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13 僕の愛しい呪われた魔女【後編】
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「た、大変だ!第2王子殿下が……!」
誰かがそう叫んで、ざわめきが広がった。
背後にいる彼女に破片が当たらないように両手を広げていたので顔を庇わなかったせいか、頬に痛みが走り生暖かい血液が流れる。顔面に直撃したワイングラスは欠片と成り果てて足元に散らばっていた。
「あ、あなた……は……」
「……大丈夫、ですか」
袖で血を拭いながら振り向くと、僕を真っ直ぐに見つめる彼女がいた。
あぁ、彼女だ。彼女が目の前にいると思うと嬉しくて涙が溢れそうになる。彼女は僕のことを覚えているだろうか。前世の記憶がなければ“あの時の猫だ”と告げても不信がられるかもしれない。
それでも、彼女に告げたかった。
「あの、僕はーーーー」
僕の目と彼女の目が合い、そして、彼女の瞳からひと粒の涙がこぼれた。
「あなたは、私の子猫なのね……」
そう呟いたかと思うと「よくも、私の大切な家族を傷つけてくれたわね……!」と両手を振り上げた。するとなんとパーティー会場の中に台風に直撃されたかのような雨風が吹き荒れたのだった。
***
彼女は、メリーサは本物の魔女だったのだ。
ただ、前世の時の彼女は本当の魔女の能力にまだ目覚めていなかった。薬草学に詳しいだけの人間でしかなかった彼女は村人に殺された後、魂だけの存在となりこのまま天へ登ろうとしたそうなのだが子猫だった僕が彼女の骨を抱えたまま鳴いているのに気付きしばらく見守っていてくれたそうだ。僕は自分の最後をはっきり覚えていなかったのだがなんと僕は衰弱しても骨から離れず鳴き続けるのが気味悪いと村人たちにその場で生き埋めにされて殺されてしまったらしい。……僕には彼女の骨から離れないでいることに必死だった記憶しかなかったが、魂となった彼女はその場面を目撃し僕を助けられなかったことを悔いたそうだ。
そして子猫までをも殺した村人たちを憎み……魔女の能力に目覚めてしまった。
彼女の魔女の能力は凄まじく、魂のままで村人たちを皆殺しにしたそうだ。
その後、彼女は新たな体を手に入れるために転生することにした。しかし魔女の魂に耐えられる体はなかなか見つからず、やっと今の体……メリーサに転生し魔女の記憶を取り戻した時にはなんと彼女の骨と仔猫(僕)の体が埋まっている彼女の家の跡地の上に城が建っていたそうだ。
なんと彼女が転生を果たすまでに500年の月日が過ぎ、新たに国が出来ていたのだ。
彼女にはある目的があった。その目的のためにはどうしてもあの家の跡地に埋まっている昔の自分の骨が必要だったらしく、彼女は公爵令嬢としての立場を駆使し第1王子の婚約者として名乗りを上げ、国王陛下に魔女の能力を見せつけて脅し……説得して契約をしたのだとか。
国王も魔女の能力を恐れてはいたがうまく利用すればこの国がさらに発展するだろうと思ったのだろう。だから契約をした。
魔女が望む“真実の間”に入りたいのならば、王子と結婚して王妃となり、この国をよりよくしろと。
そう、その“真実の間”には彼女の……魔女の骨が祀られているのだ。
昔、国を建設し城を建てる時に骨は掘り起こされていた。しかしその骨を処分しようとするとそれに関わった人間が次々と不幸になったため初代国王は逆にその骨を祀る祠を地下に作り、その上に城を建てた。
それからは国王と王妃だけが入れる“真実の間”として封印されている。メリーサが王子の婚約者として立ち入る事が出来るのは、その“真実の間”の扉の前までだった。
初代国王が知ってか知らずかこの扉に魔女避けの封印を施していたため、国王から鍵をもらわねばいくらメリーサでも扉を開けることができなかったのだ。
だからメリーサは、第1王子が浮気をしようが気にしなかった。というか浮気相手としているようなことを自分に求められたら嫌だったので放置していたのだ。形だけの結婚をして、王妃にさえなれればよかったから。“真実の間”に入るための鍵さえもらえれば約束通りこの国を発展させ、王子の側室に子供を生んでもらいその子供が立派な次代の王になるまでこの国を守るつもりだった。
そこまでして、メリーサが成し遂げたかった目的……それは、唯一の家族だった子猫の魂を探すことだと。
いくら魔女でも特定の魂を探し出すことは困難だ。だが、子猫は自分の骨と一緒に生き埋めにされ死んだ。だから、土に返ることを拒んでいる自分の骨にはきっと子猫の魂を探し出す手がかりがあるに違いないとわずかな希望を抱いていた。
子猫の魂は今どこにいるのか。自分と同じく転生しているか。幸せになっているのか。それだけが気がかりだったから。と、彼女はそう言った。
「こんなところにいたのね。ずっと探していたのよ……」
「僕も、思い出してからずっと探していたよ。まさか兄上の婚約者だとわかった時は複雑だったけど、それでも幸せになってくれるならいいと思って……」
目と目が合った瞬間、メリーサは僕があの時の子猫だとわかってくれた。
「すべてはあなたに会いたくてやったことなの。生き延びなさいって言ったのに、私の骨と一緒に殺されちゃうなんて……本当に困った子ね」
そう言って優しく目を細めて僕の頭を撫でてくれた。
「僕は、あなたと離れたくなかったんだ。いつも一緒だって約束したでしょう?だから、だから……兄上なんかやめて、僕のお嫁さんになって!」
「……まぁ、あんな小さな子猫だったのにそんなこと言うなんて」
「今はメリーサと同じ人間だし、メリーサは女の子で僕は男だよ」
メリーサはびっくりしたように目を丸くし……嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、うふふ。そうね、あの時と違って私もあなたも人間で、……男と女ね。
ええ、もちろんいいわ。こんな、婚約破棄された傷物令嬢でよければだけど」
「僕はメリーサだから一緒にいたいんだ」
僕がメリーサの頬にちゅっとキスをして笑うと、メリーサはみるみると真っ赤になる。
「メリーサどうしたの?」
「な、なんでもないわ」
こうして僕はメリーサと結婚の約束をしたのだった。ーーーー僕らを中心にいまだ台風が吹き荒れ、兄上や浮気相手、その他のみんなは大変なことになっていたようだけどね。
こうして、王妃になる必要の無くなった魔女は第1王子と婚約解消することにしました。理由は第1王子が浮気して真実の愛に目覚めたから潔く身を引いたということにしてあります。
自分に関わった人間たちから魔女に関する記憶を奪い、普通の公爵令嬢として振る舞うことにした魔女はしばらくしてから第2王子にプロポーズされます。
魔女についての記憶は無いものの、公爵令嬢をなんとなく恐れる国王陛下から結婚の許可をもらい……第2王子は魔女と結婚して公爵家に婿入りしました。
ふたりは生涯愛し合い、とても仲の良い夫婦としてみんなに羨ましがられたそうです。
たまに喧嘩すると、雷雨や台風がやって来るのでちょっとだけ困るんですけどね。
「あなた、お茶にしましょう?」
「うん、今行くよ」
城の地下“真実の間”に眠る魔女の骨はもうすぐ塵と化し消えるだろう。だって、僕の愛しい呪われた魔女の呪いは解かれたのだから。
誰かがそう叫んで、ざわめきが広がった。
背後にいる彼女に破片が当たらないように両手を広げていたので顔を庇わなかったせいか、頬に痛みが走り生暖かい血液が流れる。顔面に直撃したワイングラスは欠片と成り果てて足元に散らばっていた。
「あ、あなた……は……」
「……大丈夫、ですか」
袖で血を拭いながら振り向くと、僕を真っ直ぐに見つめる彼女がいた。
あぁ、彼女だ。彼女が目の前にいると思うと嬉しくて涙が溢れそうになる。彼女は僕のことを覚えているだろうか。前世の記憶がなければ“あの時の猫だ”と告げても不信がられるかもしれない。
それでも、彼女に告げたかった。
「あの、僕はーーーー」
僕の目と彼女の目が合い、そして、彼女の瞳からひと粒の涙がこぼれた。
「あなたは、私の子猫なのね……」
そう呟いたかと思うと「よくも、私の大切な家族を傷つけてくれたわね……!」と両手を振り上げた。するとなんとパーティー会場の中に台風に直撃されたかのような雨風が吹き荒れたのだった。
***
彼女は、メリーサは本物の魔女だったのだ。
ただ、前世の時の彼女は本当の魔女の能力にまだ目覚めていなかった。薬草学に詳しいだけの人間でしかなかった彼女は村人に殺された後、魂だけの存在となりこのまま天へ登ろうとしたそうなのだが子猫だった僕が彼女の骨を抱えたまま鳴いているのに気付きしばらく見守っていてくれたそうだ。僕は自分の最後をはっきり覚えていなかったのだがなんと僕は衰弱しても骨から離れず鳴き続けるのが気味悪いと村人たちにその場で生き埋めにされて殺されてしまったらしい。……僕には彼女の骨から離れないでいることに必死だった記憶しかなかったが、魂となった彼女はその場面を目撃し僕を助けられなかったことを悔いたそうだ。
そして子猫までをも殺した村人たちを憎み……魔女の能力に目覚めてしまった。
彼女の魔女の能力は凄まじく、魂のままで村人たちを皆殺しにしたそうだ。
その後、彼女は新たな体を手に入れるために転生することにした。しかし魔女の魂に耐えられる体はなかなか見つからず、やっと今の体……メリーサに転生し魔女の記憶を取り戻した時にはなんと彼女の骨と仔猫(僕)の体が埋まっている彼女の家の跡地の上に城が建っていたそうだ。
なんと彼女が転生を果たすまでに500年の月日が過ぎ、新たに国が出来ていたのだ。
彼女にはある目的があった。その目的のためにはどうしてもあの家の跡地に埋まっている昔の自分の骨が必要だったらしく、彼女は公爵令嬢としての立場を駆使し第1王子の婚約者として名乗りを上げ、国王陛下に魔女の能力を見せつけて脅し……説得して契約をしたのだとか。
国王も魔女の能力を恐れてはいたがうまく利用すればこの国がさらに発展するだろうと思ったのだろう。だから契約をした。
魔女が望む“真実の間”に入りたいのならば、王子と結婚して王妃となり、この国をよりよくしろと。
そう、その“真実の間”には彼女の……魔女の骨が祀られているのだ。
昔、国を建設し城を建てる時に骨は掘り起こされていた。しかしその骨を処分しようとするとそれに関わった人間が次々と不幸になったため初代国王は逆にその骨を祀る祠を地下に作り、その上に城を建てた。
それからは国王と王妃だけが入れる“真実の間”として封印されている。メリーサが王子の婚約者として立ち入る事が出来るのは、その“真実の間”の扉の前までだった。
初代国王が知ってか知らずかこの扉に魔女避けの封印を施していたため、国王から鍵をもらわねばいくらメリーサでも扉を開けることができなかったのだ。
だからメリーサは、第1王子が浮気をしようが気にしなかった。というか浮気相手としているようなことを自分に求められたら嫌だったので放置していたのだ。形だけの結婚をして、王妃にさえなれればよかったから。“真実の間”に入るための鍵さえもらえれば約束通りこの国を発展させ、王子の側室に子供を生んでもらいその子供が立派な次代の王になるまでこの国を守るつもりだった。
そこまでして、メリーサが成し遂げたかった目的……それは、唯一の家族だった子猫の魂を探すことだと。
いくら魔女でも特定の魂を探し出すことは困難だ。だが、子猫は自分の骨と一緒に生き埋めにされ死んだ。だから、土に返ることを拒んでいる自分の骨にはきっと子猫の魂を探し出す手がかりがあるに違いないとわずかな希望を抱いていた。
子猫の魂は今どこにいるのか。自分と同じく転生しているか。幸せになっているのか。それだけが気がかりだったから。と、彼女はそう言った。
「こんなところにいたのね。ずっと探していたのよ……」
「僕も、思い出してからずっと探していたよ。まさか兄上の婚約者だとわかった時は複雑だったけど、それでも幸せになってくれるならいいと思って……」
目と目が合った瞬間、メリーサは僕があの時の子猫だとわかってくれた。
「すべてはあなたに会いたくてやったことなの。生き延びなさいって言ったのに、私の骨と一緒に殺されちゃうなんて……本当に困った子ね」
そう言って優しく目を細めて僕の頭を撫でてくれた。
「僕は、あなたと離れたくなかったんだ。いつも一緒だって約束したでしょう?だから、だから……兄上なんかやめて、僕のお嫁さんになって!」
「……まぁ、あんな小さな子猫だったのにそんなこと言うなんて」
「今はメリーサと同じ人間だし、メリーサは女の子で僕は男だよ」
メリーサはびっくりしたように目を丸くし……嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、うふふ。そうね、あの時と違って私もあなたも人間で、……男と女ね。
ええ、もちろんいいわ。こんな、婚約破棄された傷物令嬢でよければだけど」
「僕はメリーサだから一緒にいたいんだ」
僕がメリーサの頬にちゅっとキスをして笑うと、メリーサはみるみると真っ赤になる。
「メリーサどうしたの?」
「な、なんでもないわ」
こうして僕はメリーサと結婚の約束をしたのだった。ーーーー僕らを中心にいまだ台風が吹き荒れ、兄上や浮気相手、その他のみんなは大変なことになっていたようだけどね。
こうして、王妃になる必要の無くなった魔女は第1王子と婚約解消することにしました。理由は第1王子が浮気して真実の愛に目覚めたから潔く身を引いたということにしてあります。
自分に関わった人間たちから魔女に関する記憶を奪い、普通の公爵令嬢として振る舞うことにした魔女はしばらくしてから第2王子にプロポーズされます。
魔女についての記憶は無いものの、公爵令嬢をなんとなく恐れる国王陛下から結婚の許可をもらい……第2王子は魔女と結婚して公爵家に婿入りしました。
ふたりは生涯愛し合い、とても仲の良い夫婦としてみんなに羨ましがられたそうです。
たまに喧嘩すると、雷雨や台風がやって来るのでちょっとだけ困るんですけどね。
「あなた、お茶にしましょう?」
「うん、今行くよ」
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