開いた。どうやら“推し”とは聖女様が気になる男性のようなのだが、王子は初耳らしい。いや、確かに初見で叫んでましたよ?聞いてなかったのか。
「だから、騎士団長のマルコス・アロンソ様よ!王様にも散々聞かれたのに何回説明させる気なの?」
「マルコス・アロンソ……って、あの顔に傷を持つ中年……?」
「失礼ね!マルコス様の顔の傷は敵国との戦いでついた名誉の負傷なのよ?!というか、あんたが子供のときにふざけて戦場に忍び込んで来て権力使ってマルコス様を馬鹿にしたのに、敵の剣に狙われたあんたを守って出来た傷でしょうがぁ!!感謝こそすれ、その傷を馬鹿にするなんてどこまで最低なの!?あたしはあんたみたいな攻略レベルチョロQのナルシストに用はないのよ!」
「な、なぜそれを……?!まさかマルコス・アロンソが聖女に俺の悪口を吹き込んでいたなんて!そんな奴、不敬罪でころ「このバカチンがぁぁぁぁ!!」ぐはぁっ!?」
なぜかこの国の過去にやたら(騎士団長の事のみ)詳しい聖女様が、怒りに顔を赤くして王子の横っ面をグーでぶん殴った。その手にはいつの間にか手頃な石が握られていて、聖女様の本気具合がはかりしれない。
「あたしの好きな人を馬鹿にするあんたなんかを、好きになるはずがないでしょって言ってんのよ!こちとらウルトラシークレットキャラのマルコス様フェチ20年のベテランなんですからね!」
その迫力と熱意に私が思わず拍手喝采すると、聖女様は「ありがとう」とにっこりと笑った。
こうして自信満々だった王子は、思いっきりフラレてしまったのだった。
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